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(平15.3.25裁決、裁決事例集No.65 743頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、医療法人の増資に対する出資が相続税法第9条に規定する贈与により取得したものとみなす場合(利益の享受)に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、審査請求人G、同H、同J及び同K(以下、4名を併せて「請求人ら」という。)が医療法人L(以下「本件法人」という。)の増資に対して平成10年6月9日に行った出資について、相続税法第9条に規定するみなし贈与に該当するとして、平成13年6月1日付で別表1のとおり請求人らに対して、平成10年分贈与税の各決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人らは、これらの処分を不服として、平成13年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月30日付でそれぞれ棄却の異議決定をした。
ハ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年11月27日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、審査請求人Gを総代として選任し、その旨を平成13年11月27日に届け出た。

(3)関係法令等

イ 相続税法第9条は、対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与に因り取得したものとみなす旨規定している。
ロ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与に因り取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ハ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほかによる国税庁長官通達。ただし、平成10年6月12日付課評2−5による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)194−2《医療法人の出資の評価》は、医療法人に対する出資の価額は、178《取引相場のない株式の評価上の区分》の本文、179《取引相場のない株式の評価の原則》から183−2《類似業種の1株当たりの配当金額等の計算》まで、184《類似業種比準価額の修正》の(2)、185《純資産価額》の本文、186《純資産価額計算上の負債》から186−3《評価会社が有する株式等の純資産価額の計算》まで、187《新株引受権等の発生している株式の価額の修正》の(2)、189《特定の評価会社の株式》、189−2《株式保有特定会社の株式の評価》から189−3《土地保有特定会社の株式又は開業後3年未満の会社等の株式の評価》まで及び189−4《開業前又は休業中の会社の株式の評価》から192《新株無償交付期待権の評価》までの定めに準じて計算した価額によって評価する旨定めている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 本件法人は、昭和30年12月7日に前理事長であったM(Hの父)の出資金5,300,000円(出資口数106口、1口当たり50,000円)をもって、医療法に基づき持分の定めのある社団医療法人として設立された。
ロ G(Hの夫)は、昭和63年5月7日にMから本件法人の出資持分10口を114,971,180円(1口当たり11,497,118円)で譲り受けるとともに本件法人の理事長に就任した。
ハ 本件法人は、平成9年5月24日開催の定時社員総会において、別表2のとおり、本件法人の定款変更(以下、変更前の定款を「旧定款」といい、変更後の定款を「新定款」という。)を出席者全員一致で可決承認した。
 なお、社員総数11名のうち出席社員は8名(内委任状出席者数1名)であり、M、N(Mの妻)及びR(Mの長男)は社員総会を欠席している。
ニ 本件法人は、平成9年8月6日付でP県知事に対し定款変更の申請を行い、同月13日に定款変更の認可を受けた。
 新定款の主な定め(別表2の定めを除く。)は、要旨次のとおりである。
(イ)本件法人の社員になろうとするものは、目的、趣旨に賛同し、総会の承認を得なければならない。この場合、社員は1口以上の出資をしなければならない(第5条)。
(ロ)1口の出資金額はこれを金5万円とし、現物出資の場合は時価による(第6条)。
(ハ)本件法人の出資を増加してその割当をする場合は、総会の議決を得なければならない(第8条)。
(ニ)本件法人の出資持分は、総会の承認を受けなければこれを他人に譲渡又は質入等は禁止する(第9条)。
(ホ)本件法人の社員中死亡した者があるときは、その相続人は入社することができる(第10条)。
(ヘ)社員は、〔1〕総会の決議、〔2〕死亡、〔3〕除名によりその資格を失う(第11条)。
(ト)本件法人の資産を基本財産と運用財産とに分ち、次に掲げるものを基本財産とし、その他のものを運用財産とする(第14条)。
