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(平15.3.25裁決、裁決事例集No.65 152頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)本件は、医院を営む医師である審査請求人(以下「請求人」という。)について、その妻が青色事業専従者に該当するか否か及びこの点に関する今回の税務調査における取扱いが前回の取扱いと相違し、信義則に反するか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分、平成11年分及び平成12年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、それぞれ請求人の妻であるFに対して支払った給与の額を青色事業専従者給与額として必要経費に算入した上、青色の確定申告書(以下「青色申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、各年分の所得税について別表1の「修正申告」欄のとおりとする各修正申告書を平成13年12月26日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年1月15日付で別表1の「賦課決定」欄のとおりとする過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ その後、原処分庁は、Fは青色事業専従者に該当しないから同人に対して支払った給与の額は必要経費に算入することはできないとして、平成14年2月12日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成14年4月4日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法(以下「法」という。)第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》は、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者の営む事業に従事したことにより当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、居住者の事業所得の金額の計算上必要経費に算入しない旨規定している。
ロ 法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項は、法第56条の特例として、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者(以下「青色申告者」という。)と生計を一にする配偶者その他の親族で専らその居住者の営む事業に従事するもの(青色事業専従者)が、当該事業から所轄税務署長に届け出た金額の範囲内の給与の支払を受ける場合には、その給与の金額で、その労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者の事業所得の金額の計算上必要経費に算入する旨規定し、同条第3項は、青色申告者以外の居住者(以下「白色申告者」という。)と生計を一にする配偶者その他の親族で専らその居住者の営む事業に従事するものがある場合には、その居住者の事業所得の金額の計算上、いわゆる専従者控除額を必要経費とみなす旨規定している。
ハ 所得税法施行令(以下「令」という。)第165条《親族が事業に専ら従事するかどうかの判定》第1項本文は、法第57条第1項又は第3項に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営む事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を超えるかどうかによる旨規定している。
 また、令第165条第1項ただし書は、法第57条第1項の場合にあっては、次のいずれかに該当する場合には、当該事業に従事することができると認められる期間を通じて2分の1に相当する期間を超える期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする旨規定している。
(イ)当該事業が年の中途における開業、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかったこと(令第165条第1項第1号)。
(ロ)当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかったこと(令第165条第1項第2号)。
ニ 令第165条第2項第2号は、第1項の場合において、他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)については、他の職業に従事している期間は第1項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成5年にP市Q町○−○においてG医院を開業し、同年分から所轄税務署長の青色申告の承認を受けて青色申告書を継続して提出している。
ロ Fは、神経科及び精神科の医師であり、請求人と生計を一にする請求人の配偶者である。
ハ G医院は、内科、神経科及び精神科の診療を行っており、請求人が主として内科を、Fが神経科及び精神科を担当している。診療日は、内科が月曜日から土曜日(いずれも祝日を除く。以下、曜日に関して同じ。)までであり、神経科及び精神科は月曜日である。
ニ FのG医院における勤務日は、上記ハのとおり毎週月曜日のみであり、勤務時間は、午前9時から午後6時までである。
ホ 請求人は、Fに対し、各年分の給与を別表2のとおり支払った。
 なお、請求人は、各年分の事業所得の計算上、当該給与を青色事業専従者給与として必要経費に算入している。
ヘ Fは、G医院のほかにH病院、J協同組合、医療法人K及び社会福祉法人L(以下、これらを併せて「本件病院等」という。)においても診療に従事しており、各年分の本件病院等における従事状況については次のとおりである。
(イ)H病院
