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(平15.6.26裁決、裁決事例集No.65 1024頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項に規定する連帯納付義務者から金銭による贈与を受けた審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する第二次納税義務を負わせた事案であり、主な争点は徴収法第39条の規定の適用要件として、納税者の行為が詐害行為又はこれに準ずる行為(以下「詐害行為等」という。)に該当することを要するか否かである。

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(2)審査請求に至る経緯

イ A及びBは、平成3年7月19日に死亡したCの相続人であるが、この相続開始に係る相続税について、平成4年1月20日に、Bは申告書及び相続税法第39条第1項に規定する延納申請書を、また、AはBに対する遺留分減殺請求権の行使による将来の申告内容を示した申告書をそれぞれ単独でH税務署長に提出した。
ロ H税務署長は、Bからの上記イの延納申請に対し、平成4年3月24日付で相続税法第39条第2項の規定に基づき延納を許可した。
ハ Aは、Bとの間で交された遺留分減殺請求権の行使による遺留分の価額弁済についての合意に基づき、平成4年7月27日に課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を零円とした相続税の申告書をH税務署長に提出した。
ニ H税務署長は、Bに対し、平成5年2月19日付で上記イの相続開始に係る相続税の更正処分をした。
ホ Bは、H税務署長に対し、上記ニの更正処分によって増加した相続税額について、平成5年3月5日に相続税法第39条第1項に規定する延納申請書を提出した。
ヘ H税務署長は、Bからの上記ホの延納申請に対し、平成5年9月28日付で相続税法第39条第2項の規定に基づき延納を許可した。
ト H税務署長は、Aに対し、上記イの相続開始に係る相続税について、平成6年8月8日付で課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を零円とする更正処分をした。
チ H税務署長は、Bが上記ロの延納許可に係る分納税額をその納期限までに納付しなかったため、Bに対し、納期限が経過したすべての分納税額について平成11年2月22日付で督促状を送付した。
リ H税務署長は、Aに対し、平成11年3月1日付で「相続税の連帯納付義務のお知らせ」と題する文書(以下「本件お知らせ文書」という。)を送付した。
ヌ H税務署長は、Bが上記ヘの延納許可に係る分納税額をその納期限までに納付しなかったため、Bに対し、納期限が経過したすべての分納税額について平成11年3月31日付で督促状を送付した。
ル H税務署長は、上記チ及びヌの分納税額について、Aに対し平成11年3月31日付で連帯納付義務に係る督促状(以下「本件督促状」という。)を送付した。
ヲ H税務署長は、上記ロ及びヘの延納許可について、平成11年5月31日付で相続税法第40条第2項の規定に基づく取消処分をした。
ワ H税務署長は、上記ヲの取消処分により納付すべき税額について、Bに対し平成11年6月7日付で督促状を送付した。
カ H税務署長は、上記ワの納付すべき税額について、Aに対し平成11年6月7日付で連帯納付義務に係る督促状を送付した。
ヨ 原処分庁は、B及びAの有する滞納国税について、平成11年8月4日にH税務署長から国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項に規定する徴収の引継を受けた。
タ 原処分庁は、Aの別表1に記載の滞納国税を徴収するため、Aから金銭の贈与を受けた請求人に対し、平成13年12月20日付で徴収法第39条の規定に基づき第二次納税義務の納付限度額を66,802,350円とした納付通知書による告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
レ 原処分庁は、本件告知処分に係る税額がその納期限である平成14年1月21日までに納付されなかったため、請求人に対し、同年2月7日付で納付催告書による督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。
ソ 請求人は、原処分を不服として、本件告知処分については平成14年1月15日に、また、本件督促処分については同年2月27日にそれぞれ審査請求をした。
ツ そこで、これらの審査請求について併合審理する。

