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(平15.2.12裁決、裁決事例集No.65 329頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、有料老人ホームの経営を行う審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該有料老人ホームに係る建築工事の代金の一部について、裁判上の和解に基づき、工事施工業者から支払を免除された場合に、その免除が当該建築工事の瑕疵を理由とする工事代金の値引きであると認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を37,827,000円と記載して、法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年6月27日付で、本件事業年度の法人税について、所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を124,214,300円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少中告加算税の額を11,065,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年8月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月21日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年12月21日に審査請求をした。

(3)関係法令

 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人とE株式会社(以下「E社」という。)は、平成3年11月1日に、発注者を請求人、請負者をE社、請負代金額を3,708,000,000円とする有料老人ホームF(以下「F」という。)の建築工事(以下「本件工事」という。)に係る工事請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ロ 本件契約の添付書類である「○○連合協定・工事請負契約約款」(以下「本件約款」という。)第23条《瑕疵の担保》第1項には、契約の目的物に施工上の瑕疵があるときは、発注者は請負者に対してその瑕疵の修補を求め、または、修補に代え若しくは修補とともに損害賠償を求めることができる旨規定されている。
ハ 請求人とE社は、平成5年5月28日に、本件契約に係る請負代金額を3,704,182,820円(以下「本件工事代金」という。)に変更する旨の契約を締結した。
ニ 本件工事に係る建物、附属設備等(以下「本件建物等」という。)は平成5年6月に完成したが、本件工事代金の一部931,526,696円(以下「本件債務」という。)が未払となっていたところ、E社は、平成6年1月21日に、請求人に対して、本件債務及びこれに対する約定遅延損害金の支払を求める請負代金等請求の訴え(平成○年(○)第○○号事件)(以下「本件訴訟」という。)を、○○地方裁判所(以下「裁判所」という。)に提起した。
ホ 本件訴訟について、平成8年10月11日に、和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
ヘ 本件和解に係る和解条項(以下「本件和解条項」という。)には、要旨以下の記載がある。
(イ)請求人は、E社に対して、本件債務及びこれに対する平成5年6月29日から支払済みまで1日当たり1,000分の1の割合による金員の支払義務のあることを認める(第1項)。
(ロ)請求人は、E社に対して、〔1〕平成9年1月20日までに412,000,000円、〔2〕平成9年9月30日までに68,660,000円、〔3〕平成10年9月30日までに68,660,000円、〔4〕平成11年3月31日までに68,680,000円、〔5〕平成11年9月30日までに残金を支払う(第3項(1)、(2))。
(ハ)E社は、請求人が上記(ロ)の〔1〕から〔4〕までの支払を完了した場合には、その余の債務を免除する。(第3項(3))。
(ニ)請求人は、E社に対して、本件契約の目的物の瑕疵につき本件約款第23条の瑕疵担保を除き一切の異議の申立てを行わないことを確約する(第7項)。
(ホ)請求人とE社との間には、本件に関して、本件和解条項に定める他に債権債務のないことを確認する(第11項)。
ト 請求人とE社は、平成8年10月21日に、発注者を請求人、請負者をE社、請負代金額を14,729,000円とするFの環境改善工事(以下「本件環境改善工事」という。)に係る工事請負契約(以下「本件環境改善工事契約」という。)を締結した。
 本件環境改善工事契約の特記事項には、〔1〕請負代金額14,729,000円のうち9,579,000円はE社が負担する、〔2〕本工事は、設計者と請負者の共同調査に基づくカビ発生原因に対する環境改善工事であるためこれ以外の原因によるカビの発生があった場合の対応は協議によって決定する旨の記載がある。
