ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.65 >> (平15.2.19裁決、裁決事例集No.65 450頁)

(平15.2.19裁決、裁決事例集No.65 450頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、貸金業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の有する金銭債権を貸倒金として本件事業年度の損金の額に算入できるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年4月1日から平成9年3月31日まで及び平成9年4月1日から平成10年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成9年3月期」及び「平成10年3月期」といい、これらを併せて「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年5月30日付で上表の「更正処分等」欄のとおり、法人税の各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年7月26日にその一部の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年11月21日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項第3号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」と規定している。
ロ 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達。平成10年6月23日付課法2−7による改正前のものをいう。以下同じ。)9−6−1《貸金等の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ》は、法人の有する売掛金、貸付金その他の債権(以下、この節において「貸金等」という。)について次に掲げる事実が発生した場合には、その貸金等の額のうち次に掲げる金額は、その事実が発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する旨定めている。
(イ)会社更生法の規定により更生計画の認可の決定があった場合において、その決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(ロ)商法の規定による特別清算に係る協定の認可若しくは整理計画の決定又は和議法の規定による和議(強制和議を含む。)の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(ハ)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
A 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
B 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がAに準ずるもの
(ニ)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
ハ 法人税基本通達9−6−2《回収不能の貸金等の貸倒れ》は、法人の有する貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該貸金等について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする旨定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年3月期において、債務者G(以下「G」という。)に対する金銭債権12,960,960円(以下「本件甲債権」という。)、債務者H(以下「H」という。)に対する金銭債権5,115,000円(以下「本件乙債権」という。)及び債務者J他15名に対する金銭債権計27,397,308円の合計額45,473,268円が回収不能となったとして、当該金額を損金の額に算入している。
ロ 原処分庁は、上記イの本件甲債権及び本件乙債権並びにJに対する金銭債権4,500,000円の合計額22,575,960円については、平成9年3月期の損金の額に算入できないとして本件更正処分を行っている。
ハ 請求人は、平成10年3月期において、債務者K(以下、「K」といい、G及びHと併せて「本件債務者」という。)に対する金銭債権53,577,310円が回収不能となったとして、当該金額を損金の額に算入している。
ニ 原処分庁は、上記ハの53,577,310円については、平成10年3月期の損金の額に算入できないとして本件更正処分を行っている。
