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(平15.2.13裁決、裁決事例集No.65 800頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税法第40条第2項の規定に基づき延納税額の滞納を理由として行われた相続税の延納許可の取消処分が違法又は不当であるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人A、同B、同C、同D、同E及び同F(以下、これら6名を併せて「請求人ら」という。)は、平成2年1月31日に死亡したG(以下「被相続人」といい、この相続開始に係る相続を「本件相続」という。)の共同相続人である。
ロ 相続人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について法定申告期限内である平成2年7月24日に申告書を提出するとともに、それぞれ納付すべき税額の全額を延納申請税額とする延納の許可を申請した。
 原処分庁は、これに対し、平成3年1月24日付で、申請どおりの延納を許可した(以下、この許可を「当初分延納許可」という。)。
ハ 請求人らのうちA及びEは、平成3年10月17日に、本件相続税に係る修正申告書を提出するとともに、それぞれ納付すべき税額の全額を延納申請税額とする延納の許可を申請した。
 原処分庁は、これに対し、平成3年12月27日付で、申請どおりの延納を許可した(以下、この許可を「修正分延納許可」という。)。
 また、原処分庁は、請求人らのうち、B、C、D及びFに対して、それぞれ納付すべき税額を減額する旨の更正処分を行い、これに基づいて平成4年2月7日付で当初分延納許可の延納条件を変更した。
ニ 請求人らは、平成4年3月30日に、本件相続税に係る修正申告書を提出するとともに、Dを除く請求人らは、それぞれ納付すべき税額の全額を延納申請税額とする延納の許可を申請した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年5月15日付で申請どおりの延納を許可した(以下、この許可を「再修正分延納許可」といい、これと当初分延納許可及び修正分延納許可と併せて「本件各延納許可」という。)。
ホ その後、請求人らのうち、Aは、本件各延納許可に係る各税額から、平成6年3月31日までにその分納期限が到来している各分納税額を控除した各残額について、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第70条の10《相続税の延納の許可を受けた個人の延納税額についての物納の特例》第1項の規定に基づき(以下、この規定による物納を「特例物納」という。)、平成6年7月29日に、それぞれ、特例物納の許可を申請した(以下、この申請を「Aに係る特例物納申請」という。)。
 その後、Aは、平成7年5月23日に、Aに係る特例物納申請の一部を取り下げた。
 原処分庁は、平成11年5月17日付で、一部取下げ後のAに係る特例物納申請を、特例物納申請に係る財産が、管理又は処分をするのに不適当な財産に該当するとして、却下した。
ヘ 同様に、請求人らのうち、Eは、当初分延納許可に係る税額から、平成6年3月31日までにその分納期限が到来している分納税額を控除した残額のうち、36,116,104円について、特例物納の規定に基づき、平成6年7月29日に特例物納の許可を申請した(以下、この申請を「Eに係る特例物納許可申請」という。)。
 その後、Eは、平成7年5月23日にEに係る特例物納許可申請の一部を取り下げた。
 原処分庁は、平成11年5月17日付で、一部取下げ後のEに係る特例物納申請を、特例物納申請に係る財産が、管理又は処分をするのに不適当な財産に該当するとして、却下した。
ト 原処分庁は、平成13年12月18日付で、同日以降に分納期限が到来する分納税額に係る本件各延納許可(本件各延納許可からB、C及びFに係る再修正分延納許可を除いたもの。以下「取消対象延納許可」という。)の取消処分(原処分)を行い、同日付で請求人らに通知した。
チ 請求人らは、原処分を不服として平成14年2月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月15日付で棄却の異議決定をした。
リ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年6月17日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成14年11月1日に届け出た。

