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(平15.6.12裁決、裁決事例集No.65 206頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、外国有価証券市場で外国株式を売却して得た譲渡所得について、租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条の11《上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税》に規定する源泉分離課税の特例(以下「本件特例」という。)を適用することができるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分の所得税について、確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成14年3月15日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおり決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年3月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年7月24日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 措置法第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項は、居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、平成元年4月1日以後に株式等の譲渡をした場合には、当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(下記のロにおいて「株式等に係る譲渡所得等」という。)について、所得税法第22条《課税標準》及び同法第89条《税率》並びに同法第165条《総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算》の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る課税譲渡所得等の金額の100分の20に相当する金額に相当する所得税を課する(以下、この条に規定する課税方式を「申告分離課税」という。)旨規定している。
ロ 措置法第37条の11第1項は、居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、平成元年4月1日以後に証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のものをいい、以下「証取法」という。)第2条第11項に規定する証券取引所に上場されているものその他これに類するものとして政令で定める株式等の譲渡のうち証券業者又は銀行の営業所(以下、これらを「証券業者の営業所等」という。)において当該証券業者又は銀行への売委託により行う当該株式等の譲渡(措置法第37条の11第1項第1号)をする場合において、当該株式等のこれらの譲渡による株式等に係る譲渡所得等につきこの項の規定の適用を受けようとする旨その他大蔵省令で定める事項を記載した申告書(上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離課税の選択申告書)を証券業者の営業所等を経由して納税地の所轄税務署長に提出したときは、その提出の時以後に行う当該株式等の譲渡(以下「上場株式等の譲渡」という。)による株式等に係る譲渡所得等については、所得税法第22条及び同法第89条並びに同法第165条並びに措置法第37条の10の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に対し100分の20の税率を適用して所得税を課する(以下、この条に規定する課税方式を「源泉分離課税」という。)旨規定している。
ハ 措置法第37条の11第7項は、第1項に規定する申告書が、その提出の際に経由すべき証券業者の営業所等において受理されたときは、当該申告書は、その受理された時に同項に規定する税務署長に提出されたものとみなす旨規定している。
ニ 租税特別措置法に係る所得税の取扱い《源泉所得税関係》について(昭和63年3月31日付直法6−8ほか国税庁長官通達。平成11年課法8−6ほかによる改正前のものをいう。)37の11−1《売委託》は、措置法第37条の11第1項第1号に規定する売委託とは、売買の媒介、取次ぎ若しくは代理の委託又は売出しの取扱いの委託をいう旨定めている。
ホ 証取法第2条第8項は、この法律において証券業とは、銀行、信託会社その他政令で定める金融機関以外の者が、有価証券の売買等の媒介、取次ぎ又は代理(同項第2号)、有価証券市場又は外国有価証券市場における有価証券の売買取引等の委託の媒介、取次ぎ又は代理(同項第3号イ又はロ)等の行為のいずれかを行う営業をいう旨規定している。
