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(平15.7.3裁決、裁決事例集No.66 289頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に課された相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項に規定する連帯納付義務の存否及び当該連帯納付義務に基づき行われた督促処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、A(以下「A」という。)の別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し、相続税法第34条第1項の規定に基づく連帯納付義務があるとして、平成14年5月20日付で、国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項の規定により、督促処分(以下「本件督促処分」という。)を行った。
 なお、原処分庁が行った本件督促処分の督促金額に表示誤りがあったことから、原処分庁が、平成15年4月18日付で、別表1の順号1の延滞税のうち1,685,200円及び順号8の利子税7,085,200円の督促金額を取り消したため、原処分は当該取消し後の処分が対象となる。
ロ 請求人は、原処分を不服として平成14年7月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年10月1日付で棄却の異議決定をしたので、同月25日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互に連帯納付の責に任ずる旨規定している。
ロ 相続税法第38条《延納−延納の要件》第4項は、税務署長は、相続税の延納の許可をする場合には、その延納税額に相当する担保を徴さなければならない旨規定している。
ハ 相続税法第39条《延納の手続・許可及び変更》第6項は、税務署長は、延納の許可を受けた者のその後の資力の状況の変化等により当該許可に係る条件により延納を認めることが適当でないと認める場合においては、その者の弁明を聴いた上、その許可を取り消し、又は延納期間の短縮その他延納の条件の変更をすることができる旨規定している。
ニ 通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項は、相続があった場合には、相続人は、その被相続人に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する旨規定し、第2項は、相続人が二人以上あるときは各相続人が承継する国税の額は、民法第900条から第902条までの規定による相続分によりあん分して計算した額とする旨規定している。
ホ 通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年9月30日に死亡したBの共同相続人の一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、平成2年3月29日にほかの共同相続人と共同して、別表2の「申告」欄のとおり記載した本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を原処分庁に提出し、その後、平成3年12月6日及び平成6年6月17日に、別表2の「修正申告」及び「再修正申告」欄のとおり記載した本件相続に係る修正申告書を原処分庁に提出した。
ロ Aは、平成2年3月29日に、本件申告書を提出するとともに、当該納付すべき税額のうち現金で納付する税額を差し引いた税額につき、相続税延納申請書を提出したところ、原処分庁は、平成2年12月20日付で延納を許可した。
 また、Aは、平成3年12月6日に提出した本件相続に係る修正申告書についても同様に、相続税延納申請書を提出したところ、原処分庁は、平成4年11月26日付で延納を許可(当該延納許可と平成2年12月20日付の延納許可と併せて、以下「本件延納許可」という。)した。
ハ 原処分庁は、P市が本件延納許可に係る担保物を平成14年3月6日付及び同月14日付で差し押さえたことから、相続税法第40条《延納の取消》第2項の規定に基づき、Aに対して、同年4月12日付で、本件延納許可の各取消処分を行った。
ニ Aは、平成14年5月31日に、○○地方裁判所から破産宣告を受けた。
ホ 請求人は、本件相続に係る共同相続人の一人であるCが平成2年9月12日に死亡したことによって、同人のすべての財産を遺言により相続したとして、平成5年5月26日にD税務署長に対し、相続税の申告書を提出した。
ヘ 請求人が本件相続により受けた利益の価額に相当する金額は、○○○○円である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 連帯納付義務の消滅等
 請求人が負うべきAの本件滞納国税に係る連帯納付義務及び請求人が承継したCが負うべきAの本件滞納国税に係る連帯納付義務(以下、これらを併せて「請求人の連帯納付義務」という。)は、次のとおり確定しておらず、また、仮に、確定していたとしても消滅している。
(イ)相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、納付すべき税額を記載した賦課決定通知書によって確定されなければならないところ、原処分庁は、請求人に対し当該賦課決定通知書を送付していないから、請求人の連帯納付義務は確定していない。