(3)関係法令等

イ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下、これらを併せて「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められるときは、当該無償譲渡等の処分によって利益を受けた者は、受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
ロ そして、国税徴収法基本通達(以下「徴収法基本通達」という。)第39条関係1において、「徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは、納付通知書を発する時の現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が、納税者の国税の総額に満たないと認められることをいい、その判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はない旨、また、徴収法基本通達第39条関係8において、「基因すると認められるとき」とは、その無償譲渡等の処分がなかったならば、現在の徴収不足は生じなかったであろう場合をいう旨それぞれ定めている。
 さらに、徴収法基本通達第39条関係12において、受けた利益が金銭である場合の「利益が現に存する限度」の額について、受けた金銭の額から、その金銭の譲受けのために支払った対価又は費用の額を控除した額とし、その利益は現に存するものと推定する(明治39.10.11大判参照)旨定めている。

(4)基礎事実

 請求人が、Aから別表2に記載のとおり金銭による贈与(以下「本件贈与」という。)を受け、各年分の法定申告期限までに住所地を所轄するJ税務署長に対して贈与税の申告をしたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 徴収法第39条と詐害行為取消しとの関係について
(イ)徴収法第39条の趣旨及び基本理念は、「この条の納税義務も、通則法第42条《債権者の代位及び詐害行為の取消し》の詐害行為の取消権も、実質的には、ともに納税者の詐害行為又はこれに準ずる行為に対する租税の徴収の確保を図ろうとするもの」であり、したがって、「この条においては『債権者を害することを知り』の明文の規定はないが、詐害行為の取消しをすることができる場合及びこれに準ずる場合に、この条が適用されると考えて差し支えない」(吉国二郎ほか「国税徴収法精解」359、360頁)とされているのであるから、同条は、条文に形式的に該当するとの理由だけで適用すべきでなく、納税者の行為が詐害行為等に該当するとの実質的判断を経て適用されなければならない。
 上記の趣旨は、名古屋地方裁判所平成元年2月20日判決(昭和62年(行ウ)第47号第二次納税義務の納付告知処分取消請求事件・判タ707号120頁)において、国税当局からも主張されているし、東京地方裁判所昭和45年11月30日判決(昭和43年(行ウ)第91号行政処分取消請求事件・判時613号23頁)でも示されている。
 また、徴収法第39条の第二次納税義務は、不当利得返還に類似するものと解したとしても、不当利得(民法第703条)は、「法律ノ原因ナクシテ」利益を得た場合に適用される制度であって、贈与は民法が規定する法律上の原因であり、贈与によって得られた利益は「不当利得に類似するもの」ではないから、贈与によって得られた利益に対して、「不当利得に類似するもの」として、徴収法第39条を適用することはできない。
(ロ)本件贈与は、本来の納税義務者Bの相続税の履行状況が全く念頭になく行われていることや、Aが連帯納付義務の存在を初めて認識した本件お知らせ文書の到達日である平成11年3月2日以前に行われていることから、Aは連帯納付義務を免れるという詐害の意思は持ち得ないのであり、したがって、本件贈与が詐害行為等に該当しないことは明らかである。
ロ 「法定納期限の一年前の日」の解釈について
 徴収法第39条は、詐害行為等があった場合に適用されるべき規定であるから、同条中の「法定納期限の一年前の日」とは詐害意思の存否の判断に資する時でなければならず、また、仮に「法定納期限の一年前の日」をCの相続に係る相続税の法定納期限平成4年1月20日の1年前の日である平成3年1月20日と解すると、〔1〕AがBに対して行った遺留分減殺請求に係る合意の日(平成4年4月30日)以前、あるいは、Cの生前中(平成3年1月20日から同年7月19日)にAから固有財産の贈与を受けた者も徴収法第39条の第二次納税義務を負うこととなり不合理が生ずるし、また、〔2〕Aや請求人の全くあずかり知らぬところでBの納税義務について20年もの長期にわたり延納することが許可された結果、本件お知らせ文書や本件督促状がAに送達された平成11年3月2日あるいは同年4月1日から実に8年以上も遡って、Aから贈与を受けた者が徴収法第39条の第二次納税義務の対象となり得るという異常な結果を招来することとなるのであるから、「法定納期限の一年前の日」とは、本件の場合、Aに本件督促状が送達された平成11年4月1日、もしそうでないとしても、本件お知らせ文書が送達された平成11年3月2日と解すべきである。
