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(平14.10.25裁決、裁決事例集No.64 593頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定に基づく告知処分について、原処分庁が譲渡担保財産であると判断した債権は、審査請求人(以下「請求人」という。)が確定的に取得しており譲渡担保財産ではないから、告知処分は違法であるとして請求人がその取消しを求めるとともに、譲渡担保財産であることを前提に原処分庁が行なった差押処分も違法であるとしてその取消しを求めている事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、有限会社A(以下「本件滞納会社」という。)に係る別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、同社が別表2の「第三債務者」欄に記載の各社(以下「本件各第三債務者」という。)に対し、同表の「売掛金」欄に記載の売掛金債権(以下「本件各売掛金債権」という。)を有するとして、同表の「差押年月日」欄に記載した各日に本件各売掛金債権をそれぞれ差し押さえた。
ロ これに対し、本件各第三債務者のうちの1社である株式会社Bは、別表2の「供託年月日」欄に記載した各日に、C法務局へそれぞれ売掛金債権を供託した。
ハ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成12年12月4日付で、上記ロに記載した供託金のうち平成12年11月24日に供託された8,841,427円の供託金(C法務局平成12度金第○○号)の還付請求権を差し押さえた。
ニ その後、原処分庁は、本件各売掛金債権(ただし、株式会社Bに係るものを除く。)及び上記ロに記載した供託金の還付請求権(以下、これらを併せて「本件各譲渡債権」という。)が譲渡担保財産であるとして、平成13年3月16日付で請求人に対し、徴収法第24条第1項の規定に基づき、譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
ホ さらに、原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成13年4月23日付で、上記ロに記載した供託金のうち平成12年12月8日に供託された2,337,475円の供託金(C法務局平成12年度金第○○○号)の還付請求権を差し押さえた(以下、この差押処分を「本件差押処分」という。)。
ヘ 原処分庁は、本件各譲渡債権を、別表2の「取立年月日」欄に記載した各日にそれぞれ取り立てた。
ト 請求人は、本件告知処分及び本件差押処分に不服があるとして、本件告知処分については平成13年4月9日に、また、本件差押処分については同年5月7日に異議申立てをしたが、異議審理庁は同年11月16日付でいずれも棄却する旨の異議決定をした。
チ 請求人は、異議決定を経た後の本件告知処分及び本件差押処分に不服があるとして、平成13年12月3日に審査請求をした。

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(3)関係法令等

イ 徴収法第24条は、譲渡担保権者の物的納税責任について、要旨次のとおり規定している。
(第1項)納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる。
(第2項)税務署長は、同条第1項の規定により徴収しようとするときは、譲渡担保財産の権利者(以下「譲渡担保権者」という。)に対し、徴収しようとする金額その他必要な事項を記載した書面により告知しなければならない。
(第3項)同条第2項の告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていないときは、徴収職員は、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる。
(第4項)譲渡担保財産を同条第1項の納税者の財産としてした差押えは、同条第1項の要件に該当する場合に限り、同条第3項の規定による差押えとして滞納処分を続行することができる。
(第5項)同条第2項の規定による告知又は同条第4項の規定の適用を受ける差押えをした後、納税者の財産の譲渡により担保される債権が債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合においても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなして、同条第3項の規定を適用する。