(ロ)原処分庁が、前記1の(4)のロの延納申請の際、Aの延納担保物の価額下落が予見できたにもかかわらず、Aに対して金銭による納付を求めずに、実行不可能な本件延納許可を選択したことは、相続税の徴収に不利な選択を行ったものであり、連帯納付義務者への責任追及の権利を放棄したことになるから、その選択の過誤を善良なる請求人に転嫁することは許されない。
(ハ)原処分庁は、本件延納許可の際に担保不足があったとまではいえないが、延納担保として処分価値の高い不動産を担保徴求せず、処分価値の低い不動産を担保として延納許可しており、このことに対する原処分庁の過誤と責任は重大であり、本件延納許可に対する担保徴求義務に違反している。
(ニ)原処分庁が延納許可における担保徴求をする場合には、民法第504条の担保保存義務の法理が適用され、延納担保物の価額が延納税額を下回る危険性が発生した場合には、原処分庁は、追加担保の徴求などの本件延納許可に係る担保を保存・維持する義務があるにもかかわらず、原処分庁はこの義務を怠っているから、相続税法第38条第4項及び同法第39条第6項の規定に違反している。
(ホ)請求人は、不動産市況の悪化が明らかになった平成6年ころから、原処分庁に対し、再三にわたって、Aから早期に相続税を徴収することを要請したが、原処分庁は、Aの延納担保の価値が下落し、追加担保の徴求あるいは延納の取消しをすべき事態に陥っていることを知りながら何らの措置も講じず、平成14年4月12日になって初めて同人に対する延納許可を取り消した。このような原処分庁の延納許可の取消しの遅滞は、相続税法第39条第6項に違反する。
(ヘ)請求人の連帯納付義務に係る本件滞納国税の徴収権の時効は、当該連帯納付義務が発生した相続税の法定納期限の翌日若しくは、本件滞納国税に係る平成6年分の利子税の納期限である平成6年12月5日の翌日を起算日として進行するものであり、本件督促処分の時点では既に5年を経過していることから、通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》の規定により請求人に対する徴収権は消滅している。
(ト)原処分庁は、A及び同人の連帯納付義務者に特例物納の制度を教示するか若しくは特例物納が許可されるような物納物件の提供を指導すべきであったにもかかわらず、適切な対応をしなかった。また、仮に、Aから特例物納の申請があったならば、それを許可すべきであった。
 このように原処分庁の延納者に対する管理の怠慢が、Aから相続税を徴収できない事態を惹起したのであるから、そのことによって請求人の連帯納付義務は消滅している。
ロ 督促処分の手続の違法
(イ)本件督促処分は、原処分庁が本件滞納国税を放置していながら、本税だけでなく延滞税、利子税を付加して多額な支払を連帯納付義務者である請求人に対して行ってきたものであり、このことは、行政手続法第1条《目的等》、第12条《処分の基準》、第13条《不利益処分をしようとする場合の手続》及び第14条《不利益処分の理由の提示》に規定する〔1〕行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ること、〔2〕国民の権利利益の保護に資すること、及び〔3〕不利益処分をしようとする場合はその理由を提示し意見陳述のための手続をしなければならないことに違反する。
(ロ)本件督促処分を見ると、平成6年12月5日納期限の相続税の利子税は、その納期限から8年以上も経過して督促しており、国税の納期限から50日以内に発するものとする旨の通則法第37条第2項の規定に違反している。
ハ 徴収権の濫用
(イ)原処分庁が、自らの徴収手続の怠慢を認めないで、Aの相続税に係る延滞税、利子税の納付責任を固有の相続税を完納している請求人に求めることは、行き過ぎである。
(ロ)Aは、平成14年5月31日に破産宣告を受けており、同人の財産はすべて国が管理するところとなっているのであるから、原処分庁は、破産宣告後の同人の相続税に係る延滞税は免除すべきであるのに、請求人に対してAの破産宣告以降の延滞税まで徴収しようとしている。
(ハ)Aの本件延納許可に係る担保物の価値が下落し、同人から相続税の徴収ができなくなったからといって、原処分庁が本件延納許可から10年以上も経過した後に、請求人に対して連帯納付義務を根拠に相続税の徴収をしようとするのは、徴収権の濫用に当たる。
 なお、原処分庁は、請求人に対して、守秘義務を理由に同人の納付状況に関する情報を開示することもなかった。
(ニ)原処分庁は、Aに対する本件延納許可から延納許可取消しまでの間、上記イの(ロ)ないし(ホ)のとおり、適切な徴収手続を執らず、本件督促処分によって請求人に本税、利子税及び延滞税の多大な負担を課しており、仮に、原処分庁が滞納発生当時に強制徴収手続に入っていれば、その時点でAの所有財産の評価も平成14年時点より確実に高く、しかも、利子税などの負担も少なくなっていたのであるから、当該所有財産を処分することでAの相続税の納付が可能だったはずである。
(ホ)したがって、Aの相続税の徴収のために有効な手段を講じなかったことは、原処分庁の怠慢であり、請求人に連帯納付義務の履行を求めることは徴収権の濫用に当たる。
ニ 相続税の申告における不当性