A 財産目録に記載の基本財産
B 基本財産から生ずる果実
C 基本財産に編入すべきものとして指定された寄付金品
D 将来基本財産として繰入れられる金品
(チ)基本財産はこれを処分してはならない。
 但し、止むを得ない事由のあるときは社員総会の同意を得、県知事の許可を受けて処分することができる(第15条)。
(リ)総会は別段の定めあるものの外、社員の過半数が出席しなければ議事を開くことができない(第37条)。
(ヌ)次の事項は総会の議決を経なければならない(第38条)。
A 基本財産の設定及び処分
B 借入金額の最高限度
C 毎事業年度の事業計画の設定及び変更
D その他重要な事項
(ル)総会の議事は別段の定めあるものの外、出席社員の議決権の過半数で決し、可否同数のときは議長の決するところによる(第39条)。
(ヲ)各社員の議決権及び選挙権は1人につき1個とする(第41条)。
(ワ)この定款を変更しようとするときは、総社員の3分の2以上の同意を得て県知事の認可を受けなければならない(第47条)。
ホ 本件法人は、平成10年5月30日開催の定時社員総会において、〔1〕本件法人の出資口数110口を90口増資(以下「本件増資」という。)して200口とすること、並びに〔2〕本件増資に係る出資者及び出資口数(以下「本件出資」という。)をそれぞれGが23口、Hが23口、J(Gの長女)が22口、及びK(Gの長男)が22口とすることを出席者全員一致で可決承認した。
 なお、社員総数13名のうち出席者は10名(内委任状出席者1名)であり、M、N及びRは、社員総会を欠席するとともに平成10年5月26日付書留内容郵便物で、本件増資については本件法人を私物化するものであるとして反対の意思を表明している。
ヘ 請求人らは、本件出資について、1口50,000円に相当する金額を平成10年6月9日にS銀行○○支店の医療法人L・T病院名義普通預金口座(No.○○○○)へ振り込んだ。
ト 本件法人の増資後の社員状況は、別表3のとおりである。
 なお、この社員には、M又はGから出資を委託譲渡された社員(以下「委託譲渡社員」という。)が社員登録されている。
チ 本件法人の平成10年3月31日現在の従業員数は255名である。
リ 厚生省(現厚生労働省、以下同じ。)は、医療法の一部を改正する法律の施行に関する件(昭和25・8・2厚生省発医第98号各都道府県知事宛厚生事務次官通知)により定款例(以下「モデル定款」という。)を示している。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)相続税法第9条の適用について
A 相続税法第9条の規定は、贈与契約の有無にかかわらず、実質的に贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合には、課税の公平の観点から、贈与契約の有無に拘わらず贈与により取得したものとみなし、これを課税財産として贈与税を課税するものである。したがって、利益を受けさせたものの贈与の意思の存否は、相続税法第9条の適用に当たり、その判断に影響を及ぼすものではない。
 これに対し、請求人らは、Mには贈与の意思がなく、贈与の事実もないからみなし贈与課税は違法であると主張するが、この点に関しては上記のとおり理由がない。
B 医療法に基づき設立される医療法人は、医療法の規定により剰余金の配当が禁止されているなど、商法に基づき設立される株式会社等との差異は認められる。
 しかしながら、医療法人が配当を禁止されているのは、医療行為が有する公益性にかんがみ、医療法人が営利法人化することは妥当ではないと考えられたためとみるべきであるところ、実際には、医療事業には相当の収益を伴うのであるから、配当が禁止されていることは、かえって法人内部に蓄積される資産が増大していく可能性が大であるというべきである。
 そうすると、社員が退社時や解散時に出資持分の払戻しを受けることができる以上、社員が有する出資持分に係る経済的実態は、株式会社等の営利企業に対する出資者の受け得る利益と基本的には同一であるというべきであるから、医療法人に係る出資の評価に当たり、営利企業である株式会社の株式等と別異のものとみるべきであるという請求人らの主張には理由がない。
C 一般に含み資産を有する会社等が増資をすれば、旧株式等の価額は増資額との割合に応じて希釈されることとなる。
 そうすると、増資後の株式等の時価が発行価額を上回るものであれば、当該株式等を取得した者は、その差額相当分の利益を得ることとなるということができるところ、請求人らは、本件出資の払込みにより、本件出資後の時価相当額を取得したことになるから、相続税法第9条に規定する著しく低い価額の対価で利益を受けた場合に該当し、それぞれ贈与を受けたものとみなされる。
D 相続税法基本通達(以下「基本通達」という。)9−4《同族会社の新株引受権》は、同族会社が新株を発行する際における新株引受権に関し、贈与により取得したものとして贈与税の課税対象となる場合についての取扱いを定めたものであり、この同族会社に医療法人は含まれないため、医療法人の増資に伴って、その出資を著しく低い価額で取得した場合にはこの取扱いそのものの適用はないが、相続税法第9条の規定は、法律的に贈与により取得した財産でなくても、実質的に贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に贈与税を課すこととしている規定であり、同族会社の株式又は出資に係る課税関係のみを規定するものではなく、もっと広範で包括的な課税規定と解されているから、同族会社ではない医療法人については相続税法第9条の規定の適用がないとの請求人らの主張には理由がない。