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(3)関係法令

 相続税法第40条第2項は、税務署長は、延納の許可を受けた者が延納税額(当該税額に係る利子税又は延滞税に相当する額を含む。以下同じ。)の滞納その他延納の条件に違反したときは、その許可を取り消すことができる旨、また、この許可を取り消す場合においては、あらかじめその者の弁明を聞かなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らは、原処分がされた平成13年12月18日現在、本件各延納許可に係る本件相続税のうち、別表1から13までに記載した税額を滞納していた。
ロ 原処分庁は、請求人らが取消対象延納許可に係る本件相続税を滞納していたことから、平成13年4月6日付で、同月19日を期限とする「相続税延納取消に対する弁明を求めるためのお知らせ」(以下「お知らせ」という。)を、請求人らに送付した。
ハ これに対し、請求人らは、平成13年4月17日付で、「追いかけながら予定に沿う型で納付するので、延納の継続をお願いしたい」旨の弁明書を提出した。
ニ 原処分庁は、平成13年4月20日付で、同月27日を期限とするお知らせ(最終分)を、請求人らに送付した。
ホ これに対し、請求人らの代表としてAは、平成13年4月24日付で、「同年7月末日までに滞納分の一部を納付したい。次回は平成14年の7月末日とされたい。なお、D分534,000円及びB分1,714,000円は、平成13年4月27日までに納付する」旨の納付計画書を提出した。そして、平成13年4月27日に、D分として534,000円、B分として1,714,000円が納付された。
ヘ その後、平成13年8月9日に、C分として1,714,000円、F分として1,714,000円が納付され、Aは、原処分庁に対して、平成13年8月10日に、「A及びE分については、今しばらく納付を待って欲しい。なお、C及びF分については、同月9日に納付した」旨の文書を提出した。
ト 原処分庁は、取消対象延納許可について、平成13年11月19日付で、同月30日を期限とするお知らせを、請求人らに送付した。
チ これに対し、請求人らは、平成13年11月28日付で、「すべて貸した土地のため、処分が思うようにいかず迷惑をかけている。このところ一件動きそうなところが出てきたので、平成14年7月末には何とか納付できるかと思う。いま一つの猶予をいただきたい」旨の文書を提出した。
リ 請求人らの代理人であるH弁護士(以下「本件代理人」という。)は、平成13年12月4日に、原処分庁の担当職員と面談し、土地一筆の売却交渉中であり、抵当権の抹消の申出をしたが、当該職員は、〔1〕滞納税額を完納しない限り一部解除には応じない、〔2〕現状では、本件各延納許可は取消相当であり、延納許可を取り消した上、○○国税局長へ引き継ぐ、〔3〕任意売却について話を進めることは問題ない旨説明した。
ヌ なお、Aを除く請求人らは、平成4年4月5日付で、Aに本件相続税の納付に関すること及び納税通知書等を代表として受領すること並びにこれらに付帯する一切の権限を委任する旨の委任状を原処分庁に提出していた。

