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(平16.6.8裁決、裁決事例集No.67 46頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が提出した相続税の申告書に係る無申告加算税の賦課決定処分及び延滞税について、違法、不当を理由としてその全部の取消しが求められた事案であり、争点は次の4点である。
争点1 請求人が提出した申告書は、相続税法第27条《相続税の申告書》第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」に提出されたものか否か。
争点2 請求人から期限内申告の提出がなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。
争点3 請求人の申告書の提出が、通則法第66条第3項に規定する「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものではないとき」に該当するか否か。
争点4 原処分庁からの、申告が必要な旨の連絡が遅かったことを理由に、延滞税の取消しを求めることができるか否か。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年12月28日に死亡したD(以下「被相続人」という。)から遺贈を受けた者であるが、この遺贈(以下「本件遺贈」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書(以下「本件申告書」という。)に、課税価格を○○○○円、納付すべき税額を10,009,800円と記載して、平成15年2月13日原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対して、平成15年5月9日付で無申告加算税の額を1,500,000円とする賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成15年7月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年9月12日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年10月10日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次のことについては、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 被相続人は、平成8年2月14日に、○○法務局所属○○○○公証人役場において、P市p町○番の土地及び同土地上の家屋番号○番の建物(以下「本件遺贈物件」という。)に係る遺言書を作成し、その要旨は次のとおりである。
(イ)被相続人は、本件遺贈物件を請求人に遺贈する。
(ロ)被相続人は、遺言の執行者として、Q市q町○番の司法書士、E(以下「E司法書士」という。)を指定する。
ロ 本件遺贈物件の登記簿謄本には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)土地について、昭和39年11月27日受付で、同日売買を原因とした、被相続人への所有権移転登記
(ロ)建物について、平成8年3月5日受付で、被相続人への所有権保存登記
(ハ)土地及び建物について、平成8年3月5日受付で、同年2月14日被相続人の死亡を始期とする贈与を原因として、請求人への始期付所有権移転仮登記
(ニ)土地及び建物について、平成12年4月17日受付で、平成11年12月28日遺贈を原因として、請求人への所有権移転登記

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2 主張及び判断

(1)争点1(請求人が提出した申告書は、相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」に提出されたものか否か。)
イ 主張
請求人
〔1〕請求人は、平成11年3月から同年9月ころまでの間、手術のため入院しており、退院後においても、意思能力、判断能力のない状態であった。したがって、本件遺贈について、請求人が相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」は、本件相続税について相談をしていたF税理士事務所からの説明において、納税義務があることを初めて認識した平成15年1月27日である。
〔2〕原処分庁が主張するとおり、仮に、請求人が平成12年1月21日に相続の開始を知ったとしても、相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日から10月以内」の期間には、請求人の意思能力、判断能力が停止していた平成11年3月から平成14年12月ころまでの期間を控除すべきである。
〔3〕そうすると、平成15年2月13日に提出した本件申告書は、期限内申告書である。
原処分庁
〔1〕請求人は、被相続人の死亡後1月も経たない平成12年1月21日に、自らがE司法書士に対して、本件遺贈物件に係る平成12年4月17日受付の所有権移転登記(以下「本件移転登記」という。)の手続を依頼していることから、本件遺贈について、請求人が相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」は、遅くとも、上記の平成12年1月21日であると認められる。
〔2〕相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」の期間には、請求人の意思能力、判断能力が停止していたと主張する期間を控除する旨の規定はない。
〔3〕そうすると、請求人の本件遺贈に係る法定申告期限は、平成12年11月21日までには到来していたものといえるから、平成15年2月13日に提出された本件申告書は、期限後申告書である。
ロ 判断
(イ)請求人から提出された資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件移転登記の手続を行ったE司法書士が顧客からの依頼を整理するために作成している受託簿には、請求人から本件移転登記に関する依頼があった日として、平成12年1月21日が記載されている。
B 請求人は、本件移転登記の手続に関して、平成12年3月2日付の保証書及び同年4月10日付の委任状に自らが署名し、作成している。
C 請求人は、平成12年1月21日の翌日から10月以内の期間(以下「本件申告期間」という。)中である以下の日において、J信用金庫○○支店を訪れ、いずれの入出金伝票にも自らが署名した上で、それぞれ次のとおり入出金をしている。
(A)平成12年3月6日に、普通預金から100,000円を出金
(B)平成12年3月22日に、普通預金から100,000円を出金
(C)平成12年4月5日に、普通預金から100,000円を出金するとともに、定期預金2口を解約して620,467円を出金
(D)平成12年5月17日に、普通預金から100,000円を出金
(E)平成12年6月23日に、普通預金から100,000円を出金
(F)平成12年7月7日に、定期預金として300,000円を入金
(G)平成12年9月4日に、普通預金から90,000円を出金
(H)平成12年10月26日に、普通預金から100,000円を出金
(ロ)E司法書士は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
A 本件移転登記の手続は、請求人から依頼を受けて、遺言執行人として行ったものであり、その依頼は、請求人自らが平成12年1月21日か又はそれ以前に当方の事務所を訪れてされたものである。
B 請求人から依頼のあった平成12年1月21日から同年4月ころまでの間に、請求人と複数回会っているが、その時の請求人は、本件移転登記の手続を進める上で、普通どおりの受け答えができる状態であった。
(ハ)ところで、相続税法第27条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者は、その被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合で、その者に相続税額があるときは、相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に課税価格及び相続税額等を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 ここでいう「相続の開始があったことを知った日」とは、遺贈により財産を取得した者については、自己のために当該遺贈のあったことを知った日、具体的には、その者が、遺贈の原因たる事実すなわち被相続人の死亡という事実と自己が受遺者となったことを知った時をいうものと解されている。