ヘ 国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項は、同法第25条《決定》の規定による決定があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて、当該納税者に対し、当該決定に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、L証券株式会社(以下「L証券」という。)に対して、平成9年5月12日付で請求人名義の上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離課税の選択申告書(以下「本件源泉分離課税選択申告書」という。)を提出した。
ロ 請求人は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の株式店頭市場において、別表2のとおり、米国に所在するM社の株式(以下「本件株式」という。)を売却した(以下、平成10年3月11日の取引を「第1取引」、同年4月21日の取引を「第2取引」といい、第1取引と第2取引を併せて「本件各取引」という。)。
ハ 請求人は、本件各取引に係る譲渡所得について、本件特例を適用した。
ニ 本件株式は、証取法第2条第8項第3号ロに規定する外国有価証券市場において売買されている措置法第37条の10第3項に規定する株式等として、措置法第37条の11第1項及び租税特別措置法施行令(平成11年政令第120号による改正前のものをいう。)第25条の9《上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税》第1項第2号に規定する上場株式等に該当する。
ホ N(以下「N証券」という。)は、米国で証券業を営んでおり、平成10年までP市Q町○−○に日本支店を有していたが、日本国内では証券業を行うべく所轄官庁の登録を受けていない。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)本件特例の適用
A 本件特例の適用を受けるには、上記1の(3)のロのとおり、証券業者の営業所等において当該証券業者又は銀行への売委託によって株式等が譲渡される必要があるところ、〔1〕本件株式は、請求人が本件株式の売却を委託したとするL証券ではなく、本件株式を米国の証券市場で実際に売却したN証券が保護預りしていたこと、〔2〕N証券における本件株式の保護預りは、請求人から本件株式の売却を委託されたとするL証券の名においてではなく、請求人の名においてなされていることからすれば、本件株式の管理をしていないL証券が本件株式を売却することは、他に再委託するにしろ不自然であり、かつ、本件株式を実際に管理しているN証券が、本件株式を米国の証券市場において売却していることからすれば、L証券を介して本件株式を売却する合理的な理由も認められない。
 そうすると、L証券は、N証券の顧客、すなわち、請求人が本件特例の適用を受けることを可能ならしめるために形式上介在したと認めるのが相当である。
 以上のことから、本件各取引の実体は、請求人からN証券への売委託であると認められ、措置法第37条の11第1項第1号に規定する証券業者への売委託に当たらないから、本件特例の適用はない。
B 仮に、実体として、L証券を介して本件株式が売却されたとしても、次のとおり、本件各取引に係る譲渡所得について、本件特例を適用することはできない。
(A)一般に国内の証券業者の顧客が、国内の証券取引所に上場されていない外国株式を売却する場合、顧客より委託を受けた国内の証券業者が売却を行うべき外国の証券取引所の会員となっている証券業者を通して執り行う業務は、証取法第2条第8項第3号に規定する外国有価証券市場における有価証券の売買取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理に該当し、措置法第37条の11第1項第1号に規定する「売委託」に該当する。
(B)証取法第2条第8項にいう「取次ぎ」とは、商法第502条第11号に規定する取次に関する行為、すなわち自己の名をもって委託者の計算において法律行為をなすことを引き受ける行為である。
 しかしながら、請求人の場合、本件株式は請求人名義でN証券に保護預りされており、L証券は同社の名をもって本件株式の売り注文をすることができないので、本件株式は、結果的に売却されているが、「委託の取次ぎ」により売却されたとは認められない。
(C)また、証取法第2条第8項にいう「媒介」とは、商法第502条第11号に規定する仲立に関する行為、すなわち、委託者が締結を希望する契約の相手方を探して、同者を当該委託者に紹介したり、委託者と相手方との契約条件に差がある場合に両者の間に入ってその調整を図ったりする行為である。
 しかしながら、請求人の場合、N証券は、本件各取引の以前から請求人の名で本件株式の保護預りをしており、証券業者と顧客の関係にあったと認められること、また、請求人は、以前から取引のあるN証券からL証券を紹介されていることからすれば、L証券が本件各取引の「委託の媒介」をしたとは認められない。