 本件相続によりAが取得したP市Q町○番○及び同○番○所在の宅地は、地積更正により面積が減少していることに伴って、相続税の課税価格が減少し、相続税の納付すべき額も減少すべきであるにもかかわらず、当該減少部分の是正も行わないままで本件督促処分が行われているのは不当である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 連帯納付義務の消滅等
(イ)相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、相続税の徴収の確保を図るため、相続人に相互に課した特別の責任であって、各相続人の固有の相続税の納付義務の確定という事実に基づき、法律上当然に生じるものであるから、格別の確定手続を要することなく、連帯納付義務を負う者に対して徴収手続を行うことができる。
(ロ)本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は、本来別個の手続であるから、本件延納許可時の具体的な担保徴求の手続及びその判断が請求人の連帯納付義務を消滅させたり、本件督促処分の違法性につながるものではない。
(ハ)上記(ロ)に加えて、相続税法、通則法及び国税徴収法(以下「徴収法」という。)上、税務署長等が担保を維持管理する諸権限の行使を怠ったことを理由として、連帯納付義務の責任の消滅あるいは軽減を求める規定も存在しない。
 また、国税の徴収について、民法第504条を準用する規定もなく、この類推適用を根拠付ける規定も見当たらない。
 さらに、原処分庁は、本来の納税義務者から徴した担保の処分と連帯納付義務者に対する連帯納付義務の履行請求という二つの手段を併存的に有しているから、本来の納税義務者から徴した担保の処分に先立ち、連帯納付義務者に対して督促処分を行ったとしても、違法ではない。
(ニ)原処分庁は、P市による強制換価手続が開始されたため、Aに対する延納許可取消処分を行ったものであるが、Aの相続税の徴収に当たっては、滞納の発生段階からAに対して延納許可取消しによる徴収手続も考慮に入れて、適切に権限を行使しており、Aの延納期間中の徴収手続において怠慢はない。
(ホ)本件においては、本来の納税義務者であるAの相続税は、延納による時効停止の効力が生じており、それに伴い連帯納付義務者の徴収権の時効も停止している。
 また、本件滞納国税の一部について、督促処分時にその分納期限から5年を経過しているものがあるが、それらはいずれも各分納期限から5年を経過するまでの間に一部納付等があったことにより時効が中断しており、Aに対する本件滞納国税についての徴収権は消滅していないから、請求人の連帯納付義務も消滅していない。
(ヘ)特例物納の申請は、納税者であるAの意思によってなされるものであり、また、特例物納の申請をしても、それを許可するか否かは、原処分庁が法令に照らして判断すべきものである。
 したがって、原処分庁が特例物納の手続に当たって、適切な対応をしなかったことをもって、相続税法第34条第1項の規定によるほかの相続人に課される連帯納付義務の存在又はその範囲に影響を与えるものではない。
ロ 督促処分の手続の違法
(イ)相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、上記イの(イ)のとおり、格別の確定手続を要することなく、連帯納付義務を負う者に対して徴収手続を行うことができるものである。
 また、行政手続法第1条は、同条第1項において同法の目的を定め、同法が行政手続に関する一般法であることを明らかにするとともに、同条第2項においてほかの法律に特段の定めがある場合はその法律の規定が適用される旨を定めているにすぎず、税務署長に対して、相続税法第34条第1項に基づき連帯納付義務者に対し督促処分を行う際に事前の告知等を行うべき義務を課したものではないことは明らかであるから、本件督促処分が行政手続法第1条等に違反することはない。
(ロ)通則法第37条第2項の規定は、いわゆる訓示規定であり当該期限を経過して督促がなされたからといって違法となるものではない。
ハ 徴収権の濫用
(イ)原処分庁は、相続税法第34条第1項の規定により、本来の納税義務者が納付すべき相続税について連帯納付義務者に請求することができるのであり、連帯納付義務者に係る相続税には、その利子税・延滞税が含まれるから、請求人にその納付を求めることは、徴収権の濫用には当たらない。
(ロ)破産手続は、破産法に従って、清算手続を進めるものであって、国が破産財団の管理権を取得し、破産管財業務を行うものではない。また、通則法及び徴収法と破産法とは別個のもので、破産管財業務の期間に対応する延滞税について請求人に納付を求めることは、徴収権の濫用には当たらない。
(ハ)原処分庁は、上記イの(ニ)で述べたとおり、Aに対し、適切に相続税の徴収に当たっているから、請求人の主張するような徴収権の濫用はない。
 また、延納許可と連帯納付義務は全く異なる規定を根拠とするものであり、仮に、請求人が主張するように、Aに対して原処分庁が適切な徴収手続を執らなかったとしても請求人の連帯納付義務の存在又はその範囲に影響を及ぼすものではないから、請求人の連帯納付義務は消滅していない。
ニ 相続税の申告における不当性
 請求人が主張するとおり、仮に、Aの相続した土地の一部が地積更正により面積が減少し、本件相続に係る相続税の課税価格が減少するのであれば、当該地積更正により相続税額が減少する者が、そのことを理由に通則法第23条《更正の請求》第1項第1号による更正の請求をすべきであり、原処分庁が減額更正をしなかったことをもって、本件督促処分が不当となるものではない。

