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(平15.7.29裁決、裁決事例集No.66 97頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の譲渡所得の金額の計算上、土地改良区に支払った土地改良法第42条《権利義務の承継及び決済》第2項の規定による決済金(以下「農地転用決済金」という。)のうち土地改良区の維持管理費に相当する部分が、所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する資産の譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)に該当するか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の所得税について確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成13年7月30日付で次表の「決定処分等」欄のとおり、決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした。

ロ 次いで、原処分庁は、平成13年9月26日付で上記イの表の「更正処分等」欄のとおり、減額の更正処分及び無申告加算税の変更決定処分をした。
ハ 請求人は、更正及び変更決定後の原処分に不服があるとして、平成13年9月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年12月6日付で上記イの表の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消す異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年1月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、自己の所有するP市Q町○番○の田2,378平方メートル(以下「本件土地」という。)をH株式会社(以下「H社」という。)に譲渡した(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)こと。
ロ 本件譲渡について、平成12年6月6日付で売主を請求人、買主をH社とする不動産売買契約書が2通存在し、そのうちの1通は、媒介業者が株式会社J、売買代金が39,563,700円とされ、特約条項として、農地転用決済金及びQ町農地転用に係る諸規定による協力金(以下、この協力金を「本件地元協力金」という。)は売主の負担とする旨の記載があり、他の1通は、売買代金が34,638,500円とされ、特約条項及び媒介業者の記載がないこと(以下、前者を「本件売買契約書A」といい、後者を「本件売買契約書B」という。)。
ハ 請求人は、本件土地の売買代金として、H社から平成12年6月6日に3,000,000円、平成12年9月25日に31,638,500円をそれぞれ受領していること。
ニ H社は、本件土地に係る農地転用決済金として、平成12年7月24日、K土地改良区(以下「本件土地改良区」という。)に1,208,530円及び平成12年7月31日、L土地改良区に126,670円をそれぞれ納付したこと(以下、K土地改良区に納付した農地転用決済金を「本件農地転用決済金」という。)。
ホ 本件農地転用決済金に係る平成12年7月24日付の本件土地改良区からの通知書には、要旨次表のとおりの記載があること。

 上記の表のうちの維持管理費1,189,000円を以下「本件金員」という。
ヘ 本件地元協力金は、当初、3,590,000円であったが、最終的に1,400,000円になり、その差額2,190,000円は、H社から平成13年4月13日に1,000,000円、平成13年7月2日に1,190,000円がそれぞれ請求人に支払われたこと。
ト 原処分庁は、本件譲渡について本件売買契約書Bに記載された売買代金34,638,500円のほか、本件農地転用決済金1,208,530円、L土地改良区に支払った農地転用決済金126,670円、本件地元協力金1,400,000円及び上記ヘの請求人に支払われた差額金2,190,000円を加算して、譲渡所得の総収入金額に算入すべき金額を39,563,700円としたこと。
チ 原処分庁は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、総収入金額から控除する取得費については、租税特別措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定により、上記トの総収入金額の100分の5に相当する金額1,978,185円としたこと。
リ 原処分庁は、本件譲渡に係る譲渡費用の額を仲介手数料の金額1,309,000円、登記費用等の金額36,700円及び本件地元協力金1,400,000円の合計額2,745,700円としたが、本件農地転用決済金及びL土地改良区に支払った農地転用決済金ついては、譲渡費用の額に算入しなかったこと。
ヌ 本件土地改良区は、土地改良法の規定に基づき「K土地改良区定款」(以下「本件定款」という。)、「K土地改良区規約」(以下「本件規約」という。)、「K土地改良区地区除外等処理規程」(以下「本件処理規程」という。)、「K土地改良区地区除外等処理規程内規」(以下「本件処理規程内規」という。)及び「転用決済金(維持管理費)の変更について」(以下、「本件維持管理費算定基準」といい、本件処理規程及び本件処理規程内規と併せて「本件処理規程等」という。)を定めていること。