 また、相続税法第34条第1項の連帯納付責任に基づく徴収をする場合は、適正手続の保障の観点から、連帯納付義務者に対する納税金額と納期限その他を定めた告知が必要であり、納期限を明示した告知をしておれば、同期限が法定納期限となる(金子宏「租税法」第8版387頁)。この場合も「法定納期限の一年前の日」とは同期限と解すべきことになる。
ハ 補充性に違反していることついて
 Bが差し入れた担保を処分してもBの相続税を回収できなかったのは、H税務署長のBに対する徴収行為、Bが延納の担保として差し入れたD株式会社(以下「D社」という。)の株式の管理行為が違法であったことに基因しているのであるから、本件の場合、D社の株式の1株当たり評価額が、相続開始時の11,185円から、平成13年12月21日にBに対する滞納処分のため実施した公売時の見積価額800円と約14分の1に減価した経緯まで明らかにしなければ、第二次納税義務の要件である「滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足する」についての判断とはいえず、補充性に違反している。
ニ Aの連帯納付義務について
 Aに対して、相続税法第34条第1項に基づき、連帯納付責任を追及することは、次に述べるとおり、違法あるいは信義則違反、徴収権の濫用として許容されないのであるから、第二次納税義務の本件告知処分も違法として許容されない。
(イ)相続税法第34条第1項の趣旨からして、相続税債権の満足を得られることが確実であれば、連帯納付義務は適用されないというべきところ、本件の場合、Bの相続税については、担保を徴したうえで延納許可がなされ、かつ増担保要求等の制度によりその全額を回収できる状況が維持されることになるのであるから、Bが納付すべき相続税はH税務署長により確実に徴収され得る状況になったというべきであって、Aに対して同項の連帯納付義務を適用して督促をすることは違法である。
(ロ)上記1の(2)のロ及びヘのBに対する相続税の延納許可に際し、法令の基準に従った担保が徴されていれば、Bが納付すべき相続税の徴収が不能になるという事態は発生し得ないにもかかわらず、Bの納付すべき税額(利子税、延滞税及び各種加算税は除く)の85.82%もの未回収が生じたことは、増担保要求等を含め担保の徴し方において法令の手続違反があったというべきである。
 また、D社をはじめとするD社グループ各社の株式は非上場かつ取引相場のない株式で、延納許可時は延納担保として認められていなかったのであり、もし、これらの株式を担保として徴し延納許可をしていたならば、通則法第50条《担保の種類》及び国税通則法基本通達第50条関係1に違反して、徴してはならない担保を徴したことになる。
(ハ)本件督促状及び上記1の(2)のカのAに対する連帯納付義務に係る督促状は、通則法第37条《督促》に基づき発せられたものであって、納付すべき税額が明確になっていなければならないところ、これらの督促状からは、Aの納付すべき税額が不明であるからこれらの督促状は無効である。
(ニ)多くの学説では、各相続人らの固有の相続税の納税義務の確定という事実から連帯納付義務が確定しているとして直ちに徴収手続に移ることは、連帯納付義務者にとって不意打ちとなるため、許されるべきではなく、通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第2項第2号、同法第32条《賦課決定》の賦課課税方式による確定手続が必要であるとされているところ、本件の場合、Aは、Bとの共同申告が望めないため、単独で相続税の申告を行ったものであり、Bの申告内容を全く知らなかったこと及び相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》の軽減を受けたために本来の納税額は零円となったことから、Aは連帯納付義務を追及されることは事前に全く予想できなかったのである。
 以上のことからすると、確定手続が採られずなされたAの連帯納付義務に係る督促は、Aに対する不意打ちであることは明らかであって違法である。