ホ Kは、請求人に対し、昭和61年5月19日に請求人からの金銭債務53,577,310円の内金として、7,000,000円を同人が所有するM県N市O町○○番○の原野2,032平方メートル(共有持分20,320分の1,426)、同○○番○の原野281平方メートル及び同○○番○の原野237平方メートルの3筆の土地で弁済している。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により事実誤認の違法があるから、その一部の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分は争わない。
イ 本件更正処分について
 本件甲債権、本件乙債権及びKに対する上記1の(4)のホによる代物弁済後の金銭債権46,577,310円(以下、「本件丙債権」といい、本件甲債権及び本件乙債権と併せて「本件金銭債権」という。)は、次に述べるとおり、いずれも法人税基本通達9−6−1に定める法律的に消滅した債権あるいは同通達9−6−2に定める法律上債権は存在するが、事実上回収不能にある債権に該当することから、本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
(イ)本件甲債権は、Gが平成8年夏頃から家出同然となり、請求人と連絡も取れない状況の中で、多方面に負債を抱え、みるべき資産もないことが平成9年3月期に確認されたことから、法人税基本通達9−6−2に定める法律上債権は存在するが、事実上回収不能にある債権に該当する。
(ロ)本件乙債権は、Hが平成6年5月に死亡し、同人は独身であり、その当時みるべき財産もなく、同人の相続人及び債務の継承者も存在しないことが平成9年3月期に確認されたことから、法人税基本通達9−6−1に定める法律的に消滅した債権に該当する。
 なお、法人税基本通達9−6−1は、金銭債権が法律的に消滅した場合の特定の事例についての取扱いを定めたもので、その消滅要因により貸倒損失の基本的な取扱いを限定するものではないと解されるから、本件乙債権には同通達が適用されるべきである。
(ハ)本件丙債権は、平成9年10月末にKの病死情報が請求人にもたらされたので、早速債権整理に着手したが、同人には処分できる資産もなく、同人の相続人及び債務の継承者も存在しないことが平成10年3月期に確認されたことから、上記(ロ)の本件乙債権と同様に、法人税基本通達9−6−1に定める法律的に消滅した債権に該当する。
(ニ)原処分庁は、請求人を原告、昭和61年10月31日まで請求人の代表取締役であったL(以下「L」という。)を被告とする損害賠償請求事件(P地方裁判所Q支部昭和62年(○)第○号。以下「昭和62年損害賠償請求事件」という。)を原処分庁の主張の裏付けとして取り上げているが、本件の審査請求の対象となる所得の金額の計算には何ら関係がなく、また、KのP地方裁判所Q支部に対する昭和61年5月の自己破産の申立てと同年7月の当該破産宣告終結決定についても触れているが、同人の請求人からの負債については、破産法による免責は皆無であって、所得の金額の計算には何ら関係がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記イのとおり違法であるから、本件賦課決定処分も、その一部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件金銭債権については、次に述べるとおり、昭和61年4月1日から昭和62年3月31日まで及び昭和62年4月1日から昭和63年3月31日までの各事業年度(以下、順次「昭和62年3月期」及び「昭和63年3月期」という。)又は少なくとも昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの事業年度(以下「平成元年3月期」という。)において、既に回収不能の状態にあったと認められるから、当該金銭債権について貸倒金として計上する時期は、法人税基本通達9−6−2により、昭和62年3月期及び昭和63年3月期又は少なくとも平成元年3月期であり、本件事業年度の損金の額に算入することができない。
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和62年損害賠償請求事件における昭和62年7月17日の第4回口頭弁論調書(和解)において、原告の主張として、要旨次のとおり述べていること。
(A)昭和59年11月3日にLが出席する取締役会を開催し、ここで1,000,000円を超える借入者に対しては追加融資を禁じることを決定したが、Lはこの決定を無視し架空名義で訴外Kに対し多額の追加融資をしたものの、これらは回収不能となった。
(B)上記(A)の決定当時、訴外Kは多額の焦げ付きを発生させ支払い不能状態となっていたものであるところ、Lは当該決定を無視しK及び同人の身内3名の名義で実質的に同人に対して不当な貸付けを実行した上、さらに、昭和61年4月13日に一時貸しとして、同人に対し310,000円の貸付けをした。
(C)Kは、現在自己破産の申請中であり、同人からの回収見込みがなく、また、同人の名義貸し人らからは、Lがこれを承知の上敢えて貸し出したものであるので、請求することさえ不可能であって、以上の債権はすべて回収不能であり、請求人は同額の損害を受けた。
B 請求人は、昭和62年損害賠償請求事件においてLと和解した上で、異議審理庁に対し、昭和63年3月31日に同人よりK他に貸し付けた未収債権34,958,950円の代物弁済分として、L名義の土地建物を28,500,000円で入金処理し、その残額6,458,950円のうち6,432,600円を、同日に貸倒処理した旨を書面で申し述べている。
