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(平15.10.22裁決、裁決事例集No.66 170頁)

《裁決書(抄)》

 

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、給与所得者である審査請求人(以下「請求人」という。)において、土地を地方公共団体に寄付したことが所得税法第78条《寄付金控除》第2項第1号に規定する特定寄付金に該当するとして、寄付金控除をした上平成13年分の所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたのに対し、原処分庁が上記寄付をしたのは請求人ではないとして、平成14年6月21日付で平成13年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行ったため、その全部の取消しを求めた事案である。

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(2)関係法令

イ 所得税法第78条第1項は、居住者が、各年において、特定寄付金を支出した場合において、その年中に支出した特定寄付金の額の合計額(当該合計額がその者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の100分の25に相当する金額を超える場合には、当該100分の25に相当する金額)が10,000円を超えるときは、その超える金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する旨規定している。
ロ また、所得税法第78条第2項第1号は、国又は地方公共団体に対する寄付金については、その寄付をした者がその寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄付をした者に及ぶと認められるものを除き、特定寄付金に該当する旨規定している。

(3)基礎事実等

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査結果においてもその事実が認められる。
イ P市役所土木課は、平成13年8月3日にP市Q町地内の側溝修繕工事及びこれに伴う道路の舗装工事(以下「本件工事」という。)に着工し、同年9月17日に工事内容を変更した上で、同年10月5日に同工事を完成している。
ロ 請求人は、隣家のF名義の土地であるP市R町字a○○番○の宅地380.18平方メートルからR町b○○番○○の宅地(以下「本件土地」という。)8.57平方メートルを分筆するため、測量業務等を土地家屋調査士及び行政書士であるGに依頼し、測量費等の費用171,450円を平成13年9月19日に同人に支払っている。
ハ 請求人は、本件土地をP市に寄付する(以下「本件寄付」という。)ため、寄附申込書の作成をGに依頼し、当該書類の作成費用48,250円を平成13年9月19日に同人に支払っている。
ニ 本件寄付の直前における本件土地の登記簿上の所有権者は、Fである。
ホ 請求人が本件確定申告後に原処分庁に提出したところのP市長への「寄附申込書」の寄付者名及びP市長発行の「寄附承諾書」のあて名は、Fである。
ヘ Fは、平成13年9月21日に請求人から200,000円を受領し、請求人あてに収入印紙を貼付した領収証を発行しているが、当該領収証のただし書欄には「P市R町b○○−○○ 8.57平方メートル売買代金」と記載されている。
ト 請求人は、上記ロの測量費等の費用171,450円、上記ハの寄附申込書の作成費用48,250円及び上記ヘのFへ支払った200,000円の合計額419,700円を所得税法第78条第2項第1号に規定する特定寄付金に該当するとして、平成13年分の所得税の確定申告書の寄付金控除の「寄付金」欄に記載して、別表の「確定申告」欄のとおり本件確定申告をした。
チ 本件確定申告後の請求人の審査請求(平成14年11月27日請求)に至る経緯等は、別表のとおりである。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、自宅前の側溝が道路に沿って、への字型に曲がった状態になっており、排水状況が悪く不衛生のため、改修してもらうよう従来から自治会を通じてP市に依頼していたところ、側溝が改修されることになった。
(ロ)請求人は、への字型に曲がった状態で側溝を改修しても道路と住宅の高低差の関係で勾配が確保できず、排水が悪くなる懸念があったため、側溝をまっすぐに改修するようP市に依頼したところ、P市は、側溝をまっすぐに改修するためには隣家であるFの敷地内に側溝を通さなければならず、まっすぐには改修はできないとのことであった。そこで、請求人は、側溝をまっすぐに改修してもらうようFから本件土地を買い上げて本件寄付を行ったものであり、所得税法第78条に規定する寄付金控除に該当するものである。
(ハ)原処分庁は、本件寄付がF名義でされていることを理由に、その控除は認められないとして本件更正処分を行ったが、請求人は、Fから本件土地の売買に係る領収証を受領しており、本件土地を買い受けていることは明らかである。
 したがって、本件土地の真の所有者である請求人が本件寄付をしたものであるから、特定寄付金として寄付金控除は認められるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり取り消されるべきであるから、本件賦課決定処分も取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 寄付金控除について
 上記1の(3)のニ及びホからすると、本件寄付は請求人が行ったものではないため、請求人は、所得税法第78条第1項に規定する特定寄付金を支出した場合には該当せず、寄付金控除の適用を受けることはできない。
 仮に、請求人が主張するように本件土地の寄付者が請求人であったとしても、本件寄付は、請求人及びFの両人のみが利用する側溝の改修工事を目的としたものであり、本件寄付によって請求人の要請どおりP市によって側溝の改修工事が行われており、これによって両人の利便性が高まっていることからすれば、本件寄付は、上記1の(2)のロの「その寄付をした者がその寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別な利益が寄付をした者に及ぶと認められるもの」に該当し、所得税法第78条第2項第1号に規定する特定寄付金には該当せず、寄付金控除の適用を受けることはできない。
ロ 本件更正処分について
(イ)総所得金額
 請求人の申告額のとおり23,801,500円である。
(ロ)所得控除の額
 次のA及びBの合計額○○○○円である。
A 寄付金控除の額
 上記イで述べたとおり、寄付金控除の適用はない。
B その他の所得控除の額
 請求人の申告額のとおり○○○○円である。
(ハ)課税総所得金額
 請求人の課税総所得金額は、上記(イ)の総所得金額から上記(ロ)の所得控除の額を控除した○○○○円(1,000円未満切捨て)である。
 その結果、請求人の課税総所得金額は、本件更正処分と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ハ 本件賦課決定処分について
(イ)本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
(ロ)過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項の規定に従い、正しく計算されているから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、主として所得税法第78条第1項の規定による寄付金控除適用の可否、具体的には、〔1〕本件寄付をした者が請求人であるか否か(争点1)、〔2〕請求人が本件寄付を行ったと認められる場合でも、請求人が本件寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別な利益が請求人に及ぶと認められるか否か(争点2)にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分