チ E社は、請求人が上記への(ロ)の〔1〕から〔4〕までの金額の支払を遅滞なく完了したことから、平成11年3月29日に、請求人に対して、313,526,696円(以下「本件金員」という。)を放棄する旨の債権放棄通知書を送付した。
リ 請求人は、本件事業年度の法人税の計算において、本件金員を本件工事代金の値引きであるとして、E社に対する未払金の額から本件金員の額を減額し、本件建物等の取得価額を減額する会計処理を行い、本件事業年度前に損金の額に算入した本件建物等に係る減価償却費のうち過大となる金額を益金の額に算入した。
ヌ 原処分庁は、本件金員を債務免除益であるとして、本件事業年度の所得金額に加算するとともに、請求人が益金の額に算入した減価償却費の過大額を所得金額から減算する本件更正処分を行った。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件和解は、以下のような経緯で成立したものである。
(イ)請求人は、E社からの本件訴訟の提起に対して、契約締結遅延によるE社の損害賠償責任を主張して応訴した。
(ロ)本件訴訟は、裁判官の訴訟指揮により直ちに和解手続に移された。
(ハ)請求人は、平成7年7月7日付上申書で、本件債務に対する請求人の支払金額を618,000,000円とする和解案を提出した。
(ニ)平成7年7月13日の第16回の和解期日に、裁判官から、E社が未払代金の一部を減額等するという和解案が勧告されたが、E社は、当該勧告は受け入れられない旨主張した。
(ホ)請求人は、平成7年10月26日の第19回の和解期日に、本件工事に9箇所の瑕疵があることを指摘した。
(ヘ)上記(ホ)の9箇所の瑕疵のうち、〔1〕よう壁の蔦が根づいていないこと及び〔2〕各階の廊下のクロスにカビが発生すること以外の7箇所については、和解協議中にE社により補修され、また、〔2〕については、本件和解成立後、請求人とE社との間で本件環境改善工事契約を締結し、これに基づいてE社により補修されることが合意された。
 なお、9箇所の瑕疵は代表的なものであり、このほか、天井の落下、大浴場配水管の漏れ等についても問題とした。
(ト)しかし、上記(ヘ)の補修は、いずれも当面必要とされる補修にとどまるものであり、今後問題が起こり得るものが多数あったため、更に、請求人は、具体的な資料及び金額は提示しなかったが、和解協議において将来発生すると見込まれる補修工事費用も本件工事の瑕疵による損失であると主張し、E社も最後に瑕疵を理由とする工事代金の値引きに応じざるを得ない状況になった。
(チ)請求人の見積りによれぱ、上記(ト)の「将来発生すると見込まれる補修費用」は383,444,563円であり、結果的に、313,526,696円を減額することとなる上記(ハ)の請求人の和解案がこれに近似することから、この金額で和解が成立した。
ロ 本件和解条項は、形式的には、請求人が本件債務を認め、その支払が一定段階(618,000,000円)まで履行された場合に、E社が本件金員を免除するという法的な構成をとっているものの、上記イの経緯にかんがみれば、実質的には、本件金員が、本件工事の瑕疵による本件工事代金の値引額として合意されたものであることは明らかである。
 また、本件和解条項第7項は、上記イの(ヘ)の瑕疵について、請求人が将来発生すると見込まれる補修費用も含めて、E社に一切異議を申し立てないことを確約したものである。
ハ したがって、本件和解条項の文面を全く形式的に解釈して、請求人が、E社から平成11年3月29日付の債権放棄通知書により免除された本件金員が債務免除益に当たるとした原処分庁の認定には誤りがある。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査誌求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分に係る調査の結果によれば、本件訴訟に関して、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成6年3月11日の第1回口頭弁論で陳述した答弁書において、E社が請求の原因としている事実のうち、本件工事が予定どおり完了し、本件訴訟の提訴日現在において、Fが営業を開始し、浴場、レストラン等の施設は利用され、入居者も決定し始めていることを認めている。
(ロ)請求人は、平成7年3月3日付準備書面において、本件工事の遅延を理由に、1,094,900,000円をE社に違約金として請求するとともに、その後平成7年3月30日付準備書面において、本件債務と上記違約金を、対等額にて相殺すべきである旨主張している。
(ハ)裁判官は、本件工事の瑕疵は、裁判外で処理するようにとの訴訟指揮を行っている。
(ニ)請求人が指摘した本件工事の瑕疵9箇所のうち、〔1〕よう壁の蔦が根づいていないこと、及び〔2〕各階の廊下のクロスにカビが発生すること以外は、E社により速やかに補修が完了しており、また、E社は〔1〕及び〔2〕について一貫して同社の責任でない旨主張している。
(ホ)請求人の代表取締役Gは、上記(ニ)の〔1〕及び〔2〕に関し、平成8年2月6日付上申書において、蔦が根づいていないとか、各階の廊下におびただしいカビが発生しているのは、施工上の瑕疵であり、本件約款第23条の瑕疵として処理してもらいたい旨裁判所に上申している。
