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(平15.1.27裁決、裁決事例集No.65 982頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が他の相続人と共同で相続し、共有登記をしている建物について、共有物分割を原因とする持分移転の登記申請をしたことにつき、同申請に係る登録免許税の額の計算上、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第84条の4《共有物分割に係る不動産の所有権の移転登記の税率の特例》第4項の規定による特例(以下「本件特例」という。)の適用があるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年3月8日に、P県Q市R町○丁目○番○に所在する土地216.64平方メートル(以下「甲土地」という。)並びに同所同番地に所在する建物(家屋番号○の○)及び附属建物(以下、これらを併せて「本件建物」という。)について、要旨次の事項を記載した登記申請書(以下「本件登記申請書」といい、本件登記申請書に係る申請を「本件登記申請」という。)を原処分庁に提出し、本件登記申請に係る登録免許税を本件登記申請書に印紙をちょう付する方法により納付した。
 なお、本件登記申請のうち本件建物に係る登記申請を、以下「本件建物登記申請」という。
(イ)登記の目的 Aの持分3分の1の全部移転
(ロ)原因    平成13年11月27日共有物分割
(ハ)権利者   請求人
(ニ)義務者   A
(ホ)課税価格  甲土地3,527,000円及び本件建物685,000円
(ヘ)登録免許税 甲土地21,100円及び本件建物34,200円
ロ 請求人は、平成14年3月29日に、本件建物登記申請に係る登録免許税の税率には本件特例の適用がされ、登録免許税の額34,200円のうち30,100円が過納付であり、その還付を求める旨記載した「過納付登録免許税の還付請求書」を原処分庁に提出したところ、原処分庁は、当該登録免許税の税率には本件特例の適用は受けられず、過誤納金の事実は認められないとして、同年4月15日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成14年6月11日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》は、登録免許税の課税標準及び税率は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、別表第一の課税標準欄に掲げる金額又は数量及び同表の税率欄に掲げる割合又は金額による旨規定し、当該別表第一第1号(二)ハは、不動産の所有権の移転の登記のうち共有物の分割による移転の登記に係る登録免許税の課税標準は当該不動産の価額、その税率は1000分の6である旨規定している。
ロ 措置法第84条の4第1項は、平成12年4月1日以後に受ける登録免許税法別表第一第1号(二)ハに掲げる登記に係る登録免許税の税率は、同法第9条の規定にかかわらず1000分の50とする旨規定している。
ハ 措置法第84条の4第4項は、同条第1項に規定する登記のうち共有物の分割による建物の所有権の持分の移転登記に係る建物(以下「対象建物」という。)につき、当該登記(以下「対象登記」という。)前に分割又は区分による表示の変更の登記(以下「分割登記又は区分登記」という。)がされている場合において、当該対象登記が当該分割登記又は当該区分登記に係る他の建物の全部又は一部の持分の移転登記と同時に申請されたものであるときは、当該対象登記に係る登録免許税の税率は、当該対象建物の所有権の持分の移転に係る建物の価額のうち分割登記又は区分登記前の所有権の持分に応じた対象建物の価額に対応する部分に限り、同条第1項の規定にかかわらず1000分の6とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 不動産の登記簿謄本によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件建物及びP県Q市R町○丁目○○番○に所在する土地300.06平方メートル(以下「本件土地」という。)には、昭和63年10月6日相続を原因とし、平成2年4月27日受付で、本件建物及び本件土地の所有権のうち、その所有権の持分3分の2が請求人に、同持分3分の1がAに移転登記されている。
(ロ)本件土地は、平成13年12月20日付で、甲土地とP県Q市R町○丁目○○番○○に所在する土地84.52平方メートル(以下「乙土地」という。)とに分筆する登記がされている。
(ハ)本件建物及び甲土地は、平成13年11月27日共有物分割を原因とし、平成14年3月8日受付で、Aの持分3分の1が請求人に移転登記されている。
(ニ)乙土地は、上記(ハ)と同原因及び同日受付で、請求人の持分3分の2がAに移転登記されている。
ロ 原告を請求人、被告をAとする○○高等裁判所の平成○年○月○日判決(平成○年(○)第○○号共有物分割請求控訴事件。以下「本件判決」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件建物の分割については、これを請求人の単独所有とすること及びその代償としてAが取得する土地の奥行を21.9センチメートル増大させることで両当事者の分割案が一致しているので、この点に関する両当事者の主張に従って本件土地及び本件建物を分割する。
(ロ)請求人は、上記(イ)により甲土地及び本件建物を所有し、Aは、乙土地を所有する。
ハ 乙土地に係る持分移転の登記申請に係る登録免許税の税率は、措置法第84条の4第2項の規定が適用され1000分の6である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分庁は、本件建物登記申請に係る登録免許税の税率は、措置法第84条の4第1項の規定による1000分の50としているが、本件の場合の登録免許税の額は、次の理由により、本件建物の課税価格685,000円に本件特例を適用した税率1000分の6を乗じて算定した4,100円が正当であり、既に納付済の税額34,200円のうち30,100円は法律上納付義務がなく過誤納金であるから、本件通知処分は違法であるので、その取消しを求める。