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3 判断

(1)相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、同法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であり、その義務履行の前提条件となる連帯納付義務は、各相続人等の固有の相続税の納付義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務の確定につき格別の手続を要するものではないと解される。
 また、各相続人の納付義務が確定すれば、直ちに連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができると解されており、各相続人の一部にその相続税額を滞納した者がある場合には、その他の相続人に対して、その相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務の履行を求めることになる。
 これを本件についてみると、本件相続の共同相続人であるAは、本件督促処分時において本件滞納国税を納付しておらず、かつ、請求人は本件相続により○○○○円の利益を受けているから、請求人は当該利益を受けた金額を限度としてAの相続税について連帯納付義務を負う。
 さらに、前記1の(4)のホの事実から、Cが負うべきAの滞納相続税に係る連帯納付義務は、通則法第5条第2項の規定に従い相続により同人の相続人である請求人に承継される。
(2)連帯納付義務の消滅等
イ 請求人は、原処分庁が連帯納付義務に係る賦課決定通知書を送付していないから請求人の連帯納付義務は確定していない旨主張する。
 しかしながら、本件相続の共同相続人であるAの相続税の納付義務は、前記1の(4)のイ及びロのとおり、税法上有効に確定しており、また、上記(1)のとおり、請求人の連帯納付義務は、格別の手続を要することなくそれに照応して確定しているとするのが相当であるから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、〔1〕原処分庁がAに対し、本件相続に係る相続税の金銭納付を求めずに本件延納許可を選択したことは、請求人に対する連帯納付義務の責任を追求する権利を放棄したこととなること、〔2〕本件延納許可に係る担保財産の選択に誤りがあり担保徴求義務違反があること、〔3〕本件延納許可に係る担保財産の保存・維持する義務を怠ったことが相続税法第38条第4項及び同法第39条第6項に違反すること、及び〔4〕本件延納許可の取消しを遅滞したことが相続税法第39条第6項に違反することから、請求人の連帯納付義務は消滅している旨主張する。
 しかしながら、延納の許可と連帯納付義務は異なる租税法規を根拠とするものである上、相続税法、通則法及び徴収法のいずれにも、請求人が主張するような延納の許可等に関する違法の存在によって連帯納付義務が消滅する旨を規定した条文は存在しない。
 また、連帯納付義務は、法が相続税の徴収を確保するために各相続人等に課した特別の責任であること、延納の許可に当たって十分な担保を徴していても担保価値の変動によって、担保物を処分しても相続税が徴収できなくなる可能性があることからすると、原処分庁は、延納の許可の際に徴した担保物を処分して徴収を確保する方法と、連帯納付義務者にその履行を求めて徴収を確保する方法を、併存的に有していると解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 連帯納付義務者である請求人に対する本件滞納国税の徴収権の時効は、本件督促処分の時点では既に5年を経過しており、消滅時効が完成しているから、請求人の連帯納付義務は消滅している旨主張する。
 ところで、通則法第72条第3項は、国税の徴収権の時効について民法の規定を準用する旨規定している。また、本来の納税義務者と連帯納付義務者との関係は、主債務者と連帯保証人との関係に類似し、連帯納付義務は本来の納税義務に対して附従性を有すると解される。したがって、本来の納税義務について徴収権の時効が進行しない間は連帯納付義務についても徴収権の時効は進行せず、また、本来の納税義務者について時効の中断事由が生じたときは、時効中断の効力は連帯納付義務者についても及ぶと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、Aは、前記1の(4)のロのとおり、平成2年3月29日及び平成3年12月6日に本件相続税の延納申請書を提出し、それぞれ平成2年12月20日付及び平成4年11月26日付で延納を許可されたが、その許可は平成14年4月12日付で取り消されているから、同人が延納した相続税の徴収権の時効は、通則法第73条《時効の中断及び停止》第4項により、上記の延納が許可されていた期間内は進行せず、その取消日の翌日である平成14年4月13日から再び進行することになる。
 また、延納許可取消しまでに延納分納期限が到来している延納分納税額については、その延納分納期限まで消滅時効の進行が停止し、その翌日からそれぞれ時効が進行するものであるが、当審判所の調査によると、延納分納期限から5年を経過するまでの間にAが一部納付により納期限到来分について債務を承認している事実が認められるから、徴収権の時効が中断されることになる。
