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(平15.3.24裁決、裁決事例集No.65 961頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、固定資産課税台帳に登録された価格のない土地の所有権移転登記に係る登録免許税の課税標準の認定額の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成14年1月7日に国との間でP市Q町○○番○○所在の宅地1,094.07平方メートル(以下「本件土地」という。)の売買契約を締結した。
ロ 請求人は、平成14年1月24日に本件土地について、登記の目的を所有権移転、登記原因を平成14年1月24日売買、登記権利者を請求人、登記義務者を財務省、登録免許税の課税標準の額を58,313,000円、登録免許税の額を2,915,600円と記載された、嘱託者を財務省R財務局S財務事務所長とする登記嘱託書(以下「本件登記嘱託書」という。)に、登録免許税の領収証書を添付の上、所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を受けた。
ハ その後、請求人は、平成14年3月15日に原処分庁に対して、登録免許税の還付通知請求書に本件土地に係る課税標準の額の正当額を20,533,000円、登録免許税の額の正当額を1,026,600円、過誤納額を1,889,000円と記載し、請求人の納税地を所轄するE税務署長に対し登録免許税の過誤納金の還付通知をすべき旨の請求をした。
ニ 原処分庁は、平成14年4月23日付で、請求人に対して、還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成14年6月20日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び同法別表第一第1号の(ニ)のニは、売買を原因とする不動産の所有権の移転の登記は、課税標準を不動産の価額とし、税率を1,000分の50とする旨規定している。
ロ 登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定している。
ハ 租税特別措置法第84条の5《不動産登記に係る不動産価額の特例》及び同法施行令第44条の2《不動産登記に係る不動産価額の特例》第1項は、平成8年4月1日から平成15年3月31日までの間に受ける登録免許税法別表第一第1号に掲げる不動産の登記(土地に関する登記に限る。)に係る同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に掲げる固定資産課税台帳に登録された価格(以下「台帳価格」という。)のない不動産については、当該不動産に類似する不動産の台帳価格(登記の申請の日がその年の1月1日から3月31日までの期間内であるものは、その年の前年12月31日現在の台帳価格)を基礎として当該登記に係る登記官が認定した価額に3分の1を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ニ 登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第1項第3号は、登記機関は過大に登録免許税を納付して登記等を受けた事実があるときは、当該過大に納付した登録免許税の額を遅滞なく登記等の申請をした者又は登記等を受けた者の納税地の所轄税務署長に通知しなければならない旨、また、同条第2項は、登記等を受けた者は、当該登記等の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記等を受けた日から1年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年12月27日に本件登記に係る登録免許税2,915,600円をF税務署において納付している。
ロ 本件土地は、国有地の売払により請求人が取得し、本件登記に至ったものであり、嘱託による本件登記を行った平成14年1月24日(以下「本件登記日」という。)現在、台帳価格のない不動産である。

