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(平15.3.5裁決、裁決事例集No.65 520頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》に規定する留保金額の計算において、請求人に係る特定外国子会社等であるE社(以下「E社」という。)が中間配当を行った場合に、当該中間配当の額を、当該中間配当が行われたE社の事業年度の前事業年度の未処分所得の金額から控除することができるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年1月1日から同年12月31日まで、平成11年1月1日から同年12月31日まで及び平成12年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成10年12月期」、「平成11年12月期」及び「平成12年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、これらをいずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月延長されたもの。)までに提出した。
ロ F税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成10年12月期の法人税について、平成11年7月30日付で別表1の「当初更正処分等」欄に記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ さらに、F税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、本件各事業年度の法人税について、平成13年12月25日付で別表1の「本件更正処分等」欄に記載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、原処分の一部を不服として、平成14年2月22日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 措置法第66条の6第1項は、内国法人に係る特定外国子会社等が、その未処分所得の金額から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配(以下「利益の配当等」という。)の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等に対応するものとして計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。
ロ 租税特別措置法施行令第39条の16《内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象留保金額の計算等》第1項は、措置法第66条の6第1項に規定する当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当等の額に関する調整を加えた金額は、特定外国子会社等の各事業年度の同項に規定する未処分所得の金額から、当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額及び当該各事業年度に係る利益の配当等の額の合計額を控除した残額とする旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ E社は、請求人が発行済株式の全部を保有する香港法人であり、措置法第66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当する。
ロ E社の1997年1月1日から同年12月31日まで、1998年1月1日から同年12月31日まで及び1999年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「1997年12月期」、「1998年12月期」及び「1999年12月期」という。)の未処分所得の金額は、それぞれ、38,755,614.61香港ドル、37,330,062.96香港ドル及び53,231,973.59香港ドルである。
ハ E社が1997年12月期、1998年12月期及び1999年12月期において納付することとなる法人所得税の額は、それぞれ、3,787,821香港ドル、7,442,772香港ドル及び4,397,686香港ドルである。
ニ 平成9年1月1日から平成12年12月31日までの間に支払が確定したE社の配当の額は、別表2のとおりであり、その〔1〕から〔7〕までの各配当(以下「本件各配当」という。)について、それぞれの支払確定日に開催されたE社の取締役会の議事録には、要旨下記(イ)から(ト)までのとおりの記載がある。
(イ)1997年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ締めていないが、合計23,100,000香港ドルの中間配当を1997年6月20日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
(ロ)1998年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ締めていないが、1997年12月31日における未処分利益から、一株当たり17.50香港ドル合計21,000,000香港ドルの中間配当を1998年3月9日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
(ハ)1998年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ締めていないが、1997年12月31日における未処分利益から、一株当たり7.00香港ドル合計8,400,000香港ドルの中間配当を1998年12月18日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
(ニ)1999年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ締めていないが、1998年12月31日における未処分利益から、一株当たり19.20香港ドル合計23,040,000香港ドルの中間配当を1999年3月25日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
(ホ)1999年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ締めていないが、累積利益から、一株当たり15.00香港ドル合計18,000,000香港ドルの中間配当を1999年12月13日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
(ヘ)2000年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ締めていないが、累積利益から、一株当たり22.00香港ドル合計26,400,000香港ドルの中間配当を2000年3月14日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
(ト)2000年12月31日に終了する事業年度の決算はまだ監査を了していないが、前年における累積利益及び2000年10月31日までの当期利益から、一株当たり29.60香港ドル合計35,520,000香港ドルの中間配当を2000年12月12日に登録されている株主に対して支払うことを決定した。
ホ E社の財務諸表には、1997年12月期の未処分利益からの配当の額が23,100,000香港ドル、1998年12月期の未処分利益からの配当の額が29,400,000香港ドル、1999年12月期の累積利益からの配当の額が41,040,000香港ドルである旨の記載がある。
ヘ 請求人の平成10年12月期、平成11年12月期及び平成12年12月期のE社に係る課税対象留保金額の計算上適用される香港ドルの対円換算レートは、それぞれ、16.44円、15.42円及び14.13円である。

