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(平15.9.5裁決、裁決事例集No.66 9頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ビル管理業及び損害保険代理業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がした更正の請求について、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号の規定の適用があるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成4年1月1日から平成4年12月31日まで、平成5年1月1日から平成5年12月31日まで、平成6年1月1日から平成6年12月31日までの各事業年度の法人税について、確定申告書に別表1(1)の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ期限内に申告した。
ロ A税務署長は、平成8年2月27日付で、別表1(1)の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(両処分を併せて、以下「本件更正処分」という。)並びに別表1(2)の「決定処分及び賦課決定処分」欄のとおり、平成4年1月1日から平成4年12月31日までの課税事業年度(以下「平成4年12月課税年度」という。)の法人特別税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(両処分を併せて、以下「本件決定処分」といい、上記の本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年4月23日に審査請求をしたところ、当審判所は、同年12月27日付で別表1(1)及び(2)の「裁決」欄のとおり、裁決をした。
ニ その後、請求人は、平成13年11月20日に平成4年1月1日から平成4年12月31日までの事業年度(以下「平成4年12月期」という。)の法人税について、そして、同年11月21日に平成4年12月課税年度の法人特別税について、別表1(1)及び(2)の「更正の請求」欄のとおり、B税務署長(請求人は、平成13年5月2日に本店所在地をP市Q町○番○号から、R市S町○○番地の○に変更した。以下、請求人に係る処分庁(B税務署長)を「原処分庁」という。)に対して更正の請求(以下、法人税及び法人特別税についての更正の請求を併せて「本件更正の請求」という。)をした。
ホ 原処分庁は、これに対して、別表1(1)及び(2)の「通知処分」欄のとおり、平成14年3月20日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、これを不服として、平成14年5月17日に別表1(1)及び(2)の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年8月12日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同年9月10日に審査請求をした。

(3)基礎事実

イ 請求人は、ビル管理業務、損害保険代理業、株式の保有利用及び投資並びにこれらに附帯する一切の業務を行うことを目的として、平成元年3月8日に設立された法人であり、設立当時はCが代表取締役であったが、現在はDが就任している。
ロ 請求人は、株式会社Eの株主であったC(以下「C」という。)から、株式会社Eの株式(以下「本件株式」という。)を別表2のとおり購入した(以下「本件取引」という。)。
ハ B税務署長は、平成8年2月27日付で、Cの相続人であるFに対して、本件株式の取引当時の時価相当額を類似業種比準価額方式によって計算し、別表3の「B税務署長認定金額」欄のとおり、時価相当額が233,689,000円であると認定するとともに、売却金額42,500,000円とB税務署長認定金額との差額191,189,000円について、所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項第2号及び同法施行令第169条《時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲》の規定を適用して、平成4年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「Cに係る更正処分等」という。)をした。
ニ A税務署長が請求人に対してした本件更正処分等は、本件株式の取引当時の時価相当額を類似業種比準価額方式によって計算し、別表2の「A税務署長認定金額」欄のとおり時価相当額が233,689,000円であると認定するとともに、購入金額42,500,000円とA税務署長認定金額との差額191,189,000円について、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項の規定により、株式の低額譲受けによる受贈益の計上漏れとして、平成4年12月期の所得金額に加算したものである。
ホ Fの相続人は、Cに係る更正処分等を不服として、平成9年4月11日に○○地方裁判所に所得税更正処分等取消訴訟(平成○年(○)第○号所得税更正処分等取消請求事件)を提起したところ、平成13年9月○日付の判決(以下「本件判決」という。)により、B税務署長がCの相続人であるFに対してした平成4年分及び平成5年分の所得税についてのCに係る更正処分等の取消しが確定した。
 なお、本件判決の要旨は、「本件取引の事情や売買実例が存するところ、純資産価額方式及び類似業種比準方式は、それ自体一応の合理性を有する評価方法ではあるが、本件取引は、同族会社の株式を少数株主が取得する場合であり、譲受人は配当期待権以上のものを有しないと考えられるから、必ずしも前記各方法が妥当するとはいえず、前記純資産価額方式及び類似業種比準方式によった場合に、売買実例価額ないし配当還元方式によった場合と著しい差異が生じるのに前者に依拠した本件算定はおよそ合理的であるとは認められず、他に各申告額を超える所得を認めるに足りる証拠もないから、本件各処分は適法であるということができない。」とするものである。
ヘ なお、請求人は、本件更正処分等についての審査請求において、棄却の裁決を受けたが、現在に至るまで、A税務署長がした本件更正処分等について、訴訟を提起していない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件通知処分は、次の理由により違法であるから、取消すべきである。
イ 原処分庁は、Cが請求人に売却した本件株式の時価相当額を、C及びその同族関係者が請求人の支配権を有しているという事実認定に基づき、類似業種比準価額方式により算定し、Cに係る更正処分等をしたが、本件判決により、C及びその同族関係者が請求人の支配権を有していないことから、類似業種比準価額方式による株価の計算方法が否定され、その株価に基づいたCの相続人であるFに対するCに係る更正処分等は適法ではないことが確定した。
ロ そうすると、A税務署長は、本件株式を購入した請求人についても同じ事実認定に基づき類似業種比準価額方式によって株価を計算し、その株価を基に本件更正処分等を行っているので、本件判決によって本件更正処分等の基となった本件株式の時価相当額が誤りであることが明らかになったことから、本件判決は、通則法第23条第2項第1号に規定している「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」に該当する。