E 請求人らは、東京高等裁判所平成7年6月14日判決(平成6年(ネ)第1929号会員持分払戻請求控訴事件、以下「平成7年高裁判決」という。)が、新規増資に応じて中途入社した社員の持分は、設立時からあるのか、又は増資した時点からあるのかが争われた事件で、「医療法人の場合、増資持分の権利は増資をした後の期間に及ぶ。」と判断しているから、本件増資の場合、増資した時点においては、増資に係る出資の評価額は払込金額と同額か、又は運用財産のみで評価すればマイナスであり、相続税法第9条の規定は適用されない旨主張する。
 しかしながら、平成7年高裁判決は、医療法人に対する会員持分払戻請求に係るものであって、その請求の対象となる財産の範囲が争点となっているところ、本件審査請求の争点は出資の評価額である。
 そして、新定款には出資払込金額を超えて譲渡することはできないとの定めはないことから、請求人らが本件出資を第三者に対して本件法人の財産に対する請求人の持分相当額を超えて譲渡することも可能であると考えられること等からすると、本件出資の評価に当たり、平成7年高裁判決における考え方が適合するとは認められない。
(ロ)出資の評価について
A 社団たる医療法人で持分の定めのあるものは、会社等と同様に、各社員は社員権として出資に対する持分権を有しており、その持分は相続又は贈与の対象となり、ひとつの財産権として認識されている。
 また、贈与財産の価額は、相続税法第22条の規定に照らし、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、評価通達に定められた評価方法によって評価することが相当であると解されている。
 なお、医療法人は、一般の私企業とその性格を異にするとは考えられないことから、評価通達は一般の中小企業の株式の評価との権衡を考慮して社団たる医療法人の出資についても、取引相場のない株式の評価に準じて評価することとし、評価通達194−2にその評価方法を定めている。
B 医療法等は医療法人の出資の評価方法について規定しておらず、このため、原処分庁は相続税法第22条の規定に照らし、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がないと判断し、評価通達を適用して本件出資の評価額を算出したものである。
C そこで、本件出資の評価額を算出すると、本件法人は、従業員が255名であり、大会社相当となることから、原則として、類似業種比準価額方式により評価することとなり、本件出資の価額及び贈与とみなされる経済的利益の額は、別表4及び5のとおりである。
(ハ)新定款に基づく出資の評価について
 請求人らは、本件出資について、新定款に基づき運用財産のみを基に純資産価額方式で評価すべきである旨主張するが、次の理由から出資の評価額を上下させることが可能となり課税の公平を欠くことになるので採用できない。
A 新定款は、医療法の規定からして、定款変更の余地が残されていること。
B 仮に、定款の変更が不可能であるとしても、次のとおり、事実上運用財産に限らず払い戻しを受けるのと同様の経済的利益を受けることができること。
(A)新定款には、持分が出資払込金額を超えて譲渡できないという事項の定めがないことから、請求人らが有する51%の出資を譲渡することとなれば、医療法人又は経営権そのものを譲渡するに等しいこととなり、相当高い金額で譲渡することも可能であると考えられる。
 また、第三者に売却しなくても、本件法人自身に相当高い金額で譲渡することも可能であり、事実上、運用財産に限らず払戻しを受けることが可能であると考えられる。
 そして、このことは、Gが昭和63年5月7日にMから、本件法人の出資持分10口を114,971,180円で譲り受けていることからも裏付けられるというべきである。
(B)本件法人の社員は、平成10年5月30日において13名であるが、このうち4名は請求人らであり、残り9名のうちM、N及びRを除く6名は、Gからの委託譲渡社員で構成されている。
 そして、この委託譲渡社員は、Gから出資持分の返還請求を受けた場合には無償無条件で返還しなければならないことになっているところ、当該6名の委託譲渡を受けた社員のうち5名は、Mからも委託譲渡を受けているから、Gから出資持分の返還請求を受けてもただちに社員たる地位を失うものではないが、Gが理事長の職にあること及び請求人らが出資総額の51%を有していることから、社員総会において請求人らの意向が強く反映されることが十分に推認できることからすると、出資払込金額を超えて持分を譲渡することも十分に可能であるというべきである。
(C)組織運営が適正に行われることが、必ずしも新定款の定めで担保されていない(役員等の親族制限や役員報酬の規定)。
(D)新定款には、合併を制限する規定がなく、本件法人が他の通常の出資持分の定めのある社団医療法人と合併し、合併後の新医療法人が本件法人の新定款ではなく、例えばモデル定款を採用すれば、本件法人の出資者も定款変更前と同様、退社時の払戻しなどに制限を受けることはなくなる。
