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(平15.4.15裁決、裁決事例集No.65 35頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がした修正申告に係る重加算税の賦課決定処分について、その要件事実の存否が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成6年分、平成7年分、平成8年分、平成9年分、平成10年分、平成11年分及び平成12年分(以下、平成6年分及び平成7年分を併せて「本件各2年分」といい、平成8年分、平成9年分、平成10年分、平成11年分及び平成12年分を併せて「直近各5年分」という。また、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の職員(以下「調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、各年分の所得税について、別表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下、本件各2年分に係る修正申告書を「本件修正申告書」という。)を平成13年11月20日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成13年11月27日付で別表の「賦課決定」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、本件各2年分に係る重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)について、平成14年1月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月4日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年5月1日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の妻で事業専従者であり記帳責任者でもあるAは、従業員が各店舗から集金してきた売上金の管理、売上伝票のチェック、給料の計算及び請求人の事務所に報告するための日計票(以下「本件日計票」という。)の作成等を主な仕事としていた。また、事務所の担当者は、本件日計票を基に売上集計表を作成しており、本件日計票や給料の計算の結果は、請求人の決算の基となる資料となっていた。
ロ 請求人は、本件各2年分について、売上げに係る帳簿、本件日計票及びレジペーパーを保存していない。
ハ 請求人は、本件調査により、原処分庁から直近各5年分と同様に本件各2年分についても、売上金額の計上漏れを指摘されたことから、その事実を認めて、本件修正申告書を提出した。
ニ 請求人は、直近各5年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分については、異議申立てをしていない。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 最高裁判所第二小法廷昭和62年5月8日判決(昭和59年(行ツ)第302号所得税更正処分等取消請求上告事件)等は重加算税の賦課には、仮装・隠ぺいが故意であったことを要すると判示している。
 しかしながら、本件修正申告書は、本件調査において推計の方法により算定された売上除外金額に基づいて提出したものであり、また、原処分庁は、仮装・隠ぺいについて故意の存在を立証することなく重加算税を賦課しており違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 調査担当職員及び異議申立てに係る調査・審理の担当職員は、次の事実を確認しており、これらの事実から判断して、本件各2年分に国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいが存在したことは明らかである。
イ Aは、平成13年10月22日、調査担当職員に対し、〔1〕本件日計票に記載している売上金額や給料の金額は正しいものではなく、本件日計票の売上金額も従業員に支払う給料の金額も実際より少ない金額を記載して事務所に報告していた、〔2〕従業員の中の数人に対して会計帳簿に記載せず割増しで給料(以下「公表外給料」という。)を支給しているが、割増分は事務所に報告せず、その資金として、店の売上げから差し引き、その差し引いた残りの売上げを本件日計票に記載して事務所に報告していた旨申述している。
 なお、平成13年10月22日にAから原処分庁に任意に提出された「割増給与に関する明細」(以下「本件公表外給料メモ」という。)によれば、請求人は、確定申告において、従業員に対する給料賃金について事業所得の必要経費に算入した金額以外に、平成2年以降継続して公表外給料として、特定の従業員に対して毎月2万円から7万5千円を割増しで、また、寸志として3万円ないし10万円を年間2回ずつ支給していたことが認められるから、本件公表外給料メモがAの申立てを裏付ける証拠である。
ロ 調査担当職員は、請求人によって保存されていた直近各5年分のレジペーパーその他の書類により、請求人が、確定申告において、喫茶店「B」(以下「B店」という。)の売上げを5年間で2,200万円余り事業所得の総収入金額から除外していた事実を実額で把握した。
 また、Aは、平成13年10月26日、調査担当職員に対し、B店の売上金額については、売上げが多い時に一日の最後に締めた売上げなどを除外しており、除外した金額については何も記帳していないし、覚えていない旨申述している。

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3 判断

 本件は、重加算税の賦課決定をすべき要件事実の存否に争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件日計票に記載されたB店の売上金額は、保存されていた直近各5年分のレジペーパーの日々の精算累計額と比較すると、次表のとおり過少に記載されている。

