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(平15.6.19裁決、裁決事例集No.65 1115頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、生命保険契約に基づく解約払戻金支払請求権が差し押さえられた後、約10年6か月後になされた取立権の行使及び配当処分の手続が適法であったか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年3月13日に、給与所得の金額を15,980,000円、申告納税額を○○○○円と記載した平成2年分の所得税の確定申告書を提出した。
ロ 原処分庁は、平成3年6月14日ころに、請求人に対して、〔1〕平成3年分所得税の予定納税基準額が○○○○円、〔2〕第1期及び第2期において納付すべき予定納税額がそれぞれ○○○○円である旨を通知した(以下「本件通知」という。)。
ハ 原処分庁は、請求人の扶養家族として平成2年分の所得税の確定申告書に記載されていた父Fの年金所得が、扶養控除の基準となる所得金額350,000円を超えていたことから、平成4年2月10日付で、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「更正処分等」という。)をした。
ニ 原処分庁は、平成4年2月7日付で、請求人の別表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)のうち、納期限が到来していた平成2年分確定申告、平成3年分第1期及び第2期の予定納税に係る滞納分について、請求人のG相互会社(以下「G社」という。)に対する生命保険契約(以下「本件生命保険契約」という。)に基づく解約払戻金及び積立配当金の各支払請求権(以下「本件債権」という。)を差し押さえ、さらに、平成6年2月17日付で、平成2年分更正処分等に係る滞納分について、本件債権を差し押さえた。
ホ 原処分庁は、G社に対して、平成14年8月12日付で、解約払戻金及び積立配当金の支払を請求し、同月16日にG社から、197,322円の支払を受けたので、同月19日付で配当計算書(以下「本件配当計算書」という。)を作成し、同日付でその配当計算書謄本を請求人あてに発送した(以下「本件配当処分」という。)。
ヘ 請求人は、本件通知及び本件配当処分を不服として、平成14年8月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月20日付で、本件配当処分については棄却の異議決定をし、本件通知については却下の異議決定をした。
ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分及び本件通知に不服があるとし、平成14年12月20日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法及び国税通則法関係
(イ)所得税法第104条《予定納税額の納付》第1項及び同法第105条《予定納税基準額の計算の基準日等》は、その年6月30日の現況において居住者である者は、その年5月15日において確定している前年分の課税総所得金額に係る所得税の額に基づいて算出される予定納税基準額が15万円以上である場合には、第1期及び第2期において、それぞれその予定納税基準額の3分の1に相当する金額の所得税を納付しなければならない旨規定している。
 また、所得税法第106条《予定納税額等の通知》第1項は、税務署長は、第104条第1項の規定によって計算した税額をその年6月15日までに納付すべき居住者に対し、その予定納税基準額並びに第1期及び第2期において納付すべき予定納税額を書面により通知する旨規定し、所得税法第111条《予定納税額の減額の承認の申請》は、その年6月30日の現況による申告納税見積額が、その年分の予定納税基準額に満たないと見込まれる者は、その年7月15日までに、納税地の所轄税務署長に対し、第1期及び第2期において納付すべき予定納税額の減額に係る承認を申請することができる旨規定している。
 さらに、所得税法第122条《還付等を受けるための申告》は、所得税法第111条による減額がなされなかった場合でも、予定納税の制度により納付ないし徴収された税額は、確定申告の段階において、還付申告書を提出して清算できる旨規定している。
(ロ)国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項及び国税通則法施行令第5条《納税義務の成立時期の特例》第1号は、この予定納税額に係る所得税の納税義務はその年6月30日を経過する時に成立し、その納付すべき税額は、その納税義務の成立と同時に、特別の手続を要しないで確定する旨規定している。
ロ 国税徴収法関係
 国税徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項は、徴収職員は、差し押さえた債権の取立てをすることができる旨規定している。
 また、国税徴収法第128条《配当すべき金銭》は、有価証券、債権又は無体財産権等の差押えにより第三債務者等から給付を受けた金銭について、同法第129条《配当の原則》の規定により配当をしなければならない旨、さらに、同法第131条《配当計算書》は、配当を受ける債権、税務署長が確認した金額その他必要な事項を記載した配当計算書を作成し、その謄本を、債権現在額申立書を提出した者、滞納者等に発送しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 本件生命保険契約の内容
(イ)保険の種類と特約関係等

 65歳払込満了定期付終身保険普通死亡保険金額2000万円
 災害死亡保険金額4000万円
 65歳以降普通死亡保険金額1000万円

(ロ)保険契約者及び被保険者 請求人
(ハ)死亡保険金受取人 請求人の兄及び姉ら4名
(ニ)保険料の金額と払込方法
 集金扱い、年払(419,955円)、平成3年より月払(37,840円)に変更
ロ 本件生命保険契約の失効等に関する保険約款の要旨
(イ)第11条第1項は、保険料の払込みについて、月払契約の場合は払込期月の翌月初日から末日まで猶予期間がある旨を、同条第2項は、猶予期間内に保険料が払い込まれない場合、保険契約は猶予期間満了日の翌日から効力を失う旨を、そして同条第3項は、保険契約が効力を失った場合、保険契約者は解約払戻金を請求することができる旨を、それぞれ定めている。
(ロ)第13条第1項は、保険料が払い込まれないままで猶予期間を経過した場合においても、会社は、保険契約者からあらかじめ反対の申出があった場合を除いて、保険料を自動的に貸し付けて保険契約を有効に継続させることとし、例えば、月払契約の場合は、当該貸付けは払い込むべき月以後半年ごと応答日の前日までの保険料とその利息の合計額が解約払戻金額を超えない間、継続する旨を定めている。
ハ 請求人は、平成3年分所得税の第1期及び第2期に納付すべき予定納税額の減額に係る承認申請及び平成3年分以降の所得税の確定申告をしていない。

