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(平15.4.24裁決、裁決事例集No.65 387頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、建設業を主として営む審査請求人(以下「請求人」という。)が分譲マンションの建設用地として取得した土地に係る評価損について、これが損金の額に算入されるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を349,630,300円と記載して法定申告期限までに申告した。
ロ これに対し、F税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成14年4月17日付で所得金額○○○○円及び納付すべき税額384,634,300円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を3,409,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分に不服があるとして、平成14年6月11日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法第33条《資産の評価損の損金不算入等》第1項は、内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、同条第2項は、内国法人の有する資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、同条第1項の規定にかかわらず、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
ロ 法人税法施行令第68条《資産の評価損の計上ができる場合》は、法人税法第33条第2項に規定する政令で定める事実について、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実とする旨規定し、法人税法施行令第68条第1号において、棚卸資産については
(イ)当該資産が災害により著しく損傷したこと
(ロ)当該資産が著しく陳腐化したこと
(ハ)内国法人について会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の決定又は商法の規定による整理開始の命令があったことにより当該資産につき評価換えをする必要が生じたこと
(ニ)(イ)から(ハ)までに準ずる特別の事実
を該当事実として掲げ、同条第3号において、固定資産については
(イ)当該資産が災害により著しく損傷したこと
(ロ)当該資産が1年以上にわたり遊休状態にあること
(ハ)当該資産がその本来の用途に使用することができないため他の用途に使用されたこと
(ニ)当該資産の所在する場所の状況が著しく変化したこと
(ホ)内国法人について会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の決定又は商法の規定による整理開始の命令があったことにより当該資産につき評価換えをする必要が生じたこと
(ヘ)(イ)から(ホ)までに準ずる特別の事実
を該当事実として掲げている。
ハ 法人税基本通達9−1−5《棚卸資産について評価損の計上ができる「準ずる特別の事実」の例示》は、法人税法施行令第68条第1号ニに規定する「イからハまでに準ずる特別の事実」として
(イ)破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったこと
(ロ)民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことにより、棚卸資産につき評価換えをする必要が生じたこと
を掲げている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、分譲マンションの建設用地として、平成元年3月22日、Gほか2名から、P市Q町○番○の土地165平方メートルを代金25,000,000円で購入し、これに隣接する土地である同町○番○の土地512平方メートル(平成7年1月18日に、Q町○番の○、○、○、○及び○に分筆される。以下、上記○番○の土地165平方メートルと併せて「本件土地」という。)を、同年4月4日、Hから代金100,000,000円で購入し、本件土地の取得価額として仲介手数料等を加算した128,910,401円を販売用不動産勘定に計上した。
 なお、本件土地は、南向きの傾斜地である。
ロ 次いで、請求人は、平成5年4月1日から平成6年3月31日までの事業年度の決算において、不動産鑑定結果に基づく本件土地の評価額は60,000,000円であるとして、販売用不動産評価損68,910,401円を計上するとともに、確定申告において当該額を損金の額に算入しないとして申告書別表四において当期利益に加算するとともに申告書別表五(一)の利益積立金額として表示する旨の申告調整をした(以下、申告書別表五(一)における本件土地に係る利益積立金額の表示額を「申告調整額」という。)。
ハ さらに、請求人は、平成6年4月1日から平成7年3月31日までの事業年度において、本件土地の一部に区分地上権が設定されたことから、当該設定に対応する帳簿価額の減額として20,182,472円を損金の額に算入(販売用不動産評価損の額9,393,720円及び申告調整額の認容額10,788,752円)した結果、本件事業年度の期首現在の申告調整額を含む本件土地の帳簿価額は108,727,929円(帳簿上の価額50,606,280円及び申告調整額58,121,649円)となった。
ニ 建設大臣は、平成元年3月31日付の建設省告示第○○号において本件土地を含む区域(以下「本件区域」という。)を地すべり等防止法第3条第1項の「地すべり防止区域」に指定した。
ホ 請求人は、本件土地について、都市計画法第29条《開発行為の許可》に基づくP市長の開発行為の許可(以下「本件都市計画法許可」という。)及び地すべり等防止法第18条《行為の制限》第1項に基づくR県J土木事務所長の行為の許可(以下「本件地すべり等防止法許可」という。)をいずれも平成4年5月8日付で得た。
 なお、平成4年5月8日付R県J土木事務所長発行の本件土地に対する本件地すべり等防止法許可書には、「条件」の欄に「地すべり防止その他公益上の理由により、R県J土木事務所長が必要と認めたときは、許可の取り消し又は新たな指示をすることがあること。」と記載されている。
ヘ 平成10年10月8日、本件土地から約300メートル離れた本件区域内の土地で土砂崩れが発生した(以下「平成10年土砂崩れ」という。)。
ト 請求人は、本件土地の帳簿価額108,727,929円を平成11年9月30日付の不動産鑑定評価書の鑑定評価額15,000,000円に評価換えし、その減額した金額93,727,929円(以下「本件評価損」という。)を「有価証券等評価損」として本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入した。