(E)新定款第38条によれば、総会の議決を経ることにより、基本財産の処分や運用財産への変更も可能であること、また、新定款第39条によりその議決は出席社員の議決権の過半数でよいことなどから、特定の社員の意向で運用財産への変更が可能であると認められる。
(ニ)本件決定処分
 以上のとおり、本件出資は、相続税法第9条に規定するみなし贈与に該当し、贈与により取得した財産の価額は別表1のとおりであるから、これらの金額と同額で行なった本件決定処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件決定処分は、上記イの(ニ)のとおり適法であり、請求人らの場合、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書きに規定する正当な理由があると認められるものがある場合には該当しないので、同条第1項の規定に基づき無申告加算税を賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
(イ)相続税法第9条の適用について
A 医療法人は、〔1〕配当の禁止、〔2〕社員一人に付き1議決権のみの保有など株式会社等とはその性格を異にしており、このことは、昭和25年医療法の改正に伴う医療法人設立の趣旨として当時の厚生省事務次官通達により明らかにされているにもかかわらず、原処分庁は、本件出資を株式会社の新株引受権等に対する課税と同様に扱っている。
 しかも、原処分庁は、医療法人に新株引受権があると認定したのではない旨主張するが、原処分庁が主張する経済的利益の具体的内容は、新株引受権そのものの説明であり、新株引受権があると認定したのではない旨の主張と矛盾する。
 また、医療法人の設立目的の一つに、個人での病院経営の経済的困難に対し、資金集積の方途を容易に講ぜしめ、誰からも自由かつ容易に必要な資金を病院に提供(出資)してもらうことにあり、だからこそ、医療法人を商法上の会社と区別したのであるから、出資に伴う贈与税の課税関係が生ずる余地はないのであり、本件出資に対し、原処分庁が贈与税を課税することは、この医療法の趣旨に反している。
B 新株引受権に係るみなし贈与は、基本通達9−4にあるように、同族会社にのみ適用されるのであり、また、相続税法基本通達逐条解説(財団法人大蔵財務協会編)9−2《株式又は出資の価額が増加した場合》の解説部分において、「同族会社の場合に限ってこのみなし贈与の取扱いをすることとしているのは、同族会社の行為計算を否認することができるものとする相続税法第64条の規定を前提としているものであるということができる」旨解説していることからも、同族会社ではない医療法人に相続税法第9条の適用がないことは明らかである。
C 本件増資前に本件法人の出資持分の90%を保有していたMは本件増資に反対しており、当然のことながら、贈与の意思はなかったのであり、また、増資前の持分の権利は移動しないのであるから、経済的利益の享受がないのは明らかである。
 原処分庁の相続税法第9条の規定についての解釈は、東京地方裁判所昭和51年2月17日判決(昭和48年(行ウ)第128号贈与税決定取消請求事件、以下「昭和51年東京地裁判決」という。)の判決文の一部を引用しているようであるが、この判決はその事実関係が本件とは全く異なる事件であって、事件内容の異なる判決文の中から原処分庁に都合のよい部分を引用して普遍的、画一的に解釈、適用することは許されない。
 そして、国が一般の医療法人に対し、所得税、相続税、贈与税等を非課税扱いとする特定医療法人や特別医療法人へ組織変更の認可をする場合、その手続上出資者全員から持分払戻請求権を放棄させている。原処分庁が出資者(M)の意思を無視して相続税法第9条のみなし規定を適用することは、法の濫用である。
D 原処分庁は、平成7年高裁判決が払戻請求の対象となる財産の範囲を争点としたもので、本件の争点は出資の評価額であるから、当該判決の考え方が本件に適合するとは認められない旨主張する。
 しかしながら、請求人らは、平成7年高裁判決が医療法人の場合には増資持分の権利は増資をした後の期間に及ぶとの判断を示しているから、出資の評価を含めて違法であると争っているのであり、その是非を判断するには財産の範囲を明確にすることにより行われるべきものとして平成7年高裁判決を提示しているのであって、財産として持分の権利が及ぶ範囲及び出資の評価額をいくらにするかという点ではその本質は一体である。
(ロ)新定款に基づく出資の評価について
A 原処分庁は、本件出資の評価に当たって、医療法人を営利法人である株式会社等と同一視し、法律ではない評価通達の定めにより類似業種比準方式によって評価しており、これは著しく不適当と認められ、医療法に違反している。
 したがって、本件出資の評価に当たっては、次の理由から、新定款に基づき運用財産のみで評価すべきであり、その評価額は零円である。
(A)新定款は、監督官庁の認可を経た効力のある定款であり、その内容については、〔1〕資産を基本財産と運用財産に区分し、〔2〕中途退社や解散の場合に出資者に分配できるのは運用財産のみであり、そして、解散時の基本財産は国若しくは地方公共団体に帰属する旨定めているのであるから、請求人らは運用財産の枠内でしか出資の返還は受けられないこととなる。
