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(平16.5.10裁決、裁決事例集No.67 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人A、B、C、D及びE(以下、5名を併せて「請求人ら」という。)の被相続人Fは、消費税の課税事業者であるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成14年5月30日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第3項及び消費税法施行令第63条《死亡の場合の確定申告等の特例》の規定に基づき、被相続人に係る平成14年1月1日から平成14年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成14年9月24日に申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年3月31日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人らは、これらの処分を不服として、平成15年5月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月9日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年8月4日に審査請求をするとともに、Aを総代として選任する旨を併せて届け出た。

(3)関係法令等

イ 消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
ロ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、同法第5条《納税義務者》第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定し、同法第9条第2項第1号は、個人事業者の基準期間における課税売上高は、基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額をいう旨規定している。
ハ 消費税法施行令第2条《資産の譲渡等の範囲》第2項は、事業者が、土地収用法(昭和26年法律第219号)その他の法律の規定に基づいてその所有権その他の権利を収用され、かつ、当該権利を取得する者から当該権利の消滅に係る補償金を取得した場合には、対価を得て資産の譲渡を行ったものとすると規定している。
ニ 消費税法施行令第64条《仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付の手続》は、仕入れに係る消費税額の控除不足額の記載がある確定申告書等の提出があった場合には、当該不足額が過大であると認められる事由がある場合を除き、遅滞なく、消費税法第52条《仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付》第1項の規定による還付又は国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項の規定による充当の手続をしなければならない旨規定している。
ホ 消費税法基本通達5−2−10《対価補償金等》は、消費税法施行令第2条第2項に規定する「補償金」とは、同項の規定により譲渡があったものとみなされる収用の目的となった所有権その他の権利の対価たる補償金(以下「対価補償金」という。)をいうのであり、当該補償金の収受により権利者の権利が消滅し、かつ、当該権利を取得する者から支払われるものに限られるから、資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、対価補償金に該当しない旨定めている。
へ 通則法第56条《還付》第1項は、税務署長は、還付金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 被相続人は、平成12年9月14日にP県とQ市q町○−○に所在の家屋番号q町○−○の建物(以下「本件建物」という。)をP県が施行するq町○○通1種改築工事のために必要な土地の区域外に移転する物件移転契約(以下「本件移転契約」という。)を締結した。
ロ 本件移転契約に基づく物件の移転料及びその他通常受ける損失の補償は、建物等移転補償費、動産移転料及び移転雑費を併せた207,985,550円である。
ハ P県が被相続人に交付した「公共事業用資産の買取り等の証明書」の摘要欄には、建物等移転補償196,728,065円、消費税相当額9,836,354円(以下、これらを併せて「本件建物移転補償金」という。)と記載されている。
ニ 本件建物は、P県に所有権が移転されることなく、平成12年11月20日に取り壊されている。
ホ 被相続人は、平成14年2月28日にG株式会社からR市r町○−○に所在の鉄骨造1階建3,214.36平方メートルの駐車場設備を購入し、平成14年3月1日から同社に賃貸していた。
へ 被相続人は、消費税法第9条第4項に規定する同条第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(以下「消費税課税事業者選択届出書」という。)を、本件課税期間の開始前までに原処分庁に提出していない。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)被相続人は、消費税の課税事業者であるか否か
 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する旨規定しており、この資産の譲渡等とは、同法第2条第1項第8号において、上記1の(3)のイのとおり規定し、この資産の譲渡とは、消費税法基本通達5−2−1《資産の譲渡の意義》において、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させることをいうと定められ、他人に移転するという事実がないときは、資産の譲渡があったことにならず、消費税の課税の対象にならないと解されている。