ル 本件譲渡は、租税特別措置法第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》の規定による特例が適用される優良住宅地のための譲渡に該当すること。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 決定処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地改良区は、本件農地転用決済金の算定及び徴収等について、土地改良法第42条第2項の規定を受けて昭和48年に定めた本件処理規程等に基づいて行っている。
B 本件処理規程等の内容は、要旨次のとおりである。
(A)本件土地改良区の地区内の土地につき、農地法第4条《農地の転用の制限》第1項、同法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》第1項又は同法第73条《売り渡した土地等の処分の制限》第1項の規定による県知事又は農林大臣の許可を申請しようとする組合員(以下「転用組合員」という。)は、あらかじめ、本件土地改良区にその旨を通知するとともに、その土地を本件土地改良区から除くように申請をしなければならない。
(B)本件土地改良区は、上記(A)の申請があったときは、除外する土地に係る農地転用決済金の額を本件処理規程に定める「決済金算定基準」により確定し、速やかにその決済をするものとする。
(C)農地転用決済金は、所定の償還額に、決済年度の翌年度以降の本件土地改良区の事業維持管理費として、償還額の90パーセントに相当する金額(ただし物価の変動災害発生により増減することがある)を合わせて徴収するものとする。
(D)上記(C)の事業維持管理費は、本件土地改良区の基準年度における事務費、維持管理費、幹支線用排水路管理、頭首工揚水機修理費及び農道管理費に基づいて算定されており、当初は、昭和48年度を基準年度とし、向こう20年間分に相当する金額として10アール当たり43,652円と定められたが、その後変更され、現在は、平成3年度を基準年度とし、向こう40年間分に相当する金額として10アール当たり500,000円とされている。
(ロ)本件譲渡による所得は、譲渡所得であり、譲渡所得に対する課税は、資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会にその所有期間中の増加益を清算して課税するものであり、事業所得等の利益とはその性質を異にすると解されている。
 そして、所得税法第33条第3項においては、譲渡所得の金額は、譲渡所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及び譲渡費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
 すなわち、譲渡所得の計算上、総収入金額から控除されるものは、取得費と譲渡費用であり、取得費とは、資産取得の直接の対価及びその資産の保有中における資産価値の増大をもたらす費用に限定しているものと解され、また、譲渡費用とは、その譲渡を実現するために直接必要な支出及び譲渡収入を増加させるために支出した費用に限られるものと解される。
(ハ)土地改良事業に係る受益者負担金の課税上の取扱については、〔1〕土地改良施設の敷地等の土地取得費及び農地の整備、造成に要した費用等の「永久資産取得費対応部分」については、譲渡所得の取得費に算入され、〔2〕水路・ため池の掘削費用、公道・農道の整地費、盛土費及びこれらの工事の測量費等の「繰延資産取得費対応部分」については、農業に係る事業所得の必要経費に算入され、また、これらに係る未償却残高は譲渡費用とされ、〔3〕上記〔1〕及び〔2〕以外の「維持管理費相当部分」については、農業に係る事業所得の必要経費に算入されることとなる。
(ニ)これを本件についてみると、上記(イ)のBの(C)及び(D)の各事実から、本件金員は、本件譲渡の年の翌年以降の将来に渡る土地改良事業の維持管理費と認められる。
 また、一般に農地転用決済金は、土地改良区の土地の全部又は一部について組合員たる資格の喪失に際し、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、当該権利義務を清算するために行われるのであって、転用組合員から徴収されるものであり、土地は譲渡しないが、農用地以外に転用する場合には徴収され、逆に、土地は譲渡するが、転用を伴わない場合には徴収されないのであるから、組合員たる資格に係る権利の目的である土地の譲渡とは直接の関係のないことは明らかである。
 したがって、本件金員は、土地改良事業に係る将来の維持管理費を一括前払するもので、将来の収益に対する期間対応費用であると認められ、本件土地取得の直接の対価及びその保有中における資産価値の増大をもたらす費用に該当せず、また、その譲渡を実現するために直接必要な支出及び譲渡収入を増加させるために支出した費用にも該当しないことから、本件譲渡に係る譲渡所得の計算上、総収入金額から控除される取得費及び譲渡費用には該当しない。
 そうすると、本件金員は、平成13年分以降の農業に係る事業所得の計算上控除すべき期間対応費用ということになり、平成12年分の農業に係る事業所得の計算上必要経費に算入できない。
