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(平15.6.25裁決、裁決事例集No.65 181頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が勤務先から役員退職慰労金として支給された一時金は、給与所得と退職所得のいずれに該当するかを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の所得税について、確定申告書に総所得金額(給与所得の金額)25,359,990円、還付金の額に相当する税額○○○○円と記載して法定申告期限までに申告をした。
ロ その後、請求人は、給与所得として申告したうちの退職慰労金相当額は退職所得に該当するとして、平成13年11月14日に総所得金額(給与所得の金額)を16,847,990円、退職所得の金額を3,080,000円及び還付金の額に相当する税額を2,874,039円とすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年4月30日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として、平成14年6月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月27日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年10月25日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第30条《退職所得》第1項及び第2項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という)に係る所得をいい、退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とする旨規定している。
ロ 所得税基本通達30−1《退職手当等の範囲》は、退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう旨定めている。
ハ 所得税基本通達30−2《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》は、引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、次に掲げるものでその給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、所得税基本通達30−1にかかわらず、退職手当等とする旨定め、その(3)において、役員の分掌変更等により、例えば、常勤役員が非常勤役員(常時勤務していない者であっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められるものを除く。)になったこと、分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上減少)したことなどで、その職務の内容又はその地位が激変した者に対し、当該分掌変更等の前における役員であった勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与と定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人の勤務先であったA株式会社(以下「A社」という。)は、平成12年10月1日に株式会社B(以下「B社」という。)及び株式会社C(以下「C社」といい、A社及びB社と併せて「合併3社」という。)と合併(以下「本件合併」という。)し、商号をD株式会社(以下「D社」という。)に変更した。
ロ 合併3社が平成12年7月14日に締結した合併契約書には、要旨次の記載がある。
(イ)合併3社は、対等の精神で合併する。
 ただし、法手続上、A社を存続会社とし、B社及びC社は、解散する。
(ロ)合併期日は、平成12年10月1日とする。
(ハ)A社は、合併によりD社と商号変更し、本店所在地をP市に変更する。
(ニ)合併3社のそれぞれの取締役及び監査役は、合併期日の前日をもって退任し、退任する取締役及び監査役に対して、合併期日の前日までの期間を計算期間とする退職慰労金を、合併3社それぞれの臨時株主総会の決議により支払う。
ハ 平成12年8月25日のA社の臨時株主総会において、取締役及び監査役に対する役員退職慰労金の支払が決議され、同日の取締役会において、その支払金額等については、役員退職慰労金内規等に基づき、代表取締役社長に一任した。
ニ D社は、平成12年11月8日に、請求人に対し役員退職慰労金8,960,000円(以下「本件一時金」という。)を支給したが、その際、本件一時金は賞与に該当するとして、給与所得としての源泉徴収をした。
ホ 請求人は、E銀行などの金融機関に勤務後、平成5年10月にA社に入社し、平成6年6月に専務取締役に就任、平成12年9月30日に同職を退任し、同年10月2日にD社の代表取締役に就任した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件一時金は、次の理由から退職所得に該当する。
(イ)本件一時金は、A社を含む3社が合併することに伴い、従業員退職給与規定の廃止による打切り支給と平仄を一にして、役員退職慰労金内規に沿って計算された退職慰労金が臨時株主総会の決議に基づき打切り支給されたものであること。
(ロ)本件一時金は、合併に伴う事業計画の一環として退職金制度を廃止することに伴い支給されたものであり、その支給に至る経緯から、打切り支給に相当の理由があると考えられること。
ロ 本件一時金に対する給与所得としての課税は、次の理由から課税の公平を損なうものである。
(イ)同じ状況での従業員に対する打切り支給は、退職所得として取り扱われており、オーナーではない役員と従業員とを区別する課税上の必要性はないと認められる。
(ロ)法人が解散した時の役員で清算人となった者や引き続き監査役として勤務する者に対し、その解散前の勤続期間に係るものとして解散時に支給された退職金は、実質的に退職したと同様の事情があると認められるかどうかの判定なしに、一律に退職所得として取り扱われている。
(ハ)退職所得課税の趣旨からして、本件一時金を退職所得として課税することは、不当に課税の公平を欠くとは認められず、むしろ、給与所得としての課税は、課税の公平を欠くものである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に支給した給与については、その支給が、例えば、常勤役員が非常勤役員になったこと、分掌変更等の後における報酬が激減したことなどで、その職務の内容又はその地位が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるものである場合には、退職により一時に受ける給与等に該当すると解されている。
ロ 請求人は、本件合併による役員改選により、合併における存続会社の専務取締役から、合併後の法人の代表取締役に就任したのであり、このことは、役員に再任されただけであって、また当該役員の改選により、常勤役員から非常勤役員に選任される等、実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められないから、本件一時金は、退職に基因して一時に受ける給与等には該当せず、請求人のA社の役員としての地位に基づき一時に受ける給与に該当するから、給与所得として課税することが相当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のことから、請求人の総所得金額(給与所得の金額)は、25,359,990円となり、この金額は、請求人が確定申告書に記載した金額と同額であるから、本件一時金が退職所得に該当するとしてされた平成12年分所得税の更正の請求に対して、その更正をすべき理由がないとして行われた本件通知処分は適法である。