 また、消費税法施行令第2条第2項は、上記1の(3)のハのとおり規定しているが、消費税法基本通達5−2−10において、同ホのとおり資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、対価補償金に該当しない旨定められている。
 したがって、上記1の(4)のイ、ハ及びニの事実からすれば、本件建物移転補償金は、本件建物に所有権移転の事実はないことから、消費税法上の資産の譲渡等の対価の額に該当せず、被相続人の本件課税期間に係る基準期間(平成12年1月1日から平成12年12月31日までの期間をいい、以下「本件基準期間」という。)における課税売上高が3,000万円を超えないことから、被相続人は、本件課税期間においては消費税の課税事業者に該当しない。
 さらに、被相続人は、上記1の(4)のへのとおり消費税課税事業者選択届出書を提出した事実がないことから、本件課税期間においては消費税の課税事業者に該当しない。
(ロ)仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付
 通則法第56条第1項に規定する「遅滞なく」とは、事情の許す限り最も速やかにという意味であり、正当又は合理的な理由がある場合の遅滞は許されると解されている。
 また、消費税法施行令第64条は、上記1の(3)のニのとおり規定しているところ、請求人らから提出された本件課税期間に係る消費税等の確定申告書に記載された還付金額は、過大であると認められる事由があったのであるから、還付金を遅滞なく還付しなかったとしても、本件更正処分は何ら違法、不当ではない。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)消費税法第52条第1項の規定に基づき、納税者の確定申告により、国には当該納税者に対し還付金を還付すべき義務が発生するが、その確定申告後に更正があった場合には、通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項第2号の規定に基づき、当該納税者はその更正による「還付金の額に相当する税額の減少部分」について、納税義務を負う。
 したがって、請求人らが、本件課税期間において、消費税の課税事業者に該当しないこととなる被相続人の仕入れに係る消費税額の控除不足額を還付請求した場合であっても、その後、更正があった場合には、通則法第65条《過少申告加算税》第1項に規定する当該納税者に当たる。
(ロ)また、本件更正処分により増加した納付すべき税額の基礎となった事実には、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の額は、同条第1項及び第2項の規定に従い正しく計算されている。

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(2)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)被相続人は、消費税の課税事業者であるか否か
 土地収用法の立法趣旨とその補償行為の本質を鑑みれば、結果的に被収用者の所有権等に基づく財産権全般が収用行為によって侵害され、あたかも所有権等が消滅したかのような形で被収用者に経済的損失が発生し、その損失に対する補償として支払われるものは、すべて消費税法施行令第2条第2項に規定する資産の譲渡に該当するものと解すべきである。
 本件建物移転補償金は、上記の資産の譲渡に該当する対価の額として受領したものと解すべきであり、原処分庁が本件更正処分の根拠とした消費税法基本通達5−2−10において、収用補償金を単純に形式的な名目のみで区分し、移転補償金を消費税法上の対価補償金に該当しないと定めていることは、誤りである。
 したがって、被相続人が受領した本件建物移転補償金は、資産の譲渡の対価の額であり、本件基準期間における課税売上高が3,000万円を超えることから、被相続人は、本件課税期間において消費税の課税事業者である。
(ロ)仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付
 通則法第56条第1項は、上記1の(3)のヘのとおり規定しているにもかかわらず、原処分庁は還付を半年間以上怠って本件更正処分をした。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)原処分庁が主張するように、被相続人は消費税の課税事業者でないということであれば、被相続人は消費税法第5条に規定する「納税義務者」には該当しないこととなる。
 そうすると、通則法第2条《定義》第5号は、「納税者」は国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者をいうと規定しているところ、被相続人は消費税法第5条に規定する納税義務者ではないから、当該「納税者」には当たらない。
 したがって、通則法第65条第1項の「当該納税者」には該当しないから、過少申告加算税を課することはできない。
(ロ)また、上記イの(ロ)のとおり原処分庁は消費税等の還付を半年間以上怠って本件更正処分を行っており、請求人らに対して、一方的に制裁を加えるような過少申告加算税を課すべきではない。
 さらに、上記1の(4)のハのとおり「公共事業用資産の買取り等の証明書」の摘要欄に消費税相当額が記載されていたことから、請求人らは、本件課税期間において、被相続人が消費税の課税事業者であると判断し、確定申告書を提出したものであり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 認定事実等