(ホ)請求人は、原処分庁が本件地元協力金を譲渡費用として認容しているのであるから、本件金員もそれと同様に譲渡費用として認めるべきである旨主張する。
 ところで、地元協力金は、本来、買主(宅地開発業者)が、宅地開発のために支出すべき性質のものであるから、譲渡所得の総収入金額に算入すべき金額にも当たらないし、もちろん、譲渡のため直接かつ通常必要な費用でなく、また、資産の価額を増加させるために支出した費用でもないことから、譲渡費用にも当たらない。これに対して、農地転用決済金は、売主(転用申請者)が支出すべきものであり、これを買主が負担した場合には、当該金額は、経済的利益として総収入金額に加えるべきものである。
 しかしながら、原処分においては本件地元協力金を総収入金額に加えて計算したため、その反映として同額を譲渡費用にも加えて譲渡所得を算出したものであり、本来、総収入金額にも譲渡費用にも加えるべきでなかった本件地元協力金を、総収入金額及び譲渡費用の双方に加えたという点で不適切であったが、このことにより譲渡所得が増加したわけではない。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、決定処分は適法であり、また、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項に規定する「期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる」事実はないことから、同項に基づいてなされた賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその一部の取消しを求める。
イ 決定処分について
 本件金員は、次の理由により、譲渡費用に該当する。
(イ)請求人は、本件譲渡に係る契約の履行に当たり本件土地を宅地に転用する必要があったところ、本件土地を宅地に転用する場合には農地法の許可と本件土地改良区の地区から除外する処理が必要であったので、本件農地転用決済金の納付とともに一連の取引及び行為を行ったものであり、これらは本件譲渡と一体のものである。
 したがって、本件金員は、本件譲渡に直接要した費用である。
(ロ)譲渡費用は、資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用と解されることから、本件金員を支払うことによって宅地に転用が可能となり、本件譲渡の売買代金も宅地としての価額となったものであるから、本件金員は、本件土地の譲渡価額を増加させるために当該譲渡に際して支出した費用に該当する。
(ハ)原処分庁は、本件金員は本件土地改良区の事業に係る将来の維持管理費を一括前払するもので譲渡費用には該当しないとしているが、本件金員は、原処分庁が主張する維持管理費の性格を有するものではなく、農業をやめるに当たって本件土地改良区に支払った離脱金であって、これを支払わなければ本件土地を譲渡することはできないのであるから、本件譲渡に必要かつ相当な費用である。
(ニ)原処分庁は、本件地元協力金を譲渡費用として認容したのであるから、本件金員もそれと同様に譲渡費用として認めるべきである。
(ホ)原処分庁は、本件金員が譲渡費用に該当しないとするが、当該支出が家事費なのか農業に係る事業所得の必要経費なのか明らかにすべきである。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、決定処分の一部を取り消すべきであるから、これに伴い無申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すベきである。

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3 判断

(1)決定処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件譲渡に係る売買契約書について
 本件譲渡については、上記1の(3)のロのとおり、本件売買契約書A及び本件売買契約書Bが存在するが、それぞれに記載された売買代金の差額4,925,200円の内訳は、本件農地転用決済金1,208,530円、L土地改良区に対する農地転用決済金126,670円及び本件地元協力金の当初額3,590,000円の合計額であること。
(ロ)本件土地改良区について
A 本件土地改良区は、農業の基盤の整備及び開発を図り、もって農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資することを目的に、土地改良法第16条《定款》の規定を受けて本件定款を定め昭和40年2月8日に設立されたこと。
 なお、本件土地改良区は、本件定款の第4条(事業)において、農業用施設の維持管理を主な事業とする旨定めていること。
B 本件処理規程等によれば、農地転用決済金は、農地を転用した場合にのみ徴収されるものであり、所有者が同じでも、農地を宅地に転用するだけで農地転用決済金が徴収される一方、農地を譲渡しても土地改良区の事業に関する権利義務の承継が行われれば、農地転用決済金は徴収されないものとされていること。
(ハ)L土地改良区について
A L土地改良区は、農業生産の基盤及び開発を図るとともに、土地改良施設の適正な管理運用を期し、もって、農業の生産性の向上、農業生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資することを目的に、平成4年1月13日に設立されたこと。
