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(平15.4.18裁決、裁決事例集No.65 312頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人A及びB(以下、それぞれ「A」、「B」といい、両名を併せて「請求人ら」という。)が取得した家屋(以下「本件家屋」という。)の増改築等が、租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する「居住の用に供している家屋」の増改築等に該当するか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 本件審査請求(平成14年8月16日)に至る経緯は、別表のとおりである。
 なお、請求人らは、平成14年8月16日に、Aを総代として選任する旨を当審判所へ届け出た。

(3)関係法令

イ 措置法第41条第1項は、居住者が、国内において、〔1〕住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの(以下「居住用家屋」という。)の新築、〔2〕建築後使用されたことのない居住用家屋の取得、〔3〕建築後使用されたことのある居住用家屋で政令で定めるものの取得(以下、〔1〕から〔3〕までを併せて「居住用家屋の取得等」という。)、〔4〕その者の居住の用に供している家屋で政令で定めるものの増改築等(以下、〔1〕から〔4〕までを併せて「住宅の取得等」という。)をして、住宅の取得等に係る部分をその者の居住の用に供している場合において、その者が当該住宅の取得等に係る借入金又は債務を有するときは、一定の要件の下に、住宅取得等特別税額控除額を控除する旨規定している(以下、この規定による特例措置を「住宅取得等特別控除」という。)。
ロ また、措置法第41条第3項は、増改築等とは、当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築その他政令で定める工事で、当該工事に要した費用の額が1,000,000円を超えるものであることその他政令で定める要件を満たすものをいう旨規定している。
ハ そして、租税特別措置法施行令(平成11年政令第120号による改正前のもの。)第26条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第4項は、上記イの〔4〕に規定する家屋は、居住者がその居住の用に供している家屋とし、その者が居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主として居住の用に供していると認められる一の家屋に限る旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 請求人ら(買主)は、平成8年7月1日に、C(売主)との間において、土地付きの本件家屋(以下「本件家屋等」という。)を34,000,000円で購入する旨の不動産売買契約を締結した。
ロ 本件家屋は、昭和48年1月11日に新築された木造瓦葺二階建居宅で、請求人らは、平成8年8月12日に売買を原因とする本件家屋等の所有権移転登記をし、共有持分は、Aが5分の3、Bが5分の2である。
ハ Aは、平成8年8月8日に、D共済組合E支部(以下「共済組合E支部」という。)から9,000,000円、同月12日に株式会社F(以下「F銀行」という。)から20,000,000円の合計29,000,000円を住宅取得資金として借り受け、また、Bは、同月12日にF銀行から9,000,000円を住宅取得資金として借り受け、請求人らの借入金総額は、38,000,000円(以下「本件借入金」という。)である。
 なお、請求人らが平成11年分の所得税の確定申告書に添付したF銀行からの住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書の年末残高予定額は、Aが17,920,448円、Bが8,096,831円である。
 また、Aは、平成11年分の所得税の確定申告書に共済組合E支部から借り受けた住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書を添付していないが、請求人らが異議審理庁に提出した平成14年5月24日付の共済組合E支部長発行の住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書の平成12年末残高予定額は、7,700,000円である。
ニ 本件家屋に係る増改築等の工事に係る契約等の状況は、次のとおりである。