(第6項)同条第1項の規定は、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実を、その財産の売却決定の前日までに、証明した場合には、適用しない。
ロ 民法第467条は、指名債権譲渡の対抗要件について、要旨次のとおり規定している。
(第1項)指名債権の譲渡は譲渡人がこれを債務者に通知し又は債務者がこれを承諾しなければ債務者その他の第三者に対抗することができない。
(第2項)同条第1項の通知又は承諾は確定日付のある証書によらなければ債務者以外の第三者に対抗することができない。
ハ 債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権譲渡特例法」という。)第2条《債権の譲渡の対抗要件の特例等》は、要旨次のとおり規定している。
(第1項)法人が債権(指名債権であって金銭の支払を目的とするものに限る。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなすこととし、この場合において、当該登記の日付をもって確定日付とする。
(第2項)同条第1項に規定する登記(以下「債権譲渡登記」という。)がされた場合において、当該債権の譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に同法第8条《登記事項概要証明書等の交付》第2項に規定する登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該債務者が承諾をしたときは、当該債務者についても、同法第2条第1項と同様とする。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人と本件滞納会社は、平成12年10月31日に要旨次のとおりの債務弁済契約を締結し、同日付の「債務弁済契約書」を作成した。
(イ)本件滞納会社は、請求人に対し、〔1〕約束手形金債務67,152,201円、〔2〕売掛金債務4,855,493円及び〔3〕代位弁済に伴う求償金債務309,853,250円の支払義務のあることを認める(以下、〔1〕から〔3〕までの債務を併せて「本件債務」という。)。
(ロ)本件滞納会社は、請求人に対し、本件債務のうち、〔2〕の債務については同日直ちに支払い、〔3〕の債務については平成12年9月から平成22年8月までの間毎月5日限り2,500,000円ずつ支払い、平成24年3月末日限り9,853,250円を支払う。
(ハ)本件滞納会社の振り出した約束手形が不渡り等となった場合には、同社は、請求人からの通知・催告なしに本件債務について期限の利益を失い、請求人に対し、直ちに本件債務全額を支払う。
ロ 請求人と本件滞納会社は、平成12年10月31日に要旨次のとおりの債権譲渡担保契約(以下「本件譲渡担保契約」という。)を締結し、同日付の「債権譲渡担保契約書」(以下「本件譲渡担保契約書」という。)を作成した。
(イ)本件滞納会社は、請求人に対して現在負担し並びに将来負担する売掛金債務、手形債務及び求償金債務を担保するため、本件滞納会社が本件各第三債務者に対して現在有し並びに将来有する売掛金債権を5億円を限度として、請求人に譲渡する(以下、この譲渡のことを「本件債権譲渡」という。)。
(ロ)請求人及び本件滞納会社は、本件滞納会社が本件各第三債務者との間の売買取引に基づき売掛金債権を取得する都度、本件債権譲渡の効力が生じることを確認する。
(ハ)請求人は、本件滞納会社から書面による申出があり、その申出を承諾した場合には、請求人は本件滞納会社から譲り受けた債権の取立てを本件滞納会社に委任することができる。この場合、本件滞納会社は直接本件各第三債務者から当該債権を取り立てること及び当該取立金を自己の資金として使用することができる。
(ニ)請求人及び本件滞納会社は、本契約締結後直ちに共同して本件債権譲渡について、債権譲渡特例法に基づく、存続期間を5年とする債権譲渡登記を行う。
(ホ)請求人において本件各第三債務者から支払を受けたときは、請求人は適当と認められる順序・方法により、本件滞納会社の請求人に対する債務の弁済の一部又は全部に充当することができる。
ハ 本件滞納会社の振り出した手形が平成12年11月6日に不渡りとなり、本件滞納会社は営業を停止した。
ニ 請求人と本件滞納会社は、本件譲渡担保契約に基づいて、平成12年11月7日13時45分に登記原因を譲渡担保とする債権譲渡登記(以下「本件登記」という。)をした。