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、被相続人の平成12年分の収入金額は、土地の賃貸料427,932円、給料1,500,000円及び土地の譲渡代金1,936,600円並びに上記1の(4)のロの207,985,550円であることが認められる。
(ロ)請求人らの代理人であるH公認会計士は、当審判所に対し、被相続人が、本件建物の一部をJ有限会社に貸し付けていたが、賃貸借契約書は作成していない旨答述した。
 また、同人は、当審判所に対して、J有限会社への貸付け状況が分かる書類を後日提出するとしたものの、その後、証拠書類として提出するものはないとして何ら提出しなかった。
(ハ)P県Q市用地課主幹Kは、当審判所に対し、本件建物移転補償金は「公共事業の施行に伴う損失補償基準」に基づく本件建物の構外再築補償である旨答述した。
ロ 被相続人は、消費税の課税事業者であるか否か
(イ)個人事業者の基準期間における課税売上高は、消費税法第9条第2項第1号において、基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額をいう旨規定され、課税資産の譲渡等とは、同法第2条第1項第9号において、「資産の譲渡等のうち、第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。」と規定されている。
 また、資産の譲渡等とは、消費税法第2条第1項第8号において、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定されている。
 さらに、消費税法施行令第2条第2項において、事業者が、土地収用法その他の法律の規定に基づいてその所有権その他の権利を収用され、かつ、当該権利を取得する者から当該権利の消滅に係る補償金を取得した場合には、対価を得て資産の譲渡を行ったものとみなされ、消費税の課税の対象となる旨規定されている。
(ロ)ところで、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいい、個人事業者の生活用資産の譲渡については、事業者が行うものであっても、「事業として」の取引には該当しないこと、また、「資産の譲渡」とは、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させることをいい、収用等による補償金や損害賠償金と称するものの金額が、その支払の対象となった資産を譲渡したとした場合の金額(時価)と同額であったとしても、その補償金又は損害賠償金が支払われることとなった行為に、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させるという事実がないときは、譲渡があったことにはならず消費税の課税対象にもならないと解されている。
 そして、消費税法施行令第2条第2項は、収用等の場合、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させる譲渡の行為には該当しないが、土地収用法上、起業者(収用者)は、収用によってその目的物を原始取得すると解されるところ、その経済実態は、承継取得と同様に取り扱うのが適当と考えられることから、資産の収用等に際して、その資産の所有権等の権利を取得する者(収用者)から、原権利者(被収用者)の権利が消滅することの対価として支払われる補償金に限り、「対価を得て資産の譲渡を行ったものとする」として特に法令上その趣旨を規定したものであり、このことから、消費税法基本通達5−2−10において、上記1の(3)のホのとおり資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして支払われる補償金は、対価補償金に該当しない旨定めていることは相当である。
(ハ)そこで、本件についてみると、上記イの(ロ)のとおり請求人らの代理人であるH公認会計士は、当審判所に対し、本件建物をJ有限会社に貸し付けていた旨答述したものの、その事実を証する証拠書類を何ら提出せず、当審判所の調査によっても、本件建物が、本件基準期間における課税売上高の計算の基礎となる課税資産の譲渡等の対価を生ずる事業用資産であったとする事実は認められないことから、本件建物は、被相続人が生活用資産として使用していたものと認めるのが相当である。
 また、上記1の(4)のイ、ハ及びニ並びに上記イの(ハ)からすれば、本件建物移転補償金は、P県が本件建物の取得を目的として支払ったものではなく、P県が行う事業の区域外に建物を再築するための費用に相当するものとして支払われたものであるから、消費税法第2条第1項第8号に規定する資産の譲渡等の対価の額に該当するとは認められず、さらに、消費税法施行令第2条第2項に規定する当該権利を取得する者から当該権利の消滅に係る補償金を取得したものとも認められない。
(ニ)そうすると、本件建物移転補償金は、消費税法上の資産の譲渡等の対価の額には該当しない。
 また、被相続人の本件基準期間における収入金額は、上記イの(イ)のみであり、これらの収入金額は、課税売上高の計算の基礎となる課税資産の譲渡等の対価の額に該当せず、被相続人は、本件基準期間において、他に課税売上高があったとする事実も認められないことから、本件課税期間において消費税の課税事業者であるとは認められない。
 さらに、被相続人は、上記1の(4)のへのとおり本件課税期間の開始前までに、原処分庁に消費税課税事業者選択届出書を提出していないことから、本件課税期間において消費税の課税事業者になることを選択したとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することはできない。
ハ 仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付