イ 措置法第84条の4の立法趣旨は、共有物分割を原因とする所有権の移転登記に係る登録免許税の税率が、売買を原因とする所有権の移転登記よりも低いことに着目し、登記の事実上の原因が売買であるにもかかわらず共有物分割の登記に名を借りて登録免許税を免れようとする者に対して、当該売買部分につき、売買並みの税率により登録免許税を課するものである。
 本件の場合、請求人は、上記1の(4)のロの本件判決のとおり、本件建物につきAが所有する持分3分の1を取得し、その代償として、本件土地の分割によって取得すべき土地から2.36平方メートル(上記1の(4)のロの(イ)のAが取得する土地の奥行を21.9センチメートル増加させることによる増大面積)を、Aに譲渡することになったものであり、本件建物登記申請は、事実上売買に基づくものを共有物分割に藉口して申請するという要素及び登録免許税を不当に免れようとする要素が皆無であるので、本件特例の適用が認められるべきである。
 また、本件建物は、分割登記又は区分登記をした事実がないが、措置法第84条の4は、本件建物とその代償とした土地との等価交換を含むような共有物分割の方法を想定せず立法されたもので、その限りで周到な配慮を欠いた不備な立法と言わざるを得ないものであるから、原処分庁は、当該規定の立法の趣旨に則り、この立法の不備を解釈、運用によって補うべきである。
ロ 措置法第84条の4第4項で準用される第2項後段は、「当該対象登記に係る登録免許税の税率は、当該対象建物の所有権の持分の移転に係る建物の価額のうち分割登記前の所有権の持分に応じた対象建物の価額に対応する部分に限り、前項の規定にかかわらず1000分の6とする」と読み替えられて適用されるところ、本件判決により本件土地と本件建物の分割の結果、請求人は本件建物の所有権につき100%の持分を取得し、本件建物に対するAの所有権は0%となったものであるから、この「分割登記前の所有権の持分」とは、請求人の所有権の持分100%であり、それに応じた「対象建物の価額に対応する部分」が本件建物の全部となることは当然であるので、本件建物全部の価額について本件特例の適用対象となるのは当然である。
ハ Aは、本件判決により、本件建物の持分3分の1を請求人に移転し、その代償として乙土地の一部(面積2.36平方メートル)を取得しているが、原処分庁は、乙土地全体の移転登記申請に係る登録免許税の税率に措置法第84条の4第2項の適用を認めており、このことは、乙土地の一部(面積2.36平方メートル)について、「当該対象土地の所有権の持分に応じた対象土地の価額に対応する部分」として同項の適用を認めたものであり、本件判決により乙土地の一部がAの所有となっていた以上、もとより正当な処置である。
 しかしながら、原処分庁は、請求人が本件建物につき100%の持分を有することを無視して、本件建物登記申請に係る本件特例の適用を拒否したのであり、このことは、明らかに首尾一貫性を欠き、矛盾した法運用をしたものといわざるを得ない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 共有物分割を原因とする登記申請の登録免許税の税率は、登録免許税法第9条の規定のとおり、1000分の6とされているところ、平成12年4月1日以降の当該登記申請に係る登録免許税の税率は、措置法第84条の4第1項の規定のとおり、原則として1000分の50とされたものである。
 そして、その例外として措置法第84条の4第4項では、建物に関する共有物分割を原因とする登記申請について、次に掲げる二つの要件を備える場合に限って、共有物分割による持分の移転に係る建物の価額のうち分割登記又は区分登記の前に有していた持分に対応する部分に限り、同条第1項の規定にかかわらず登録免許税の税率を1000分の6とする旨規定しているものである。
(イ)共有物分割による持分移転の登記申請に係る建物のすべてが、同一の分割登記又は区分登記によって生じたものであること。ただし、分割又は区分された全部について同時に申請する必要はなく、一部の申請でも可能である。
(ロ) 共有物分割による持分移転の登記が、上記(イ)の分割又は区分で生じた他の建物の共有物分割による持分移転の登記と連件で同時に申請されていること。
 つまり、本件特例を適用するには、建物の分割登記又は区分登記がされた後に、その分割又は区分によって生じた建物又は区分建物の全部又は一部について、共有物分割による持分移転の登記が同時に申請されることが必要になる。
ロ これを本件についてみると、本件建物は、本件建物登記申請前において、分割登記又は区分登記がされた事実は認められない。
 したがって、本件建物登記申請に係る登録免許税については、本件特例が適用されないことは明らかである。
ハ 請求人の主張について
(イ)請求人は、本件判決により持分の移転登記をしたものであり、登録免許税を不当に免れようとしているものではなく、措置法第84条の4の立法趣旨に反するものではないから、本件特例が適用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件建物登記申請をするに至った原因は、請求人の本件建物の取得経緯にあるのであって、本件特例が適用されない責任を原処分庁に求めているのは当を得ていないというべきである。
 なお、本件特例が適用されるための要件は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおりであり、本件建物について本件特例が適用できないことは上記ロのとおり明らかである。
 また、本件特例は、登録免許税の軽減という租税負担の特別の規定であることから、その解釈、適用に当たっては、厳格性と明確性が要請されるのであって、その要件をたやすく拡張することはできないというべきである。