 また、確定手続は不要とする考えに立ったとしても、連帯納付義務者に、不意打ちを与えることのないようにその防止策として納税告知を行うべきであるとされているところ、本件の場合、納税告知がなく督促処分が行われたのであるから違法である。
(ホ)国税通則法基本通達第8条関係4の適用において、Aは共同申告をしていないことから同条関係4の(1)に該当せず、また、上記1の(2)のニのBに対する更正処分に係る更正通知書はAに送達されていないことから「更正が同時にされた」と解することはできないことや、同条関係4の(2)の更正が同時になされた者が同条関係4の(1)の共同申告の場合と同じ扱いをするのは、更正が同時になされた者が、共同申告の場合と同じく、互いに他の共同相続人が納付すべき相続税額をはじめとする申告内容を了知し得るからなのであり、そうすると、本件の場合、Aに対する更正通知にはBが元来納付すべきであった税額の総額の記載がなく不明であって、上記要件は全く満たされていないのであるから、同条関係4の(2)が適用される余地はない。
 したがって、本件では国税通則法基本通達第8条関係4の(4)に基づく納税の告知が必要であるところ、Aの連帯納付義務に係る督促処分は納税の告知を欠いているから同基本通達の定めに違反している。
(ヘ)本件に通則法第73条《時効の中断及び停止》第4項を適用すると、Aは自ら全く関与しないBの延納手続によって時効の進行が停止してしまう結果、Aは法定納期限の20年後であっても連帯納付義務を負担するという著しく不当な結果となるから、同項は延納許可を受けた主たる納税義務者との間においてのみ適用がある、少なくとも相続人全員が共同して相続税の申告及び延納許可申請を行った場合にのみ適用があると解すべきである。
 そうすると、本件の場合、相続税の法定納期限からAに対する督促処分まで7年以上経過しているのであるから、Aの相続税の連帯納付義務は通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》の規定によって既に時効が成立し、消滅しているというべきである。
(ト)Aの「相続により受けた利益の価額」は、平成6年8月8日付更正通知書によれば「〔1〕取得した財産の価額」P円から配偶者の税額軽減前の「〔7〕相続税額」Q円を控除したR円であり、Aはこの額を限度として、連帯納付義務を負うとされるところ、Aの相続税の連帯納付義務に係る督促状に記載された金額は合計でT円であり、Aが相続により受けた利益の価額をはるかに上回った過大なものであるから、この点からもAに対してなされた督促処分は相続税法第34条第1項に違反する。
ホ 合理的理由に基づく贈与と徴収法第39条について
(イ)「贈与が実質的に見て合理的な理由に基づく場合には、そもそも徴収法第39条を適用すべきでない」(東京地裁昭和45年11月30日判決・判時613号23頁、金子宏・判例評論149・6参照)とされているところ、本件贈与は仮装の財産移転などでは決してなく、子、あるいは血縁の者や親交の深い者に対して贈与税を支払った上でなされた贈与の最も一般的な形態であり、合理的な理由に基づくものであるから、徴収法第39条を適用すべきでない。
(ロ)贈与により私法上完全に請求人の財産となったにもかかわらず、請求人の所有財産のままでAの財産とみなして徴収しようとするのであれば、よほど明確な理由がなければ私法秩序を乱し、請求人の財産権を侵害することは明らかである。
 したがって、贈与が詐害行為等に該当する場合に、はじめて徴収法第39条を適用すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 徴収法第39条の第二次納税義務と詐害行為について
 徴収法第39条は、詐害行為の取消しという訴訟手続に代えて、簡易、迅速に国税の徴収を図ろうという趣旨の下、公平化及び効率化の観点から民法第424条のように直接的に詐害の意思の存在を要件とはせずに、それに代わる実質的な判断基準(〔1〕国税の法定納期限の1年前の日以後の行為に限定し、〔2〕滞納者の無償譲渡等の処分のみを対象として、〔3〕国税の徴収不足が無償譲渡等の処分に基因すると認められる場合)を徴収法第39条の要件として織り込み、その要件を満たす行為を、国税徴収上、詐害行為等として、第二次納税義務を課すこととしているものであり、徴収法第39条の第二次納税義務は、〔1〕特殊関係者の場合を除き、利益が現に存する限度において納税義務を負うこと、〔2〕詐害行為取消権による取消しが、総債権者の利益のために効力を生ずるのに対し、納付通知書による告知に係る国税についてのみ納税義務を負うことなど、詐害行為取消しとは法律的構成及び効果を異にしていることは明らかである。