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3 判断

 本件の争点は、請求人が勤務先から支給された本件一時金は、給与所得と退職所得のいずれに該当するかであるので、以下審理する。

(1)法令等の解釈

イ 所得税法上、退職所得が給与所得に比し優遇されている趣旨は、一般に、退職を原因として一時に支給される金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所等において勤務したことに対する報償及びその期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質をもつとともに、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、多くの場合、いわゆる老後の生活の糧となるものであるため、他の一般の給与所得と同様に、一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、かつ、社会政策的にも妥当しない結果を生ずることになるから、かかる結果を避けるためであると解される。
 そして、所得税法第30条第1項に規定する退職により一時に受ける給与とは、〔1〕退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、〔2〕従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、〔3〕一時金として支払われることの3要件が必要であり、同項に規定するこれらの性質を有する給与に当たるというためには、当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により清算の必要があって支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務の性質、内容、労働条件等において、重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要するものと解される。
ロ 引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするものを定めた上記1の(3)のハの取扱いは、上記イの退職所得課税の趣旨等に照らし合理性が認められ、当審判所においても相当と認められる。

(2)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ A社の平成11年6月14日付「第32回定時株主総会招集ご通知」に添付の営業報告書によれば、同社の代表取締役は同社の創業者であるFであり、同年3月31日現在の同社の大株主は、有限会社G(持株比率23.1%)、F(同17.5%)、A社従業員持株会(同10.3%)、H(同9.3%)、I(同5.8%)及びE銀行(同1.9%)等であった。
 なお、Fは、有限会社Gの代表取締役を兼務していた。
ロ A社の平成12年6月13日付「第33回定時株主総会招集ご通知」に添付の営業報告書には、〔1〕同社は、同年2月29日よりJ株式会社(以下「J社」という。)の傘下に入ることとなったこと、〔2〕同社は、同月28日を払込期日として、割当先をJ社として第三者割当増資を実施したこと、〔3〕A社の第1位株主であった有限会社G、第2位株主であったF及び第4位株主であったHは、それぞれ、その所有株式の全株をJ社に譲渡したこと及び〔3〕J社は、同年3月31現在において、A社の発行済株式総数の61.1%を保有していた旨の記載がある。
ハ B社の平成12年6月9日付「第72期定時株主総会招集ご通知」に添付の営業報告書等によれば、B社及びC社においても、J社が平成11年3月までには両社の発行済株式総数の過半数をそれぞれ取得したことにより、J社の傘下に入ったことが認められる。
ニ D社が○○財務局長に提出した平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の有価証券報告書によれば、平成13年3月31日現在において、J社は、D社の発行済株式総数の57.9%を所有していた。
ホ A社の平成12年6月13日付「第33回定時株主総会招集ご通知」に添付の営業報告書には、同社における請求人の役職は専務取締役であり、その担当又は主な職業は全般統轄兼秘書室長である旨の記載がある。
ヘ D社の平成12年10月2日開催の取締役会議事録には、同取締役会において、〔1〕代表取締役に請求人が選任されたこと、〔2〕役付取締役として、会長にL、社長にMが選任されたこと、〔3〕執行役員として、最高執行役員にM、執行役員にNほか2名が選任された旨の記載があり、また、同社の経営方針・計画・企画経営関係の決裁権限一覧表によれば、決裁権者は社長又は取締役会、審議は執行役員会であり、代表取締役は報告を受けるのみであることが認められる。
ト 請求人は、平成13年6月のD社の定時株主総会において役員を退任しており、その退任に当たっては退職一時金等の支給を受けていない。
チ 請求人が平成12年分の所得税の確定申告書に記載した同年分の給与所得に係る収入金額28,484,200円の内訳は、本件一時金8,960,000円並びにA社及びD社からの役員報酬19,524,200円であり、それぞれの源泉徴収税額は3,136,000円及び3,029,139円である。