 心療内科を担当し、勤務日は、毎週火曜日(J協同組合への勤務日を除く。)、木曜日及び土曜日で、その勤務時間は、火曜日及び木曜日はいずれも午前8時30分から午後5時30分までであり、土曜日は午前8時30分から正午までである。
(ロ)J協同組合
 神経科及び精神科を担当し、勤務日は、毎週火曜日(H病院への勤務日を除く。)及び金曜日で、その勤務時間は、いずれも午前9時から午後5時までである。
(ハ)医療法人K
 神経科及び精神科を担当し、勤務日は、毎週水曜日で、その勤務時間は、午前10時から午後5時までである。
(ニ)社会福祉法人L
 平成11年4月から月1回の嘱託医契約を締結しており、基本的に精神科を担当している。
ト Fは、本件病院等から別表3のとおり、それぞれ給与等の支給を受けている。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)青色事業専従者に該当するか否かについて
 法第56条及び法第57条は、上記1の(3)のイ及びロのとおり規定している。
 すなわち、法第57条の規定は、生計を一にする配偶者その他の親族が青色申告者の営む事業に専ら従事する者が受ける適正な給与で、かつ、所轄税務署長に届け出た範囲内のものについては、これを青色申告者の特典として所得金額の計算上必要経費に算入することを認めることとしているものである。
 ところで、親族が事業に専ら従事しているかどうかの判断基準については、上記1の(3)のハ及びニのとおり、令第165条第1項の規定によれば、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を超えるかどうかによるものとされており、この場合において同条第2項第2号に規定する他に職業を有する者は、その職業を有している期間は当該事業に専ら従事する期間に含まれないものとされている。
 これは、他に職業を有する者である場合、その職業に従事する期間は納税者の事業に専ら従事することが通常あり得ないためであり、この趣旨の下において、同号のかっこ書の規定は、例外的に、他に職業を有する者であってもその職業に従事する期間が短い者、その他納税者の事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除くこととしているものと解される。
 これを本件についてみると、Fは、請求人と生計を一にする配偶者であり、上記1の(4)のニ及びホのとおり、確かにG医院において神経科及び精神科の医師として、毎週月曜日には請求人の事業に従事している事実は認められるものの、上記1の(4)のへ及びトのとおり、G医院以外にH病院、J協同組合及び医療法人Kそれぞれから、毎週火曜日から土曜日まで、場所的、時間的拘束を受けており、かつ、その労務の対価として相応の給与等の支給も受けていること、また、社会福祉法人Lとは嘱託契約に基づき相応の給与の支給を受けていることからすると、Fが請求人の事業に専ら従事している期間は、各年分とも、その年を通じて6月を超えているとは認められず、社会通念に照らしても、請求人の事業に専ら従事することができるような立場でないことは明らかである。
 したがって、法第57条第1項並びに令第165条第1項及び第2項第2号に規定する青色事業専従者に該当しない。
 そうすると、法第56条の規定により請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、請求人がFに対して支払った給与の額を必要経費に算入することは認められないから、本件各更正処分はいずれも適法である。
(ロ)信義則に反するか否かについて
 本件各更正処分は、各年分の所得税の調査において把握した客観的事実に基づき、法令の規定に従って行ったものであるから適法である。
 また、平成10年に行った請求人に対する平成7年分、平成8年分及び平成9年分の所得税の調査(以下「前回調査」という。)において、Fが青色事業専従者に該当しないことを指摘しなかったとしても、本件各更正処分は適法である。
 なお、前回調査において、Fが使用していたと請求人が主張する自動車(以下「本件自動車」という。)の減価償却費の一部を認容したことは、法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》及び法第56条の規定によるものであり、法第56条の規定は居住者と生計を一にする配偶者その他の親族を対象としており、青色事業専従者のみを対象としたものではないことから、本件自動車の減価償却費の一部を認容したことと青色事業専従者の容認問題を直接結びつけることはできない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)青色事業専従者に該当するか否かについて
 次のとおり、Fは青色事業専従者に該当するから、同人に対して請求人が支払った給与の額を青色事業専従者給与として必要経費に算入すべきである。
A そもそも法第57条の立法趣旨は、個人事業者においても家計と事業との厳密な区分を前提に、個人事業者と生計を一にする配偶者その他の親族であっても生産的活動に従事している限り、その労務の対価を給与として認め、その個人事業者の事業における必要経費とするものであり、個人生計内における恣意的かつ曖昧な関係を制約し公正な労務の提供を要請するものである。
 そのための外形的形式的基準を令第165条において設けているものであるから、同条は当該親族の事業関与の継続性や貢献性ひいてはその職分の遂行を要請するものである。
B Fは、神経科及び精神科という専門分野の医師であり、この分野においては、患者数は内科に比して極めてわずかであるから、その従事日は週1日という期間で十分にその職分が果たされるという特殊性がある。よって、Fは、年中を通じてG医院で従事することができなかったといえ、このことは令第165条第1項第2号に規定する「その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかったこと」に該当する。
 そして、令第165条第1項ただし書に規定する「当該事業に従事することができると認められる期間」は週1日となり、Fは、週1日の従事を行っていたのであるから、同人は青色事業専従者に該当することになる。