(D)そして、証取法第2条第8項第3号にいう「委託の代理」については、そもそも、請求人は、L証券が同人を代理して本件株式を売却するよう依頼したわけではなく、他方、L証券も請求人を代理したとする認識がないなど、請求人及びL証券の双方ともに「代理」の認識がないことからすれば、L証券が本件各取引の「委託の代理」をしたとは認められない。
C 以上のとおり、本件各取引に係る譲渡所得について、本件特例を適用することはできない。
(ロ)本件為替差益
 L証券が請求人にあてた取引報告書によれば、本件株式の売却代金に係る最終精算金額の計算は、米ドルの売却代金が邦貨に換金されるとき(以下「本件決済日」という。)の先物為替予約レート(円貨決済レート)により行われており、その結果、当該先物為替予約レートと株式等に係る譲渡所得の収入金額の算定に当たり用いた米ドルの対顧客電信買相場(以下「TTBレート」という。)との間に為替差益(以下「本件為替差益」という。)が生じることとなり、当該為替差益は、所得税法第35条《雑所得》に規定する雑所得に該当する。
(ハ)所得金額等の計算
A 株式等に係る譲渡所得の金額
(A)本件各取引に係る譲渡所得については、上記(イ)のとおり、本件特例を適用できないことから申告分離課税により譲渡所得の金額を算出することとなる。
(B)株式等に係る譲渡所得の金額は、次のaの収入金額81,353,080円からbの取得費の額51,737,297円及びcの譲渡費用の額2,712円を控除した金額29,613,071円である。
a 収入金額
 収入金額は、本件各取引の取引日におけるTTBレート又はその翌日におけるTTBレートにより算定した、別表3の(1)のとおりの金額81,353,080円である。
b 取得費の額
 取得費の額は、別表3の(2)のとおり、売却株式9,410株に平成9年2月28日の株式交換時の交換取得金額である1株当たりの単価45.875米ドル及び同日の米ドルのTTBレート119.85円を乗じた51,737,297円である。
c 譲渡費用の額
 譲渡費用の額は、別表3の(3)のとおり2,712円である。
B 給与所得の金額
 給与所得の金額は、T社(R市S町○番○)を支払者とする請求人の平成10年分給与支払報告書(以下「本件給与報告書」という。)に記載された給与収入金額3,238,947円を所得税法第28条《給与所得》第4項の規定により、当該金額を同法に規定する別表五の給与等の金額として同表により当該金額に応じて求めた給与所得控除後の金額2,085,200円である。
C 雑所得の金額
(A)本件株式に係る本件各取引の売却代金について、N証券から米ドルで代金の送金を受けたL証券が日本円に換金した日までの間に円安による本件為替差益が生じており、当該為替差益は雑所得となる。
(B)雑所得の金額は、次のaの収入金額1,448,248円からbの必要経費の金額365,602円を控除した金額1,082,646円である。
a 収入金額
 収入金額は、別表4の(1)のとおり1,448,248円である。
b 必要経費の金額
 必要経費の金額は、別表4の(2)のとおり365,602円である。
D 総所得金額
 総所得金額は、上記Bの給与所得の金額2,085,200円と上記Cの雑所得の金額1,082,646円を合計した金額3,167,846円である。
E 所得控除の額
 所得控除の額は、本件給与報告書に記載された金額655,493円である。
F 課税所得金額
(A)課税総所得金額
 課税総所得金額は、上記Dの総所得金額3,167,846円から上記Eの所得控除の額655,493円を控除した金額2,512,000円(通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項の規定により千円未満の端数切捨て。以下同じ。)である。
(B)株式等に係る課税譲渡所得の金額
 株式等に係る課税譲渡所得の金額は、上記Aの株式等に係る譲渡所得の金額から千円未満の端数を切り捨てた金額29,613,000円である。
G 算出税額
 算出税額は、上記Fの(A)の課税総所得金額を所得税法第89条の規定に基づき計算した金額251,200円及び上記Fの(B)の株式等に係る課税譲渡所得の金額を措置法第37条の10第1項の規定に基づき計算した金額5,922,600円を合計した金額6,173,800円である。
H 特別減税額
 特別減税額は、平成10年分所得税の特別減税のための臨時措置法第4条《特別減税の額》の規定により計算した金額38,000円である。
I 源泉徴収税額
 源泉徴収税額は、本件給与報告書に記載された金額104,900円である。
J 納付すべき税額
 納付すべき税額は、上記Gの算出税額6,173,800円から上記Hの特別減税額38,000円と上記Iの源泉徴収税額104,900円を控除した金額6,030,900円(通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第1項の規定により百円未満の端数切捨て。以下同じ。)である。