B L土地改良区は、土地改良法の規定を受けて定款を定め、この定款に基づき規約、地区除外規程、土地改良区転用決済金の管理運用規程、決済金算定基準を定めていること。
C L土地改良区は、定款の第4条(事業)において、農業用施設の維持管理を主な事業とする旨定めていること。
D L土地改良区は、地区除外決済金の算定について、平成12年3月31日に開催された第9回通常総代会において、次表のとおり決定していること。

 なお、当該地区除外決済金は、上記のBの定めに基づくもので、農地転用決済金であること。
(ニ)本件地元協力金について
A 平成12年7月6日付「Q町農地転用に係る諸規定」と題する文書には、要旨次のとおりの記載があり、Q町区長M、Q町農家組合N、Q町土地改良区代理R、使用業者H社及び連帯保証人として請求人がそれぞれ記名捺印していること。
(A)Q町は集落センターの収容員数が現在一杯(110戸)の状態にあるため、今後戸数の増加による狭小が懸念され、増設を余儀なくされるため、その時協力金として、1戸当たり200,000円を団地造成業者が納めるものとする。
(B)1団地造成当たり(区、農家組合、土地改良)に対し1,000,000円の協力金を納めるものとする。
(C)1戸当たり土地改良排水等の賦課金として100,000円を納めるものとする。
(D)1戸当たり町内編入協力金として70,000円を納めるものとする。
(E)申請業者は、各条項を厳守し誓約の証として下記に署名捺印して、各々が一通保有するものとする。
B 平成12年12月30日付「Q町地係農地転用についての申し合せ」と題する文書には、要旨次のとおりの記載があり、Q町町内会長M、Q町農家組合N、地主請求人及び土地改良区Sがそれぞれ署名捺印していること。
(A)地主は宅地造成1区画当たり200,000円を目安として、Q町に寄付を行うものとする。
(B)地主と不動産販売業者は協力して新しく町内会に編入される人達が、町内会運営に参画されるよう努力するものとする。
(C)地主とQ町関係者は、申し合わせの証として各々が一通保有するものとする。
C 平成13年10月26日付でH社が原処分庁に提出した「P市Q町○番の○宅地造成工事未成工事支払金について」と題する文書には、「Q町区加入金1,400,000円については本来は立替金であって売買の時に100パーセントの回収なのですが、現状は30パーセント〜40パーセントしかできず、あとは会社の経費になっています」の記載があること。
(ホ)本件土地改良区の事務局の担当者は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
A 本件金員については、本件維持管理費算定基準に基づき算定した。
B 本件金員を転用組合員から徴収する趣旨は、転用することによって農地が減ることとなり、残された農地の組合員の維持管理費の負担が増加することとなることから、その増加する維持管理費相当分を転用組合員から徴収するもので、いわゆる将来の維持管理費相当分について、転用時に当該組合員から負担を求めるものである。
C 本件農地転用決済金の領収書がH社になっていることについては、本来の負担者は転用する農地の所有者であり、土地改良区は所有者にしか請求できないが、買主が負担したとしても本件土地改良区は何も言っていない。
 しかし、本件農地転用決済金は、請求人から受領したものとして受入れ処理をしている。
(ヘ)請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
A 本件譲渡に係る売買契約書が2通あるのは、当初、本件売買契約書Aを作成したが、本件農地転用決済金、L土地改良区に対する農地転用決済金及び本件地元協力金が課税上問題となるのを避けるため、それらの金額を外して本件売買契約書Bを作成したものである。
B 本件土地は、本件譲渡の時まで耕作していた。
C 本件譲渡の後は、残った10アールほどの農地を耕作しているが、生活費は本件譲渡の売買代金を充てている。
D 本件地元協力金は、当初3,590,000円と高く不満を持っていたところ、親せきや友人がQ町農家組合、Q町区及びQ町土地改良区とそれぞれ交渉してくれ、最終的に1,400,000円となった。
ロ 関係法令等
(イ)土地改良法第42条第2項には、土地改良区の組合員が、組合員たる資格に係る権利の目的である土地の全部又は一部についてその資格を喪失した場合において、承継又は交替がないときは、その者及び土地改良区は、その土地の全部又は一部につきその者の有するその土地改良区の事業に関する権利義務について必要な決済をしなければならない旨規定している。
(ロ)農地法第5条第1項には、農地を農地以外のものにするため、当該土地の権利を移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定している。
 そして、農地法施行令第1条の15《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動についての許可手続》第1項は、農地法第5条第1項の許可を受けようとする者は、農林水産省令で定める事項を記載した申請書を、農業委員会を経由して、都道府県知事に提出しなければならない旨規定している。