 したがって、本件延納許可に係る相続税については、本件督促処分時において国税の徴収権の時効期間である5年を経過していないことは明らかであり、本来の納税義務者の本件滞納国税の徴収権の時効が完成していない以上、請求人の連帯納付義務に基づく相続税の徴収権についても同様に時効は完成していないことになるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ 請求人は、原処分庁が、A及び連帯納付義務者に対して、特例物納の制度に関する教示あるいは指導について適切な対応をしなかったこと、また、仮に、Aが特例物納の申請をすれば許可すべきであったのに、それもしなかったため、原処分庁が延納者に対する管理を怠ったとして、請求人の連帯納付義務が消滅している旨主張する。
 しかしながら、特例物納制度は、租税特別措置法第70条の10《相続税の延納の許可を受けた個人の延納税額についての物納等の特例》第1項の規定により、一定の要件を満たした延納許可を受けた者が、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合において、その者の申請により、物納を許可することができる制度であって、同制度を選択するかどうかはAの意思によるものであり、原処分庁がA及び同人の連帯納付義務者に同制度について、教示あるいは指導をしなかったとしても、そのことをもって原処分庁の怠慢とはいえず、また、特例物納の申請に対する可否は、法令に照らして適正に判断すべきであるから、請求人の連帯納付義務を消滅させる根拠にはなり得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)督促処分の手続の違法性
イ 請求人は、本件督促処分が行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に資することを目的とする行政手続法に違反すると主張する。
 しかしながら、行政手続法第1条は、同法の目的について規定するにとどまり、同法の適用関係の具体的な内容については、その他の条項で定められている。
 また、通則法第74条の2《行政手続法の適用除外》では、行政手続法第3条《適用除外》第1項に定めるもののほか、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については、行政手続法第2章及び第3章の規定は適用しない旨規定されている。
 ところで、本件督促処分は、国税に関する法律に基づき行われた行政処分であり、また、行政手続法第14条にいう「不利益処分」に該当するが、同条の規定は上記のとおり、通則法第74条の2の規定により適用しないとされているから、行政手続法の規定をもって本件督促処分が違法であると解することはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、本件督促処分が滞納の発生から8年以上も経過した後になされているから、督促状は国税の納期限から50日以内に発するものとする旨規定する通則法第37条第2項に違反すると主張する。
 しかしながら、同規定は、租税債権の確保を円滑に行うための訓示規定であると解されており、原処分庁が納期限から50日を経過した後に発した督促状であったとしても、その効力には影響はなく、本件督促処分が違法であるとまではいえないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(4)徴収権の濫用
イ 請求人は、自らの相続税について完納しているにもかかわらず、原処分庁が請求人に対して、ほかの相続人の延滞税・利子税まで徴収しようとすることは徴収権の濫用に当たる旨主張する。
 しかしながら、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号の規定により、延滞税及び利子税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり、同法第60条《延滞税》第4項及び同法第64条《利子税》第3項の規定により、その額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税とされていること及び連帯納付義務に係る相続税はこれらを除くという特別の定めもないから、本件滞納国税には当然その延滞税及び利子税が含まれるのであって、その納付を求めることが徴収権の濫用に当たるとはいえないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 次いで、請求人は、Aの破産宣告後、同人の財産はすべて国が管理するところとなっているから、破産宣告後の期間に係る同人の延滞税を免除すべきであり、これを請求人に納付させようとすることは徴収権の濫用である旨主張する。
 しかしながら、破産宣告後のAの財産については、破産法に規定する手続に従って、裁判所が選任した破産管財人によって裁判所の監督の下に手続が進められるのであり、破産者の財産で構成される破産財団の管理処分権は、破産管財人に専属し、国には帰属しないから、国の機関である裁判所の管理下にあるからといって国税が収納されたと同視することはできない。