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2 主張

(1)請求人の主張

原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
なお、原処分のその他の部分については争わない。
イ 本件更正処分について
本件評価損は、次の理由から損金の額に算入するべきところ、原処分はこれを算入しておらず違法である。
(イ)次のA及びBの事実は、法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」に該当し、そのことにより本件土地の価額がその帳簿価額を下回ることとなっているから、法人税法第33条第2項に基づいて、本件評価損を損金の額に算入するべきである。
A 本件土地が地すべり防止区域に指定されたため、分譲マンションを建設するためには許可が必要となり、そのために地すべり等防止法の許可を受けたものの、その際、遵守が極めて困難な条件を付され、それを満たすための工事が工法上困難なものであることや事業の遂行に多額の費用を要することから、分譲マンションを建設することができない土地となった。
B 平成10年土砂崩れは、本件土地と同様に滑落差10メートル以上の場所で発生したものであり、そのことから本件土地も極めて危険な土地であると判断され、そのために本件土地の価値は著しく低下しており、売却しようにも買手は皆無である。
 仮に、不動産市況が改善したとしても値上がりの可能性はなく、将来地すべりが発生した場合、その復旧には多額の出費を伴う。
(ロ)法人税法第33条及び同法施行令第68条の規定は、法人税法第25条《資産の評価益の益金不算入》及び同法施行令第24条《資産の評価益の計上ができる評価換え》の規定と照らし併せると、特定の法律に基づく評価換えを除き、単なる市況の変動による未実現の損益を課税所得から排除するという趣旨から設けられたものであって、本件土地のように市況の変動によらないで実質的に価値が低下したものについては、その評価損の損金算入が認められるべきである。
(ハ)また、本件土地については、取得時の経緯から会計処理上棚卸資産に計上しただけであって、社会通念上、土地は固定資産であることに異論はないのだから、本件評価損の損金算入の可否に当たっては、法人税法施行令第68条第1号のほかに同条第3号の固定資産の評価損の規定をも勘案すべきであり、当該規定によれば、当該資産がその本来の用途に使用することができないため他の用途に使用されたこと及び当該資産の所在する場所の状況が著しく変化したことが資産の評価損の計上ができる場合とされているから、本件評価損の損金算入は認められるべきである。
 なお、原処分庁が本件評価損の損金算入を認めない根拠として引用する法人税基本通達9−1−5の定めは、動産たる卸小売等の商品、製造業の製品及び原材料等に言及しているものであって、土地に関して引用するのは誤りである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件評価損が損金の額に算入されない理由は、次のとおりである。
A 分譲マンションの建設用地として取得した棚卸資産たる本件土地については、本件都市計画法許可及び本件地すべり等防止法許可を得ており、分譲マンションの建設自体が禁止されたわけではない。
 なお、請求人は、本件地すべり等防止法許可に付された条件を満たすことが極めて困難である旨主張するが、それは建設原価が増加することを主張しているにほかならず、本件土地自体が法人税基本通達9−1−5の破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができなくなった状態になったものではない。
B 平成10年土砂崩れは、本件土地から約300メートル離れた場所で発生しており、本件土地そのものが直接被害にあったわけではなく、本件土地自体の形状の変化又は本件土地に直接影響を及ぼす特別の事実は認められない。
C したがって、本件土地は、法人税法施行令第68条第1号の棚卸資産の評価損の損金算入ができるいずれの場合にも該当しないから、本件評価損は、損金の額に算入されない。
(ロ)そうすると、本件事業年度の課税所得金額は、別表「本件事業年度の課税所得金額」のとおりとなり、原処分に係る本件事業年度の課税所得の金額と同額になるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件評価損を損金の額に算入することができるか否かに争いがあるので、審理したところ以下のとおりである。