(ニ)これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記(イ)のBの事実及び上記(ロ)の答述によれば、請求人自らがE司法書士に対して、平成12年1月21日かそれ以前に、本件移転登記の手続を依頼していることからすると、請求人は、遅くとも平成12年1月21日までには、被相続人の死亡という事実と自己が本件遺贈物件の受遺者となったことを認知していたものと認められる。
 そうすると、本件相続税に係る相続税法第27条第1項に規定する法定申告期限は、遅くとも平成12年11月21日までには到来していたのであるから、平成15年2月13日に提出された本件申告書は、通則法第18条《期限後申告》に規定する期限後申告書に該当する。
 なお、請求人は、本人の健康状態から本件遺贈物件の受遺者となったことを認知し得なかった旨主張するが、本件申告期間における請求人の健康状態は、請求人が当審判所に提出した診断書によれば、手術後の経過や後遺症のために病院へ通院、加療していたことが認められるものの、上記(イ)のCの事実及び上記(ロ)の答述からすれば、請求人は本件申告期間において、意思能力、判断能力がない状態であったとは認められないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(2)争点2(請求人から期限内申告の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)
イ 主張
請求人
 請求人は、平成11年3月から平成14年12月ころまでの間、意思能力、判断能力が停止していたため、本件申告書を法定申告期限内に提出できなかったものであり、そのことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。
原処分庁
 通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内に申告書が提出されなかったことについて、納税者に故意、過失がなく、真にやむを得ない理由によるものである場合をいうものと解されるが、請求人は、E司法書士に対して、自らが、本件移転登記の手続を依頼していることから、期限内に申告書を提出することが不可能であったとは認められない。
ロ 判断
(イ)通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、その申告に基づいて納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨を、また、同項ただし書においては、期限内申告書の提出がなかったことについて、正当な理由があると認められる場合には、その限りではない旨を規定している。
 ここでいう「正当な理由があると認められる場合」とは、無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別な事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰すことのできない外的事情によるなど、法定申告期限内の申告書の提出を不可能にするもので真にやむを得ない事情がある場合がこれに該当し、納税者の税法の不知や誤解に基づく場合はこれに当たらないと解されている。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
 請求人は、平成11年3月から平成14年12月ころまでの間、意思能力、判断能力が停止していたため本件申告書を法定申告期限内に提出できなかった旨主張するが、上記(1)のロの(イ)のCの事実及び(ロ)の答述によれば、請求人は、法定申告期限内に本件申告書を提出できないほどの病状にあったとか、あるいは、請求人が本件申告期間中に同居していた請求人の長女であるG(以下「G」という。)や税理士等他の者に申告を依頼するなどの意思表示すらできない状態にあったとも認められない。
 そうすると、本件申告書については、他に法定申告期限内の提出を不可能にするような特段の事情も認められないので、単に請求人の失念又は税法の不知や誤解に基づき期限後申告となったものと認められる。よって、請求人から期限内申告書の提出がなかったことについて、正当な理由があると認められる場合には該当しない。
(3)争点3(請求人の申告書の提出が、通則法第66条第3項に規定する「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものではないとき」に該当するか否か。)
イ 主張
請求人
 本件申告書は、自主的に提出したものであるから、通則法第66条第3項の規定によって、無申告加算税は、本件申告書に記載した納付すべき金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額によるべきである。
原処分庁
 本件申告書は、原処分庁の相続税の調査により提出されたものであり、通則法第66条第3項に規定する「決定があるべきことを予知してされたものではないとき」に該当しない。
ロ 判断
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件相続税の調査において、平成14年11月14日に請求人に対し、申告のしょうようを行った。
B Gは、当審判所に対して、調査担当職員から、平成14年12月か平成15年1月ころに、本件遺贈について、10,000,000円程度の相続税がかかる旨の説明を請求人とともに受けた旨答述した。
(ロ)ところで、通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより、当該国税について決定があるべきことを予知してされたものではないときは、その申告に基づいて納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
 ここでいう「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものではないとき」とは、課税庁による、申告の要否等に係る調査結果に基づく期限後申告のしょうよう等を契機とせず、納税者がその自発的な意思によって期限後申告書を提出した場合をいうものと解される。
(ハ)これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記(イ)の事実によれば、本件申告書は、調査担当職員による調査及び申告のしょうように基づき提出されたものであることは明らかであり、請求人自身が当該調査を契機とせず自発的に提出したものであるとは認められない。
 そうすると、本件申告書の提出は、通則法第66条第3項に規定する「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものではないとき」には該当しない。
(4)争点4(原処分庁からの、申告が必要な旨の連絡が遅かったことを理由に、延滞税の取消しを求めることができるか否か。)
イ 主張
請求人
 請求人は、調査担当職員から、平成14年12月上旬ころに初めて、本件遺贈について連絡を受けたのであって、原処分庁がもっと早く連絡をしてくれていれば延滞税を支払わずに済んだものであるから、その責任は原処分庁にある。
原処分庁
 延滞税は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》に規定する「国税に関する法律に基づく処分」に当たらないから、請求人は、その取消しを求めることができない。
ロ 判断
(イ)通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分について、不服申立てをすることができる旨を規定しているところ、延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号及び同法第60条《延滞税》第1項の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、また、その成立と同時に特別の手続を要しないで納税すべき税額が確定するものであるから、通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に該当しないと解されている。
(ロ)そうすると、この点に関する請求人の主張は、その対象となる処分の存在を欠く不適法なものである。
(5)以上のとおり、上記各争点について、原処分に違法、不当はない。
 また、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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