 さらに、農地法施行規則第6条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動についての許可申請》第2項第3号には、農地法施行令第1条の15第1項の規定により申請書を提出する場合に添付しなければならない書類として、「申請に係る農地又は採草放牧地が土地改良区の地域内にある場合には、当該土地改良区の意見書(意見を求めた日から30日を経過してもなおその意見を得られない場合には、その事由を記載した書面)」と規定している。
(ハ)農地法に基づく農地等の転用の許可の運用について、「農地転用許可基準の制定について」通達(昭和34年10月27日農林事務次官通達34農地第3353号(農)、改正平成元年3月30日元構改B第152号)の第二章(許可方針)第二節(一般基準)第九(転用候補地が土地改良事業受益地である場合の取扱)は、「転用候補地が土地改良事業受益地区にあつて、その転用がやむをえないと認められる場合においては、当該事業計画が土地改良事業に及ぼす影響が少ないよう措置されていること」と定めており、そして、この措置とは、〔1〕賦課金、分担金等が残存農地の耕作者に転嫁され増額されることにならないこと、〔2〕転用農地に対応する補助金又は政府融資金の返還又は償還措置がされていることと解されている。
ハ 譲渡費用
(イ)所得税法は、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類している。これは、所得はその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定め、また、それぞれの態様に応じた課税方法を定めるためである。
 そして、譲渡所得の金額については、所得税法第33条第3項において、譲渡所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及び譲渡費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
 ところで、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れ他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解されている。
 よって、譲渡費用も上記で述べたように譲渡所得に対する課税の本質からみて譲渡所得に係る総収入金額から控除することが課税の公平上相当なものであることを要し、具体的には、当該資産の譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用に限定されると解するのが相当である。
 そうすると、譲渡費用とは、資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録費用等のように、その譲渡のために直接かつ通常必要な費用や、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するためその契約を解除したことに伴い支出する違約金その他その資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用をいうものと解され、当該資産の保有期間中に支出した修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、当該資産の使用収益によって生ずる費用であって譲渡費用に含まれないものと解される。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 本件農地転用決済金は、上記ロの(イ)のとおり、土地改良法第42条第2項の規定に基づき土地改良区の土地の全部又は一部について組合員たる資格の喪失に際して、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、当該権利義務を清算するために徴収されるものであって、組合員たる資格に係る権利の目的である土地の譲渡とは直接の関係がないことが明らかである。
 現に、上記イの(ロ)のBのとおり、本件農地転用決済金は、土地改良区内の農地を転用する場合には、譲渡が伴わなくても徴収される反面、農地を譲渡したとしても転用を伴わない場合は徴収されないこと、また、本件譲渡に関して農地法第5条の許可が必要であるところ、その手続については、上記ロの(ロ)のとおり、農地法第5条の許可を申請するに当たり、申請に係る農地が土地改良区内の農地である場合には、農地法施行規則第6条第2項において土地改良区の意見書の添付が要件となっているが、意見を求めた日から30日を経過してもなおその意見が得られない場合には、その事由を記載した書面を添付すれば足りる旨規定していることからすると、必ずしも、本件農地転用決済金の納付が意見書の発行及び農地法第5条の許可を申請するための必要な条件になっていないと認められる。
 したがって、本件農地転用決済金は、本件土地を譲渡するために直接かつ通常必要な費用であると認めることはできない。
B 請求人は、本件金員を支払うことによって宅地に転用が可能となり、本件譲渡の売買代金も宅地としての価額となったものであるから、本件金員は、本件土地の譲渡価額を増加するために当該譲渡に際して支出した費用に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件金員は、上記Aのとおり、土地改良法第42条第2項の規定によって、本件土地改良区の組合員であった請求人が本件土地改良区に対して有していた権利義務を清算するために、譲渡の有無に関わらず、あらかじめ定められた本件処理規程等の定めに基づいて発生し、本件土地改良区によって徴収されたものであることからすると、本件金員の支払が本件土地の譲渡価額を増加させることになるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のことから、本件金員を含む本件農地転用決済金は、譲渡費用に当たらないと認められる。