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2 主張

(1)請求人

 以下の理由から、原処分のうち、E社に係る課税対象留保金額として本件各事業年度の所得金額に加算する部分の取消しを求める。
イ 特定外国子会社等が中間配当を行った場合に課税対象留保金額に係る申告の調整をどのようにすべきかについては、措置法の規定上必ずしも明らかではなく、本件のように、内国法人と特定外国子会社等の事業年度が同じである場合には、内国法人の各事業年度末においては、中間配当が行われた特定外国子会社等の事業年度の前事業年度の課税対象留保金額は既に中間配当の額だけ減少しているにもかかわらず、特定外国子会社等の当該前事業年度の課税対象留保金額がそのまま内国法人の益金に算入されるという不合理な状況が生じるから、措置法の適用に当たっては、中間配当は前事業年度の未処分利益を限度として行うことができるとする商法第293条の5《中間配当》第3項に沿った解釈、取扱いがなされるべきである。
 すなわち、特定外国子会社等が、未だ決算が行われていない進行中の事業年度において中間配当を行う場合には、前事業年度の未処分利益から支払われたものと理解するのが自然であるから、当該中間配当の額のうち、前事業年度の未処分所得の金額から前事業年度中に納付することとなる法人所得税の額及び前事業年度に係る利益の配当等の額を控除した金額に相当する部分の金額を、前事業年度に係る利益の配当等の額として、前事業年度の未処分所得の金額から控除すべきである。
 そうすると、請求人の本件各事業年度において、E社の課税対象留保金額が算出されないことは明らかである。
 なお、上記のように解釈したとしても、本件各事業年度中に受領されたE社からの中間配当の額は、請求人の収益に計上されているので、課税上何ら不都合が生じることはない。
ロ 仮に、原処分が正しいとするならば、請求人が本件各事業年度において収益に計上したE社からの中間配当の額は、E社の当該事業年度の決算が確定するまでは仮受金とみなして認定損を認め、課税対象留保金額に係る更正との均衡を図るのが相当である。
ハ また、E社は従来から中間配当を行っていたにもかかわらず、過去の請求人に対する税務調査において課税対象留保金額について一度も更正処分を受けたことはなく、原処分に係る税務調査においても、課税対象留保金額に関する具体的な指摘が一切なされないまま原処分が行われた。
 このことは、請求人の反論の機会を失わしめるものであるから、原処分は不当である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 上記1の(3)のイ及びロのとおり、特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の計算上、未処分所得の金額から控除する利益の配当等の額は、「当該未処分所得の金額に係る利益の配当等の額」とされ、具体的には当該未処分所得の金額の計算の対象となった「当該事業年度に係る利益の配当等の額」とされている。
 これを本件についてみると、本件各配当は、その支払が確定した日の属するE社の各事業年度に係る利益の配当等であるから、請求人の課税対象留保金額の計算上、E社の各事業年度における未処分所得の金額から控除する利益の配当等の額は、1997年12月期にあっては、別表2の〔1〕の23,100,000香港ドル、1998年12月期にあっては、別表2の〔2〕及び〔3〕の合計額29,400,000香港ドル、1999年12月期にあっては、別表2の〔4〕及び〔5〕の合計額41,040,000香港ドルである。
 これにより、本件各事業年度において請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきE社に係る課税対象留保金額を計算すると、別表3のとおりとなる。
ロ 請求人は、課税対象留保金額の計算に関して中間配当が行われた場合は、前事業年度の未処分利益から支払われたものと理解するのが自然であり、中間配当は、前事業年度の課税対象留保金額がある限り、控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、特定外国子会社等の課税対象留保金額の計算において未処分所得の金額から控除すべき利益の配当等の額は、当該未処分所得の計算の対象となった当該事業年度に係る利益の配当等の額とされていることは上記イのとおりであり、特定外国子会社等の当該利益の配当等の額が当該事業年度の利益から構成されるか、繰越利益から構成されるかにより影響されるものではない。また、本件各配当はいずれもその支払が確定した日の属するE社の各事業年度に係る中間配当であるから、本件各事業年度の所得の金額に加算すべきE社に係る課税対象留保金額の計算上控除すべき利益の配当等の額は上記イのとおりとなり、本件各配当について、その支払が確定した日の属する事業年度の前事業年度であるE社の各事業年度に係る課税対象留保金額の計算上控除することができないことは明らかである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ さらに、請求人は、原処分庁が本件各更正処分を規定上も正しいとするならば、請求人が収益に計上した中間配当の額を仮受金として認定損を認めるのが相当である旨主張する。
 しかしながら、中間配当について、特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の計算上いずれの事業年度の未処分所得の金額から控除すべきかということと、中間配当の収益計上時期がいつかということは、別個の問題であり請求人の主張は独自の見解に基づく取扱いを求めるものであるから、請求人の主張は採用できない。
ニ 以上のとおり、本件各更正処分におけるE社に係る課税対象留保金額の計算は適法になされているから、本件各更正処分は適法である。