 また、徴収法第39条は、昭和34年改正前の国税徴収法(以下「旧徴収法」という。)第4条ノ7に対応する規定であり、同条による第二次納税義務制度の一層の合理化を意図して制定されたものである。そして、旧徴収法第4条ノ7では、無償譲渡等の処分が「差押ヲ免ルル為」されたことを要件として明記されていたものが、現行の徴収法第39条では、要件とはされていない。
 そうすると、Aの連帯納付義務について、本件告知処分がされた日現在において徴収不足と認められることが、法定納期限の1年前の日以後に行われた本件贈与に基因すると認められたことから、原処分庁は、本件贈与により受けた金銭の額から本件贈与に係る贈与税の額を控除した金額を限度として、請求人に徴収法第39条の第二次納税義務を賦課するため、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項に規定する納付通知書により本件告知処分を行ったものであり、また、本件告知処分に係る国税の納付すべき金額がその納付の期限までに納付されなかったため、徴収法第32条第2項の規定に基づき本件督促処分を行ったものであるから、原処分はいずれも法令に従って適法に行われたものである。
ロ 「法定納期限の一年前の日」の解釈について
(イ)徴収法第39条の「法定納期限の一年前の日」について、請求人が主張するように解すべき法令上の規定や相続税に係る第二次納税義務について固有財産の贈与を対象から除く、あるいは、一定期間を経過した行為は第二次納税義務の対象としないというような法令上の規定はない。
 また、相続税法第34条第1項の連帯納付義務は、相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、本来の納税義務とともに同一の租税債務を履行するという共通の目的を有するものであり、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収にあたる所轄庁は、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことが許されるものであるから、Aの連帯納付義務の法定納期限は、Bの相続税の法定納期限である平成4年1月20日と解するのが相当で、その1年前の日は平成3年1月20日となる。
 なお、請求人が仮定する「被相続人の生前中に相続人が固有財産の贈与をした」ような場合については、相続税の連帯納付義務は「相続により受けた利益の価額」を限度とされており、相続財産に担税力を認めてその納付が予定されているところであるから、相続により連帯納付義務の限度額全額を徴収できる財産を取得することによって、相続税の連帯納付義務についての徴収不足が「被相続人の生前中に相続人が固有財産の贈与をした」ことに基因するという関係が生じないと解する余地もあるが、その判断は、個々の事例に即して行うべきものである。
(ロ)また、請求人は、相続税法第34条第1項の連帯納付責任に基づく徴収をする場合は、納税金額と納期限その他を定めた告知が必要であり、告知をしていれば、同期限が法定納期限となる旨主張する。
 しかしながら、連帯納付義務者に対する告知を要する旨を定めた法令上の規定はなく、上記(イ)のとおりAの連帯納付義務の法定納期限については、平成4年1月20日と解するのが相当である。
ハ 徴収不足について
 納付通知書による第二次納税義務の告知に際し、本来の納税者について徴収不足となる内容を第二次納税義務者に併せて通知、説明しなければならない旨を定めた法令上の規定はない。
 徴収法第39条は「滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合」であることを要件として掲げており、この不足するかどうかの判定は、納付通知書を発するときの現況によるものとされる(徴収法基本通達第39条関係1)ところ、Aに対する最終の課税手続である平成6年8月8日付のH税務署長による更正処分の内容によれば、「取得した財産の価額」であるP円がそのままAの連帯納付義務の限度額である「相続により受けた利益の価額」となるものであり、本件告知処分の時点では、原処分庁がそれ以前にAから徴収した金額S円を控除したU円が、Aの連帯納付義務の残高と認められ、また、同時期のAに帰属する財産は別表3のとおりであり、その価額の総額はW円であった。よって、本件告知処分時において、Aの財産に滞納処分を執行してもなおその徴収すべき税額に不足することは明らかである。
ニ Aの連帯納付義務について