ニ 本件地元協力金
 請求人は、原処分庁が本件地元協力金を譲渡費用に認容したのであるから、本件金員も同様に譲渡費用として認めるべきである旨主張するので、本件地元協力金について検討する。
(イ)本件地元協力金は、当初、上記イの(ニ)のAの「Q町農地転用に係る諸規定」に基づいて3,590,000円とされたが、上記イの(ヘ)のDの請求人の答述のとおり最終的には上記イの(ニ)のBの「Q町地係農地転用についての申し合せ」によってその額は1,400,00円とされたものである。
 本件地元協力金については、〔1〕当該諸規定によると、団地造成のための協力金であり、負担者は団地造成業者となっていること、〔2〕本件地元協力金1,400,000円は、当該諸規定及び当該申し合せのとおり、宅地造成1区画当たり200,000円に本件土地の宅地造成区画数である7区画を乗じて算出されたこと及び〔3〕上記イの(ニ)のCのとおり、H社は、Q町区加入金1,400,000円について、本来は宅地の購入者に対する立替金であって、売買のときに回収するものであるが、回収できない部分は会社の経費となっている旨原処分庁に申立てしていることからすると、H社が本件土地の宅地造成に関して負担すべきものと認めるのが相当である。
 なお、当該申し合せによれば、地主である請求人が寄付を行うこととなっているものの、これは、上記のとおり本件地元協力金はH社が本件土地の宅地造成に関して負担すべきものであることからすれば不自然ではあるが、交渉によって本件地元協力金の引き下げが行われた場合、その利益を受けるのは請求人であったためであると認められ、現に、上記1の(3)のヘのとおり、当初額3,590,000円と最終額1,400,000円の差額である2,190,000円が請求人に支払われていることからも明らかである。
(ロ)そうすると、本件地元協力金は、本件譲渡の総収入金額に算入すべきでなく、また、譲渡費用にも該当しないと認められる。
ホ 分離長期譲渡所得の金額
(イ)譲渡所得に係る総収入金額
 本件譲渡に係る売買契約書は、上記1の(3)のイのとおり2通存在するが、当該契約書2通に記載された売買代金の差額は、上記イの(イ)のとおり農地転用決済金及び本件地元協力金の当初額の合計額であり、本件売買契約書Aの特約条項によるとそれらは請求人が負担することになっていることからすると、当該契約書2通は当事者双方にとって本質的には同様の契約内容を表現したものと推認される。
 すなわち、本件売買契約書Aに記載された売買代金は、H社が本件譲渡に関して支出する対価の総額を示し、本件売買契約書Bに記載された売買代金は、契約段階において請求人が本件譲渡に関して最終的に収入する金額を示しており、その売買代金の差額は、特約条項で調整しているものである。
 そうすると、本件売買契約書Bには、特約条項が付されていないものの農地転用決済金及び本件地元協力金はH社が負担するものと解される。このことは、現に、H社が農地転用決済金及び本件地元協力金を支払っていることからも明らかである。
 以上のことから、譲渡所得に係る総収入金額は、〔1〕上記1の(3)のハのとおりH社から本件土地の売買代金として請求人が受領した34,638,500円、〔2〕上記1の(3)のニのとおりH社が支払った農地転用決済金の合計額1,335,200円及び〔3〕上記1の(3)のへのとおりH社から本件地元協力金の当初額と確定額の差額として請求人が受領した2,190,000円の合計額である38,163,700円とするのが相当である。
 なお、上記〔2〕のH社が支払った農地転用決済金は、本来請求人が負担すべき費用であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(ロ)譲渡した資産の取得費
 譲渡した資産の取得費については、請求人からその金額を証する書類等の提出がないため、租税特別措置法第31条の4の規定により譲渡した資産の総収入金額の100分の5に相当する金額1,908,185円となる。
(ハ)譲渡費用
 上記ハ及びニのとおり、本件農地転用決済金及び本件地元協力金はいずれも譲渡費用に該当しないことから、譲渡費用は、株式会社Jに支払った本件譲渡に係る仲介手数料の金額1,309,000円及び司法書士Tに支払った登記費用等の金額36,700円の合計額である1,345,700円となる。
(ニ)長期譲渡所得の特別控除額
 租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項の規定により、長期譲渡所得の特別控除額は、1,000,000円となる。
(ホ)以上のことから、分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

ヘ 農業に係る事業所得の金額