(B)新定款はいわゆる「後戻り禁止規定」を定めており、医療法人は定款に反した運営は許されておらず、また、監督官庁も信義則や禁反言の原則に反するような定款の変更は認めないから、定款変更の余地が残されているとの原処分庁の主張は失当である。
(C)原処分庁は仮に定款の変更が不可能であるとしても、運用財産に限らず払い戻しを受けるのと同様の経済的利益を受けることができると主張するが、これは、憶測や推量に基づく主張であり、法律的な根拠もなく、次のとおり理由がない。
a 新定款によれば、将来運用財産が増加すれば、相当高い金額で譲渡することも可能であると見込まれるが、本件増資の時点では、運用財産はマイナスであるから、その評価額は零円である。
 さらに、譲渡をする場合には社員総会の承認が必要である旨定めており、社員総会での議決権は、社員一人に付き1議決権であり、出資の所有割合によるのではないから、請求人らの意向は何ら反映されない。
b 原処分庁は、事実上、運用財産に限らず払戻しを受けることができる裏付けとして、Gが昭和63年にMから本件法人の出資持分10口を114,971,180円で譲り受けていることを指摘するが、この譲渡は、旧定款に基づく適切な売買であり、法的にも問題はない。
c 本件法人の組織運営は、定款に基づき適正に行われており、不適正な運営の事実や監督官庁からの不適正の指摘事項はない。したがって、定款により十分に担保された運営がなされている。
d 合併は、監督官庁の認可事項であり、本件法人とモデル定款を採用している法人とが合併できるか否か、その場合どのように取り扱われるのか、監督官庁の回答文を示して主張すべきである。
 一般に、医療法人が合併される場合には、当該法人は財政的に破綻している場合であり、破綻する法人が合併する側にはならない。そして、合併される法人の出資者は責任上退社を求められ、その出資持分には、もはや経済的価値はないことから払戻しは受けられず、原処分庁の主張には合理性がない。
(D)原処分庁は、医療法等には医療法人の出資の評価方法について規定がない旨主張するが、モデル定款で「その出資の額に応じて持分がある。」と定めていることから、会計学、簿記学では当然に純資産方式による評価方法となる。
 このことは、評価通達194−2が新設されるまでは、医療法人の出資の評価方法を純資産価額方式で運用してきたことからも明らかである。
(E)東京地方裁判所八王子支部平成12年10月5日判決(平成9年(ワ)第1338号出資持分払戻請求事件、以下「平成12年東京地裁八王子判決」という。)は、いわゆる出資額限度方式に変更した定款の効力が争点となっていた事件で、医療法人側勝訴の判決を下し、医療法人を退社した原告に対する出資の払戻金額は変更後の定款の定めにより出資額を限度とするとし、この判決は東京高等裁判所でも支持されている。
 そして、この医療法人の出資を相続した原告は、出資額により相続税を申告し、この申告は所轄税務署において容認(是認)されている。
 したがって、本件においても、出資額限度方式と基本財産方式との違いはあれ、新定款による評価方法は認められるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
ハ 上記以外については争わない。

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3 判断

 本件の争点は、医療法人の増資に対する出資が相続税法第9条のみなし贈与に該当するか否か及びその出資の評価方法にあるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 医療法の規定等
(イ)医療法に基づき設立される医療法人には、財団法人と社団法人があり、社団法人については出資持分の定めがある法人と出資持分の定めがない法人とがある。
 財団たる医療法人と出資持分の定めがない社団医療法人の社員は、その出資について何らの持分権を有しないのに対して、出資持分の定めがある社団医療法人の社員は、出資に対する持分権を有し、その持分は譲渡や相続等の対象となり、ひとつの財産権と解される。
(ロ)医療法は、その第四章において医療法人に関する事項について規定しているが、剰余金配当の禁止等の規定はあるものの、社員たる資格の得喪に関する規定等相当部分を定款又は寄附行為の定めに委ねている。
 このため、厚生省は、医療法人制度が制定された昭和25年に、医療法人の適正な運用が図られるよう事務次官通知によりモデル定款を定めている。
(ハ)医療法第50条《定款又は寄附行為》第1項において、定款又は寄附行為の変更は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない旨規定し、同条第2項において、都道府県知事は、前項の規定による認可の申請があった場合には、第45条《設立認可基準》に規定する事項及び定款又は寄附行為の手続が法令又は定款若しくは寄附行為に違反していないかどうかを審査した上で、その認可を決定しなければならない旨規定している。