C 仮に、上記Bの主張が認められないとしても、次のとおり、Fは青色事業専従者に該当する。
(A)令第165条第2項第2号かっこ書の「当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く」という規定は、他に職業を有していたとしても専従者として貢献し、その職分を果たす限りは、その期間も当該事業に専ら従事する期間に含むとする趣旨であると解される。
(B)本件において、Fは本件病院等に勤務しているが、そのことで、G医院の経営に損失を与えることは寸毫もあり得ず、それどころか情報の入手や診療例などの研究及び患者の斡旋紹介等には多大な寄与をしている。より高度な医療の提供をするため医師は努力しているものであり、そのための情報収集や臨床例などを求めた場合、大病院に勤務することは非常に効率的である。G医院にとっては、Fの本件病院等への勤務は決して他の職業とは思えず、同一の職業であり、そのことがG医院の事業に貢献しているのである。その結果として、FがG医院において診療した患者のレセプトから推計した診療報酬額は、年間約40,000,000円を超える金額であり、実際にG医院に多大な貢献をしていることは明らかである。
 よって、FはG医院における専従者として貢献し、その職分を十分に果たしているものであるから、同人は、他に職業を有しているが、請求人の事業に専ら従事することが妨げられないと認められる。
(C)したがって、FがG医院に専ら従事していた期間については、週1日だけではなく、本件病院等に勤務していた週5日も含まれるから、その年を通じて6月を超えることになり、令第165条第1項により青色事業専従者に該当する。
(ロ)信義則に反するか否かについて
 仮に、Fは青色事業専従者に該当しないとしても、原処分は次のとおり信義誠実の原則に反するものである。
A 原処分庁は、前回調査において、Fが青色事業専従者に該当しないことを指摘しないばかりか、本件自動車の減価償却費に関し、同人が青色事業専従者でありながらも他の病院に勤務していることを理由に使用割合を100%から40%へ減額するよう修正申告のしょうようをしたものであり、請求人はそれに従って修正申告をした。
B このことは、原処分庁がFを青色事業専従者として容認したものにほかならず、請求人はこの取扱いを信頼して申告してきたのである。よって、取扱いを変更するのであれば、その旨を説明した上で、その年分以降から適用するのが当然である。にもかかわらず、それまでに取扱いを変更する旨の説明を一切せずにいて、突然、その取扱いを3年分も遡及して変更する本件各更正処分を強行したことは、善良なる納税者の納税意識を阻害する独善的な行為であり、信義誠実の原則に反して違法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

 Fが青色事業専従者に該当するか否か及びこの点に関する今回の税務調査における取扱いが前回の取扱いと相違し、信義則に反するか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 青色事業専従者に該当するか否かについて
(イ)認定事実
 当審判所の調査及び請求人の答述によれば、次の事実が認められる。
A G医院の診療時間は、月曜日、火曜日、水曜日及び金曜日は午前9時から午後0時30分までと午後3時から午後6時までであり、木曜日及び土曜日は午前9時から午後1時までである。
B 請求人は、当審判所に対し、各年分の期間について、Fが自宅又はG医院にいる場合には、通常の勤務日及び勤務時間以外にも診察などのG医院における業務を実際に行うこともあったが、本件病院等の勤務を休んでまでG医院の業務を行うことはなかった旨答述している。
(ロ)法第56条及び法第57条の趣旨
 法第56条は、もともと個人事業は家族全体の協力のもとで家族の財産を共同で管理、使用して成り立つものが多く、それについて必ずしも個々の対価を支払う慣行があるものとはいえず、対価が支払われる場合であっても、支払われた対価をそのまま必要経費として認めることとすると、個人事業者がその所得を恣意的に家族に分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じ、また、適正な対価の認定を行うことも実際上困難であることから、そのような方法による税負担の回避という事態を防止するために設けられたものであると解されている。
 これに対し、法第57条第1項の規定は、青色申告者については、帳簿の正確な記録を通して、企業と家計とが明確に区分されること、同族会社においても家族に支払われる給与が妥当な限度内のものであれば損金に算入することが認められることとの権衡、他に就職すれば相当の所得を得られるのに家業に専従するために給与の支給が税法上全く認められないことは不合理であることなどから、法第56条の特例として、個人事業者がその家族に支払う対価のうち、その家族が当該事業に専従する場合の給与に関しては、所定の要件の下で必要経費に算入することを認めたものであり、法第57条第3項の規定は、白色申告者の家族が当該事業に専従する場合においても、青色申告者との権衡から、専従者控除額を必要経費とみなすことにしたものであると解される。
 したがって、法第57条第1項の規定は、青色申告者と生計を一にする親族が当該事業に専従する場合に関して認められるものであるから、単に青色申告者が、労務の対価として生計を一にする親族に対し給与を支払ったというだけで必要経費として認められるわけではない。
(ハ)令第165条第1項第2号に規定する「その他相当の理由」への該当性の有無
 請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のBのとおり、Fは神経科及び精神科という専門分野の医師なので、同人の従事日は週1日で足りるという事情が存し、このことは、令第165条第1項第2号に規定する「その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかったこと」に該当する旨主張する。