ロ 民事訴訟法第267条《和解調書等の効力》は、裁判上の和解について、和解調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する旨規定している。
 そして、和解が直接に実体法上の効果を招来する点からみて、実体法上の法律行為たる性質をも有すると解される。
ハ 本件金員について、上記1の(4)及び上記イの事実を、上記1の(3)及び上記ロの規定に照らして判断すると、本件金員は、本件和解条項に基づいてE社が請求人に対して債務を免除したもので、本件事業年度の所得の金額の計算上、債務免除益として益金の額に算入すべきである。
ニ 請求人は、本件金員は、本件和解条項の法的形式はともかく、その実質は、工事代金の値引きであり、本件訴訟の当事者間においてもその合意があった旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件訴訟において、本件契約及び本件債務の存否自体を争っているのでなく、一貫して本件債務の存在を前提として、本件契約に係る工事の遅延に基づく違約金の請求を行い当該債務との相殺を求めており、その後の本件訴訟の進行においても、その主張を取下げ又は撤回した事実も認められないことから、本件債務は当事者間に争いのない金額で確定しており、当該債務を消滅させる原因として、一部又は全部を弁済することに代えて、請求人が請求する債権との相殺を主張していることになる。
 したがって、仮に、請求人が主張する本件工事の瑕疵に基づく本件債務の減額があったとしても、それはあくまでも、請求人の有する債権との相殺により、本件債務の一部が消滅しただけであって、本件金員は法形式上も実質も値引きには当たらず、本件工事の瑕疵に基づく損害賠償請求権相当額である本件金員を、請求人の益金の額に算入しなければならないことになる。
ホ また、本件工事の瑕疵については、上記イの(ハ)のとおり、裁判官が訴訟指揮を行っており、当該訴訟指揮に基づきE社によって、補修が行われているか、あるいは瑕疵に当たるか否かで双方の見解が対立するものについては、本件和解後に新たに本件環境改善工事契約を締結するなどの方法で解決が図られていることからみても、本件金員は、本件工事の瑕疵に基づく請負代金の値引額とは認められない。
ヘ さらに、請求人は、本件和解において、本件工事の瑕疵に基づいて本件工事代金を減額する旨の合意があることは、本件和解条項第7項からも明らかである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ホ)のとおり、請求人の上申書における本件約款第23条の瑕疵に基づく損害の賠償の求めに対して、本件和解条項には工事上の瑕疵に関する事項は何ら記載がなく、本件和解条項第7項は、将来における工事上の瑕疵について、本件約款第23条に基づいて異議の申立てができることを担保されているにすぎないから、請求人の主張には理由がない。
ト 本件更正処分について
 請求人の本件事業年度の所得金額及び法人税額は、本件更正処分と同額になるから、本件更正処分は適法である。
チ 本件賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しない。
 したがって、同条第1項及び第2項の規定を適用して過少申告加算税の額を計算すると、本件賦課決定処分と同額となるから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件訴訟に関して、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成6年7月7日付上申書において、Fの経営状態が悪く、本件債務の支払方法は見出せない旨、また、E社にFを引き取ってもらうことを考えている旨述べ、請求人の決算書、Fの入居状況に関する資料を裁判所に提出している。
(ロ)請求人は、平成6年8月20日付上申書において、Fの今後の計画及び本件債務の支払について検討したところ、Fの東館を区分所有とし、これをE社に代物弁済することしかできない旨述べている。
(ハ)請求人は、平成7年7月7日付上申書で、Fの入居状況が122室中23室しかないことを指摘した上で、最終和解案として、〔1〕本件債務に対する請求人の支払金額(以下「和解金額」という。)を618,000,000円とし、〔2〕支払方法について、和解成立後350,000,000円を現金で支払い、残額を5年間で均等返済するとする案を提示している。
(ニ)裁判官は、平成7年7月13日の第16回和解期日に、〔1〕和解金額を618,000,000円とし、〔2〕支払方法について、400,000,000円を現金払い、218,000,000円を3年の分割払い、又は、450,000,000円を現金払い、168,000,000円を5年の分割払い、とする和解案を勧告している。
(ホ)請求人は、平成7年10月26日の第19回和解期日に、本件工事に瑕疵があることを指摘したところ、裁判官は、〔1〕瑕疵については施工上の専門的なことなので裁判外で解決すること、〔2〕本件訴訟に係る瑕疵の問題は9箇所で打ち切り、これ以上の瑕疵は本件約款に基づき請求することを指示している。