 Cの配偶者であったAは、平成3年11月15日にBに対して遺留分減殺請求権を行使し、平成4年4月30日にBとの間において、Cの相続についてD社の株式500,000株及びV円の価額弁済を受領する旨合意して、後日その履行を受けており、「相続により受けた利益の価額」に相当する金額を限度として、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務を負うものであり、また、Aの連帯納付義務については、平成12年11月20日裁決により、「Aが相続税法第34条第1項の規定に基づく連帯納付義務を負うものであるから、督促処分は適法かつ正当である」との判断が既になされている。
ホ 請求人のその他の主張について
 請求人が主張するような「血縁の者や親交の深い者に対する一般的な形態の贈与」を徴収法第39条で規定する無償譲渡等の処分から除外する旨を定めた法令上の規定はない。
 また、請求人が引用する東京地方裁判所昭和45年11月30日判決(昭和43年(行ウ)第91号行政処分取消請求事件)については、外形上は無償譲渡等の処分であっても、その行為の背景となっている諸事実を把握し、実質的な対価関係について考慮して、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に当たるか否かを判断すべきであるとの趣旨を「必要かつ合理的な理由」に依拠して結論に及んだものと解するのが相当であり、さらに、同判決の結論部分において「それ故、これが単なる贈与であって同法条の処分行為に当たるとしてなされた本件告知処分は、取消しを免れない」と判示しているのであって、これは翻ってみれば、単なる贈与であれば徴収法第39条の処分行為に該当するということにほかならない。

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3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ Aに係る相続税法第34条第1項に規定する「相続又は遺贈に因り受けた利益の価額に相当する金額」すなわち連帯納付義務の限度額は、上記1の(2)のトの平成6年8月8日付で行った相続税の更正処分に係る更正通知書の「〔1〕取得した財産の価額」欄記載の金額P円であること。
ロ 上記イの連帯納付義務の限度額について、原処分庁は、本件告知処分以前にAからS円を徴収していること。
ハ 本件告知処分の日の近接時におけるAに帰属する財産は、原処分庁が主張するとおり、普通預金、定期預金、預託金及び株式であり、その価額の総額はW円であること。

(2)徴収法第39条の成立要件と同条適用の妥当性

イ 徴収法第39条と詐害行為取消しとの関係について
 請求人は、徴収法第39条の適用は、よほど明確な理由がなければ私法秩序を乱し、請求人の財産権を侵害することになるので、同条に形式的に該当するとの理由だけで行うべきでなく、納税者の行為が詐害行為等に該当するとの実質的判断、すなわち、当該行為が詐害行為等であることの要件を充足しているか否かの判断を経て行われなければならない旨主張する。
 ところで、民法第424条第1項は「債権者ハ債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル法律行為ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其行為ニ因リテ利益ヲ受ケタル者又ハ転得者カ其行為又ハ転得ノ当時債権者ヲ害スヘキ事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス」と規定しているところ、徴収法第39条の第二次納税義務は、滞納者の悪意を要件としないものと解されていることに加えて、無償譲渡等の処分のみを対象としていること、無償譲渡等の処分が国税の法定納期限の1年前の日以後にされたものであること、特殊関係者の場合を除き、利益が現に存する限度に限られること、訴訟手続は要しないことなどの点において詐害行為取消しとは法律的構成を異にしている。
 また、通則法第42条は民法第424条の準用規定であるにもかかわらず、それとは別に徴収法第39条が設けられていることなどを考えれば、この制度の目的は、徴税手続の合理化及び効率化を図ることにあると解すべきである。
 そうすると、徴収法第39条の適用においては、無償譲渡等の行為が詐害行為等に該当するか否かの判断まで求められるものではなく、あくまでも同条に規定する客観的要件に即して判断すべきであって、同条が明文で規定する〔1〕滞納者がその財産につき無償譲渡等の処分をしたこと、〔2〕この無償譲渡等の処分が滞納国税の法定納期限の1年前の日以後にされたものであること、〔3〕滞納者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められること、〔4〕その不足すると認められることが〔2〕の無償譲渡等の処分に基因すると認められること、のすべての要件を充足すれば当然に適用が可能であり、徴収法第32条第1項に規定する告知手続によって確定すると解するのが相当である。