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(3)以上の事実から、本件について判断すると、次のとおりである。

イ 上記1の(4)のイ及びロ並びに上記(2)のイからニまでの各事実から、A社は、法律の形式上は本件合併後において存続する法人であるが、本件合併は、J社の傘下に入った合併3社が整理統合されたものであって、A社も実質的には被合併法人と同一視されるものであると認めるのが相当である。
ロ また、請求人は、上記1の(4)のロからニまでの各事実のとおり、本件合併の合併期日の前日をもってA社を退職し、合併期日の前日までの勤務に対する報償として、A社の役員退職慰労金内規等に基づく一時金として、D社から本件一時金の支給を受けたものと認められる。
ハ そして、請求人の場合、A社の専務取締役から本件合併の存続法人であるD社の代表取締役に就任しているので、原処分庁が主張するように、形式的には継続していると見られる勤務関係ではあるが、上記イ及び上記(2)のホからトまでの各事実のとおり、実質的には、J社の傘下に入った合併3社の整理統合としての本件合併に伴う一時的かつ形式的な代表取締役への就任であって、請求人の勤務の性質、内容に重大な変動があり、単なる従前の勤務関係の延長とはみられない特別の事実関係があるものと認めるのが相当である。
ニ そうすると、請求人の場合は、所得税基本通達30−2の(3)に定めるその職務の内容又はその地位が激変した者に該当し、上記ロのとおり、請求人がA社の専務取締役であった勤続期間に係る役員退職慰労金として支払われたものと認められる本件一時金は、退職所得に該当すると判断するのが相当である。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(4)所得金額及び税額

イ 上記(3)に述べたとおり、本件一時金8,960,000円は退職所得に係る収入金額であると認められることから、請求人の平成12年分の給与所得に係る収入金額は19,524,200円となり、給与所得の金額は16,847,990円となる。
ロ 請求人のA社における役員としての勤務期間は6年超7年未満であるから、所得税法第30条第3項並びに所得税法施行令第69条《退職所得控除額に係る勤続年数の計算》第1項及び第2項の規定により、退職所得控除額は2,800,000円となり、退職所得控除額控除後の金額は6,160,000円、退職所得の金額は3,080,000円となる。
ハ 本件一時金は退職所得に該当し、かつ、退職所得の受給に関する申告書は提出されていないと認められるから、所得税法第201条《徴収税額》第3項の規定により、本件一時金について源泉徴収されるべき税額は、本件一時金の20%相当額の1,792,000円であり、本件一時金以外の役員報酬に係る源泉徴収税額は3,029,139円であるから、控除されるべき源泉徴収税額の合計額は4,821,139円となる。
ニ 以上の結果、還付金の額に相当する税額は1,530,039円となるから、原処分はその一部を取り消すべきである。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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