(ニ)平成9年12月17日付法律第125号をもって公布された医療法の一部を改正する法律により、従来からの特定医療法人に加え、特別医療法人制度が新設されたこと等に伴い制定された医療法施行規則第30条の36は、第1項において、社団である医療法人で持分の定めのあるものは、定款を変更して、社団である医療法人で持分の定めのないものに移行することができる旨規定し、同条第3項において、社団である医療法人で持分の定めのないものは、社団である医療法人で持分の定めのあるものへ移行できないものとする旨規定している。
 そして、特別医療法人に係る定款変更等の申請については、平成10年7月6日付指第39号各都道府県衛生主管部(局)長宛厚生省健康政策指導課長通知の第5《定款変更等の具体的手順について》において、定款の変更認可の申請に当たっては、持分請求権の放棄についての出資社員全員及び役員の同意を得ることとされている。
 なお、特別医療法人とは、役員の同族支配の制限等公的な運営の確保、残余財産の帰属先の制限等の要件を満たし、地域において安定的かつ公正的に医療を提供できる法人とされ、〔1〕財団である医療法人又は社団である医療法人で持分の定めのないものであること、〔2〕定款又は寄附行為において解散時の残余財産を国、地方公共団体又は厚生労働省令で定める者に帰属させる旨を定めていること、〔3〕役員等の親族制限や報酬制限の規定等が要件とされている。
ロ 認定事実
 医療法人の定款変更等の認可事務を担当するP県衛生部の担当者は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)医療法人の定款変更は認可であり、医療法第50条に基づいて内容を審査し、法令等に違反しないかぎり、認可することとなる。
(ロ)厚生労働省が定めているモデル定款の内容には、特に問題はないと考えられるから、現在の本件法人の定款をモデル定款に変更する申請があった場合は、認可せざるをえないと思う。
(ハ)出資額限度方式は現状の制度では認められておらず、そのような変更はまだ認めていない旨、厚生労働省に確認している。
ハ 相続税法第9条の適用について
 本件増資による出資が相続税法第9条に規定するみなし贈与に該当するか否かに争いがあるので、以下検討する。
(イ)相続税法第9条の規定は、私法上の贈与契約によって財産を取得したものではないが、当該利益の内容が贈与と同じような実質を有する場合には、税負担の公平の見地から、贈与契約の有無という私法上の法律関係の形式に左右されることなく、その経済的な実質によって判断し、その経済的利益の額相当額を贈与により取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものであり、その利益を受けさせた者の意思の存否は、相続税法第9条の規定を適用するに当っての判断に影響を及ぼすものではないと解される。
(ロ)請求人らは、医療法人が商法上の株式会社とは性格を異にするから、贈与税の課税や新株引受権の解釈は医療法の趣旨に反する旨主張する。
 しかしながら、本件法人は、請求人らが主張するとおり株式会社ではないから新株引受権なる権利が社員には存しないものの、持分の定めのある社団医療法人であり、財産権たる出資持分としての価額が現実に存し、本件増資における出資による利益の享受が生ずるのであれば、この利益の享受に対して相続税法第9条の規定が適用されると解するのが相当であり、相続税法上、医療法人を除く旨の規定もないのであるから、医療法の趣旨によりその適用が左右されるものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ハ)さらに、請求人らは、基本通達9−4の定めと相続税法基本通達逐条解説(財団法人大蔵財務協会編)9−2の解説部分を引用し、同族会社でない本件法人には相続税法第9条の規定は適用されないと主張するが、基本通達の定めは、主として、相続税法第9条についての比較的定型的な事例についてその取扱いを示しているのであって、相続税法第9条が適用される場合を限定的に列挙しているものではない。また、解説部分については基本通達9−2についての解説であって相続税法第9条の解説ではないから、本件について引用できるものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)請求人らは、増資前に90%の出資持分を保有していたMが増資に反対していたことから、原処分庁がみなし贈与の規定を適用して課税することは、Mの持分を奪う等財産権の侵害であり、法の乱用である旨主張する。
 しかしながら、相続税法第9条は、上記(イ)のとおり、利益を受けさせた者の意思の存否がその適用を左右するものではないのであり、原処分庁は、本件増資に係る事実に着目して課税しているのである。
 仮に、Mの財産権が侵害されたとするならば、それはMらの反対を無視して本件増資を実施した結果であって、しかも、本件増資の前に行った定款変更こそがその出資持分の制限を加えることとなったことによるものというべきであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ホ)請求人らは、原処分庁が昭和51年東京地裁判決の判決文の一部を引用することは、事実関係が全く異なる本件においては許されないと主張するが、当該判決文の該当部分は、相続税法第9条の趣旨を判示しているものであって、個別事件についての判断ではないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ヘ)請求人らは、平成7年高裁判決によれば、本件増資の時点においては経済的利益が生じないのであるから、相続税第9条の規定は適用されない旨主張する。