(ヘ)E社は、平成7年11月28日の第20回和解期日において、上記(ホ)の瑕疵の9箇所のうち、〔1〕よう壁の蔦が根づいていないこと及び〔2〕各階の廊下のクロスにカビが発生することの2箇所を除いた7箇所について、同社の責任において速やかに補修が完了していること、加えて、〔1〕及び〔2〕について、E社の責任ではないことを裁判所に報告している。
 さらに、E社は、上記の和解期日に、〔1〕和解金額を618,000,000円とし、〔2〕支払方法について、412,000,000円を現金払い、残額を3年間の均等返済とする案を提示している。
(ト)請求人の代表取締役であるGは、平成8年2月6日付上申書において、蔦が根づかない問題、各階の廊下のクロスにカビが発生する問題は、施工上の瑕疵であって、本件約款第23条の問題として処理してもらいたい旨、また、これらの問題が解決しない以上和解には応じられない旨上申している。
(チ)E社の法務部長は、平成8年4月19日付上申書において、各階の廊下のクロスにカビが発生する問題について、施工上のミスはなく、本件契約とは別途協議を行い対処したい旨上申している。
ロ 本件の争点は、本件和解により、E社が免除することとなった本件金員の額が、本件工事の施工上の瑕疵を理由とする本件工事代金の値引額として合意されたものであるか否かであるので、以下審理する。
(イ)本件和解は、上記1の(4)のへのとおり、請求人が遅滞なく支払うことを条件に、和解金額を618,000,000円とするものであるところ、この和解金額は、上記イの(ハ)のとおり、請求人が本件工事に瑕疵があることを指摘するよりも前に提案されたものであり、その後、和解金額の支払方法について協議されたものの、和解金額自体は変更されることなく、本件和解条項に盛り込まれたことが認められる。
 そうすると、この和解金額は、本件工事の瑕疵による損害を見積もって計算されたものでないことは明らかであり、上記イの(イ)及び(ロ)の各上申書に記載された内容から、請求人がその支払能力を考慮して算定したものであると認められる。
 また、E社も、上記イの(イ)から(ハ)までの各上申書に記載された内容から、Fによる代物弁済よりも、請求人が支払うことができる範囲で債権を回収することを選択して和解に応じたものと認められる。
(ロ)請求人は、E社による7箇所の補修及び本件環境改善工事による補修は当面必要な補修にとどまり、本件工事の瑕疵により将来発生すると見込まれる補修費用は383,444,563円と見積もることができ、これを、和解協議において、本件工事の瑕疵による損失であると主張したところ、E社が和解に応じざるを得なくなり、結果として和解金額が近似する請求人の提案の618,000,000円で和解が成立したものであるから、本件金員は、実質的に、本件工事の瑕疵を理由とする本件工事代金の値引額として合意されたものであり、本件和解条項第7項は、本件工事の瑕疵について、将来発生すると見込まれる補修費用を含めて、一切異議を申し立てないことを確約したものである旨主張する。
 しかしながら、〔1〕本件和解条項において、本件工事の瑕疵及び将来発生すると見込まれる補修費用について何ら具体的な記載がないこと、〔2〕請求人から、将来発生すると認められる補修費用が和解協議で問題とされたことが確認できる資料の提出はないこと、〔3〕上記イの(ト)及び(チ)のとおり、7箇所の瑕疵が補修された後に提出されている請求人側及びE社側双方の上申書においても、蔦又はカビの問題のみが指摘され、7箇所の瑕疵について将来さらに補修が見込まれることを示すような記載は一切認められないこと、及び〔4〕各階の廊下のクロスのカビの問題は、上記1の(4)のト及び上記イの(チ)のとおり、本件和解後に行われた本件環境改善工事によって解決が図られたと認められるのであり、本件和解の時点で、この問題について将来発生すると見込まれる補修費用が議論されたというのは不自然であることから、本件工事の瑕疵により将来発生すると見込まれる費用が和解協議で問題とされたとは認められない。
 また、仮に、請求人から、将来発生すると見込まれる補修費用について何らかの指摘がなされたとしても、当該補修費用についての具体的な金額及び資料はE社に提示されていないというのであるから、E社が、何らの資料の提示も受けないで、発生するかどうか不確実な補修を理由に本件工事代金の値引きに応じたとは到底考えられない。
 したがって、請求人の主張には理由がなく、本件金員が、本件工事の瑕疵を理由とする値引額として合意されたものとは認められない。
ハ 以上のとおり、本件金員は、E社が請求人の支払能力を考慮して本件債務を免除したものと認められるから、上記1の(3)の規定により、本件金員を債務免除益として請求人の本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の額と同額となることから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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