 ところで、当該事業に専従するといえるかどうかの判定については、上記1の(3)のハのとおり、原則として、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を超えるかどうかによることになるが、例外として、令第165条第1項第1号又は第2号に該当する場合には、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその2分の1に相当する期間を超える期間を当該事業に専ら従事すれば足りるとされている。
 この場合、第2号は「当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じて・・・当該事業に従事することができなかったこと」と規定していることからみて、ここでいう「その他相当の理由」とは、列挙されている死亡、長期にわたる病気及び婚姻に準じる事情を指すものであり、具体的には縁組及び離婚等による身分関係の異動、身体の重大な障害等の心身の状況並びに就職、退職、入学及び退学等の社会的境遇の変化等がこれに該当すると解されている。
 そうすると、請求人の主張するFの専門分野の特殊性は、上記のいずれの場合にも該当しないことは明らかなので、請求人の主張は採用できない。
(ニ)令第165条第2項第2号かっこ書への該当性の有無
 請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のCのとおり、Fが請求人の事業(G医院の経営)に専ら従事していた期間は、週1日(月曜日)だけではなく、毎週火曜日から土曜日についても、情報の入手や診療例などの研究及び患者の斡旋紹介等で多大な寄与をしていたから、これら週5日間は令第165条第2項第2号かっこ書に該当するので、同5日間も請求人の事業に専ら従事していた期間に含まれる旨主張する。
 ところで、上記1の(3)のニのとおり、令第165条第2項第2号が、他に職業を有する者については、他の職業に従事している期間は第1項に規定する「事業に専ら従事する期間」に含まれない旨規定している趣旨は、他に職業を有する場合には、その職業に従事する期間は当該納税者の事業に専ら従事することが通常あり得ないためであり、この趣旨の下で、第2号かっこ書の規定は、例外的に、他に職業を有する者であっても、その職業に従事する期間が短い者やその他当該納税者の事業に専ら従事することが妨げられないと認められる事情が存する者については、当該納税者の事業に専ら従事していると認定することができる旨定めていると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のへ及びトのとおり、Fは本件病院等に従事し、相応の収入を得ていることから、同人が令第165条第2項第2号に規定する「他に職業を有する者」に該当することは明らかである。
 そして、上記1の(4)のハ、ニ及びヘのとおり、請求人の事業であるG医院の診療日は毎週月曜日から土曜日までであるのに対し、Fは、本件病院等において毎週火曜日から土曜日まで勤務しており、G医院においては毎週月曜日しか従事していないこと、Fは神経科及び精神科の医師であり、G医院及び本件病院等のいずれにおいても、従事内容は医師としての診療業務等であったこと、上記(イ)のA及び上記1の(4)のへのとおり、毎週火曜日から土曜日までについて、G医院の診療時間とFの本件病院等における勤務時間がほぼ重複すること、及び上記(イ)のBのとおり、Fが本件病院等の勤務を休んでまでしてG医院の事業に従事することはなかったことが認められる。
 そうすると、Fは本件病院等で勤務している期間においては、G医院の事業に従事することはできなかったと認めるのが相当であるから、Fが本件病院等で勤務することは、FがG医院の事業に専ら従事することが妨げられないということはできず、Fは令第165条第2項第2号かっこ書の「当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者」に該当しないから、FがG医院に専ら従事していた期間の中には、本件病院等に勤務していた週5日は含まれないこととなる。
(ホ)上記1の(4)のニ並びに上記(ハ)及び(ニ)のとおり、Fが請求人の事業に専ら従事していた期間は週1日(月曜日)のみであり、同人が本件病院等に勤務していた毎週火曜日から土曜日は当該期間に含まれないから、Fが請求人の事業に専ら従事していた期間は年間を通じて6月を超えるとはいえず、したがって、各年分について、Fは青色事業専従者に該当しない。
ロ 信義則に反するか否かについて
 請求人は、原処分庁が前回調査において、Fが青色事業専従者に該当しない旨指摘しなかったこと及びFが他の病院に勤務していることを理由に本件自動車の減価償却費につき事業専用割合を40%とする旨の修正申告のしょうようをしたことは、Fを青色事業専従者として容認したものであるから、それを変更してなされた原処分は信義則に反し違法である旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査及び原処分関係資料によれば、前回調査において、原処分庁が事業専用割合を40%とする旨の修正申告のしょうようをしたのは、単に本件自動車が請求人の事業であるG医院に関して使用された状況からそのように判断したものであって、Fが青色事業専従者に該当するか否かを理由とするものではなかったと認められ、また、原処分庁が、Fを青色事業専従者として容認する旨表明した事実は認められず、その他原処分庁が、請求人のFに関する青色事業専従者給与の必要経費算入の会計処理について指導したり、請求人の会計処理を積極的に容認した事実も認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 上記イ及びロのとおりであるから、Fは青色事業専従者に該当しないため、法第56条の規定により、請求人が同人に対して支払った給与の額は必要経費に算入することはできないとしてされた本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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