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2 主張

(1)請求人

イ 請求人は、給与所得者であったため、予定納税制度を知らなかったこと、また、経営していた会社が倒産した平成4年2月以降、収入がなくなったことから、平成3年分所得税の第1期及び第2期の予定納税額を支払う理由はなく、本件通知を取り消すべきである。
ロ 原処分庁は、本件債権を平成4年2月7日に差し押えてから、約10年6か月の間、本件債権の取立てを放置し、平成14年8月になって本件債権を取り立て、受入額及び配当額を197,322円と記載した配当計算書を作成しているが、差押えと同時に本件債権を取り立てておれば、解約払戻金からG社が貸し付けた保険料を控除されることなく、197,322円を上回った配当額を受入れて配当できたはずであるから、原処分庁が債権取立てを長期間放置して作成した本件配当計算書に基づく本件配当処分は、違法又は不当であり、その取消しを求める。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件配当処分の基になった本件滞納国税に係る本税及び過少申告加算税などの納付すべき税額は、平成3年3月13日に請求人が行った確定申告、所得税法第104条及び原処分庁が平成4年2月10日付で行った更正処分等によって、有効に確定している。
 なお、当該更正処分等については、既に審査請求期限を徒過している。
ロ 原処分庁は、本件生命保険契約の死亡保険金受取人が請求人の兄及び姉ら4名であるため、将来発生すると予測される同人らの死亡保険金支払請求権等に影響を及ぼすおそれがあるので、本件債権の解約及び取立権の行使については、慎重に行った。
ハ 解約払戻金が減少したのは、請求人が本件生命保険契約に約定された保険料の支払を怠ったためであり、そのことについて、原処分庁が責めを負うものではない。
ニ 本件配当処分は、平成4年2月7日付及び平成6年2月17日付で行った差押え債権を平成14年8月16日に取り立て、その代金について、国税徴収法第129条第1項に基づいて、同月19日付で本件配当計算書を作成しているので、適法なものである。

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3 判断

(1)本件通知に係る審査請求について

イ 予定納税制度の趣旨は、国庫の歳入の平準化と納税者の分割納税の便宜を図るために、例えば、給与所得者における月々の源泉徴収と同様に、その年分の所得税額が確定する前に、いわば概算で分割納税するものであり、税務署長は、所得税法第104条によって計算した分割納税すべき額を通知することとされている。
ロ 予定納税額に係る所得税の納税義務は、前記1(3)イ(ロ)のとおり、特別の手続を要しないで確定するものであり、税務署長の行う通知は、確定した納税義務の内容を納税義務者に通知するものにすぎず、それによって予定納税に係る所得税の納税義務の成立又は納付すべき税額の確定などの法律効果を生じさせるものではないから、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する処分には当たらないと解するのが相当である。
ハ 請求人が平成2年分の所得税の確定申告書を法定申告期限内に提出した結果、請求人の平成3年分所得税の予定納税額の納税義務は、国税通則法第15条第3項等の規定により、平成3年6月30日を経過する時に成立し、同時にその納付すべき税額が確定すること、また、請求人によって平成3年分所得税の第1期及び第2期の予定納税額の減額に係る承認の申請がなされていないことに争いがないから、請求人の平成3年分所得税の予定納税額は確定しているというほかなく、請求人が主張するような、予定納税制度の不知及び経営する会社が倒産し、収入がなくなったという事実は、予定納税額の納税義務に影響を及ぼすものではない。
 また、予定納税の制度趣旨からすると、納税者において、収入が減少したため、申告納税見積額が予定納税基準額に満たないことが確実に予見できるような場合であっても、その減額については、最も的確にその予見をすることができる納税者本人において、前記1(3)イ(イ)のとおり、所得税法で定められた予定納税額の減額の承認申請の手続によるべきであって、それがなされない限りは、国税通則法第15条第3項等の規定により、既にいったん確定した予定納税額の納税義務は何ら影響を受けないものと解される。
ニ 以上のことから、本件通知は、不服申立ての対象となる処分ではないから、本件通知に係る審査請求は、その対象となる処分が存在しない不適法なものであり、却下すべきである。