(イ)請求人らは、平成8年10月7日に、株式会社G(以下「G社」という。)との間において、〔1〕G社は、本件家屋1階を12.61平方メートル増築し、そこに風呂と洗面所を移設する等の改装工事(以下「第1工事」という。)を同年10月14日に着手し、同年11月18日に完成させること、〔2〕請負代金は6,250,000円とし、当該契約の締結日に手付金3,000,000円、第1工事が終了した時に中間金2,000,000円、同年12月15日に残金1,250,000円を、それぞれ支払う旨の契約を締結し、請求人らは、同年10月7日に手付金3,000,000円、同年12月7日に中間金2,000,000円、同年12月17日に残金1,250,000円をそれぞれ支払った。
 また、請求人らは、〔1〕G社に対して、平成8年12月7日に追加工事代金107,000円を、平成9年2月15日に面格子、TVブースター取付代金35,000円を、〔2〕H店に対して、平成9年1月12日に屋根工事の瓦代金170,000円を、第1工事に対する追加工事代金として、それぞれ支払った(以下、これらの工事を「追加工事」という。)。
(ロ)請求人らは、平成9年1月26日に、株式会社L(以下「L社」という。)との間において、L社が本件家屋の外壁サイディング及び塗装工事(以下「第2工事」という。)を1,957,000円で請け負う旨の契約を締結し、請求人らは、平成9年4月22日に1,957,000円をL社に支払った。
ホ 請求人らは、平成8年12月24日に、請求人らが借りていたJ市K町○番地○の住宅(以下「本件借家」という。)から本件家屋に転居した日を同月23日と記載した転居届をJ市役所へ提出した。
ヘ 請求人らは、平成8年12月7日、同月9日に本件家屋に係るガス、水道の開栓をした。
ト 請求人らは、平成12年3月15日に、原処分庁に対して提出した平成11年分の所得税の確定申告書に、本件家屋に係る増改築等に要した費用(以下「本件増改築等費用」という。)の額が8,519,000円であると記載するとともに、それを明らかにするための書類として、増改築等工事に係る契約書及び領収書の写し並びに第1工事が措置法第41条第1項に規定する増改築等の工事に該当することを証明する書類として、「建築確認通知書」の写しをそれぞれ添付した。
チ 請求人らは、平成15年2月5日に、当審判所に対して、第2工事が措置法第41条第1項に規定する増改築等の工事に該当することを証明する書類として、「増改築等工事証明書」を提出した。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法及び不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人らが本件家屋を居住の用に供したのは、次のとおり、平成8年9月上旬であるから、本件増改築等費用(8,519,000円)については、住宅取得等特別控除の適用を認めるべきである。
(イ)請求人らは、平成8年8月12日に本件家屋を取得し、清掃をした上で、同年9月上旬から順次、本件借家で荷造りを終えた家財を本件家屋に搬入していた。
 また、請求人らがJ市役所に提出した転居届は、平成8年12月22日に最終の大型家具類を搬入したため、翌日の同月23日を転居日としたものである。
(ロ)請求人らは、Bが出産(平成8年11月3日)を控えていたため、第1工事期間中、J市K町○番地○に所在するAの実家(以下「Aの実家」という。)で寝泊りをしていたが、Aの実家はあくまで仮住まいである。
(ハ)本件家屋のガス及び水道等は、本件家屋を購入した時点から使用可能な状態であり、請求人らは、Bの体調がよければ、第1工事の開始前に本件家屋へ転居する予定であった。
ロ 原処分庁は、「居住の用に供している」ことと「現に居住している」ことを混同して法律を適用し、第1工事の開始前に請求人らが本件家屋に寝泊りしていなかったことを問題にして住宅取得等特別控除の適用を認めない。
 しかしながら、個人においては、仕事の関係で長期出張をする場合や介護、疾患、仕事の都合で夜間に不在となる場合等、居住の用に供しつつ寝泊りしない事情があるから、寝泊りすることと居住の用に供することとは別のことである。
 そうすると、請求人らにおいては、上記イで述べた事情がこれに該当し、請求人らは、第1工事の開始前である平成8年9月上旬において、本件家屋を居住の用に供したことになる。