(ニ)以上のことから、請求人の平成10年分の所得税に係る納付すべき税額は別表5のとおりとなり、本件決定処分の額と同額となるから、本件決定処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)通則法第66条第1項に規定する無申告加算税を課さない場合の正当な理由があると認められる場合とは、例えば、災害、交通・通信の途絶等の外的事情により、期限内に申告書を提出することが不可能であった場合がこれに該当し、単に納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合はこれに該当しないものと解される。
(ロ)本件各取引に係る課税関係において本件特例が適用できるかどうかは、当該取引に係るL証券の行為が「売委託」に該当するかどうかによるのであり、請求人としても、L証券に委託した取引を吟味して本件特例が適用できるかどうかを判断する必要があったものと認められる。
 したがって、請求人がL証券から源泉所得税を控除した旨の取引報告書を受け取り、本件各取引について本件特例の適用が受けられたものと信じたとしても、それは、税法の不知若しくは誤解によるものであるから、請求人の場合、期限内に申告書を提出しなかったことについて正当な理由があるとは認められない。
(ハ)以上のとおり、本件決定処分は適法であり、また、通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

イ 本件決定処分について
(イ)本件特例の適用
 本件各取引は、次のとおりL証券への売委託により行ったもので、本件各取引に係る譲渡所得について、本件特例を適用することができるのであるから、これを認めない本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
A 請求人は、本件各取引について、L証券に対し売委託を行ったもので、N証券もL証券からの委託を受けて本件株式を売却したものであって、L証券が存在しなければ、本件各取引そのものが成立していない。
B L証券の業務は、次のとおり、売委託の意味するところの媒介、取次ぎ又は代理のいずれかの行為に該当する。
(A)原処分庁は、本件株式をN証券に保護預りにしていた事実から取次ぎに当たらない旨主張するが、これは、いわゆるM&Aに係る瑕疵の担保等のために米国U社に指定されたN証券に預けられていたものであって、本件株式をいったん返してもらってから売却しなかったという手続上の問題であり、実質的には、請求人はL証券に対し本件株式の売却を委任している。
(B)原処分庁は、N証券からL証券を紹介されたのであれば、媒介には当たらない旨主張するが、既に売買が決まっていても、なお専門的な視点から業者に仲介を依頼する場合もあるから、時間的な前後関係が媒介行為を否定する理由には当たらない。
 L証券は、N証券と請求人の間に入り取引を行っていたのであるから、委託者と相手方との調整を図る行為を行っているものと認識できる。
(C)原処分庁は、請求人及びL証券は共に代理の意思がなかった旨主張するが、請求人は、L証券に本件各取引の委任を行うべく関係書類に署名しており、また、L証券の国際法人部長V(以下「V国際部長」という。)から源泉所得税及び売買手数料についての説明を受けた上で、委託契約書及び本件源泉分離課税選択申告書をL証券に提出した。
(D)原処分庁は、請求人とN証券とが、直接、取引を行っていると主張しているが、N証券がL証券から手数料を受けていることから分かるとおり、N証券はL証券の代理人という認識の下に業務を遂行している。
(ロ)本件為替差益
 原処分庁は、本件株式に係る譲渡所得の収入金額の算定に当たり用いたTTBレートと本件決済日の先物為替予約レート(円貨決済レート)の差額を本件為替差益の収入金額としているが、同一種のレートを採用すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件決定処分は違法であるから、本件賦課決定処分は取り消すべきである。
 また、本件各取引は源泉分離課税により納税が完結しているから、L証券とN証券との取引の認識という、請求人にとってその確認が事実上不可能な事柄が原処分庁の調査により明らかになったからといって、このことにより加算税を賦課するのは不当であり、このことは通則法第66条第1項に規定する正当な理由に当たるから、本件賦課決定処分は違法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件各取引に係る譲渡所得について、本件特例を適用することができるか否か及び本件為替差益の計算に当たり適用する換算レートは同種のレートによるべきであるか否か並びに請求人が本件各取引に係る譲渡所得及び本件為替差益に係る雑所得を申告しなかったことについて、正当な理由があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件各取引について、N証券日本支店(日本駐在員事務所)のW(以下「W日本駐在員」という。)がL証券の株式部次長X(以下「X証券部長」という。)にあてたFAX COVER SHEET(以下「FAXカバーシート」という。)には、「本日行いました売却取引をご報告致します。」、「弊社にて行いました売却取引をご報告致します。」等の記載があるほか、取引内容について、要旨別表6のとおりの記載がある。