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2 主張

(1)請求人ら

 以下の理由により、原処分は違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人らが、取消対象延納許可に係る分納期限までに分納税額を納付できないことには、次のような、やむを得ない事情がある。
(イ)請求人らが本件相続により相続した土地(以下「本件土地」という。)は、相続開始日をピークとし以後年々評価額が下がり、路線価を基準として比較すると、相続開始時と比べ、5分の1以下に下がってしまった。
(ロ)相続財産のほとんどは貸地で、換価可能性は乏しく、また、賃借人の多くは底地売買に非妥協的な立場を取っている。
(ハ)本件土地からの地代は、その何十年分をもってしても、本件相続税に満たない状況である。
ロ Aが、相続人らの本件相続税の滞納となっている税金を納付するために、本件土地の売却活動を行っている時に、原処分が行われたことは、次のことからも不当である。
(イ)賃借人と粘り強く交渉すれば、本件土地を売却できる見込みがなくはない。
(ロ)請求人らが平成13年11月28日付の文書で「平成14年7月末日には滞納となっている税金の一部を支払うことができそうである」と述べたことは、当時の請求人らの見通しとしては真実を具申したものであり、そのために請求人らは、本件土地の売却活動等種々の試みを行っていた。
(ハ)請求人らは、弁護士を選任した上、当該弁護士に納付計画の立案を依頼し、それを原処分庁へ提示しようとしていた矢先に原処分がなされたため、納付計画を立案する余地さえもなくなってしまった。
(ニ)請求人らは、本件土地の地代を一銭でも多く徴収し、併せて請求人らの生活を最低限に切り詰めて、本件相続税の納付に充てようと尽力している。
ハ 請求人らが取消対象延納許可に係る分納期限までに分納税額を納付できないことには、上記イのとおり、やむを得ない事情があるにもかかわらず、上記ロに述べたような状況の中で行われた原処分は違法であり、かつ、請求人らの納税姿勢を著しくそぐもので不当である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 相続法第40条第2項は、上記1の(3)のとおり規定しているところ、これを本件についてみると、次の事実が認められる。
(イ)取消対象延納許可に係る本税、利子税及び延滞税が、長期間にわたり滞納となっていたため、平成13年4月6日付でお知らせを送付したところ、請求人らは原処分庁に対して、平成13年4月17日付で弁明書を提出し、「追いかけながら予定に沿った型で納付したい」旨申し立てているが、具体的な納付計画等の提示はなかった。
(ロ)原処分庁は、再度、平成13年4月20日付でお知らせ(最終分)を送付したところ、請求人らは、原処分庁に対して、同月24日付で納付計画書を提出し、「同年7月末日までにその一部を納付したい。また、次回の納付は平成14年7月末日としてもらいたい」旨申し立てている。
 また、Aは、平成13年8月10日付で、原処分庁に対して、「A及びE分の納付は、今しばらく待って欲しい」旨の文書を提出している。
(ハ)原処分庁は、請求人らが、上記(ロ)に記載した平成13年7月末日までの納付の約束についても履行しなかったことから、再々度、請求人らに対して、同年11月19日付でお知らせを送付したところ、請求人らは、原処分庁に対して、同月28日付で、「平成14年7月末日には何とか納入できると思う。いま一つの猶予を願いたい」旨を申し立てたが、具体的な納付計画等の提示はなかった。
(ニ)請求人らは、滞納発生後、幾度となく同様の申述べをしているにもかかわらず、取消対象延納許可に係る不履行分について、申出に係る一部納付も履行しておらず、平成13年12月18日現在、取消対象延納許可に係る本件相続税について、別表1から4まで、6、8から12までに記載したとおりの税額を滞納しており、また、この滞納となっている税金についての具体的な納付計画等の提示もしなかった。
ロ 上記イの事実を、相続税法第40条第2項の規定に照らし検討した結果、請求人らが、滞納となっている取消対象延納許可に係る税額を完納する見込みはなく、延納の条件に違反しているものと認められたため、原処分庁は、相続税法第40条第2項の規定に基づいて、原処分を行ったものであり、何ら違法又は不当なものではない。
ハ なお、請求人らは、〔1〕本件相続に係る相続財産のほとんどが底地であるばかりか、相続開始後値下がりが続いていること、〔2〕本件土地の賃借人の多くが僅少な地代であるにもかかわらず供託するなど非妥協的な立場を取っているが、粘り強く交渉すれば売却できる見込みがなくはなく、請求人らは、この売却代金を滞納となっている税金の一部の納付に充当するように期していること、〔3〕原処分が請求人らの納税姿勢を著しくそぐ不当なものである旨主張するが、これらのことが原処分に影響を与えるものではないことから請求人らの主張は、いずれも理由がない。

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3 判断

(1)Aの答述等

 A及び本件代理人は、平成14年11月29日に、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
イ 請求人らが、上記2の(1)のイで主張する、やむを得ない事情とは、本件土地を安い価格で売却しても、本件相続税の額には届かないし、本件土地は、被相続人から相続した大切な財産なので、あまり安くは売れなかったこともあり、売却の話が進まなかったということである。
ロ 本件土地の売却活動は、具体的には賃借人らに会う機会があれば口頭で買受けを勧奨していたが、賃借人らにはそれぞれに事情があり、売却の話合いは、進まなかったのが現状である。
ハ 請求人らには、お金が無かったので、本件相続税を納付するためには、本件土地を、何とかして売却しなければならないと悩んでいた。
ニ 請求人らは、原処分庁から送付されたお知らせを重要なものであると認識していたので、弁明書には自分なりにそのときの事情を書いて提出した。また、異議審理庁が本件異議決定の異議決定書において、請求人らから具体的な納付計画等の提示がなかったと述べているが、請求人らは、自分なりにその事情を記載したものである。
ホ 原処分がなされる前に何回か、原処分庁からAに対して電話連絡があり、Aは、その連絡の意味は分かっていたが、原処分庁の職員と会って話すことが苦手である上、原処分庁の職員からは書類により提出しても良いと言われていたこともあり、さらに、賃借人らとの本件土地の売却の話も全く進まず、納付資金についても以前と状況が変わらなかったことから、何も話すことができないので原処分庁の職員に会いづらく、代理人にお願いするしかなかった。
ヘ 延納許可の取消しの理由に該当していることは良く分かっていた。取消しだけはどうしても避けなければいけないことだった。請求人らは、納付の意思はあるにもかかわらず、本件土地が売却できないために、納付することができない状況である。このような大変な状況の中で本件相続税を納付しようと努力している請求人らの納税姿勢を理解して欲しい。
ト 総代Aは、毎年の所得税、地方税等を合わせ税額2千万円ほどは、遅滞なく申告・納付してきた。地代と家賃収入は、本件相続税の納付とローン返済ですべてなくなる。したがって、請求人らには、本件土地を売却して本件相続税を納付する他に方法はない状態である。請求人らは、今後も、本件土地の売却を進め本件相続税の納付に努力していきたいと考えている。