C Kは、P地方裁判所Q支部に対し、昭和61年5月○日に自己破産の申立てをし、同年7月○日の破産宣告を経て、昭和63年10月○日に破産終結決定を受けている。
(ロ)ところで、法人税法第22条第3項第3号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものと規定しているところ、損失とは、会計上、一般に収益の獲得のための活動に貢献せず、収益と因果関係のない財産上の喪失をいうものであり、貸倒損失は、まさしく収益と因果関係のない財産上の喪失であるから、同号の規定により貸倒損失が確定した事業年度の損金の額に算入される。
 また、金銭債権の貸倒れについては、法人税基本通達9−6−1ないし同通達9−6−3において、貸倒損失の事実認定に関しての基本的な考え方を示し、課税の公平あるいは画一的な処理を図るために、いかなる事実があれば貸倒損失とするかについて具体的に定めたものと判断される。
 そして、法人税基本通達9−6−2において、回収不能の貸金等(金銭債権)の貸倒れについては、法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとすると定めており、ここでいうその債務者の資産状況等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合とは、その債務者について、破産、死亡、行方不明等、債務超過の状態が相当期間継続して事業再開の見通しがないこと等と解するのが相当である。
 さらに、損金経理することができるとは、一定の要件を充足する事実がある場合に限って損金経理しなければならないと解するのが相当であることから、明らかに回収不能と判断される金銭債権を貸倒処理せず放置したものを、その後法人の任意又は恣意により損金処理することは原則として許されないものと解される。
 なお、債務者が死亡した場合における相続人の不存在は、民法上の債権の消滅には該当しないことから、法人税基本通達9−6−1に定める法律的に債権の切捨てが行なわれた場合の適用はない。
(ハ)本件甲債権及び本件乙債権は、平成9年3月期の貸倒金として損金の額に算入されているが、当該各債権の全額が明らかに回収不能となったのは、次のことから、昭和62年3月期であると認められる。
A 請求人は、債務者が死亡し、債務の継承者が存在しないこと等を確認した上で貸倒処理する旨主張するが、通常の回収努力をしていたとすれば、債務者の死亡後貸倒金として認識するのに2年ないし3年の期間を要するとは考えられず、また、債務の継承者が存在しないこと等を確認するために要した期間についての具体的又は客観的な資料の提示がない。
B 請求人が金融業を営む法人であることからすれば、同人は不良債権に係る回収の能否に最大の関心を有している債権者であり、債権の回収状況について的確に把握しているものとみられるのが当然であるところ、最終取引日以降貸倒金として計上するまで、約12年間ないし10年間の回収努力の実績を客観的に示すことができないとすれば、もはや本件甲債権及び本件乙債権について何ら回収努力をしていないものと判断されることから、既に昭和62年3月期において回収不能が明らかであったものと認めざるを得ない。
(ニ)本件丙債権は、平成10年3月期の貸倒金として損金の額に算入されているが、上記(イ)の事実によれば、次のとおり判断されることから、本件丙債権が明らかに回収不能となったのは、その一部を貸倒れとして処理した昭和63年3月期又は少なくともKの破産宣告に対する破産終結決定がされた平成元年3月期であると認められる。
A 請求人は、昭和62年損害賠償請求事件において、Kは支払不能状態であることを申し述べており、また、同人が自己破産申請中であることを認識していることからすれば、私的回収方法は皆無となり、同人の資産状況及び支払能力等から見て完全に債務超過の状態にあり、本件丙債権の全額が回収不能であることを合理的な理由をもって判断していたものと認められる。
B 昭和62年損害賠償請求事件の訴訟の結果、和解をした後、上記(イ)のBのとおり、昭和63年3月31日付でKに対する債権をLからの代物弁済として債権を消滅させているほか、貸倒金として経理処理していることは、Kに対する債権の一部を貸倒処理したものであり、同人に対する債権について回収不能であることを認識していたものと認められ、その時点で同人に対する債権の全額を損金の額に計上すべきであった。
(ホ)本件事業年度の所得金額
A 平成9年3月期
(A)貸倒金の過大計上
 請求人が貸倒金として計上している本件甲債権及び本件乙債権については、昭和62年3月期の貸倒金であり、また、Jに係る貸倒金として計上している金銭貸付残高18,866,691円のうちの4,500,000円については、Zから代位弁済を受け、債権が消滅しているので、これらの合計額22,575,960円を損金の額から減算する。
(B)役員賞与の損金不算入
 Rほか3名の役員に対し、旅費交通費として支出した200,000円は、役員賞与に該当し、損金の額に算入されないので、損金の額から減算する。
(C)所得金額