(ロ)本件各取引について、L証券が請求人に送付している取引報告書には、要旨別表7のとおりの記載がある。
(ハ)L証券のX証券部長は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A W日本駐在員から、N証券の日本人の顧客が、N証券本社に預けている外国株式を売却する際、源泉分離課税を選択できるように、L証券の顧客として、源泉分離課税の手続及び実行並びに国内事務をやってほしいとの依頼を受けた。
B 取引開始に当たり、請求人から平成9年5月12日に取引申込書(口座開設)及び本件源泉分離課税選択申告書を受領した。また、外国証券取引口座開設申込書の提出も受けたはずである。
C 請求人の父であるY(以下「父Y」という。)は、N証券の日本駐在員事務所を通じてN証券本社に直接本件株式の売りを指示していたが、L証券では、本件株式を上場している市場に参加している外国証券会社に本件株式を保護預りしておらず、L証券名義の取引は行っていない。
D L証券と請求人との本件各取引については、通常、請求人がN証券本社を通じて本件株式を売却後、N証券のW日本駐在員からその約定の内容を記載したファクシミリがL証券に送られてくるので、L証券では、当該ファクシミリが到達してから事務を行っているものであり、当該ファクシミリにより初めて請求人が米国のN証券本社を通じて本件株式を売却した事実を知ることとなる。
E 通常の外国証券の売買の場合は、海外での約定を確認した上、国内の約定日として取引報告書を作成しているところであるが、本件各取引は、N証券の日本駐在員事務所から売買報告のファクシミリが届いた日を約定日とし、また、受渡年月日は国内証券取引に準じて約定日の4日後として取引報告書を作成した。
F L証券は、請求人がN証券本社を通じて売却した本件株式の売却代金についての受渡日の為替予約とその売却代金の国内受入れから請求人の銀行預金口座への振込み並びに源泉分離課税の手続及び実行をしたものである。
(ニ)L証券の監査部長Zは、異議審理庁の調査担当者(以下「異議調査担当者」という。)に対し、要旨次のとおり申述している。
A L証券は、請求人が本件株式を売却するに当たり、請求人からL証券を代理人とする旨の依頼を受けたことはない。
B 本件各取引にL証券を介在させるという方法は、N証券が本件特例の適用のために考案してきたものである。
(ホ)L証券のV国際部長は、異議調査担当者に対し、要旨次のとおり申述している。
A 本件株式は、L証券と株式保管契約を結んでいる○○銀行株式会社アメリカ支店にL証券名義で保護預りされているわけではないので、L証券名義で売り注文は出せない。
B 米国のN証券本社にある、例えばYの口座の名義を「Y代理人L証券」のように変更した事実はない。
(ヘ)L証券のV国際部長は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 請求人から本件株式の売却依頼のファクシミリを受けたことはあると思うが、N証券本社へ売り注文の連絡をしたことはない。
B 父Yに対し、本件株式の売却依頼を、L証券の代理人としてN証券本社に直接連絡するよう指示したことはないし、L証券がN証券に対し、代理人としての手数料を支払うことはあり得ない。
C 為替予約については、各銀行へ当たり一番有利なところを選択した。
ロ 本件特例の適用
 請求人は、L証券へ依頼した業務が売買の取次ぎ・媒介・代理のいずれかに当たり、L証券へ売委託したこととなるから、本件各取引には本件特例が適用されるべきである旨主張するので、以下検討する。
(イ)措置法第37条の11第1項は、上記1の(3)のロのとおり規定するところ、同項第1号に規定する売委託とは、顧客が証券会社に対し、株式等の売却に係る売買の取次ぎ・媒介・代理の取扱いを委託することをいい、さらに、「売買の取次ぎ」とは、証券会社が顧客から受けた注文を自己の名義をもって執行し、その損益を顧客に帰属させる業務を、「売買の媒介」とは、証券会社が第三者間の株式等の売買のために仲介する業務を、そして、「売買の代理」とは、証券会社が顧客の代理人として顧客名義で売買する業務をいうと解される。
 また、国内の証券市場で取引されていない株式等について、国内の証券会社が当該株式等が取引されている外国有価証券市場に参加している外国の証券会社を通じて、上記の売買の取次ぎ・媒介・代理の業務を行う場合は、委託の取次ぎ・媒介・代理となり、これらの取扱いを委託することも売委託に当たると解される。
(ロ)そこで、上記1の(4)及び上記イの事実を上記1の(3)の関係法令等及び上記(イ)に照らし、判断すると、次のとおりである。
A N証券は、上記1の(4)のホのとおり、日本国内において証券業を行うべく所轄官庁の登録を受けていないから、措置法第37条の11第1項に規定する証券業者には該当しない。
B 上記イの(イ)のFAXカバーシートからすれば、N証券が本件株式を米国の有価証券市場で売却したことが認められる。