(1)本件更正処分について

イ 法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」について
(イ)法人税法は、同法第33条第1項において、資産の評価損の損金算入を原則として認めず、同条第2項において、その例外として、「災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたこと」により資産の価額が帳簿価額を下回ることとなった場合に限り、資産の評価損の損金算入を認めている。
 このように法人税法が所得の計算上、評価損の損金算入を原則として否定しているのは、資産の評価換えによる課税所得の恣意的な調整を防止することに加え、資産の価額が下落した場合であっても、これによる損失が資産の譲渡等によって現実化した事業年度に算入すれば足りるばかりか、各法人が資産の評価換えをした年度において損金に算入することとすると、課税技術上複雑な問題が生じ、かつ、課税上不公平が生じ得ることからであると考えられる。
 そして、法人税法がその例外として一定の場合に資産の評価換えをした年度における評価損の損金算入を認めているのは、資産評価の下落の原因が災害による損傷、資産の陳腐化など異常なものであって、それによる損失が現実化した事業年度に損金に算入しただけでは酷となり、かえって課税上不公平であるばかりか、損金算入を認めても課税技術上も問題がないと判断されるような場合について限定的に認めたものであると解される。
(ロ)そして、法人税法第33条第2項は、資産の評価損を損金算入できる場合の事由として、「災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたこと」という要件を掲げ、さらに、棚卸資産については、上記「政令で定める事実」として、法人税法施行令第68条第1号において、上記1の(3)のロのとおりの事実を掲げている。
 とすれば、同号ニの「イからハに準ずる特別の事実」については、例示的に掲げられている災害、著しい陳腐化あるいは更生手続開始の決定等のような異常な事態が発生し、それによる損失が現実化した事業年度に損金を算入しただけでは酷となり、かえって課税上不公平であるばかりか、損金算入を認めても課税技術上問題がないと判断されるような場合をいうと解され、具体的には、法人税基本通達9−1−5が示しているように、破損、型崩れ等異常な事態が発生し、通常の方法では販売ができなくなった場合をいうと解される。
(ハ)この点、請求人は、法人税基本通達9−1−5は動産を前提にしたものであって、同通達を本件のような土地の場合に引用することは妥当でない旨主張する。
 しかし、法人税基本通達9−1−5は、同通達に「販売できなくなったとき」との記載があるように、販売目的で保有する資産を前提にしたものであり、その資産が土地である場合を排除していないことからすると、販売目的で所有する土地についても当然予定していると解され、同通達を引用することが妥当でないとの請求人の主張は採用できない。
 さらに、請求人は、問題となっている資産が土地であることから、固定資産について評価損の損金算入を認めた法人税法施行令第68条第3号の規定を勘案して判断するべきである旨主張するが、同号は、事業の用に供される資産を前提にした規定であり、販売目的で保有する資産を前提にしていない以上、本件のように販売目的で保有する土地の場合に同号の規定を勘案することは妥当ではなく、この点に関する請求人の主張も採用できない。
ロ そこで、本件の場合において、請求人の主張する事実が法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」に該当するか否かについて審理する。
(イ)本件土地に対する地すべり区域指定について
A 請求人は、本件土地が地すべり防止区域の指定を受けたことにより、本件地すべり等防止法許可を受けたものの、その際に付された許可条件を満たすための工事が工法上困難なものであるため、分譲マンションを建設することができない土地となっており、そのことが法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」に該当する旨主張する。
 確かに、本件土地は、本件土地の取得前後に、地すべり防止区域の指定を受けているものの、その後、請求人は分譲マンション建設のため本件都市計画法許可及び本件地すべり等防止法許可を受けており、本件土地に分譲マンションを建設し、それを販売することは可能であり、地すべり防止区域の指定を受けたことによって、通常の方法によって販売することができなくなったものとは認められない。
 よって、本件土地が地すべり防止区域の指定を受けたことは、法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」には該当しない。
B この点、請求人は、本件地すべり等防止法許可を受けた際に付された条件を満たすための工事が工法上困難なものであるため、分譲マンションの建設を断念した旨主張するが、本件地すべり等防止法許可の際に付された条件は、「地すべり防止その他公益上の理由により必要と認めたときは、許可の取り消し又は新たに指示をすることがあること」という通常許可を受ける際に付される一般的な条件にすぎず、その条件を満たすために分譲マンションの建設工事が困難なものとなったとは認められず、加えて請求人が主張する工法上の問題点は、本件土地が急傾斜の斜面であることから生じるものであって、本件土地が地すべり防止区域の指定を受けたことによって生じたものではなく、よって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
さらに、請求人は、本件地すべり等防止法許可の条件を満たすためには多額の費用が必要であることから採算が取れない土地となった旨主張するが、分譲マンション建設工事に多額の費用が必要となるのは、本件土地が急傾斜の斜面であることから生じるものであって、本件土地が地すべり防止区域の指定を受けたことによって生じたものではなく、請求人の主張は、単に分譲マンションの建設に多額の費用を要し、現在の経済状況下では採算が取れなくなったことを主張しているにすぎず、かかる請求人の主張も採用できない。
(ロ)平成10年土砂崩れについて
 請求人は、平成10年土砂崩れによって、同様の状況にある本件土地も極めて危険な土地であると判断されたため、本件土地の価値が著しく低下しており、そのことが法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」に該当する旨主張する。
 しかしながら、平成10年土砂崩れは、本件土地から約300メートル離れた場所で発生したものであり、それによって本件土地の形状に欠陥が生じたものでもなければ、そのことから本件土地の性状等が変化したと認めることもできないのであって、したがって、本件土地が平成10年土砂崩れにより、通常の方法によって販売できなくなったとは認められず、上記「準ずる特別の事実」に該当しない。
(ハ)したがって、本件土地について、法人税法施行令第68条第1号ニの「準ずる特別の事実」に該当する事実を認めるに足りる証拠はなく、そのほか、法人税法施行令第68条第1号のイないしハに該当する事実も認められないことから、本件評価損の損金算入は認められない。
(ニ)そうすると、本件事業年度の課税所得金額は、別表「本件事業年度の課税所得金額」のとおりとなり、原処分に係る本件事業年度の課税所得の金額と同額になるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額を基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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