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(平15.12.19裁決、裁決事例集No.66 31頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税の修正申告に係る延滞税について、本件の修正申告までの経緯が延滞税を免除すべき場合に該当するか否かを争点とする事案であり、請求人が、本件は延滞税を免除すべき場合に該当することを理由として、延滞税の督促処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の所得税の修正申告に係る延滞税である、平成11年分4,800円、平成12年分11,900円及び平成13年分7,600円(以下、これら3年分の延滞税を併せて「本件各延滞税」という。)が完納されなかったことから、請求人に対して、平成15年3月25日付で本件各延滞税の督促状をそれぞれ発してその納付を督促した(原処分)。
ロ 請求人は、原処分を不服として、平成15年3月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年6月3日付で棄却の異議決定をしたので、同年7月3日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号は、延滞税について、納税義務が成立すると同時に特別な手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税である旨規定している。
ロ 通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号は、申告納税方式とは、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とする方式である旨規定している。
ハ 通則法第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったときは、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
ニ 通則法第37条《督促》第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨、また、同条第3項は、当該国税に係る延滞税があるときは、その延滞税についても、併せて督促しなければならない旨規定している。
ホ 通則法第60条《延滞税》第1項第2号は、納税者において、修正申告書を提出した場合において、納付すべき税額があるときは、延滞税を納付しなければならない旨、また、同条第2項は、延滞税の額について、納付すべき国税の法定納期限の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じて計算した額とする旨規定している。
ヘ 通則法第61条《延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例》第1項は、修正申告書の提出において、偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた場合を除き、同項各号に規定する期間を通則法第60条第2項に規定する期間から控除する旨、また、通則法第61条第1項第1号は、期限内申告書が提出されている場合において、法定申告期限から1年を経過した日よりも後に修正申告がなされ、それによって新たな税額が確定したときは、その税額について延滞税の課される期間からは、法定申告期限から1年を経過する日の翌日から修正申告がなされた日までの期間を除かれる旨規定している。
ト 通則法第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》第6項は、同項各号に該当する場合は、当該各号に係る延滞税につき、それぞれ当該各号に掲げる期間に相当する部分の金額を限度として、免除することができる旨、また、同項第4号は、同項第1号から第3号に該当する事実に類する事実が生じた場合として、政令で定める場合において、政令で定める期間が該当する旨規定している。
チ 国税通則法施行令第26条の2《延滞税の免除ができる場合》第2号は、通則法第63条第6項第4号に掲げる政令に定める場合とは、火薬類の爆発、交通事故その他の人為による異常な災害又は事故(以下「人為による災害又は事故」という。)により、納付すべき税額につき、申告をすることができず、又は国税を納付することができない場合(その災害又は事故が生じたことにつき納税者の責めに帰すべき事由がある場合を除く。)である旨、また、政令で定める期間とは、その災害又は事故が生じた日からこれらが消滅した日以後7日を経過した日までの期間である旨規定している。
リ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨、また、同条第5項は、偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた場合には同条第1項の規定にかかわらず、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、確定申告の給与所得の計算に当たり、給与所得に係る源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄に記載された金額を給与の収入金額と間違えて、これに他の収入を加えて、給与所得に係る収入金額を算出し、その収入金額を基に給与所得及び申告納税額を計算して、平成11年分、平成12年分及び平成13年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税の確定申告書(以下、これらを「本件各確定申告書」といい、本件各確定申告書による確定申告を「本件各確定申告」という。)を作成し、それぞれ法定申告期限までに郵送により提出した。
ロ 請求人は、A税務署所属の担当職員から、上記イのとおり、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄に記載されていた金額を給与所得に係る収入金額としたことに基因して、本件各確定申告の給与所得及び申告納税額に誤りがある旨の指摘(以下「本件指摘」という。)及び修正申告のしょうようを受けたことから、各年分に係る修正申告書(以下、これらを「本件各修正申告書」といい、本件各修正申告書による修正申告を「本件各修正申告」という。)を平成14年11月21日に提出し、同日、本件各修正申告により納付すべき税額である平成11年分119,700円、平成12年分272,200円及び平成13年分279,400円を納付したので、通則法第15条、第16条、第60条及び第61条により、本件各延滞税は確定した。