 また、措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」とは、〔1〕店舗、工場等の居住の用以外に使用する目的で所有する建物は該当しないこと、〔2〕実際に居宅として使用している家屋であること、〔3〕当該家屋に住民票を異動していることなど、いろいろな意味に理解できるが、本件のように、居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、主として居住の用に供している一の家屋をいうとされていることから、生活の基盤を置く家屋と解するべきであり、長期出張、作家等が仕事場としてのホテル住まいをしている場合などのように、その家屋に寝泊りをしていなくても、生活の基盤を置くことのできる家屋であれば、当該家屋は、居住の用に供している家屋と解すべきである。
 そうすると、前記イの(ロ)の理由のとおり、請求人らは、本件家屋で寝泊りはしていなかったものの、請求人らが生活の基盤を置くことのできる家屋は、本件家屋であるから、本件家屋は、居住の用に供している家屋に該当することになる。
 なお、居住の用に供している家屋が二以上あるとしても、請求人らの所有する家屋は、本件家屋のみであり、主として居住の用に供している家屋が本件借家やAの実家であると判断するのは間違いである。
ハ 請求人らが、住宅取得等特別控除の対象となる増改築等の工事が「自己の居住の用に供している自己の所有する家屋について行う所定の工事」に該当することを知ったのは、平成9年分の所得税の還付申告を行う際に、原処分庁から入手した「住宅取得等特別控除を受けられる方へ」と題するチラシによってである。
 また、請求人らが、本件家屋の購入に先立って、原処分庁から入手した平成7年分の所得税の確定申告に係る「住宅取得等特別控除について」と題するチラシには、「住宅の新築、取得又は増改築等をした日から6か月以内に入居し、引き続き居住していること」としか記載されていない。
 原処分庁は、原処分庁が主張する「居住の用に供している」ことの意味について、このような内容のチラシだけではなく、納税者はもとより、銀行や工務店等に対しても、各種相談の段階で説明を行うなど、その周知徹底を図っておれば、請求人らは、住民票の異動及びガス、水道等の開栓手続等の手当てをしたはずである。
 なお、請求人らは、書類上において、「自己の居住の用に供している家屋」であることを証明していないが、原処分庁は、近隣住民などへの聞き取り等を行うことによって、請求人らが平成8年9月上旬には家財を本件家屋に搬入し、居住の用に供していた事実を確認できるにもかかわらず、それをしなかった。
ニ 以上のとおり、原処分は、個人の事情を全く考慮せず、誤った判断に基づいて行われたものであるから、違法及び不当であり、取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人らが本件家屋を居住の用に供したのは、次のとおり、平成8年12月上旬であるから、本件増改築等費用の額(8,519,000円)については、住宅取得等特別控除の適用は認められない。
(イ)請求人らは、平成8年8月12日に本件家屋を取得し、前記1の(4)のニの(イ)のとおり、同年10月7日に第1工事に係る契約を締結し、当該工事が終了した時に支払うとされる中間金が平成8年12月7日に支払われていることから、その日に工事が完成し、引渡しが行われたと見るのが相当である。
(ロ)請求人らは、平成8年12月7日にガスの開栓を、同月9日に水道の開栓を行い、同月23日に転居したとする転居届をJ市役所に提出している。
ロ 第1工事は、請求人が居住を開始する前に実施しているため、住宅取得等特別控除の適用要件である「既に居住の用に供している家屋の増改築等工事」の条件を満たさないこととなるから、住宅取得等特別控除の適用は認められない。
 また、第2工事については、当該工事に係る資金の出所が明らかではなく、当該資金に本件借入金が充てられていたと認めるに足りる資料もないことから、住宅取得等特別控除の適用を認めることはできない。
 さらに、平成9年1月12日にH店に支払ったとする170,000円については、当該金員が、仮に本件家屋に係る改装工事代金であったとしても、当該工事代金が本件借入金により支払われたとの確認ができないことから、住宅取得等特別控除の適用を認めることはできない。
ハ なお、請求人らは、寝泊りすることと居住の用に供することは別であり、請求人らにはBの出産という本件家屋に寝泊りできない事情があるから、住宅取得等特別控除の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)で述べたとおり、本件家屋のガス、水道の両方が使用可能となったのは、第1工事終了後の平成8年12月9日であるから、それ以前に、請求人らが本件家屋を居住の用に供していたとは認められない。