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(2)原処分について

イ 相続税法第40条第2項は、上記1の(3)のとおり規定しており、延納税額の滞納は、延納条件に違反し取消事由となる。そして、同項の「その者の弁明を聞かなければならない」とは、延納の許可を受けた者から、延納税額の滞納その他延納条件に違反したこと及びその後の資力の状況の変化等について、その存否及びその事情を聴き取ることをいい、弁明は、それを聴取することにより、取消しを決定する判断の資料となるものであって、その弁明に必ず従わなければならないものではないと解される。また、その趣旨は、納税者に弁明の機会を与えることにより、納税者の権利保護と取消処分の適正手続を図ることにあると解される。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人らは、上記1の(4)のイのとおり、原処分がされた平成13年12月18日現在において別表1から4まで、6、8から12までに記載したとおりの取消対象延納許可に係る分納税額を滞納していたから、相続税法第40条第2項の取消事由である「延納の条件に違反したとき」に該当する。
(ロ)また、上記1の(4)のロからチまでのとおり、原処分庁は、平成13年4月から12月までの間、取消対象延納許可に係る延納税額の滞納について請求人らの弁明を求める旨の文書によるお知らせを請求人らに3回にわたって送付し、これに対し請求人らはそれぞれ弁明の文書を原処分庁に提出し、上記1の(4)のリのとおり、同年12月4日に本件代理人との面談も行われているのであって、相続税法第40条第2項の規定する弁明を聞く手続が適正に行われている。
(ハ)そして、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、平成13年4月から同年12月までの間、請求人らが弁明で申し出た納付計画に沿った納付事績は、上記1の(4)のホ及びヘに記載したもの以外にはなく、請求人らが同年4月24日付の納付計画書で同年7月末に納付する旨申し出た滞納分の大半は納付されなかったこと、上記(1)の答述でA及び本件代理人が認めているとおり、請求人らは、本件土地を売却する以外に、取消対象延納許可に係る本件相続税の納付資金を調達する方法がないこと、本件土地の売却は困難な状況にあり、具体的な売却の目処は立っておらず、原処分庁に対する弁明においても具体的な土地売却についての説明はされなかったことが認められる。
(ニ)原処分庁は、請求人らの滞納状況、弁明の内容、納付事績等を基に取消対象延納許可の取消しの適否について検討した結果、請求人らについては、滞納となっている取消対象延納許可に係る税額を完納する見込みはなく、延納の条件に違反していると認めたため、相続税法第40条第2項に基づき原処分を行ったものであるところ、上記(イ)から(ハ)までの各事実に照らせば、原処分庁の判断は相当であり、原処分は適法であって、違法又は不当な点はない。
(ホ)請求人らは、上記2の(1)のとおり、〔1〕本件土地の評価額は相続開始時の5分の1以下に下がっていること、〔2〕本件土地のほとんどは底地であるが、賃借人の多くが底地売買に非妥協的な態度を取っていること、〔3〕その地代は僅少であることなどから、取消対象延納許可に係る分納期限までに分納税額を納付できないことにはやむを得ない事情があり、原処分は、請求人らが本件相続税の納税のため本件土地の売却活動等種々の試みを行い、弁護士に依頼して納付計画を提出しようとしていた矢先にされたもので、請求人らの納税姿勢を著しくそぐ違法、不当な処分である旨主張し、上記(1)のとおり、請求人らは、原処分庁が求めた弁明については、そのときの事情を自分なりに記載したものであって、請求人らは、納付の意思はあるにもかかわらず、本件土地が売却できないために納付することができない状況であり、このような大変な状況の中で納付しようと努力している請求人らの納税姿勢を理解して欲しい旨申し述べている。
 しかしながら、これらのことから請求人らが取消対象延納許可に係る本件相続税の納付に困難を来している実情や納税姿勢は窺えるとしても、これらのことが既に述べた原処分の適法性に影響を与えるものではないから、請求人の主張には理由がない。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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