イ 認定事実
 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の敷地は、本件寄付前において、その東側の一部(以下「自宅玄関側敷地」という。)が幅員4メートルの旧市道の一部及びその南側に隣接する本件土地に接していたが、上記旧市道は、袋小路であり、その袋小路の終点に請求人宅が所在することから、主として請求人及び近隣の住民により利用されていた。
 なお、本件土地は、F名義の私有地であったため、請求人宅への進入路は狭くなっていた。
(ロ)本件寄付により旧市道の幅員は、5.2メートルに拡幅されているが、請求人宅の敷地との関係でみると、市道と自宅玄関側敷地が接する部分が1.2メートル分拡幅されたことになる。
 そして、本件寄付後においても市道が袋小路であること、その利用状況についても請求人及び近隣の住民により利用されていることに変わりはないが、本件寄付後、請求人は、上記市道周辺の拡幅及び舗装工事等がされたことに伴い、当該市道に接する請求人宅の敷地の東側部分(本件土地と接する部分に対応する。)に、新たな出入り口を設けるなどの工事を行っている。
(ハ)Fは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A P市への寄付の申込みの手続に関する書類の作成は請求人が行ったが、自分の名前で寄付されるものであるため、自分が寄附申込書に押印した。
B 請求人の父は足が悪く、請求人は車を自宅の正面に駐車し、父親を車に乗り降りさせていたが、道幅が狭いため隣家の通行の妨げとなっていた。
C また、請求人は本件工事の前後に居宅を建て替えた。その際、請求人の自宅出入り口の間口を広げた。
(ニ)P市の土木課職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A P市では、本件土地の側溝の排水の流れが悪く前々から自治会から改修の要望が出ていたことから、設置されていた側溝をそのままの位置で改修するよう平成13年8月2日に工事の発注をした。
B ところが、平成13年8月21日にF名で本件土地の寄付の申込みがあり、同月28日に寄付の承諾があったため、同年9月17日に本件土地を市道とするとともに拡幅された市道の端に沿って側溝をまっすぐに設置するよう工事内容を変更して本件工事を行った。
 従前の側溝は、勾配がなかったから排水が逆流したのであって、本件工事では勾配をつけ、排水が滞留しないようにしたものであり、への字型であってもまっすぐであっても機能には変わりはなく、当方から側溝をまっすぐに設置しないと支障があると住民に伝えたことはない。
C 当該市道の幅は、本件寄付前においては4メートルであったが、本件寄付により請求人の自宅前の入り口部分が1.2メートル広がり、5.2メートルに拡幅され、P市は、側溝改修工事と併せて当該市道周辺の舗装工事を行った。
D P市では、土地等の不動産の寄付の申込みがあった場合、登記簿上の所有権者を確認した上で、寄附承諾書を発行している。
ロ 争点1(本件寄付をした者が請求人であるか否か)
(イ)上記1の(3)のニのとおり、本件寄付の直前における本件土地の登記簿上の所有権者はFであり、また、上記1の(3)のホのとおり、P市長への「寄附申込書」の寄付者名及びP市長発行の「寄附承諾書」のあて名もFとなっている。
(ロ)しかしながら、〔1〕上記1の(3)のヘのとおり、Fは平成13年9月21日に請求人から200,000円を受け取り、「P市R町b○○−○○、8.57平方メートル売買代金」と記載し、収入印紙を貼付した領収証を請求人に渡していること、〔2〕上記1の(3)のロ及びハのとおり、本件土地の分筆のための測量業務等及び寄附申込書の作成の業者への依頼を請求人が行い、これらの費用も請求人が負担していること、並びに〔3〕上記イの(ニ)のDのP市の土木課職員の答述のとおり、「寄附承諾書」のあて名がFとなっているのは、土地等の不動産の寄付の申込みがあった場合、P市は、登記簿上の所有権者を確認した上で、寄附承諾書を発行しているためであることからすると、請求人は本件寄付に際して、Fから本件土地を譲り受け、単にFから請求人への所有権移転登記を省略したにすぎないと認められる。