 さらに、請求人は、徴収法第39条の第二次納税義務を不当利得返還に類似するものと解したとしても、贈与は民法が規定する法律上の原因であり、贈与によって得られた利益は、民法第703条に規定する不当利得に類似するものではないから、この点からも、本件贈与につき徴収法第39条を適用することはできない旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、徴収法第39条は、同条に規定する要件のすべてを充足すれば、無償譲渡等の処分により受けた利益が不当利得か否かに関係なく適用が可能であると解するのが相当である。
 したがって、いずれの点についても請求人の主張は採用できない。
ロ 合理的理由に基づく贈与と徴収法第39条との関係について
 請求人は、無償譲渡等の処分に関し、東京地方裁判所昭和45年11月30日判決(昭和43年(行ウ)第91号行政処分取消請求事件)を引用して、贈与が合理的な理由に基づく場合には徴収法第39条を適用すべきでない旨主張する。
 しかしながら、請求人が引用する同判決は、金銭の授受に対価性があると認定された事例であって、本件とは前提を異にするし、本件贈与が請求人のいう「子あるいは血縁の者や親交の深い者に対して贈与税を支払った上でなされた一般的な形態」のものであるならば、正に徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当することとなるのであるから、この点についての請求人の主張は採用できない。
ハ 「法定納期限の一年前の日」の解釈について
 請求人は、徴収法第39条は詐害行為等があった場合に適用されるべき規定であるから、同条中の「法定納期限の一年前の日」とは、Aに本件督促状が送達された平成11年4月1日、あるいは、本件お知らせ文書が送達された平成11年3月2日と解すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張するように解すべき法令上の規定はなく、本件の場合、Aの法定納期限は、Bの法定納期限である平成4年1月20日と同一と解されるところ、その1年前の日の平成3年1月20日が「法定納期限の一年前の日」に当たると解するのが相当であって、請求人が主張するように解する余地はない。
 なお、請求人は「法定納期限の一年前の日」の解釈の根拠として、AがBに対して行った遺留分減殺請求に係る合意の日以前、あるいは、Cの生前中に贈与を受けた場合、その受けた者も徴収法第39条の第二次納税義務を負うこととなり不合理が生ずる旨指摘する。
 確かにそのような場合も考えられるが、徴収不足と無償譲渡等との基因関係については、当審判所においても上記1の(3)のロの徴収法基本通達第39条関係8のとおり解するのが相当と認められるところ、請求人のいう不合理は、徴収不足と無償譲渡等との基因関係の問題で処理されるべきものであって、本件の場合とは前提を異にする。
 また、Aが本件お知らせ文書や本件督促状を受けてから8年以上も遡って第二次納税義務を負うという異常な結果を招来するとの指摘については、第二次納税義務に除斥期間はなく、無償譲渡後8年経過していたとしても、それをもって第二次納税義務の対象とはしないということはできない。
 おって、請求人は、相続税法第34条第1項に基づく連帯納付義務についても告知が必要であり、納期限を明示した告知をしておれば同期限が法定納期限となる旨主張する。
 しかしながら、通則法第36条《納税の告知》第1項が納税の告知を要する場合として列挙する各号は限定的なものと解されており、また、他に相続税法第34条第1項について告知を要する旨を定めた法令上の規定はないことからすれば、この点についての請求人の主張は採用できない。
ニ 第二次納税義務の補充性について
 請求人は、担保を処分してもBの相続税を回収できなかったのは、H税務署長のBに対する徴収行為及びBが延納の担保として差し入れたD社の株式の管理行為が違法であったことに基因しているのであるから、同株式が減価した経緯まで明らかにしなければ、「滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足する」についての判断とは言えず、第二次納税義務の補充性に違反する旨主張する。
