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(平15.4.23裁決、裁決事例集No.65 1089頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、第三者の相続税の延納の担保として提供された審査請求人E、同F、同G及び同H(以下、4名を併せて「請求人ら」という。)の共有不動産につき、その第三者の延納許可が取り消されて原処分庁が差押処分を行ったことに対し、請求人らが、当該第三者の所有する不動産の差押、換価を先に行うべきであるから請求人らの共有不動産に対する差押処分は合理性を欠き違法である旨主張して、その取消しを求めている事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、J(以下「本件滞納者」という。)の別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成14年5月31日付で、請求人らが所有する別表2記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の差押処分(原処分)をした。
ロ 請求人らは、原処分を不服として平成14年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月26日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人らに対し同年10月1日に送達した。
ハ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年10月31日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成14年11月26日に届け出た。

(3)関係法令

イ 相続税法第40条第2項は、税務署長は、延納の許可を受けた者が延納税額の滞納その他延納の条件に違反したときは、その許可を取り消すことができる旨規定している。
ロ 国税通則法第52条《担保の処分》第1項は、税務署長は、担保の提供されている国税についての延納を取り消したときは、その担保として提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充てる旨を、同条第4項は、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨規定している。

(4)基礎事実

イ 本件滞納者は、平成3年6月13日及び同年12月18日に、本件滞納者の相続税の延納の許可を申請(以下「本件延納申請」という。)し、原処分庁は、平成4年11月2日付で本件延納申請についていずれも許可(以下「本件延納許可」という。)した。
ロ 本件延納申請に際し、審査請求人Eの夫であるKが所有していた本件不動産が延納の担保として提供され、本件不動産には、平成4年11月2日付で、債権者を大蔵省(現財務省)、債務者を本件滞納者とし、本件延納許可に係る本税、利子税及び延滞税を債権額とする抵当権が設定された。
ハ 請求人らは、平成10年3月29日、Kの死亡に伴う相続又は遺贈により本件不動産を取得した。本件不動産の共有持分割合は、審査請求人E8分の4、同F8分の2、同G8分の1、同H8分の1である。
ニ 原処分庁は、本件延納許可に係る利子税が分納期限までに納付されていないことを理由として、平成14年5月9日付で本件延納許可を取り消した。
ホ 本件滞納者は、原処分が行われた平成14年5月31日現在、本件滞納国税を完納していない。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次のとおり合理性を欠く違法な処分であるから、その全部の取消しを求める。
イ 税金は、滞納者が支払うのが筋であり、滞納者に財産があれば滞納者から取り立てるべきである。
(イ)本件滞納者は、1億円を超える相続税の大半を支払い続け、滞納している本税は3,000万円を割っている。
(ロ)本件滞納者は、平成2年に株式会社L銀行との間で、同人所有の土地建物に極度額2億円の根抵当権を設定しているが、今まで差押を受けていないので相当な弁済がなされているものと推測される。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の事実から、本件滞納者は滞納国税を納付するに十分な資力を有しているものと認められる。
(ニ)また、本件不動産は、現在借家人が居住しており、現実には売却が難しいのに対し、本件滞納者が所有する別表3に掲げる土地は更地であり、容易に売却が可能である。
(ホ)原処分庁は、たまたま何らかの事情で第三者が担保を提供していることによって、その限りで売却により納付を受け得るとしても、本件滞納者に資産があり、その資産が担保物より容易に換価可能である状況を請求人らが指摘しているのであるから、かかる場合において、なお、担保物の換価を急ぐのは合理性を欠く。
ロ 本件のように、本件滞納者が相応の価値のある財産を有していて、換価が容易である場合には、まず本件滞納者所有の財産を差し押さえるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分は、国税通則法第52条第1項に規定する担保物処分の要件を満たし、また、国税徴収法第54条《差押調書》及び同法第68条《不動産の差押の手続及び効力の発生時期》の規定に基づいて適法に行われており、何ら違法、又は不当なものではない。
ロ 請求人らは、本件滞納者が他に相当の財産を所有しているから、まず本件滞納者の財産から差し押さえるべきである旨主張するが、国税通則法第52条第4項は、担保として提供された金銭以外の財産の処分の代金を国税及び処分費に充てて、なお不足があると認めるときは、滞納者の他の財産について滞納処分を執行する旨規定している。したがって、原処分は、違法、又は不当なものではない。
ハ 請求人らの主張は、原処分の違法性を主張するものではなく、単に推測、予見を述べているにすぎない。

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3 判断

(1)国税通則法第52条第1項は、上記1の(3)のロのとおり規定しているところ、原処分庁は、上記1の(4)のロ及びニのとおり、本件不動産が担保として提供されている本件滞納者の相続税について延納を取り消したことから、同項の規定に基づいて本件不動産を差し押さえたのであって、原処分は適法である。
(2)請求人らは、本件滞納者が本件不動産より容易に換価可能な財産を所有しており、請求人らが、このことを指摘しているのであるから、このような場合には、本件不動産について原処分をする前に、まず、本件滞納者所有の財産を差し押さえるべきであり、原処分庁が本件不動産の換価を急ぐのは合理性を欠く旨主張する。
 しかしながら、請求人らは、本件不動産を本件滞納国税の担保として提供しているいわゆる物上保証人であるところ、物上保証人は、民法第453条に規定するいわゆる検索の抗弁権を有しない。
 また、上記1の(3)のロのとおり、国税通則法第52条第1項は、延納を取り消したときは、その担保として提供された財産を滞納処分の例により処分して、その国税及び当該財産の処分費に充てる旨を、同条第4項は、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長は、滞納者の他の財産について滞納処分を執行する旨を規定している。したがって、仮に、本件滞納者が本件不動産より容易に換価可能な財産を所有しているとしても、まず、担保として提供された財産である本件不動産を処分しなければならないのであり、原処分は上記法令の規定に従った合理的な処分であるから、請求人らの主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分について請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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