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2 主張

(1)請求人

 次の理由により、原処分に係る登録免許税の額の一部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件土地の価額の認定に際し、本件土地に類似する土地として本件土地に隣接するP市Q町所在の宅地133.83平方メートル(別表1の10の土地)(以下「本件類似地」という。)を選定し、当該土地の1平方メートル当たりの台帳価格を本件土地の地積に乗じることにより本件土地の価額を算定している。
 しかし、本件類似地は、全面が平たん地であり、かつ、前面が公道に面しているのに対し、本件土地は、公道に面しているのは入口部分4.52メートルだけの奥まった土地であり、かつ、本件土地の約23%ががけ地であることから、本件土地の価額の認定に当たり、本件類似地の台帳価格と同等とすることは不当である。
ロ 原処分庁は、本件土地の価額の認定額と本件土地を取り囲む土地14筆の台帳価格の平均値とを対比し、均衡を失していないとしてその認定額の正当性を主張するが、当該14筆の土地は、すべてが平たんで、そのうち別表1の13の土地1筆のみが公道に面する部分が狭小となっているが、他の13筆は前面が公道に面しており、本件土地の価額の認定額とこれらの本件土地と状況の異なる土地の台帳価格の平均値との比較には意味が認められない。
ハ 本件土地の財務省からの購入価額は88,000,000円であり、原処分庁の認定額は174,939,604円である。原処分庁の認定額は、実際の購入価額の2倍に近い金額であり、固定資産の評価を公示価格等の金額の7割程度とする現行固定資産評価制度の下においては、著しく高額な認定額といわざるを得ない。
 仮に本件土地の購入価額を公示価格とし、その7割を台帳価格として登録免許税の課税標準の額を算定すると、次のとおり、20,533,000円となる。
88,000,000円×0.7×(1÷3)=20,533,000円
(千円未満の端数切捨て)
そうすると、本件土地に係る登録免許税の額は、20,533,000円に税率1,000分の50を乗じた金額1,026,600円(百円未満の端数切捨て)となる。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、登録免許税法第10条第1項において当該登記の時における不動産の価額による旨規定されており、この不動産の価額とは、当該不動産の客観的な交換価値を示す価額、すなわち時価と解されているが、当分の間、登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、課税標準たる不動産の価額について、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨、及び登録免許税法施行令附則第3項は、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産の台帳価格を基礎として当該登記に係る登記機関が認定した価額とする旨規定している。
ロ ところで、本件登記嘱託書には、本件土地が台帳価格のない不動産であることから、当該不動産に類似する不動産として本件類似地の平成13年度土地課税台帳登録事項証明書を添付の上、次の算式により算定されたと認められる課税価格58,313,000円(千円未満の端数切捨て)及び登録免許税2,915,600円(百円未満の端数切捨て)の記載をして、国庫納付領収証書の添付がされていた。
課税価格=(21,399,240円÷133.83平方メートル)×1094.07平方メートル×(1÷3)=58,313,000円
(注1)(21,399,240円÷133.83平方メートル)=159,898円は、本件類似地の1平方メートル当たりの価格
(注2)1÷3は租税特別措置法第84条の5の規定
登録免許税の額=58,313,000円×(50÷1,000)=2,915,600円
ハ 原処分庁は、上記ロの算定方法により算定された課税価格について検討したところ、これを適正と認め当該登記を執行したものである。
ニ 本件土地は、広大な土地であり、分合筆を繰り返している経緯があり、このような場合、実務上の取扱いとしてG地方法務局長通達「不動産登記の登録免許税課税標準価格の認定基準について」において、台帳価格の定まっていないものについては、近傍類似の土地の台帳価格を参考として定める額としており、その不動産に類する不動産の評価額と均衡を失しないために、近傍類似の複数筆の評価額の平均単価を評価額の算定基準として採用している。
 したがって、別表1のとおり、本件土地から分筆された土地を含め、本件土地と隣接する登記上、同一地目の土地14筆すべてを近傍類似の土地として選定し、その台帳価格を参考にして評価額の平均単価を算定したところ、1平方メートル当たりの価格は162,272円であった。
 登録免許税法施行令附則第3項に規定する「類似する不動産の台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額」という趣旨は、近傍類似の土地の台帳価格そのものによるか、それに近い額にするものとされていることから、実際に評価額の算定基準として採用した上記ロの1平方メートル当たりの価格159,898円は、結果的には本件土地と類似する不動産の台帳価格と均衡を失していない範ちゅうと判断できる。
ホ 以上のとおり、本件土地の所有権移転登記は、適式かつ適法であり、登録免許税法第31条第2項にいう「登録免許税の課税標準の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことにより登録免許税の過誤納があるとき」に該当するものではないので、過誤納としての還付について、登記機関から所轄税務署長へ通知すべき理由はない。

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3 判断

本件は、原処分庁が行った本件土地に係る登録免許税の課税標準の認定額に争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人提出資料及び原処分関係資料を基に当審判所で調査した結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地に係る平成14年1月7日付の売買契約書には、本件土地の売買金額は88,000,000円と記載されている。
ロ 本件土地についての所有権移転の登記申請は、S財務事務所職員により行われ、同事務所において、登録免許税の課税標準の額算定の基礎として本件類似地の平成13年度土地課税台帳登録事項証明書の添付を行った。
ハ 原処分庁職員は、本件土地及び本件類似地の現地確認を行っていない。
ニ 当審判所が、本件土地及び本件類似地の現況を確認したところ、次のとおりである。
(イ)本件土地は、正面道路に接する間口4.52メートルの湾曲した導入路を有し、正面道路よりおおむね5メートル下がった位置に奥行きを持った袋状の総面積1,094.07平方メートルの土地であり、導入路の側面から西側に接する部分にわたって251.98平方メートルのがけ地を有している。
(ロ)本件類似地は、正面道路に面し、正面道路とその高さをほぼ同じくする方形の土地である。
ホ 本件土地は、昭和53年6月5日、別表1の7の土地を分筆、昭和57年8月16日、本件類似地及び別表1の11の土地を分筆している。