(ロ)請求人は、本件特例により登録免許税が軽減される価額の範囲について、実体として請求人が本件建物の所有権を100%取得していることを理由として、本件建物の価額全部について本件特例が適用されるのが当然である旨主張する。
 しかしながら、本件特例は、共有物分割による土地の所有権の持分移転の登記申請がされた場合に、〔1〕当該土地が、当該登記申請前に分筆登記がされている土地であって、かつ、〔2〕当該登記申請が、当該分筆登記によって生じた他の土地(全部でも一部でも可)についての共有物分割による持分移転の登記申請と同時に申請されたものであるときは、共有物分割による持分移転の登記の前に有していた持分に応じた土地の価額に対応する部分に限って、登録免許税の税率を1000分の6とする例外を定めたものであり、土地であれば分筆登記と、建物であれば分割登記又は区分登記と共有物分割による持分移転の登記の申請が一体としてされることを前提としているのであって、分筆登記等の前の所有権の持分が本件特例により登録免許税が軽減される価額の範囲の認定の基準となる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、原処分庁が、乙土地について措置法第84条の4第2項を適用し、本件建物について本件特例を適用しないのは一貫性がない旨主張する。
 しかしながら、乙土地については、上記(ロ)の〔1〕及び〔2〕の要件を備えているから、措置法第84条の4第2項を適用した原処分庁の税額認定処分は適法であり、本件建物に本件特例が適用されない理由は上記ロで述べたとおりである。
ニ 以上のとおり、本件登記申請書に記載されている登録免許税の課税標準及びその税額は、いずれも誤りがないことから、本件通知処分は適法である。

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3 判断

(1)本件特例の適用について

 本件は、本件建物登記申請に係る登録免許税の額の計算上、本件特例の適用があるか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 不動産の所有権の移転登記のうち、共有物分割による移転登記に係る登録免許税の税率は、上記1の(3)のイの登録免許税法第9条及び同条別表第一第1号(二)ハの規定のとおり1000分の6とされているところ、平成12年4月1日以降の当該移転登記に係る登録免許税の税率は、上記1の(3)のロ及びハの措置法第84条の4第1項及び第4項の規定のとおり、原則として1000分の50とされ、その例外として次の二つの要件を備える場合に限って、本件特例を適用した税率1000分の6となる。
(イ)共有物分割による持分移転の登記申請に係る建物すべてが、もともと共有の1棟の建物であって、同一の分割登記又は区分登記によって生じたものであること。
(ロ) 共有物分割による持分移転の登記が、上記(イ)の分割又は区分によって生じた他の建物の共有物分割による持分移転の登記と同時に申請されていること。
ロ これを本件についてみると、本件建物の登記簿謄本によれば、本件建物が分割登記又は区分登記により生じたものであるとは認められない。
 そうすると、本件建物が、もともと共有の1棟の建物から分割登記又は区分登記によって生じた建物ではないことは明らかであり、上記イの本件特例を受けるための要件を満たした建物ということができないことから、本件建物登記申請に係る登録免許税の税率は、本件特例を適用することができず、措置法第84条の4第1項の規定のとおり1000分の50とするのが相当である。
ハ 請求人は、本件判決により持分移転の登記をしたものであり、登録免許税を不当に免れようとしているものではなく、措置法第84条の4の立法趣旨に反するものではないから、本件特例の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件特例が適用されるためには、上記イの(イ)及び(ロ)の要件が備わることが必要であるところ、本件建物は、上記ロで述べたとおり要件が備わっていないのであるから、本件特例の適用がないことは明らかである。
 また、本件特例は、登録免許税の軽減という租税負担の特別の規定であることから、その解釈、適用に当たっては、厳格性と明確性が要請されるのであって、その要件をたやすく拡張することはできないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、本件特例により登録免許税が軽減される価額の範囲について、実体として同人が本件建物の所有権を100%取得していることを理由として、本件建物の価額全部について本件特例が適用されるのが当然である旨主張する。
 しかしながら、本件建物登記申請において、本件建物が本件特例の適用要件を具備していない建物であることは、上記ロで述べたとおり明らかであり、本件特例を適用することができないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 請求人は、原処分庁が乙土地については措置法第84条の4第2項を適用し、本件建物について本件特例を適用しないのは一貫性がない旨主張する。
 しかしながら、乙土地に係る共有物分割の登記申請が、措置法第84条の4第2項の規定により、登録免許税の税率が軽減されたとしても、そのことをもって、本件建物登記申請に係る登録免許税の税率に本件特例が適用されるものではないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上により、本件建物に係る登録免許税の課税標準685,000円については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく当審判所の調査の結果によっても相当と認められ、これに上記ロの登録免許税の税率1000分の50を乗じて算定すると、その額は34,200円(百円未満の端数切捨て)となり、本件建物登記申請に係る登録免許税の額と同額となるから、本件通知処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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