 所得金額は、次表のとおりの金額○○○○円となる。

B 平成10年3月期
(A)貸倒金の過大計上
 請求人が貸倒金として計上しているKに係る金銭債権53,577,310円のうちの7,000,000円については、債務者名義の土地で代物弁済を受け、債権が消滅しており、また、差額の46,577,310円については、昭和62年3月期の貸倒金であるので、当該金銭債権53,577,310円を損金の額から減算する。
(B)役員賞与の損金不算入
 Sほか3名の役員に対し、旅費交通費として支出した200,000円は、役員賞与に該当し、損金の額に算入されないので、損金の額から減算する。
(C)事業税の認容
 前事業年度の所得金額が増加したことに伴い増加する事業税2,669,700円を損金の額に加算する。
(D)所得金額
 所得金額は、次表のとおりの金額○○○○円となる。

C 本件事業年度の所得金額
 上記A及びBのとおり、本件事業年度の所得金額は、いずれも本件更正処分に係る所得金額と同額であるから、本件更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべきこととなる法人税額について、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるものと認められる場合には該当しないため、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件は、請求人の有する金銭債権を貸倒金として本件事業年度の損金の額に算入できるか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件金銭債権については、本件事業年度において、会社更生法の規定による更生計画の認可の決定、商法の規定による特別清算に係る協定の認可又は整理計画の決定、和議法の規定による和議の決定及び債権者集会の協議決定等で本件金銭債権の全部又は一部が切り捨てられることとなった事実はない。
(ロ)請求人は、本件事業年度において、本件債務者に対し、書面により本件金銭債権の債権放棄又は債務免除を行っていない。
(ハ)本件甲債権に関しては、次の事実が認められる。
A 本件甲債権は、昭和59年2月17日から同年5月29日までに貸し付けられた4件の残高であり、当該債権の最終取引日は、昭和61年10月7日となっている。
B 本件甲債権のうち、昭和59年2月17日の貸付金額10,400,000円及び同年3月1日の貸付金額2,000,000円の2件については、当該債権の債務者の夫の父であるTが連帯債務者となっており、同人は平成10年9月19日に死亡している。
C 本件甲債権には、当該債権の債務者の夫であるUが連帯保証人となっている。
D P地方法務局○○支局の土地等の登記簿謄本によれば、次の事実が認められる。
(A)Gは、V県W市X町○○番○の山林1,298平方メートル及び同字○○番○の山林711平方メートルの2筆を、いずれも昭和55年7月1日に売買により取得し、同年8月11日に所有権移転の登記をしており、当該山林2筆は、本件事業年度末現在においても同人の所有とされている。
(B)請求人は、昭和58年12月27日に上記(A)の山林2筆に対する権利として、いずれも債務者をGとする順位1番、極度額2,000,000円の根抵当権を設定し、同月28日に根抵当権設定の登記をしており、当該根抵当権は、本件事業年度末現在においても、いずれも抹消されていない。
(C)Tは、本件事業年度末現在において、田及び原野等を所有しているとされており、それらには、抵当権等が設定されていない。
(D)Uは、本件事業年度末現在において、原野2筆を所有しているとされており、それらには、抵当権等が設定されていない。
(ニ)本件乙債権に関しては、次の事実が認められる。
A 本件乙債権は、昭和59年7月2日から同月23日までに貸し付けられた3件の残高であり、当該債権の最終取引日は、同年8月10日となっている。
B 本件乙債権には、Hと同じ町内に居住するY(Hの小・中学校の後輩)が連帯保証人となっている。
C Yは、個人で大鋸屑販売業を営んでおり、原処分庁に対し、当該事業に係る平成7年分から平成12年分までの所得税の確定申告書を提出している。
D Hは、平成6年5月23日に死亡し、同人の父母も同人に先立ち既に死亡しているが、同人の兄弟姉妹は生存している。
E P地方法務局○○出張所の土地等の登記簿謄本によれば、次の事実が認められる。
(A)Hは、V県W市g町○番○の宅地626.59平方メートルを、昭和41年1月16日売買により取得し、昭和50年1月27日に所有権移転の登記をしており、当該宅地は、本件事業年度末現在においても同人の所有とされている。
(B)請求人は、昭和58年10月13日上記(A)の宅地に対する権利として、債務者をHとする順位1番、極度額5,000,000円の根抵当権を設定し、同日に根抵当権設定の登記をしており、当該根抵当権は、本件事業年度末現在においても抹消されていない。
F Yは、当審判所に対し、本件乙債権の連帯保証人にはなっているが、請求人から電話による督促を含め、当該債権の支払いを全く求められたことがない旨答述している。
(ホ)本件丙債権に関しては、次の事実が認められる。