ロ 立ち飲み屋「C」(以下「C店」という。)の平成12年分の売上げについては、保存されていたレジペーパーに印字された回数と、レジの使用回数の累計との間に12,650回の差があることから、本件日計票に記載されていない売上げがある。
ハ 本件各2年分の修正申告によって増加した事業所得の金額の基となった売上除外額は、次の方法により算定されている。
(イ)B店の売上除外額については、保存されていた直近各5年分のレジペーパーの精算累計額を基に、直近各5年分の売上除外割合の平均値を算出して推計されている。
(ロ)C店の売上除外額については、保存されていた平成12年分のレジペーパーに印字された回数と使用回数の累計の差から算出した除外割合を基に推計されている。
ニ 本件公表外給料メモには、特定の従業員に対し、平成2年以降継続して公表外給料として、毎月2万円から7万5千円を支給していたこと及び年2回3万円から10万円を支給していたことが記載されている。
ホ Aは、調査担当職員に対し、公表外給料を支払うために、B店については、売上げの多い日にその最後に締めたレジの売上げの一部を、また、C店については、従業員のDに指示して、レジを一度閉店より少し前に締めさせ、その後の売上げを除外し、本件日計票には除外した後の売上金額を記載していた旨申述している。
ヘ C店の従業員であるEは、調査担当職員に対し、次のように申述している。
(イ)午後4時から閉店の午後10時ころまで勤務しており、平成5年からDの指示によりC店の閉店時のレジを締めていた。
(ロ)平成10年9月ころに、Dから、午後8時半ころに仮にレジを締めること及びその日の昼の売上げが多い時は早めに締めることを指示されていた。
(ハ)Dから仮にレジを締めるよう指示される前は、AやAの弟であるFが午後8時ころに仮にレジを締めていた。
ト 請求人及びAは、当審判所に対し、次のように答述している。
(イ)毎日の売上金は自宅の金庫で保管し、光熱費、給料、業者等への支払及び生活費等に充てている。
(ロ)従業員に対する給料については、配偶者控除等が受けられる範囲の金額だけを帳簿上支払い、それを超過する分は公表外給料として別途支払っていたもので、公表外給料の支払を始めた時期は平成2年以降である。

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(2)本件賦課決定処分の適否

イ 請求人は、重加算税を賦課するには、隠ぺい又は仮装が故意であったことを要するのに、本件各2年分については隠ぺい又は仮装の故意の存在の立証がない旨主張する。
(イ)ところで、通則法第68条第1項は、国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに重加算税を課する旨規定している。
 そして、ここにいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠ぺいし又は脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関しあたかもそれが事実であるかのように装う等事実をわい曲することをいうものと解されている。
(ロ)これを本件についてみると、本件各2年分については、前記1の(3)のロのとおり、請求人は本件日計票及びレジペーパーを保存していないことから、直近各5年分のように前記(1)のイ及びロに記載した売上除外の事実を直接帳簿書類によって確認できないものの、前記(1)のホのとおり、Aは、従業員に公表外給料を支払うために、B店及びC店から日々報告される売上金、売上伝票及びレジペーパー等から、ほぼ正確な売上金額を把握していたにもかかわらず、従業員に仮にレジを締めさせ、その後の売上げを除外するなどの方法により、売上金額を過少に記載した本件日計票を作成していた旨申述しており、当該申述は前記(1)のヘのEの申述とも符合し信ぴょう性が認められ、これに前記(1)のニのとおり、請求人は、平成2年以降継続して公表外給料を支払っていたこと及び前記1の(3)のハ及び前記(1)のハのとおり、請求人は直近各5年分の売上除外割合等により推計の方法で算定された本件各2年分の売上除外額について、その事実を認めて本件修正申告書を提出していることを併せ考えると、請求人は、直近各5年分と同様に、従業員に仮にレジを締めさせ、その後の売上げを除外した本件日計票を作成し、それに基づき過少申告していたと認めるのが相当である。
 そうすると、請求人は、売上げを除外する意図の下に事実を隠ぺいし、これに基づき納付すべき税額を過少に記載して、内容虚偽の確定申告書を提出したものと認められ、請求人のこれらの行為は、通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき過少申告していることに該当する。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、本件修正申告書は、本件調査において推計の方法により算定された売上除外金額に基づいて提出したものであり、この修正申告に基づき重加算税を賦課決定したのは違法である旨主張する。
 ところで、通則法第68条第1項は、重加算税の賦課要件を規定したものであり、課税標準等の計算については、所得税法第2編第2章第2節各種所得の金額の計算において規定されているほか、同法第156条《推計による更正又は決定》において各種所得の金額を推計することができる旨規定されているところ、通則法第68条第1項には、その適用に当たって推計による課税標準等を除くことが規定されていない以上、課税標準等が実額計算によるものか推計計算によるものかを問わないものと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
以上のことから、通則法第68条第1項の規定によりなされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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