ニ また、請求人らは、請求人らが所有する本件家屋以外の借家等を居住の用に供していた家屋であると判断することは誤りであるから、住宅取得等特別控除の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、居住の用に供している家屋は、自己の所有であるか借家であるかによって判断するものではなく、実際に居住の用に供していた家屋かどうかによって判断するものであるから、請求人らの主張には理由がない。
ホ さらに、請求人らは、原処分庁が主張する「居住の用に供している」ことの意味について、納税者はもとより、銀行や工務店等に対して、各種相談の段階で説明を行うなど周知徹底を図っておれば、請求人らは、住民票の異動及びガス、水道等の開栓手続等の手当てができていた旨主張する。
 しかしながら、平成8年当時における住宅取得等特別控除の適用要件についての各種相談時の説明及び銀行等への周知徹底の状況が、どのようなものであったかの確認はできないものの、そのことをもって、原処分が違法、不当となるものではなく、この点についての請求人らの主張には理由がない。
ヘ 加えて、請求人らは、原処分庁が主張する「居住の用に供している」ことの意味を知っていたなら、住宅取得等特別控除の適用を受ける前提で住民票の異動及びガス、水道等の開栓手続等をしていたこと、そして、原処分庁が、〔1〕請求人らが平成8年9月上旬に家財の搬入を開始していたこと、〔2〕ガス、水道等が本件家屋を取得した時から使用可能であったこと、及び〔3〕近隣住民に聞き取りを行うことにより、請求人らが居住の用に供していた事実を確認しておれば、法の運用面から住宅取得等特別控除の適用が可能である旨主張する。
 しかしながら、法令の適用に当たっては、当該法令に定められた各要件の事実に合致するかどうかによって判断すべきであるところ、本件においては、たとえ住民票の異動及びガス、水道等の開栓手続等をし、第1工事の開始前に居住の用に供するための準備として本件家屋へ家財の搬入をしたとしても、前記イのとおり、請求人らが本件家屋を居住の用に供したのは、平成8年12月上旬であるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ト 以上のとおり、原処分はいずれも適法であり、請求人らの主張には理由がないから本件審査請求は棄却されるべきである。

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3 判断

(1)請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ Aは、異議審理庁の職員に対して、要旨次のとおり申述した。
(イ)平成8年8月12日に本件家屋等の所有権移転登記を行い、同日に鍵の引渡しを受けたので、順次、家財の搬入をした。
(ロ)住民票に記載された転居日は、住民となった日であり、実際に本件家屋に入居し、寝泊りを始めた日ではない。
(ハ)本件家屋に寝泊りを始めたのは、平成8年12月上旬である。
ロ Aは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(イ)最後に家財を搬入した日は、運送業者に頼んで洋服ダンス、本棚及び冷蔵庫の大型家具類3点を運んだ平成8年12月22日であるが、これら3点以外の家財については、平成8年9月以降、順次、自分の車で運んだ。
(ロ)本件借入金の融資を申し込むに当たり、本件家屋等の取得を第一に考えていたが、増改築等の工事も予定していたため、そのことをF銀行及び共済組合E支部にも告げて、借入限度に近い金額の融資を受け、これに自己資金を加え本件家屋等を取得し、余剰資金で増改築等工事を行った。
 また、増改築等の工事の規模は、この融資額によって決まるものであり、本件増改築等費用の額は、本件借入金によってまかなったと認識しているが、その区分を明らかにする書類はない。
(ハ)Cが本件家屋に係るガス、水道等についての閉栓等の手続をしたが、請求人らが、平成8年12月まで開栓等の手続をしなかったので、これらの使用料は同年12月以降支払っている。
ハ 請求人らは、当審判所の平成14年12月19日付の質問事項に対して、次のとおり回答した。
(イ)第2工事は、N銀行O支店の普通預金から引き出して、平成9年1月23日に手付金150,000円、同年3月24日に中間金200,000円を支払い、残金はN銀行から引き出した150,000円に、Aの母であるPから借りた1,500,000円を足して同年4月7日に支払った。
(ロ)本件家屋の取得に際して、購入代金34,000,000円、改築工事8,519,000円、手数料1,112,400円及び登記費用760,300円の合計44,382,700円を要したが、本件借入金が38,000,000円であり、差額の6,382,700円は、自己資金である郵便局の定額預金の解約金や母からの借入金で支払った。