A 本件丙債権は、昭和59年6月4日から昭和60年2月21日までの間に貸し付けられた40件分の貸付残高から上記1の(4)のホで述べた代物による弁済額7,000,000円を控除した残高であり、当該債権の最終取引日は、昭和61年4月10日となっている。
B Kは、昭和61年5月29日にP地方裁判所Q支部に対し、自己破産の申立てを行っている。
 なお、上記申立てについては、昭和61年7月○日に破産宣告開始決定がなされ、昭和63年10月○日に終局となり、同年11月○日に完結されている。
C Kは、平成9年10月14日に死亡している。
D 昭和62年損害賠償請求事件における請求人の請求主旨は、要旨次のとおりである。
(A)Lは、請求人に発生した20,000,000円の不良債権について賠償する責任が有ることを認め、昭和60年12月9日にこれを元金とする準消費貸借契約を締結した。
(B)Lは、昭和59年11月3日に開催された請求人の取締役会における「1,000,000円を超える借入者に対する追加融資を禁じる」旨の決定を無視し、架空名義で訴外Kに対して多額の追加融資をした結果、当該追加融資した金銭債権は回収不能となった。
(C)上記の取締役会の決定当時、訴外Kは、多額の焦げ付きを発生させ支払不能の状態となっていたものであるところ、Lは、当該決定を無視し、K及び同人の身内h、m及びnの3名の名義により、実質的にKに対して不当な貸付けを実行した結果、30,555,950円が回収不能となった上、さらに、一時貸しとして、Kに対し、昭和61年4月13日に 310,000円の貸付けをした。
(D)Kに関しては、昭和62年7月現在において自己破産の申立て中であることから、同人から貸付残金の回収見込みはなく、また、同人に対して名義貸した者についても、貸付金残高相当額を請求することさえ不可能である。
ロ 貸倒損失の損金算入時期
(イ)法人税法第22条第3項第3号は、上記1の(3)のイのとおり、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものと規定し、また、同条第4項は、同号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定しているところ、「損失」とは、収益の獲得に役立たなかった経済的価値の減少であり、費用収益対応の原則によっては捉えられないものであることから、損失は、その発生の事実によって捉えるとするのが、一般に公正妥当な会計処理の基準であると認められる。
 そして、企業の有する債権の回収不能が貸倒れであり、その回収不能となった金額が貸倒損失であり、それが法人税法第22条第3項第3号の「損失」に当たることは明らかなことであるから、貸倒損失については、貸倒れの事実が発生した事業年度の損金の額に算入すべきことになる。
 なお、貸倒損失の損金の額への算入の時期については、その貸倒れが生じた日の属する事業年度に限られると解されている。
(ロ)上記1の(3)のロ及びハで述べた法人税基本通達の9−6−1及び9−6−2の定めは、上記(イ)の考え方に基づき、貸倒れの事実認定の画一的な処理を図り、課税の公平を実現する目的でその基準を明らかにしたものと解され、当審判所においても、これらの定めは合理的なものと認められる。
ハ 本件金銭債権に係る貸倒れの存否等
 上記イの事実を上記ロに照らして、本件金銭債権に係る貸倒れの存否及びその損金算入時期について判断すると、次のとおりである。
(イ)本件甲債権について
 請求人は、本件甲債権が法律上の債権としては存在するものの、平成9年3月期に法人税基本通達9−6−2に定める事実上回収不能にある債権に該当することが確認されたので、当該期の貸倒金として損金の額に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件甲債権に関しては、〔1〕上記イの(ハ)のDの(B)のとおり、請求人は、昭和58年12月27日にGが所有する山林2筆に対し、順位1番、極度額2,000,000円の根抵当権を設定したまま、本件事業年度末現在においても、それを抹消していないこと、〔2〕上記イの(ハ)のBのとおり、本件甲債権の一部はTを連帯債務者とした金銭債権であり、上記イの(ハ)のDの(C)のとおり、同人は、本件事業年度末現在においても、田及び原野等を所有していたこと(同人が死亡したのは平成10年9月19日である。)、また、〔3〕上記イの(ハ)のDの(D)のとおり、本件甲債権の連帯保証人であるUも原野2筆を所有していることが認められ、これらの事実によれば、本件甲債権は、平成9年3月期において、貸倒れ(回収不能)の事実が発生していたとは認められない。
 したがって、本件甲債権は、貸倒損失として平成9年3月期の損金の額に算入することはできない。
(ロ)本件乙債権について
 請求人は、本件乙債権の債務者の死亡、当該債務者の相続人及び債務の継承者の不存在が平成9年3月期に確認されたことから、当該債権が法人税基本通達9−6−1に定める法律的に消滅した債権に該当するので、当該期の貸倒金として損金の額に算入すべきである旨主張するが、本件乙債権の債務者であるHには、上記イの(ニ)のDのとおり、同人の兄弟姉妹が生存しているから、相続人が不存在であったということはできず、仮に、兄弟姉妹が相続放棄の申述を行っていたとしても、債務者の死亡及び相続人不存在が民法上の債権の消滅原因である弁済、代物弁済、供託、相殺、更改、免除及び混同に該当せず、それにより本件乙債権が法律上消滅することにはならないため(民法第951条、同法第952条及び同法第957条等参照)、請求人の主張は、その前提において失当であり、採用できない。