ハ 本件各延滞税は、原処分がされた平成15年3月25日現在において、完納されていない。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 税務署長は、提出された確定申告書を受理した後、早期に記載上の誤りの有無について、審査を行う業務上の責任を負っている。
 そして、税務署長は、容易に発見できる記載上の誤りを原因として、課税標準及び申告納税額が正しく計算されていない場合には、納税者に対して早期に、是正指導するべきである。
 しかし、税務署長がその責任を果たさず、その是正指導事務が遅延した場合、その遅滞は、通則法第63条第6項第4号及び国税通則法施行令第26条の2第2号に規定する人為による災害又は事故に該当し、税務署長は、延滞税を免除できるのであるから、このような場合には、納税者が修正申告をするまでの期間に相当する延滞税については、通則法第60条により納税義務が生じた延滞税を免除すべきである。
ロ 本件各確定申告における総所得金額(給与所得)及び申告納税額の誤りは、源泉徴収票から確定申告書への給与所得に係る収入金額の転記誤りが原因で生じており、原処分庁において容易に発見できるものである。
 しかし、原処分庁は、本件指摘を平成14年11月に行っていることから、本件各確定申告書を受理した後、早期に審査する業務上の責任を果たしておらず、審査事務が遅延していたといえる。このような原処分庁の審査事務の遅延については、請求人には責任はなく、上記イの人為による災害又は事故に該当し、税務署長は、延滞税を免除できるのであるから、本件では修正申告をするまでの期間に相当する延滞税は免除されるべきである。
 そして、本件各修正申告をするまでの期間に相当する延滞税が免除されると、本件各延滞税のうち完納されていない額は無いことになるから、原処分は違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 延滞税は、通則法第15条第3項第6号の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで税額が確定する国税とされている。
 また、修正申告により納付すべき税額がある場合には、通則法第60条第1項第2号の規定により、その計算の基礎となった国税の法定納期限の翌日から完納される日までの期間の延滞税を納付しなければならない。
ロ 我が国の所得税は申告納税制度を採用しており、所得税法第120条《確定所得申告》第1項は、納税者は課税標準等及び税額等を計算して、期限内に確定申告書を提出しなければならない旨規定している。
 この規定からすると、正しい申告ができなかったことによる責任は原処分庁にあるのではなく、申告を義務付けられている納税者自らが負わなければならないことは明らかである。
 なお、税務官署の事務配分による確定申告の是正時期が異なることにより、納税者ごとの経済的負担の差異が生じるのは適当でないことなどを考慮し、通則法第61条第1項第1号は、法定申告期限から相当の期間経過後に修正申告及び更正があった場合には、その法定申告期限から1年を経過する日の翌日から起算して当該修正申告書が提出され、又は当該更正通知書が発せられた日までの期間を延滞税の計算期間から控除する旨規定しており、本件においても同条を適用しているところである。
ハ 通則法第63条第6項第4号及び国税通則法施行令第26条の2第2号に規定する人為による災害又は事故による延滞税の免除は、納税者の責めに帰すべからざる事故により納付行為ができない場合、例えば、〔1〕誤指導、〔2〕申告書提出後における法令解釈の明確化等、〔3〕申告期限時における課税標準等の計算不能、〔4〕振替納付に係る納付書の送付漏れ等の場合に限りできると解されている。
ニ これを本件についてみると、確定申告書の誤記による税額誤りによって納税が遅延したことについては、上記ロのとおり、納税者にその責めがあることから、上記ハの延滞税の免除の対象とはなり得ない。
ホ 以上のとおり、本件各延滞税は、適法に確定しており、請求人が本件各延滞税を完納しなかったため、通則法第37条の規定により原処分を行ったものである。

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3 判断

(1)上記1の(4)のロのとおり、本件各延滞税は適法に確定しており、上記1の(4)のハのとおり、平成15年3月25日現在において本件各延滞税が完納されていないことが認められるから、原処分は通則法第37条第1項の規定に基づく適法な処分であって、違法、不当な点はない。
(2)請求人は、上記2の(1)のとおり主張する。
 しかし、仮に、請求人が主張するとおり原処分庁において免除することができる場合に該当し、免除しないことが違法であるとしても、当然に免除の効果が発生するわけではないから、現実に免除がされておらず本件各延滞税が存在する以上、原処分の適法性に何ら影響はない。
 なお、確定申告等に対する審査事務の処理を、いつまでに終了させなければならないとの法令の規定はなく、また、多数の確定申告等の内容の審査事務を同時期に処理するのは事実上不可能であることから、当該審査事務の処理の時期及び方法は、申告等の件数、職員の人数、審査事務以外の業務の状況等に応じ、税務署長の裁量にゆだねられていると解される。そして、上記1の(3)のハ及びリのとおり、偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた場合以外における更正の期間制限は、法定申告期限から3年間であること、通則法第61条が法定申告期限から相当の期間経過後に修正申告又は更正があった場合を想定した規定であることからも、少なくとも更正の期間制限内の是正処理は法が当然予定しているところと解されるから、原処分庁が業務上の責任を果たさず審査事務が遅延したという請求人の主張には理由がない。
 また、通則法第63条第6項第4号でいう政令の定めである国税通則法施行令第26条の2第2号の「人為による異常な災害又は事故」とは、ガス爆発、交通のと絶、飛行機の墜落、船舶の沈没等が典型的な場合であり、税務職員の誤指導、申告書提出後における法令解釈の明確化等の場合も含まれると解されるが、同号の規定のとおり、当該災害又は事故が納税者の責めに帰すべき事由により生じたものである場合は除かれる。そして、申告納税方式の下では、納税者の自己の判断と責任において、課税標準及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められるところ、本件においては、請求人自身が、上記1の(4)のイのとおり、誤った本件各確定申告書を作成して原処分庁に提出したことから、本件指摘の必要が生じたのであって、そもそも請求人の責めに帰すべき事由により生じた事態である。よって、同号の「人為による異常な災害又は事故」に該当する場合とはいえない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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