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3 判断

 請求人の本件各事業年度のE社に係る課税対象留保金額の計算において、E社が行った中間配当の額を、当該中間配当が行われたE社の事業年度の前事業年度の未処分所得の金額から控除できるか否かについて、争いがあるので審理したところ、次のとおりである。

(1)本件各更正処分について

イ 上記1の(3)のロのとおり、課税対象留保金額の計算上、特定外国子会社等の各事業年度の未処分所得の金額から控除される利益の配当等の額は、当該事業年度に係る利益の配当等の額である。
ロ 上記1の(4)のニ及びホから、別表2の〔1〕の配当は1997年12月期に係る利益の配当等、別表2の〔2〕及び〔3〕の各配当は1998年12月期に係る利益の配当等、別表2の〔4〕及び〔5〕の各配当は1999年12月期に係る利益の配当等、別表2の〔6〕及び〔7〕の各配当は2000年12月期に係る利益の配当等であると認められる。
ハ そうすると、1997年12月期、1998年12月期及び1999年12月期のE社の未処分所得の金額から控除される利益の配当等の額は、それぞれ、別表2の〔1〕の23,100,000香港ドル、別表2の〔2〕及び〔3〕の合計額29,400,000香港ドル並びに別表2の〔4〕及び〔5〕の合計額41,040,000香港ドルである。
ニ 請求人は、特定外国子会社等が中間配当を行う場合には、商法第293条の5第3項の規定からみて、当該中間配当の額は前事業年度の未処分利益から支払われたものと理解するのが自然であるから、当該中間配当の額のうち、前事業年度の未処分所得の金額から前事業年度中に納付することとなる法人所得税の額及び前事業年度に係る利益の配当等の額を控除した金額に相当する部分の金額を、前事業年度の未処分所得の金額から控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のロのとおり、特定外国子会社等の各事業年度の未処分所得の金額から控除される利益の配当等の額に当たるか否かは、当該事業年度に係る利益の配当等の額であるか否かによるのであり、特定外国子会社等が行う利益の配当等の額が、どの事業年度の繰越利益から構成されるかによるのではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ホ また、請求人は、仮に本件各更正処分が正しいとするならば、請求人が収益に計上した中間配当の額を仮受金として認定損を認めるのが相当である旨主張する。
 しかしながら、中間配当の額を仮受金として認定損を認めるとする法令上の規定はなく、請求人の主張はその独自の見解に基づくものであるから、請求人の主張を採用することはできない。
ヘ さらに、請求人は、E社は従来から中間配当を実施していたにもかかわらず、過去の請求人に対する税務調査においても課税対象留保金額について一度も更正処分を受けたことはなく、本件各更正処分に係る調査においても課税対象留保金額に関する具体的な指摘が一切なされないまま本件各更正処分が行われたことから、本件各更正処分は請求人の反論の機会を失わしめる不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、更正処分に当たって納税者に反論の機会を与えなければならないとする法令上の規定は存在しないから、仮に、反論の機会が与えられなかったとしても、そのことをもって本件各更正処分が違法・不当となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 以上により、別表2の〔1〕から〔5〕までの各配当をその支払が確定したE社の各事業年度の未処分所得の金額から控除して、本件各事業年度におけるE社の課税対象留保金額を計算すると、別表3のとおりであり、本件各更正処分の額と同額となるから、本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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