 また、本件乙債権は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、平成10年3月期末現在において、法令の規定による決定等によりその全部又は一部が切り捨てられた事実及び請求人が書面により本件乙債権の債権放棄又は債務免除をした事実がないため、法律上消滅していたとは認められない。
 そして、本件乙債権に関しては、〔1〕上記イの(ニ)のEのとおり、請求人は、昭和58年10月13日にHが所有する宅地626.59平方メートルに対し、順位1番、極度額5,000,000円の根抵当権を設定したまま、本件事業年度末現在においても、それを抹消していないこと、〔2〕上記イの(ニ)のB及びCのとおり、本件乙債権の連帯保証人であるYは、本件事業年度末において、個人で事業を営み、所得税の確定申告を行っていること及び〔3〕上記イの(ニ)のFのとおり、そのYは、請求人から本件乙債権の履行を求められたことは全くない旨答述していることがそれぞれ認められ、これらの事実によれば、本件乙債権は、平成9年3月期において、貸倒れ(回収不能)の事実が発生していたとは認められない。
 したがって、本件乙債権は、貸倒損失として平成9年3月期の損金の額に算入することはできない。
(ハ)本件丙債権について
 請求人は、本件丙債権の債務者が死亡し、処分できる資産もなく、また、当該債務者の相続人及び債務の継承者も存在しないことが確認されたことから、当該債権は法人税基本通達9−6−1に定める法律的に消滅した債権に該当するので、それらが確認された平成10年3月期の貸倒金として損金の額に算入すべきである旨主張するが、同主張については、上記(ロ)の本件乙債権についての理由と同様の理由から、採用できない。
 また、本件丙債権に関しては、〔1〕上記1の(4)のホ及び上記イの(ホ)のAのとおり、請求人とKとの間で締結していた代物弁済契約に基づき、同人所有の原野3筆につき、請求人への所有権移転登記手続を昭和61年5月19日に完了した残高であること、〔2〕上記イの(ホ)のDの(C)及び(D)のとおり、請求人は、昭和62年損害賠償請求事件における請求原因として、Kが昭和59年11月当時、多額の焦げ付きを発生させ、支払不能の状態となっていた旨及び同人は昭和62年7月17日現在において自己破産申立て中であり、同人から貸付残金の回収見込みがない旨、それぞれ主張していたこと、さらに、〔3〕上記イの(ホ)のBのとおり、Kは昭和61年5月○日に自己破産を申立て、その手続が昭和63年10月○日に終局となり、同年11月○日に完結されていることが認められる。
 そうすると、本件丙債権については、遅くとも、Kに係る破産手続が完結した日の属する平成元年3月期において貸倒れが発生していたものであり、平成10年3月期においては、当該債権に係る貸倒れの事実が発生していないこととなる。
 したがって、本件丙債権は、貸倒損失として平成10年3月期の損金の額に算入することはできない。
(ニ)以上のとおり、原処分庁が、本件金銭債権を貸倒損失として本件事業年度の損金の額に算入できないとしたことは相当であり、請求人の主張には、いずれも理由がない。
ニ 本件事業年度の所得金額
 以下、請求人の本件事業年度の所得金額を検討する。
(イ)本件事業年度の加算額及び減算額
A 本件事業年度の貸倒金の過大計上
 損金の額より減算される貸倒金の額については、上記2の(2)のイの(ホ)のAの(A)及びBの(A)のとおり、原処分庁は平成9年3月期22,575,960円及び平成10年3月期53,577,310円と算定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の算定額は相当と認められる。
B 本件事業年度の役員賞与の損金不算入
 役員賞与の損金不算入の額については、上記2の(2)のイの(ホ)のAの(B)及びBの(B)のとおり、原処分庁は本件事業年度において、いずれも200,000円と算定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の算定額は相当と認められる。
C 平成10年3月期の事業税の認容
 損金の額に加算される事業税の額については、上記2の(2)のイの(ホ)のBの(C)のとおり、原処分庁は2,669,700円と算定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の算定額は相当と認められる。
(ロ)本件事業年度の所得金額
 上記(イ)に基づき、請求人の本件事業年度の所得金額を計算すると、次表のとおりとなる。

 以上の結果、請求人の本件事業年度の所得金額は、いずれも本件更正処分の所得金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、同処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る