 また、延滞税の額は、通則法第60条第2項において、国税の法定納期限その他政令で定める日の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じて計算した額とする旨規定されており、破産宣告後の期間をその計算上の日数に含めないとする免除規定はない。
 そうすると、本件滞納国税が完納されるまでは破産手続中といえども延滞税の計算の対象となる期間に含まれることになるから、原処分庁が請求人に対し、Aの破産宣告後の期間に係る延滞税を督促したことは、徴収権の濫用には当たらないから、請求人の主張には理由がない。
ハ さらに、請求人は、原処分庁が守秘義務を理由にAの相続税の納付状況を開示せず、相続開始から10年以上も経過した後に、同人から相続税を徴収できなくなったとして、請求人に連帯納付義務を追及しようとすることは徴収権の濫用に当たる旨主張する。
 しかしながら、ほかの相続人に対する徴収手続の状況を連帯納付義務者に開示しなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、原処分庁には国家公務員法第100条《秘密を守る義務》に規定する守秘義務が課されているのであるから、請求人にAの納付状況に関する情報を開示しなかったとしても、それが徴収権の濫用につながるとはいえない。
 また、連帯納付義務の制度の趣旨からすると、原処分庁は、すべての相続人が相続税を完納するまで、ほかの相続人に対してその相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として同義務の履行を求めることができるのであるから、相続開始の日及び延納許可された日から請求人に対する督促までの期間が長期に及んでいたとしても、そのことが徴収権の濫用に当たるとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、原処分庁がAに対する延納許可から延納許可取消しまでの間、適切な徴収手続をとらず、本件督促処分により請求人に多大な本税、利子税及び延滞税の負担を課していることは徴収権の濫用に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のロで述べたとおり、本来の納税義務者に対する延納による相続税の徴収と連帯納付義務に基づく徴収手続とは、本来的に別個の手続であるから、たとえ原処分庁がその徴収手続を怠った結果、本来の納税義務者から滞納国税を徴収することができなくなったという事実があったとしても、請求人に課されている連帯納付義務の存否及びその範囲に影響を及ぼすものではないから、原処分庁が連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を進めたとしても、これをもって徴収権の濫用と評価することはできない。
 もっとも、連帯納付義務は、相続税の徴収の確保を図るために課された特別の責任であるから、本来の納税義務者が現に十分な財産を有し、同人から固有の相続税の徴収を図ることが極めて容易であるにもかかわらず、原処分庁が同人又は第三者の利益を図り、あるいは連帯納付義務者に損害を与える目的をもって、恣意的に、本来の納税義務者からの徴収を行わず、連帯納付義務者に対してその義務の履行を求めたという事情の存する場合には、徴収権の濫用があると評価できる余地もあると解される。
 これを本件についてみると、原処分庁が延納許可から延納許可取消しまでの間、恣意的な徴収手続を行ったと認めるべき証拠はなく、結果的に本来の納税義務者の財産をもって相続税のすべてを納付することが不能になったとしても、原処分庁が請求人に対して連帯納付義務の履行を求めることは、徴収権の濫用に当たるとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(5)相続税の申告における不当性
 請求人は、Aが相続した土地の一部について地積更正によりその面積が減少しているのだから、本件相続に係る相続税の納付すべき税額を減少するべきであるにもかかわらず、当該減少部分の是正も行われないまま本件督促処分が行われていることは不当である旨主張する。
 しかしながら、相続税の申告は納付すべき税額を納税者自身が確定することを目的とするものであるのに対し、督促処分は既に確定した租税債権が納付期限までに完納されない場合に、その自主納付を促す履行の請求、すなわち、催告としての効力を有するほか、滞納処分開始の前提としてなされる租税債権の強制的実現を目的とする徴収手続であるから、両者はともに租税債権の確保を目的とするが、その目的及び効果は、それぞれ異にし、それ自体で完結する別個の行為及び行政処分である。
 したがって、仮に、当該申告書に記載した課税標準の額に誤りがあり、そのため納付すべき税額が過大であったとしても、納税者による更正の請求等の手続に基づき原処分庁が当該申告に係る納付すべき税額を取り消すまでは、そのことを理由として、督促処分の取消しを求めることはできないから、請求人の主張には理由がない。
(6)以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、請求人の連帯納付義務は、相続税法第34条第1項の規定により発生しているものであるから、原処分庁が通則法第37条第1項の規定に基づき行った本件督促処分は適法である。
(7)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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