ホ 請求人は、本件各第三債務者に対し、平成12年11月9日、内容証明郵便で、本件債権譲渡を受け本件登記をした旨、本件滞納会社の売掛債権については請求人に支払われたい旨を記載した「債権譲渡のご通知」と題する書面(以下「本件各債権譲渡通知」という。)を送付するとともに、書留郵便で本件登記に係る登記事項証明書(以下「本件登記事項証明書」という。)を送付し、いずれも同月10日に到達した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件告知処分について
 本件各譲渡債権は、以下のとおり、本件告知処分前に請求人に確定的に帰属しており譲渡担保財産とは認められないから、本件告知処分は違法である。
(イ)徴収法第24条が適用されるためには、譲渡担保財産があることが前提であり、譲渡担保権者に対する告知処分以前に譲渡担保が実行され譲渡担保財産が確定的に譲渡担保権者に帰属した場合には、同条の適用はない。
 ところで、不動産譲渡担保の場合においては、譲渡担保権から終局的に譲渡担保権者に確定的に所有権が移転されるには私的実行が必要であり、譲渡担保設定者の登記協力義務や目的物の引渡義務と譲渡担保権者の清算金支払義務が同時履行の関係に立つから、清算するまでは実行が完了しないといえる。
 しかし、債権譲渡担保の場合は、最高裁判所平成13年11月22日第1小法廷判決(平成12年(受)第194号供託金還付請求権確認請求事件、以下「平成13年判決」という。)において、甲乙間でいわゆる集合債権譲渡担保契約が締結された場合に「既に生じ、又は将来生ずべき債権は、甲から乙に確定的に譲渡されており」と判示されているとおり、債権譲渡契約のときに、既に生じ又は将来生ずべき債権は、譲渡担保設定者から譲渡担保権者に「確定的に」譲渡されていることから、不動産譲渡担保の場合のような「担保権」から「完全な所有権(債権にあっては確定的な債権の帰属)」までの間の実行手続を観念する必要はない。しいていえば、担保権の実行として「実行通知」がなされれば十分であって、あとは債権の対抗関係の問題が残るだけである。
 すなわち、債権譲渡担保の場合は、不動産譲渡担保の場合と異なり、譲渡された債権は譲渡担保契約の時点で確定的に譲渡担保権者に帰属しているから、「担保権」と観念することはできないし、仮に「担保権」として観念することができるとしても、遅くとも「実行通知」がなされた時点で、譲渡担保財産としての性質を失っている。
(ロ)本件譲渡担保契約によれば、本件滞納会社が本件各第三債務者から売掛金債権を取得する都度、債権譲渡の効力が生じることとされているところ、請求人は、本件登記を経た上で、本件各第三債務者に対し本件登記をした旨を通知し、かつ、本件登記事項証明書を送付しているから、本件登記をした平成12年11月7日13時45分に対抗力を備えたこととなり、本件各譲渡債権は請求人に確定的に帰属している。
 なお、仮に、本件譲渡担保契約の内容から、本件債権譲渡は契約締結の時点では担保の趣旨でしかないと解釈されるとしても、請求人は本件各債権譲渡通知をしていることから、その時点で本件各譲渡債権は完全に請求人に移転している。
ロ 本件差押処分について
 上記イに記載したとおり、本件各譲渡債権は譲渡担保財産ではないから、請求人を譲渡担保権者であることを前提としてなされた本件差押処分は違法である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件告知処分について
(イ)譲渡担保の目的財産が債権である場合の譲渡担保権の実行の完了時期については、被担保債権が消滅したとき(譲渡担保権者が第三債務者からの目的物の弁済を受けたとき)であると解されることからすれば、譲渡担保権の実行として債権譲渡通知がされた後であっても、その実行の完了(被担保債権の消滅)までは、当該債権は譲渡担保財産として存在していることになる。
(ロ)ところで、請求人は、本件各債権譲渡通知の送達をもって譲渡担保権が実行され、本件各譲渡債権が確定的に請求人に帰属した旨主張するが、本件各債権譲渡通知、本件登記事項証明書の到達によって対抗要件が具備されることにはなるものの、これをもって譲渡担保権の実行が完了したということにはならない。
(ハ)平成13年判決は、担保権実行の通知があるまでは譲渡人が譲渡債権を取り立てることを内容とする集合債権譲渡担保契約について、第三者対抗要件を具備するために、指名債権譲渡の対抗要件(民法第467条第2項)の方法によることができ、その際に譲渡人に付与された譲渡債権の取立権限の行使への協力を第三者に依頼したとしても、第三者対抗要件の効果を妨げるものではないとし、当該債権の帰属の移転の時期を判示したにすぎず、譲渡担保権が実行される時期について判示したものではない。