 一方、L証券は、上記イの(ハ)のC及び(ホ)のAのとおり、本件株式をL証券の名義でN証券本社に保護預りしておらず、また、L証券の米国における有価証券の保管機関にもL証券の名義で本件株式を預けていないことから、N証券に対し本件株式の売りの注文をすることができる立場になく、上記(イ)の委託の取次ぎを行ったとは認められない。
C 次に、本件株式は、上記Bのとおり、米国の有価証券市場で売却されていると認められ、L証券及びN証券は、本件各取引における売買の当事者である請求人と本件株式の購入者とが直接に売買取引を行うよう仲介したわけではないから、上記(イ)の委託の媒介を行ったとは認められない。
D さらに、L証券は、上記イの(ニ)のAのとおり、請求人から代理人に依頼されたことはなく、また、上記イの(ホ)のBによれば、N証券本社にある請求人の口座の名義をL証券が同人の代理人であるように変更していないものと認められることから、N証券本社に対し本件株式の売り注文をすることができる立場になく、上記(イ)の委託の代理を行ったとは認められない。
E そして、上記イの(ハ)のFのとおり、L証券は、本件各取引に係る委託の取次ぎ・媒介・代理の業務を行わず、本件株式に係る売却代金の受渡日の為替予約と売却代金の国内受入れから請求人の銀行預金口座への振込み並びに源泉分離課税の手続及び実行の国内事務を行ったものと認められる。
F さらに、請求人は、L証券がN証券に手数料を支払っていることから、N証券はL証券の代理人という認識の下に業務を遂行している旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、L証券がN証券に手数料を支払っている事実は見当たらず、しかも、上記イの(ヘ)のBのとおり、請求人を担当していたL証券のV国際部長は、当審判所に対し、本件株式の売却依頼を、L証券の代理人としてN証券本社に直接連絡するよう父Yに指示したことはないし、L証券がN証券に代理人としての手数料を支払うことはあり得ない旨答述していることからすると、この点に関する請求人の主張は採用できない。
G 以上のことから総合判断すると、請求人は、L証券に対し本件株式の売委託を行ったとは認められないから、本件各取引に係る譲渡所得について、本件特例を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 本件為替差益
 請求人は、本件為替差益の計算に当たり、同一種のレートによるべきである旨主張するが、本件のように外貨で表示されている上場株式等の譲渡の対価の額を邦貨換算するには、その外貨を有する者からみれば、外貨によって取得し得る邦貨の額と考えるのが妥当であるから、本件株式の邦貨換算をTTBレートにより算定したことは相当と認められる。
 一方、本件決済日の換金レートは、TTBレートではなくL証券が先物為替予約を行った時の為替レートによっているところ、請求人は実際に当該レートによって邦貨の収入を得ているのであるから、原処分庁が本件決済日の換金レートである先物為替予約レートによって本件為替差益を計算したことは相当と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上の結果、請求人の平成10年分の所得税の総所得金額及び本件株式の株式等に係る譲渡所得の金額並びに納付すべき税額を計算すると、原処分庁が算定した別表5の金額と同額となるから、この金額と同額で行った本件決定処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 請求人は、本件決定処分の原因となったL証券とN証券との関係は請求人にとって確認が事実上不可能な事柄であるから、このことは通則法第66条第1項に規定する正当な理由に当たる旨主張する。
 ところで、通則法第66条第1項は、上記1の(3)のヘのとおり規定するところ、ここにいう正当な理由があると認められる場合とは、例えば、災害、交通や通信の途絶等、納税者の責めに帰することができない外的事情による場合など、法定申告期限内に申告書を提出することが不可能であった場合がこれに該当し、単に納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合は、これに当たらないと解される。
 そうすると、請求人以外の者が提供した誤った税法解釈を信じた結果、その後に調査によって、納税申告書を提出する義務が明らかになったとしても、このことは、請求人の税法の不知若しくは誤解によるものとみるべきであるから、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する無申告加算税を課さない場合の正当な理由があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がなく、上記(1)のとおり本件決定処分は適法であるから、原処分庁が通則法第66条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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