(2)ところで、住宅取得等特別控除は、前記1の(3)のイのとおり、居住用家屋の取得等については「住宅の用に供する家屋」であること、家屋の増改築等については「その者の居住の用に供している家屋」であることを、その適用要件としている。
 また、居住用家屋の取得等については、当該家屋を取得等した後に居住の用に供することにより、家屋の増改築等については、既に居住の用に供している家屋を増改築等し、居住の用に供することにより、住宅取得等特別控除が適用されるものと解される。
 さらに、「居住の用に供している」とは、その者が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続し、当該家屋を生活の拠点として利用していることと解するのが相当であり、具体的には、その者及び社会通念上その者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の親族等の日常生活の状況、その家屋に入居した目的、その家屋の構造及び設備の状況、その他の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして判断することとなる。
(3)本件について、前記1の(4)の基礎事実及び前記(1)の認定事実を上記(2)に照らして、以下審理する。
イ 請求人らは、〔1〕平成8年9月には、本件家屋に家財の搬入を開始したこと及び〔2〕本件家屋のガス、水道等が本件家屋を取得した平成8年8月の時点に引渡しを受けて使用可能であったこと等を理由に、本件家屋を居住の用に供したのは平成8年9月上旬である旨主張し、これを裏付ける資料として、当審判所に対して、〔1〕本件家屋の近隣住民の陳述書、〔2〕家財の運搬に使用したAの自家用自動車の車検証の写し及び〔3〕家財を保管した場所の見取り図等の資料を提出した。
 これらの資料からすると、近隣住民は、平成8年9月上旬から本件家屋の清掃や家財の搬入がされ、夜は電気がついていた旨陳述しており、また、第1工事開始前の本件家屋に係る見取り図によると、その当時においても家財を本件家屋に置くことが可能であったことが認められ、さらに、本件家屋に家財の一部が実際に搬入されたこと、及び本件家屋のガス、水道は、本件家屋の取得時点で開栓することが可能であったことがうかがわれる。
 しかしながら、〔1〕前記1の(4)のホのとおり、請求人らは、平成8年12月23日に転居した旨の転居届をJ市役所に提出していること、〔2〕前記1の(4)のへのとおり、ガス、水道の両方が開栓されたのは、第1工事終了後である平成8年12月9日であること、〔3〕前記(1)のロの(イ)のAの答述によれば、大型家具類は、平成8年12月22日に運送業者によって本件家屋に搬入されていること、〔4〕前記1の(4)のニの(イ)のとおり、第1工事は、風呂及び洗面所の移設を含む工事であること、並びに〔5〕請求人らは、第1工事期間中、Aの実家において寝泊りしていたことなどを考え併せると、請求人らが、第1工事開始前の平成8年9月上旬から、本件家屋を居住の用の供していたと認めることはできない。
ロ なお、請求人らは、この点に関して、「居住の用に供している家屋」とは、生活の基盤を置く家屋であり、個人においては、長期出張、介護等の事情から当該生活の基盤を置く家屋に寝泊りしないこともあることから、寝泊りすることと、居住の用に供することは別のことであり、請求人らにおいては、Bが出産を控えていたため、仮の住まいであるAの実家において寝泊りをしていたのであるから、生活の基盤を置く家屋は、本件家屋である旨主張する。
 しかしながら、住宅取得等特別控除は、税制上の優遇措置を設けることにより、住宅の取得等の促進を図る趣旨の規定であるところ、租税負担公平の原則に照らすと、その解釈は厳格にされるべきであり、個別的事情を考慮して安易に当該規定を拡張、類推して解釈することはできず、本件においては、Bが出産を控えていたため、請求人らがAの実家で寝泊りをしていたという事情があったとしても、居住の用に供している家屋は、請求人らが真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続し、本件家屋を生活の拠点として利用しているか否かにより判断されるものであるから、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ハ また、請求人らは、居住の用に供している家屋が二以上あるとしても、請求人らの所有する家屋は本件家屋のみであり、本件借家やAの実家を主として居住の用に供している家屋とするのは誤りである旨主張する。