(ニ)以上のとおり、本件各債権譲渡通知により譲渡担保権の実行が完了したとは認められず、原処分庁が本件各売掛金債権を差し押さえた平成12年11月13日及び同月30日の時点では、本件各売掛金債権は譲渡担保として存在していると認められるから(本件各第三債務者の1社である株式会社Bが供託したことによって、供託金となった債権を含む。)、本件告知処分は、徴収法第24条の規定に基づき適法に行われており、何ら違法、不当なものではない。
ロ 本件差押処分について
(イ)原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成13年3月16日付で徴収法第24条の規定に基づき、請求人に対して本件告知処分を行っている。
(ロ)本件告知処分は、徴収法第24条第2項の規定により適法に行われている。
(ハ)請求人は、本件告知処分による通知書を発した日から10日を経過した平成13年3月26日現在、本件滞納国税を完納していなかった。
(ニ)以上の各事実から、原処分庁は、徴収法第24条第3項の規定に基づいて本件差押処分を行ったものであり、何ら違法又は不当なものではない。

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3 判断

 本件の主たる争点は、本件告知処分及び本件差押処分の対象とされた本件各譲渡債権が徴収法第24条にいう「譲渡担保財産」であったか否かであるので、審理したところ、以下のとおりである。

(1)本件告知処分について

イ 徴収法第24条第1項は「その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(譲渡担保財産)があるときは」と規定しているから、同条の適用は「譲渡担保財産」の存在が前提であることは明らかである。
 一般に、譲渡担保権は、弁済や担保権の実行による被担保債権の消滅に伴い消滅すると解されており、徴収法第24条第5項の規定からすると、同条も通常は被担保債権が消滅した場合には譲渡担保権が消滅し「譲渡担保財産」は存在しなくなることを前提に規定されているものと理解することができる。
ロ 譲渡担保権の実行と被担保債権の消滅に関し、最高裁判所昭和62年2月12日第1小法廷判決(昭和60年(オ)第568号・民集41巻1号67頁)は、不動産の譲渡担保契約の事例において、〔1〕被担保債権の弁済期の経過後であっても譲渡担保権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(i)いわゆる帰属清算型の場合は、清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をするまでの間、(ii)いわゆる処分清算型の場合はその処分までの間は、譲渡人は債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、譲渡した財産を受け戻すことができる旨、〔2〕帰属清算型の譲渡担保の場合、債権者が単に目的不動産を自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしただけでは債務消滅の効果は生じず、清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しない旨の判示をしている。
 この判示からすれば、譲渡担保権者がその意思表示により担保権の実行を開始しても、実行が完了するまで、すなわち譲渡担保財産の適正な評価や換価処分の上、清算等を行い消滅する被担保債権の額が確定して消滅するまでは譲渡担保権は消滅せず、譲渡担保権の設定された財産は「譲渡担保財産」として存続するものと解され、この理は譲渡担保財産が債権である場合にも当てはまると考えられる。そして、譲渡担保財産が債権の場合、譲渡担保権者としては担保権の実行として現実に譲渡債権から回収した金額と同額の被担保債権を消滅させるというのが通常の意思であると解されることからすると、当事者間でこれと異なる特段の合意のない限り、譲渡担保権者が第三債務者から現実に譲渡債権を取り立てて被担保債権の弁済に充当するまでは消滅する被担保債権の額が確定せず清算等もできないから、その時点までは担保権の実行は完了せず徴収法第24条にいう「譲渡担保財産」として存続すると解するのが相当である。