 しかしながら、平成7年高裁判決は、当該医療法人の定款に定められた「退会した会員は、払込済出資額に応じて払戻しを請求することができる」の規定をどのように解するかが争点となった事件につき、出資時の医療法人の資産総額に出資社員の払込済出資額を加えた額に対する当該出資額の割合を退会時における法人の資産額に乗じて算出すべきであると判示したもので、この判決は、多額の払戻しが当該医療法人の存続を危うくするなど個別事情を考慮したものであって、医療法の解釈として、医療法人の場合において増資持分の権利が増資をした後の期間に及ぶとの判断を示したものとは認められないから、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
(ト)以上のとおり、本件出資については、相続税法第9条の適用がないとの請求人らの主張にはいずれも理由がない。
ニ 医療法人の出資の評価について
 相続税法第22条は、贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得のときにおける時価による旨規定しており、この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価格をいうものと解される。
 しかし、贈与税の課税対象となる財産は多種多様であることから、国税庁は、財産評価の一般的な基準を評価通達によって定め、各種財産の評価方法に共通する原則や各種の財産の評価単位ごとの評価方法を具体的に規定し、課税の公平、公正の観点から、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。このように画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を的確に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者の公平、納税者の便宜という見地からみて、合理的であるという理由に基づくものと解されており、当審判所においても相当と認められる。
 そして、医療法人の出資は、上記1の(3)のハのとおり、評価通達194−2において、医療法人の出資の評価を取引相場のない株式に準じて評価する旨定められている。
 医療法は、医療法人について営利法人化することを防止する目的の下に剰余金の配当を禁止しているものの、医療法人の行う医療事業の内容や経営形態が、一般の個人開業医と異なったものを要求されているわけではなく、一般の私企業とその性格を異にするものではないと認められることから、一般の中小企業の株式の評価方法が改定されたことを契機に、この評価方法との権衡を考慮して、社団たる医療法人の出資についても、取引相場のない株式に準じて評価することとして、評価通達194−2が定められているもので、この趣旨からすると、同通達は合理的と認められるから、同通達に定める評価方法によることが著しく不適当と認められる特段の事情がない場合には、医療法人の出資を取引相場のない株式に準じて評価することは相当である。
ホ 新定款に基づく出資の評価について
 本件の場合、本件出資の評価について争いがあるので、以下検討する。
(イ)請求人らは、本件出資の評価に当たっては、新定款に基づき運用財産のみをもって純資産価額方式で行うべきである旨主張する。
 しかしながら、本件法人の新定款には、運用財産をもって分配すると定めている新定款の第12条及び第46条の定めのほか、〔1〕第9条において出資持分の譲渡ができるところ、その金額についての制限が付されていないこと、〔2〕第15条において基本財産の処分が可能であることなど、出資持分に関する他の定めがあるのであるから、これらの定めを広範かつ客観的に判断して本件法人の出資の評価を算出するのが相当であると解する。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
(ロ)また、請求人らは、新定款が後戻り禁止の規定を定めているから、定款に反した運営は許されず、監督官庁も信義則や禁反言の原則に反する定款の変更は認めないから、定款変更の余地は残されていない旨主張する。
 しかしながら、持分の定めのある社団医療法人の定款変更については、医療法上これを禁止する規定はなく、医療法第50条でその手続が法令又は定款に違反しない限り認可されるのであり、このことは、認可事務を担当するP県衛生部の担当者も、上記ロのとおり答述していることからしても、社員総会の決議を経て都道府県知事の認可を得れば変更できると認められる。
 そして、医療法施行規則第30条の36には、社団である医療法人で持分の定めのないものは、持分の定めのあるものへ移行できないものとする旨規定しているところ、本件法人は、持分の定めがある社団医療法人であって、新定款によってもその変更はされていないのであり、加えて、特定医療法人または特別医療法人への変更もされていないのであるから、本件法人の出資持分の定めについて定款を変更したとしても、この規定に反しないと解される。