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(2)本件配当処分に対する審査請求について

イ 当審判所が、G社及び原処分関係資料を調査したところ、以下の事実が認められる。
(イ)本件生命保険契約関係
A 平成14年8月16日における本件生命保険契約の解約に伴うG社の支払内容の明細は、解約払戻金の額が992,500円、積立配当金の額が99,782円、G社の保険料貸付額が894,960円であり、解約払戻額は197,322円である。
B 保険料の貸付けは、本件生命保険契約に係る約款に基づいて行われたものであり、保険料貸付日及び貸付額等は、〔1〕平成4年2月9日貸付日の平成3年11月分から平成4年2月分までの貸付額は154,891円、〔2〕平成4年6月14日貸付日の平成4年3月分から平成4年8月分までの貸付額は239,451円、〔3〕平成4年12月13日貸付日の平成4年9月分から平成5年2月分までの貸付額は249,458円、〔4〕平成5年6月13日貸付日の平成5年3月分から平成5年8月分までの貸付額は254,160円であり、〔5〕平成5年12月15日時点における保険料貸付額の総額は894,960円である。
C 本件生命保険契約は、保険料の額が解約払戻金額を超えたことから、保険料の自動貸付けが行われなくなり、平成5年12月15日に失効した。
(ロ)原処分庁による本件滞納国税の徴収手続関係
A 原処分庁は、本件滞納国税(平成2年分更正処分に係る滞納国税を除く)を徴収するため、平成4年2月7日付で、請求人のH銀行に対する3口の定期預金支払請求権(合計1,090,000円)を差し押さえた。そして、平成5年1月29日に同銀行から○○○○円の支払を受け、これを上記滞納国税に配当した。
B 原処分庁は、本件滞納国税(平成2年分更正処分に係る滞納国税は除く)を徴収するため、平成4年3月30日付で、国税徴収法第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定により、P市Q町○丁目○番地○所在のマンションの譲渡担保権者に対して告知処分をした。
ロ 請求人は、原処分庁が本件債権を差し押さえると同時に取り立てるべきであり、長期間取り立てずに放置したから、本件配当処分は違法であると主張する。
(イ)国税徴収法第67条に規定する差し押さえた債権の取立ては、徴収職員に取立権を付与したものであって、取立義務を課したものではなく、取立てに当たっては一定の裁量権があると解されるところ、原処分庁が直ちに本件生命保険契約を解約して本件債権の取立権を行使しなかったのは、以下の点を考慮して、慎重に判断したことによるものと認められ、この点につき違法、不当はないというべきである。
A 本件滞納国税には、平成3年分所得税の第1期及び第2期の予定納税額が含まれており、請求人のその後の還付申告等によっては、本件滞納国税が減少する可能性もあった。
B 前記イ(イ)及び(ロ)の認定事実のとおり、本件債権に比べて、取立てが容易な請求人のH銀行に対する定期預金支払請求権を差押えていたこと、また、請求人所有の不動産に係る譲渡担保権者に対しても徴収手続をとっていたことから、本件生命保険契約を解約し、本件債権を取り立てる必要性が低かった。
C 定期特約付終身保険契約は、被保険者の死亡を原因として、死亡保険金受取人に対し支払われる保険契約であり、その死亡保険金の支払請求権は第三者たる指定受取人に帰属することになる。
 また、本件生命保険契約の被保険者は滞納者であり、原処分庁が取立権を行使することにより、将来発生すると予測される指定受取人が有する死亡保険金支払請求権を奪うこととなる。
 取立権の行使については、このような本件生命保険契約に係る関係当事者の利益を考慮する必要があった。
(ロ)前記1(4)イ及びロの基礎事実のとおり、本件生命保険契約の失効及び保険料自動振替貸付けについては、保険約款で定められており、請求人は、上記イ(イ)の認定事実のとおり、平成3年11月ころから、本件生命保険契約に係る保険料を払い込まなくなり、このため、平成5年8月ころには、G社が自動貸付した保険料の総額が894,960円となり、平成5年12月15日に本件生命保険契約が失効している。
 したがって、本件債権の差押え時に比べて解約払戻金等として受領し得る金額が減少したのは、請求人自らが保険料の支払を怠ったからにほかならない。
(ハ)もっとも、平成5年12月15日時点における解約払戻金及び積立配当金から保険料自動振替貸付けを控除した額(197,322円)は、原処分庁が平成14年8月16日に取り立てた金額(197,322円)と同額であり、この間、本件生命保険契約に係る解約払戻金等の額に変動はない。
 したがって、本件生命保険契約が失効し、本件債権の額が確定した時点でこれを取り立てておれば、本件滞納国税の一部を早期に徴収することが可能であったといえる。
 しかし、このような事情が認められるからといって、本件配当処分が違法、不当となるとはいえない。
(ニ)また、原処分庁は、本件債権を取り立てるため、本件生命保険契約を解約する旨記載した書面を提出することが必要であることを確認した上で、平成14年8月12日に、解約申込書をG社に送付し、同月16日に197,322円の支払を受け、そして、当該金員を配当するに当たっては、確認した債権額に対する配当金額を計算した上で、平成14年8月19日付の本件配当計算書を作成していることから、本件配当処分に係る徴収手続は適法である。
(ホ)以上によれば、本件配当処分に違法、不当とすべき点はないというべきであり、請求人の主張は採用できない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当する理由は認められない。

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