 通則法第56条第1項は、上記1の(3)のヘのとおり還付金があるときは遅滞なく還付すべきことを規定しているが、消費税法施行令第64条では、上記1の(3)のニのとおり税務署長は、仕入れに係る消費税額等の還付金額の記載のある確定申告書の提出があった場合には、その金額が過大であると認められる事由がある場合を除き、遅滞なく、還付又は充当の手続きをしなければならない旨規定し、仕入れに係る消費税額等の還付金額が過大と認められる場合には一時留保することができるとしている。これは、消費税額等の還付金額がその課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等に係る課税標準額の計算から始まって還付金額を算出するというものであることから、その算出過程において還付金額が過大であると認められる事由があるときには、いったん還付を留保して修正申告又は更正によって正当な金額を確定し、還付金額を当該修正申告等により納付すべき税額に充当することが、合理的であると認められるためである。
 これを本件についてみると、原処分庁は、被相続人が、本件課税期間の消費税の課税事業者ではないと認められたことから、還付を留保したものであり、本件更正処分に何ら影響を及ぼすものではないので、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ニ 本件更正処分の適法性
 以上のとおり、本件更正処分に関する請求人らの主張はいずれも理由がないこととなるが、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第1項は、国税の確定金額に百円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる旨規定しており、請求人らに対する本件更正処分による納付すべき税額は9,954,000円となり、この額は本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。

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(2)本件賦課決定処分について

イ 通則法第65条第1項に規定する「当該納税者」の意義等
(イ)通則法第65条第1項は、期限内申告書(還付金の還付を受けるための申告書を含む。)が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは当該納税者に対して過少申告加算税を課する旨規定している。
 そして、通則法上、「納税者」とは、国税に関する法律の規定により国税を国に納付しなければならない者とされ、また、更正を受けた者は、「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」を国に納付しなければならないとされている。
 したがって、還付金の還付を受けるための申告書を提出した者が更正を受けたときには、その者は通則法第65条第1項にいう「当該納税者」に該当することになる。
 なお、このときにおける租税法律関係については、納税者の還付金の還付を受けるための申告により、国は納税者に対して還付金を還付すべき義務が発生するが、他方、その後に更正があった場合には、納税者はそれにより減少した部分の還付金を国に納付すべき義務が発生し、そして、これらの義務は併存し、国が確定申告による還付金を還付する一方(ただし、還付の一時留保の制度がある。)、納税者は更正により減少した部分の還付金を納税することとなるものであり、この納税者の還付金の納付義務は、一般の納税義務の性質と異なるものではない(東京高裁平成9年6月30日判決、税務訴訟資料223号1290頁参照)。
(ロ)また、請求人らは、被相続人は消費税法第5条に規定する納税義務者ではないから、通則法第2条第5号の「納税者」には当たらない旨主張する。
 しかしながら、通則法第2条第5号の「納税者」は、「国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収による国税を除く。)を納める義務がある者」と規定しており、この「国税に関する法律」には通則法も含まれることから、この「納税者」が消費税法第5条の「納税義務者」でなければならないとする請求人らの主張は、採用できない。
ロ 還付の留保
 原処分庁が仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付を留保していたことについては、上記(1)のハのとおりであり、本件賦課決定処分が違法又は不当となるものではない。
ハ 正当理由の有無
 請求人らは、「公共事業用資産の買取り等の証明書」の摘要欄に消費税相当額が記載されていたことから、被相続人が消費税の課税事業者であると判断して確定申告書を提出した旨主張する。
 そこで、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるか否か検討するに、正当な理由に当たる事由としては、過少申告となったことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷となる場合を意味するのであって、単に過少申告が納税者の税法の不知、法令解釈の誤解又は相違に基づく場合には、これに該当しないものと解するのが相当である。
 そうすると、当該証明書の摘要欄に消費税相当額の記載があったことにより、請求人らが税法の解釈を誤って確定申告をしたとしても、正当な理由には当たるとは認められない。
 また、上記(1)のニのとおり本件更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、本件賦課決定処分の額の計算の基礎となる税額に異動がなく、税額の計算の基礎となった事実については、他に正当な理由があるとは認められないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ニ したがって、本件賦課決定処分に関する請求人らの主張にはいずれも理由がなく、通則法第65条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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