ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.65 >> (平15.3.12裁決、裁決事例集No.65 952頁)

(平15.3.12裁決、裁決事例集No.65 952頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》(以下、この条の規定に基づき消費税額の控除の特例により仕入れに係る消費税額を計算する方法を「簡易課税」という。)第1項の規定を選択している建築物の清掃等を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)について、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》(以下、この条の規定に基づき課税標準額に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除する方法を「本則課税」という。)の規定に基づき課税仕入れに係る消費税額を算出し、納付すべき消費税額を算出したことが認められるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年10月1日から平成13年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)を簡易課税の適用を開始する期間であるとして、平成12年5月25日に消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第1号の規定による届出書(以下「消費税課税事業者届出書」という。)及び消費税法第37条第1項の規定による届出書(以下、この届出を「消費税簡易課税制度選択届出」といい、この届出に係る届出書を「消費税簡易課税制度選択届出書」という。)を原処分庁へ提出した。
ロ 請求人は、本件課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、本則課税を適用し、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ハ 原処分庁は、これに対し、請求人は簡易課税を適用すべきであるとして、平成14年6月25日付で別表の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年7月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月1日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年10月4日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第37条第1項は、事業者が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について消費税簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、同法第30条から同法第36条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における同法第38条第1項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の60に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)とする旨規定している。
ロ 消費税法第37条第2項は、同条第1項の規定の適用を受けることをやめようとするときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない旨規定し、同条第3項は、同条第1項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出することができない旨を規定し、さらに同条第4項は、同条第1項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書の提出があったときは、その提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、消費税簡易課税制度選択届出は、その効力を失う旨規定している。
ハ 消費税法施行規則第17条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例を受ける旨の届出書の記載事項等》第1項は、消費税簡易課税制度選択届出書には、次に掲げる事項を記載しなければならない旨規定している。
〔1〕届出者の氏名又は名称及び納税地
〔2〕届出者の行う事業の内容及び消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第1号から第5号までに掲げる事業の種類
〔3〕消費税法第37条第1項に規定する翌課税期間の初日の年月日
〔4〕〔3〕の翌課税期間の基準期間における課税売上高
〔5〕その他参考となるべき事項

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 原処分庁は、請求人に対して、次の書類を送付した。
(イ)消費税の届出書に関する案内チラシ(以下「本件案内チラシ」という。)
(ロ)消費税課税事業者届出書
(ハ)消費税簡易課税制度選択届出書
(ニ)「消費税課税事業者届出書」の記載例(法人用)
(ホ)「消費税簡易課税制度選択届出書」の記載例(法人用)
ロ 本件案内チラシには、次の記載がある。
(イ)課税期間(事業年度)に係る基準期間(前々事業年度)の課税売上高が2億円以下の法人は、その課税期間から簡易課税制度を選択することができます。
(ロ)上記(イ)の課税期間について、簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、課税期間の開始する日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出してください。
ハ 請求人は、上記イの書類の送付を受けた後、消費税簡易課税制度選択届出書を自ら記載して原処分庁に提出した。
 なお、消費税簡易課税制度選択届出書の「事業内容等」欄には「事業区分」の記載がされていなかった。
ニ 請求人の本件課税期間に係る基準期間(以下「本件基準期間」という。)における課税売上高は、42,815,365円である。
ホ 請求人の本件課税期間における課税売上高は、46,701,343円である。
ヘ 請求人の本件課税期間における事業内容は、主として建築物の清掃であるが、このほかに、内外装工事の請負及び一般廃棄物の回収も行っている。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるからその全部の取消しを求める。
イ 原処分庁から送付された本件案内チラシは、簡易課税の選択を誘導するものであるから、請求人が簡易課税制度の仕組みがわからないまま提出した消費税簡易課税制度選択届出書は無効である。
ロ また、消費税簡易課税制度選択届出書の「事業内容等」欄の「事業区分」の記載漏れについて、重要な項目であるにもかかわらず、原処分庁が書類不備の連絡をしなかったため、消費税簡易課税制度選択届出書を撤回する機会を失った。
 したがって、請求人は、預かり消費税と支払消費税から正確に消費税を計算し、正直に申告しているので、本則課税による申告を認めるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 上記1の(4)のロのとおり本件案内チラシの記載文は、簡易課税を選択する場合には、消費税簡易課税制度選択届出書の提出を忘れないように注意喚起のため案内したものであり、簡易課税を選択するよう誘導した案内ではない。
 また、簡易課税制度は、事業者の事務負担を考慮して設けられた制度であり、その適用の選択は事業者に任されている。
 そして、請求人は、本件課税期間について、上記1の(4)のハのとおり簡易課税を選択し、かつ、本件基準期間の課税売上高は上記1の(4)のニのとおり2億円以下であることから、簡易課税により申告することとなり、このことは、請求人が簡易課税を選択した結果である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ 簡易課税制度における事業の区分は、原則として、請求人が行う課税資産の譲渡等ごとに判定をすることとなる。
 したがって、消費税簡易課税制度選択届出書の事業区分を記載する欄に記載もれがあったとしても消費税簡易課税制度選択届出書の効力に影響を及ぼすものではない。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の主な争点は、簡易課税を選択している請求人が本則課税を適用して算出した仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否かにあるので、以下審理する。
(1)請求人は、本件案内チラシは簡易課税の選択を誘導するものであるから、簡易課税制度の仕組みがわからないまま提出した消費税簡易課税制度選択届出書は無効である旨主張する。
 しかしながら、本件案内チラシは、上記1の(4)のロのとおり、簡易課税の適用を受けるための基準期間における課税売上高の要件及びその手続に関する要件が記載されているのみで、簡易課税の選択を誘導するような内容ではないことが認められる。
 したがって、請求人は、上記1の(4)のハのとおり自らの判断と責任において消費税簡易課税制度選択届出書を作成して提出し、簡易課税を選択したものと認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)請求人は、消費税簡易課税制度選択届出書の「事業内容等」欄の「事業区分」の記載漏れについて、重要な項目であるにもかかわらず、原処分庁が書類不備の連絡をしなかったため、消費税簡易課税制度選択届出書を撤回する機会を失った旨、及び預かり消費税と支払消費税から正確に消費税を計算し、正直に申告しているので、本則課税による申告を認めるべきである旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
イ 上記1の(3)のイのとおり、簡易課税を選択した場合、その適用があるのは、消費税簡易課税制度選択届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間であるから、その適用以前においていったん提出した消費税簡易課税制度選択届出書を撤回できる余地があるとしても、撤回するかどうかは消費税簡易課税制度選択届出書を提出した事業者の判断と責任においてなされるべきものであり、消費税簡易課税制度選択届出書が提出された後に消費税簡易課税制度選択届出書に関する原処分庁からの連絡があったかどうかに左右されるものでないことは明らかである。
ロ また、本則課税と簡易課税のいずれを適用するかは事業者の選択に任されているものであり、いったん消費税簡易課税制度選択届出書を提出し簡易課税を選択した以上、上記1の(3)のロの規定により簡易課税の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出しない限り簡易課税が継続して適用され、本則課税が適用されることはない。
 したがって、消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、かつ、上記1の(4)のニのとおり本件基準期間の課税売上高が2億円以下である請求人については、本件課税期間においては簡易課税を適用しなければならないことは明らかである。
ハ 以上のことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)本件更正処分について
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件課税期間における仕入れに係る消費税額の計算について簡易課税を適用して行われた本件更正処分は適法である。
4 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る