 原処分庁は、本件金員は土地改良事業に係る将来の維持管理費を一括前払するもので、平成13年分以降の農業に係る事業所得の計算上控除すべき期間対応費用であるから、平成12年分の農業に係る事業所得の計算上必要経費に算入できない旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)本件土地改良区及びL土地改良区は、上記イの(ロ)のA及び(ハ)のCのとおり、それぞれ農業用施設の維持管理を主な事業としていることから、当該土地改良区の事業から利益を受ける農地が存在する限り当該事業が継続し、半永久的に存続することが予定されており、組合員の負担も借入金の償還に充当される部分を除き、将来に向けて半永久的に発生することが予定されている。農地転用決済金は、土地改良事業の経過期間や物的設備の状況等により土地改良区の定款によって定められるのであるが、将来の維持管理費に相当する部分とされた金額については、次の理由から農業に係る事業所得の計算上必要経費に算入するのが相当であると認められる。
A 農地転用によって農業を廃止又は縮小する組合員が、土地改良区の将来の維持管理費に相当する費用を支払うことについては、上記イの(ホ)のC及び上記ロの(ハ)のとおり、組合員の減少によって残存する組合員の負担が増加しないように措置する必要があるためであると認められる。
 一般に、土地改良区に参加した各組合員は、土地改良区の維持管理費を毎年支払うものであるが、農地転用により農地として利用しなくなったときには、その後に支払うべき維持管理費を一括して支払わなければならないことになっているから、農地転用決済金の本質は農地という農業用資産について生じた費用とみることができるのであり、農業という業務について生じた費用として、借入金の償還に充当される部分を除き、農業に係る事業所得の計算上必要経費に算入することが相当である。
B 農地転用決済金は、農地転用により農業を廃止又は縮小する転用組合員が負担するものであるから、転用組合員にとっては、将来の維持管理費は必要でないにもかかわらず、農地転用の時に一括して負担しなければならないことになる。したがって、農地転用決済金は、将来の維持管理費の前払費用には該当せず、農地転用の時に一括して債務が確定する業務上の費用といえる。すなわち、農業用資産が農業用資産でなくなる時に生じた清算費用たる性質を有する支出であると解するのが相当である。
(ロ)そうすると、〔1〕上記1の(3)のホのとおり、本件農地転用決済金は、平成12年7月24日付の通知書で支払が確定していること、〔2〕上記イの(ホ)のAのとおり、本件金員は本件維持管理費算定基準に基づき算定されていること及び〔3〕上記イの(ヘ)のBのとおり、請求人は本件土地を本件譲渡の時まで農業の用に供していたことから、本件金員は、上記(イ)のとおり本件土地について生じた清算費用であり、農業という業務について生じた費用と認められ、平成12年分の農業に係る事業所得の計算上必要経費に算入するのが相当である。
(ハ)ところで、請求人は、上記イの(ヘ)のCのとおり、農業を営んでいるにもかかわらず、原処分には平成12年分の農業に係る事業所得の金額が含まれていないことから、当審判所において調査した結果、次のとおりである。
A 総収入金額は、米の収穫量を9.51俵とし、1俵当たりの価額17,000円を乗じて計算した161,670円である。
B 租税公課の金額は、P市に納付した本件土地に係る固定資産税8,768円である。
C 土地改良費の金額は、K土地改良区に納付した経常賦課金及び特別賦課金の合計額である6,331円である。
D L土地改良区に対する農地転用決済金126,670円は、上記イの(ハ)のDのとおり、10アール当たり52,010円で算定されているが、そのうち用水事業地元負担金の決済金10アール当たり33,100円で算出した78,711円は、当該土地改良区の借入金に対応する繰上償還分と認められ、必要経費に算入できないことから、差引額47,959円を必要経費に算入する。
E 農作業委託費の金額は、農作業の受託者Uに対して支払った110,670円である。
F 本件金員は、上記(ロ)のとおりであるから1,189,000円を必要経費に算入する。
 以上のことから、平成12年分の農業に係る事業所得の金額は、次表のとおりである。

ト 損益通算
 上記ヘのとおり、農業に係る事業所得の金額の計算上生じた損失の金額は、1,201,058円となり、所得税法第69条《損益通算》第1項の規定により、当該損失の金額は、分離長期譲渡所得の金額33,909,815円から控除されることとなり、その結果、分離長期譲渡所得の金額は32,708,757円となる。
チ まとめ
 分離長期譲渡所得の金額32,708,757円は、原処分に係る分離長期譲渡所得の金額を下回るから、原処分のうち、同金額を超える部分について取り消すのが相当である。

(2)無申告加算税の賦課決定処分について

イ 決定処分は、上記(1)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、無申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、4,490,000円となる。
ロ また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
ハ したがって、無申告加算税の額は、673,500円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、無申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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