 したがって、本件法人の定款変更は、新定款の後戻り禁止規定をもってその変更ができないと解することは相当ではないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ハ)請求人らは、新定款によっても運用財産に限らず払戻を受けるのと同様の経済的利益を受けられるとする原処分庁の主張が憶測や推量に基づく判断で法律的根拠がない旨主張する。
 しかしながら、本件法人の出資の価額は、上記(イ)および(ロ)で述べているとおり、医療法の規定をはじめ新定款の全体の定めや定款変更の法的可能性の有無などを総合的に判断して相続税第22条における時価を算出するのが相当である。
 したがって、これらの点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)請求人らは、平成12年東京地裁八王子支部判決をもって新定款による評価方法によるべきであると主張するが、この判決は、モデル定款から出資額限度方式に定款を変更した医療法人において、定款の規定変更を決議したとされる社員総会は開催されておらず、したがって、決議不存在であるから定款変更はなされていないなどとして、変更前の定款に基づく出資額の払い戻しを請求した事件であり、その主たる争点は、定款変更の手続の違法性であって、変更された定款の定めの解釈についての争いではない。
 また、東京都の指導により、社員全員(営利法人を除く。)の同意を得て出資額限度方式に定款を変更している等、本件とは明らかに事実関係の異なる事件であって、当該判決等に基づき本件審査請求を判断すべきとの請求人らの主張は採用できない。
(ホ)以上のことから判断すると、請求人らの主張する新定款の定めは、評価通達に定める評価方法によることが著しく不適当と認められる特段の事情があるとは認められないから、本件法人の出資は、評価通達194−2の定めに基づいて評価するのが相当である。
ヘ 本件法人の出資の評価について
 本件法人は、従業員数100名以上であり、評価通達178に定める大会社に該当するので、本件法人の出資の評価は、類似業種比準価額方式により評価することとなる。
 したがって、本件法人の出資1口当たりの価額は、別表4のとおり、本件増資前の価額が6,856,700円、本件増資後の価額が3,793,685円と原処分庁が計算した金額と同額となる。
ト 経済的利益の額について
 以上のことを基に、本件における経済的利益の額について判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人らは、上記1の(4)のへのとおり、本件出資に当たって出資1口当たり50,000円をそれぞれ払込している。
(ロ)本件法人の出資1口当たりの価額は、上記ヘのとおり、本件増資前において6,856,700円であったところ、本件増資を1口当たり50,000円で行ったことにより、その価額は希釈され、本件増資後においては3,793,685円となる。
(ハ)そうすると、請求人らは、1口当たり3,793,685円の本件法人の出資を50,000円で取得したのであるから、著しく低い価額の対価で利益を受けた場合に該当し、50,000円を超える部分の金額が、別表5のとおり、この利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額となり、この金額は、原処分庁が計算した金額と同額になる。
(ニ)なお、本件増資前の本件法人の出資者であるMは、その有する出資の価額が本件増資により希釈して減少するところ、本件増資による出資の引受がないのであるから、結果として、その減少した部分に相当する金額について、本件増資による出資の引受をした請求人らに利益を受けさせたこととなる。
チ 本件決定処分
 以上のとおり、請求人らが行った本件増資による本件出資については、相続税法第9条に規定するみなし贈与に該当すると認められることから、本件出資に係る請求人らの贈与税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると別表1のとおりとなり、この金額は、原処分庁が計算した金額と同額であるから、本件決定処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分

 上記(1)のとおり、本件決定処分は適法であり、かつ、請求人らが贈与税の申告書を提出しなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分も適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表5 請求人らの経済的利益額の計算

経済的利益の額=増資後評価額×増資後保有口数−(増資後払込単価×増資後取得口数+増資前評価額×増資前保有口数)
G 3,793,685円×35口−(50,000円×23口+6,856,700円×12口)=49,348,575円
H 3,793,685円×23口−(50,000円×23口+6,856,700円×0口)=86,104,755円
J 3,793,685円×22口−(50,000円×22口+6,856,700円×0口)=82,361,070円
K 3,793,685円×22口−(50,000円×22口+6,856,700円×0口)=82,361,070円

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