(ハ)そうすると、本件寄付は、実質的に、本件土地を譲り受けた請求人によって行われたと認められる。
ハ 争点2(請求人が本件寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益が請求人に及ぶと認められるか否か)
(イ)上記1の(2)のロのとおり、所得税法第78条第2項第1号は、国又は地方公共団体に対する寄付金のうち、その寄付をした者がその寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄付をした者に及ぶと認められるものを同号所定の特定寄付金から除く旨規定しているが、それは、形式的には寄付したものであっても、それにより特別の利益を受ける場合には、実質的にみて寄付とはいえないので、かかるものを除く趣旨であると解される。
(ロ)そこで、上記イの事実を上記(イ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A P市では、上記イの(ニ)のA及びBのとおり、当初、側溝を旧市道に沿ってへの字型に設置し、勾配等をつけて逆流を防ぎ、不衛生な状態を解消するよう工事計画をしていたところ、本件寄付があり、市道が拡幅されることとなったため、請求人の要望どおり、拡幅後の市道の端に沿ってまっすぐに側溝の設置工事が行われている。
 これにより、少なくとも請求人及びFの利便性が従来に比べて向上している。
B しかも、旧市道が拡幅及び舗装されたことにより、主として当該市道を日常的に利用する請求人及び近隣の住民の通行等の利便性が従来に比べて向上している。
 特に、請求人についてみると、本件寄付により、本件土地を含めた自宅玄関側敷地前の一帯が市道として拡幅、舗装され、本件土地を含めて全面的に進入路として利用することができるようになったが、市道が袋小路であり、その終点に請求人宅が所在していること、自宅玄関側敷地前には私有地である本件土地が旧市道に接する形で所在していたため、請求人宅への進入路が狭くなっていたことをも考え合わせると、本件寄付前に比べて請求人の利便性が向上したことは他の利用者以上に顕著であり、本件寄付による利益を最も享受しているといえる。このことは、現に請求人が、市道として拡幅、舗装された部分に接する自宅玄関側敷地に、新たに出入り口を設けるなどしていることからも明らかである。
(ハ)以上のとおり、本件寄付は、所得税法78条第2項第1号に規定する「その寄付をした者がその寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄付をした者に及ぶと認められるもの」に該当し、特定寄付金には該当しないものと認められるから、寄付金控除の適用を受けることはできないとした本件更正処分は適法である。
 したがって、本件更正処分が違法であるとの請求人の主張には理由がない。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法に行われており、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により行われた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当する理由は認められない。

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