(2)本件登記に係る課税標準及び登録免許税

 上記(1)に基づき、本件登記に係る課税標準及び登録免許税の額について、検討する。
イ 本件土地は、上記1の(4)のロのとおり、本件登記日において台帳価格がなかったのであるから、登録免許税の課税標準たる本件土地の価額は、本件土地に類似する土地の平成13年12月31日現在における台帳価格を基礎として登記官が認定した価額の3分の1の金額となる。
ロ そのため、原処分庁は、本件土地に類似する土地として本件類似地を選定し、本件類似地の平成13年度の台帳価格から当該土地の1平方メートル当たりの価額を算定し、当該価額を本件土地の地積に乗じることにより本件土地の価額を認定したものである。
 しかしながら、上記(1)のニに記載のとおり、本件土地は、正面道路には導入路の入口幅4.52メートルしか接しておらず間口が狭小の袋地で、導入路は湾曲し、かつ、下り形状をしていることから、本件土地の大部分は正面道路よりおおむね5メートル下がった場所に位置するとともに、総面積の約23%ががけ地であるのに対して、原処分庁が選定した本件類似地は、正面道路におおむね同じ高さで面した方形の土地でがけ地も存在しない。
ハ 原処分庁は、上記(1)のホに記載のとおり、昭和57年8月16日に行われた本件土地からの本件類似地の分筆の経緯を捉え、本件土地から分筆された本件類似地を本件土地に類似する土地に選定したものと認められる。一般に、分筆がされた経緯がある場合には、本件土地及び当該分筆土地は、当該分筆前に一体として利用されていた土地の一部として所在していたものである以上、当該分筆土地を類似地として選定することには一応の合理性があると認められるが、上記(1)のニに記載のとおり、本件土地と本件類似地の現況は著しく異なることから、たとえ本件土地に類似する土地として本件類似地を選定したとしても、本件類似地の台帳価格に本件土地が有する特殊事情を考慮した修正を加える必要があるものと認められる。
ニ また、原処分庁は、本件土地を取り囲む同一地目の土地14筆すべてを近傍類似土地として選定し、その台帳価格の平均単価を算定したところ、1平方メートル当たりの単価が162,272円であり、本件登記の申請に際し採用した本件類似地の1平方メートル当たりの単価159,898円は、結果的には本件土地の評価額と均衡を失しておらず妥当である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁試算の平均単価の算定の基となった土地は、本件土地の近傍の土地ではあるが、本件土地とはそれぞれ形状の異なる土地であり、その台帳価格の平均単価を計算し、算定された1平方メートル当たりの単価が、本件類似地の1平方メートル当たりの単価と遜色ないことを理由として本件類似地の1平方メートル当たりの単価を本件土地の評価に採用することは相当ではなく、その主張には理由がない。
ホ 次に、請求人は、本件土地の台帳価格に相当する金額を購入価額の88,000,000円に0.7を乗じる方法により算定する旨主張するが、当該算定方法は法令の規定に基づく方法とはいえず、採用することはできない。
ヘ ところで、登録免許税の課税標準の額は台帳価格を基礎としており、そして台帳価格については、その算定のための評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定めた地方税法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項に規定する固定資産評価基準(昭和38年12月25日自治省告示第158号)に定める「画地計算法」に基づき価額が算定されており、当審判所においてもこの台帳価格の算定方法によることが合理的であると認められる。
 そこで、上記ハに記載のとおり、本件類似地を本件土地に類似する不動産として選定することには一応の合理性が認められることから、本件類似地の台帳価格の算定の基礎となった路線価を基に、「画地計算法」により本件土地の価額を算定したところ、別表2のとおりである。
ト そうすると、登録免許税の課税標準たる本件土地の価額は、別表2の〔6〕の算定価額71,318,371円に3分の1を乗じた23,772,000円(千円未満の端数切捨て)となり、登録免許税の額は23,772,000円に税率1,000分の50を乗じた1,188,600円(百円未満の端数切捨て)となる。
チ 以上のとおり、本件登記に係る課税標準の額は23,772,000円、登録免許税の額は1,188,600円となり、既に納付した2,915,600円と1,188,600円との差額1,727,000円は過大に納付されたこととなる。
 したがって、請求人の納税地を所轄するE税務署長に対し還付の通知をすべき理由がないとした本件通知処分は、その限りにおいて違法であるから、その一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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