 しかしながら、徴収法第39条に規定する「徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは、当審判所においても上記1の(3)のロの徴収法基本通達第39条関係1のとおり解するのが相当と認められるところ、補充性の判断においては、納税者に帰属する財産の減価理由までも要求するものではないことは明らかであるし、また、第二次納税義務者に対し、主たる納税義務者である相続税法第34条第1項に基づく連帯納付義務者のその本来の納税義務者に係る延納の担保の内容等を明らかにすべき旨を定めた法令上の規定はなく、したがって、この点についての請求人の主張は採用できない。
 以上の点を踏まえると、〔1〕Aは、上記1の(4)のとおり、請求人に対し、本件贈与をしたこと、〔2〕本件贈与は、別表2の「受贈年月日」欄に記載するとおり、すべて滞納国税の法定納期限の1年前の日である平成3年1月20日以後にされたものであること、さらに、〔3〕本件告知処分時の現況において、Aに帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額は上記(1)のハに記載のとおりW円を相当とするところ、この価額がAの連帯納付義務に係る滞納額U円(上記(1)のイからロを差し引いた額)を大きく下回っていることから、Aに対し滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足することは明らかであり、かつ、〔4〕仮に本件贈与がなかったならば、当該金銭等は滞納処分の執行の対象となり得たことで徴収不足が本件贈与に基因すると認められるから、請求人に対して、徴収法第39条に規定する第二次納税義務を課したことは適法かつ正当であり、したがって、請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は、Aが「相続により受けた利益の価額」は、取得した財産の価額から相続税法第19条の2の規定の適用前の相続税額を控除した額であると主張するが、同法第34条第1項の連帯納付義務が相続税の徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であるという趣旨に照らせば、取得した財産の価額から控除するのは現に納付すべき相続税であると解するのが相当であり、請求人の主張は採用できず、Aが「相続により受けた利益の価額」は、上記(1)のイに記載したとおりとなる。

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(3)Aの連帯納付義務について

 請求人は、Aに相続税法第34条第1項の連帯納付義務を課すことは違法あるいは信義則違反、徴収権の濫用として許容されないのであるから、第二次納税義務の本件告知処分も違法として許容されない旨主張する。
 ところで、第二次納税義務の納付告知を受けた者は、主たる納税義務が不存在又は無効でない限り、当該納付告知の取消しを求める訴えにおいて、主たる納税義務の存否又は数額を争うことはできないと解されており、また、相続税法第34条第1項の連帯納付義務は、相続税の徴収を確保するため、相互に各相続人等に課した特別の責任であって、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであると解されている。
 これを本件についてみると、主たる納税義務の不存在又は無効とは、主たる納税義務が相続税法第34条第1項の連帯納付義務の場合、連帯納付義務の不存在又は無効の判断は、本来の納税義務が不存在又は無効であるかにより判断すべきところ、Bの申告手続には無効となるべき重大かつ明白な暇疵は認められないことから、Aの連帯納付義務の違法等を理由に本件告知処分は違法であるとする請求人の主張は採用できない。

(4)原処分の適法性

 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分は次のとおり適法かつ正当である。
イ 本件告知処分
 請求人は、本件贈与により受けた利益が現に存する限度において徴収法第39条に規定する第二次納税義務を負うものであり、この「利益が現に存する限度」については、上記1の(3)のロに記載した徴収法基本通達第39条関係12のとおり解するのが当審判所においても相当と認められることから、原処分庁が徴収法第32条第1項の規定に基づき行った本件告知処分は適法かつ正当である。
ロ 本件督促処分
 本件告知処分に係る国税がその納付の期限である平成14年1月21日までに納付されなかったことが当審判所の調査においても認められるところ、原処分庁が徴収法第32条第2項の規定に基づき行った本件督促処分は適法かつ正当である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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