 しかしながら、「居住の用に供している家屋」とは、自己が所有する家屋であるか否かによって判断するものではなく、上記のとおり、その者が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続し、その家屋を生活の拠点として利用しているか否かによって判断するものであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ニ さらに、請求人らは、本件家屋を居住の用に供していた事実を、原処分庁が近隣住民等への聞き取りなどにより確認をしておれば、法律の運用により、住宅取得等特別控除の適用が認められていたはずであり、原処分庁は書類面にこだわり法律の適用を誤った旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、ガス、水道の開栓証明等の記載事項、第1工事の工事内容などの実質面を見て、請求人らの本件家屋への入居開始日を平成8年12月上旬と判断しており、当審判所においてもこれを相当と認める。
ホ 加えて、請求人らは、原処分庁が主張する「居住の用に供している」ことの意味について、納税者はもとより、銀行や工務店等に対して、各種相談の段階で説明を行うなど周知徹底を図っておれば、請求人らは、住民票の異動、ガス、水道等の開栓手続等の手当ができていた旨主張する。
 この点について、当審判所が調査したところによれば、原処分庁は、平成8年当時においても住宅取得等特別控除の適用要件についてのパンフレット、リーフレット及び小冊子等を通じて住宅取得等特別控除の広報に努め、関係各法令に基づく解説、説明等を行っていたことが認められ、平成7年分の所得税の確定申告に係る「住宅取得等特別控除について」と題するチラシには、「居住の用に供している家屋」との記述がないものの、平成9年分の所得税の確定申告に係る「住宅取得等特別控除を受けられる方へ」と題する小冊子には、このことが明記されており、これについては請求人らも認めているところである。
 ところで、申告納税制度の下における所得税の確定申告は、本来、納税者自身の判断と責任において、自ら計算して確定申告書を作成し、提出して、税額を納付する制度であるため、納税者自身が税法の解釈、適用等についてある程度の理解を有することを前提として成り立つ制度であることから、税務署は、申告納税制度を円滑かつ適正に運用するため、各種相談を実施して、申告手続についての指導や援助を行うものである。
 また、印刷物等による原処分庁の納税者への広報、説明等は、一般的な事項について解説していると見るのが相当であり、これらが納税者の個別のニーズに対応していなかったとしても、いかなる納税申告をするかは納税者の判断と責任にゆだねられているところであり、このことをもって請求人らの利益を侵害したとまではいえず、原処分を取り消すまでの違法及び不当があるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ヘ 以上のことから、請求人らが本件家屋を居住の用に供した日は、第1工事が終了し、ガス、水道が開栓され、最後の大型家財が搬入され、そして請求人らがJ市役所に提出した転居届に記載した転居日である平成8年12月23日であるとするのが相当であるから、次のとおり、本件増改築等費用の額(8,519,000円)の住宅取得等特別控除の適用を認めることはできない。
(イ)第1工事については、その工事開始前に本件家屋に居住している事実は認められず、措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」の要件に該当しない。
 また、追加工事については、前記1の(4)のニの(イ)のとおり、第1工事を補う工事及び増築部分の屋根の瓦代金であるから、第1工事と一体のものであると認められ、「居住の用に供している家屋」についての増改築等の工事であるとは認められない。
(ロ)第2工事については、前記1の(4)のニの(ロ)のとおり、居住開始後の平成9年1月26日に工事請負契約が締結されていることから、「居住の用に供している家屋」についての増改築等の工事であることが認められるものの、本件借入金は、本件家屋等の取得代金及び第1工事代金としてその金員が既に支払われており、また、第2工事代金は、前記(1)のハの(イ)のとおり、Pからの借入れ及びN銀行O支店の普通預金から出金された金員により支払われていることが明らかである。
ト したがって、住宅取得等特別控除額を控除できないとした原処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所が調査したところによっても、これを不相当とする理由はない。

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