ハ 本件譲渡担保契約においては、上記1の(4)のロの(ホ)のとおり、請求人が本件各第三債務者から支払を受けたときは、請求人は適当と認められる順序・方法により本件滞納会社の請求人に対する債務の弁済の一部又は全部に充当することができる旨の合意はあるものの、本件譲渡担保契約書には譲渡担保権の実行方法や実行の完了時期に関する明確な規約は存在せず、この点に関する請求人と本件滞納会社との間の特段の合意の存在は認められない。そうすると、本件譲渡担保契約に基づき譲渡される債権は、上記1の(4)のロの(ハ)の合意に基づき譲渡人である滞納会社が請求人から取立委任を受けて取り立てて譲渡債権そのものが消滅する場合を除き、請求人において担保権の実行として取り立てて被担保債権の弁済に充当するまでは消滅させる被担保債権の額が確定しないから、その時点までは担保権の実行は完了せず、「譲渡担保財産」として存続するものと解するのが相当である。
 そして、当審判所の調査の結果によれば、本件各売掛金債権について、原処分庁が差し押さえた平成12年11月13日及び同月30日の時点までに、滞納会社が請求人から取立委任を受けて取り立てた事実、請求人が現実に取り立てて被担保債権の弁済に充当した事実のいずれも認められないから、平成12年11月13日及び同月30日の時点で未だ本件譲渡担保契約に基づく譲渡担保権の実行は完了しておらず、本件各譲渡債権は徴収法第24条にいう「譲渡担保財産」であったと認められる。
ニ 請求人は、平成13年判決が甲乙間でいわゆる集合債権譲渡担保契約が締結された場合に「既に生じ、又は将来生ずべき債権は、甲から乙に確定的に譲渡されており」と判示している点を捉えて、債権譲渡担保契約の場合は不動産譲渡担保契約の場合と異なり、契約締結時点で確定的に譲渡されるから、そもそも担保権と観念できず、本件登記により第三者対抗要件を備えた時点で完全に請求人に帰属し「譲渡担保財産」でなくなった旨主張している。
 しかしながら、平成13年判決は、請求人の依拠する判示箇所の直前に「金銭債務の担保として」「担保権実行として」といった文言を用いていることなど、判決全体をみれば集合債権譲渡担保契約をあくまで担保権の設定契約と理解していることは明らかであり、契約時点で「確定的に譲渡されている」という判示は、あくまで担保の目的で譲渡債権が譲受人に帰属しているという意味であると解される。したがって、平成13年判決から債権譲渡担保は担保権と観念できないとする請求人の主張は採用できない。
 また、本件登記は、債権譲渡についての第三者対抗要件となるにすぎず、これをもって担保権の実行が完了したということはできないから、本件各売掛金債権が本件登記時に「譲渡担保財産」でなくなったという請求人の主張も採用できない。
 なお、平成13年判決は、集合債権譲渡担保契約が締結された場合にその債権譲渡について第三者対抗要件を具備したといえるか否かに関する裁判例であり、本件のように対抗要件を具備していることを前提にして担保権の実行完了時期や徴収法第24条による告知処分の適否を判断したものではない。
ホ 請求人は、仮に本件譲渡担保契約が契約時点では担保の趣旨であったとしても、実行通知である本件各債権譲渡通知の時点で確定的に請求人に帰属し「譲渡担保財産」でなくなった旨主張する。
 しかしながら、本件各債権譲渡通知を実行通知とみたとしても、特段の合意のない本件においては、請求人が本件各譲渡債権を現実に取り立てて被担保債権の弁済に充当するまでは担保権の実行は完了しないから、本件各債権譲渡通知の時点で「譲渡担保財産」でなくなったという請求人の主張も採用できない。
ヘ 仮に、請求人の主張どおり、債権譲渡担保が設定され第三者対抗要件を具備した場合には譲渡担保権者が確定的に譲渡債権を取得し、そのことだけで常に国税に優先すると解すると、徴収法第24条第6項が国税の法定納期限等との先後によって取扱いを区別していることが債権の譲渡担保に限っては無意味となり、債権以外の譲渡担保権者との権衡を失することはもとより、同じ担保権者である質権者や抵当権者と比較して、ひとり債権の譲渡担保権者だけが国税に対し合理的な理由もなく優位に立つこととなって、徴収法第24条が立法された趣旨に反することとなることからも、請求人の主張は採用することができない。
ト 本件告知処分の適法性に関するその他の要件の充足については、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
 したがって、本件告知処分は適法である。

(2)本件差押処分について

 原処分庁は、上記1の(2)のヘのとおり、本件差押処分に係る供託金を平成13年4月23日に取り立てているから、本件差押処分に対する審査請求は、既に消滅した債権に係る差押処分の取消しを求めるものであり、請求の利益を欠く不適法なものである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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