(2)原処分庁の主張

 本件通知処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分等は、請求人が1株2,500円で本件株式を取得した事実を基礎として、本件株式の株価を類似業種比準価額方式によって計算した額が時価相当額であると認定し、法人税法第22条第2項の規定により、株式の低額譲受けによる受贈益について、課税を行なったものである。
ロ 一方、本件判決によって取り消されたCの相続人であるFに対するCに係る更正処分等は、Cが請求人に1株2,500円で本件株式を譲渡した取引事実を基礎として、B税務署長が本件株式の時価相当額すなわち適正価額を認定し、取引価額が時価の2分の1未満であることを理由に、所得税法第59条第1項第2号及び所得税法施行令第169条を適用して、みなし譲渡課税を行ったものであり、本件判決は、所得税法第59条第1項第2号の適用に当たっての本件株式の時価相当額すなわち適正価額に係るB税務署長の認定を否定したものである。
ハ そうすると、本件判決は、請求人に1株2,500円で本件株式を譲渡した取引事実自体について何ら変更をもたらすものでなく、本件判決によって、請求人が1株2,500円で本件株式を取得した事実が否定され変更されたものではないから、通則法第23条第2項第1号に規定する「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」に該当しない。

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3 判断

 本件の争点は、本件更正の請求について、通則法第23条第2項第1号の規定の適用があるか否かにあるので、以下審理する。
(1)通則法第23条第2項第1号は、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときには、納税者は、同条第1項の規定にかかわらず、その確定した日の翌日から起算して2月以内の期間において、更正の請求ができる旨規定している。
(2)この規定の趣旨は、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係について民事上紛争を生じ、判決や和解によってこれと異なる事実が明らかにされたため、申告等に係る課税標準等又は税額等が過大になった場合において、更正の請求を認めようとするものであり、ここにいう判決とは、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実の得喪変更に関する訴訟に係る判決を意味するものと解される。
(3)これを本件についてみると、本件判決は、前記1(3)ホのとおり、Fの相続人が提起した所得税更正処分等取消請求事件についてなされた判決であり、本件判決によって、請求人に対する本件更正処分等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実そのものを左右するものではないから、同項の規定による更正の請求をすることはできない。
(4)以上のとおりであるから、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした原処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
(5)原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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