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(平16.3.11裁決、裁決事例集No.67 91頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人以外の共同相続人が行った相続財産の隠ぺい行為に基づく相続税の過少申告について、審査請求人に国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税を賦課決定することができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人A、同B及び同C(以下、これらを併せて「請求人ら」という。)は、いずれも平成13年1月27日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したD(以下「被相続人」という。)の共同相続人5名のうちの3名であるが、被相続人の死亡に伴い開始した相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)についての審査請求に至る経緯は別表1(平成13年11月27日に提出された相続税の申告書を「本件申告書」、平成14年12月9日に提出された相続税の修正申告書を「本件修正申告書」という。)のとおりである。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成15年7月3日に届け出た。
ロ その後、共同相続人であるE及びFは、相続税の物納に際し相続財産を実測したところ、公簿面積を上回っていたこと等の理由により平成15年9月17日に修正申告書を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、請求人らの相続税の総額のあん分割合が変動したとして、平成15年11月11日付で別表2の「更正処分等」欄のとおり各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各変更決定処分(以下、各変更決定処分後の重加算税の賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)を行った。

(3)基礎事実

(請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実)
 別紙「争点整理表」(以下「本件争点整理表」という。)の2「争いのない事実」のとおりである。

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2 争点

 本件審査請求の争点は、本件争点整理表の3の「争点」のとおりである。

3 争点に対する当事者双方の主張

(1)原処分庁

 本件各賦課決定処分は、本件争点整理表の4「争点に対する当事者双方の主張」の「原処分庁の主張」欄のとおりの理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。

(2)請求人ら

 原処分庁が本件各賦課決定処分の対象とした本件争点整理表の2「争いのない事実」の(11)に記載の相続財産のうち同表の2「争いのない事実」の(8)に係る部分を除いた相続財産(以下「本件相続財産」という。)に相当する部分の本件各賦課決定処分は、本件争点整理表の4「争点に対する当事者双方の主張」の「請求人らの主張」欄のとおりの理由により違法であるから、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求める。

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4 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料等及び当審判所の調査によれば、次のことが認められる。
イ 請求人ら、E及びFの共同相続人(以下「本件共同相続人」という。)は、Fの相続財産の調査に基づき、平成13年11月10日付で、本件相続に係る遺産分割協議書(以下「本件分割協議書A」という。)を作成した。なお、本件争点整理表の2の「争いのない事実」の(11)に記載の相続財産は、本件分割協議書Aに記載されていない。
ロ 本件共同相続人は、本件分割協議書Aに基づき、本件申告書を作成し、本件争点整理表の2の「争いのない事実」の(9)のとおり、原処分庁に提出した。
ハ 本件共同相続人は、平成14年12月7日付で、原処分庁の調査(以下「本件調査」という。)により判明した相続財産に係る遺産分割協議書(以下「本件分割協議書B」という。)を作成し、これに基づき本件修正申告書を本件争点整理表の2の「争いのない事実」の(10)のとおり、原処分庁に提出した。
ニ B及びCは、本件調査を担当した職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、本件相続税の申告手続をFに任せた旨及び相続財産の把握を自分らは何もしていない旨申述している。
ホ Fは、本件調査担当職員に対し、被相続人から、「預金から現金をおろし、土地を相続する者の足しにしろ。」と言われ、その時は相続財産を隠せという指示であると判断し、本件相続財産を除外したところで、本件相続税の申告を行った旨申述している。
ヘ Aは、異議調査を担当した職員に対し、相続税の申告については、Fを信頼していたので、Fがするものと思っていた旨申述している。
ト Aは、当審判所に対し要旨次のとおり答述している。
(イ)相続財産の調査はG銀行g支店(以下「G銀行」という。)に対して、被相続人名義の預金残高について電話照会をしたのみでそれ以外何も行っていない。
(ロ)相続税の申告内容については、Fから申告書の添付書類に基づき説明を受けた。
チ Fは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ)四十九日の法要で姉弟が集まったとき、相続財産の調査について、請求人らから、地元にいる人が行ってくれればよいという話があり、自分が行った。
(ロ)本件相続税の申告の手続は、相続財産の調査、H税理士(以下「H税理士」という。)への本件申告書の作成依頼及びその打合せ、本件相続税の納税の立替払に至るまで、すべて自分が行い、請求人らは申告書に押印しただけである。
(2)ところで、通則法第68条第1項によれば、同条第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 また、加算税の制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課する行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨からすると、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでをも必要とするものではないと解されている。
 そして、納税者が、第三者に申告手続を委任した場合、第三者が同委任に基づいて行った行為の効果は納税者に帰属するものであり、自己責任の原則からしても、第三者を利用することによって得られる利益とともに、それによる不利益も当然納税者が享受すべきであり、また、その第三者の行為の結果、不正な申告が行われた場合に申告納税制度の適正な確保を困難にならしめる可能性があることからすると、納税者から委任を受けた第三者が不正な申告を行った場合には、納税者本人がその不正な申告について具体的な認識を欠いていたとしても、納税者が行った行為と同一視し、その責任を負うと解するのが相当である。
(3)そこで、上記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記(2)に照らして判断すると、次のとおりである。
イ 申告手続のFへの委任の有無(本件争点整理表の4の1について)
(イ)本件についてみると、〔1〕上記(1)のチの(イ)のとおり、Fは、請求人らから本件相続に係る相続財産の調査について依頼を受けていること、この点について、上記(1)のニ及びトの(イ)のとおり、B及びCは、被相続人の相続財産の把握を自ら何もしていない旨申述し、Aも、被相続人の相続財産について、G銀行に対して被相続人の預金残高を電話照会したにとどまり、それ以外の相続財産の調査を行っていない旨答述していることからも明らかなとおり、実際のところ、請求人らはFに対して、本件相続に係る相続財産の調査を任せていたといえること、〔2〕Fは、上記(1)のチのとおり相続財産の調査をした上、上記(1)のトの(ロ)及びチの(ロ)のとおり、H税理士への本件申告書の作成依頼及びその打合せ、本件相続税の納税の立替払に至るまで、すべてを行っており、これに対し、請求人らは、Fから説明を受けて、Fが準備した本件申告書に押印するにとどまったこと、この点について、上記(1)のニ及びヘのとおり、B及びCは、本件相続税の申告手続をFに任せた旨申述し、Aも、Fを信頼していたので本件相続税の申告はFが行うと思っていた旨申述していることからも明らかなとおり、請求人らはFに対して、上記〔1〕のとおりの本件相続に係る相続財産の調査はもちろん、本件相続税を申告するための実質的な作業も任せていたといえること、〔3〕現に、上記(1)のイ及びロのとおり、請求人らは、Fの本件相続に係る相続財産の調査結果により、本件分割協議書Aを作成し、当該分割協議書に基づき本件申告書をF及びEとともに共同で提出していることからすると、請求人らはFに対して、本件相続に係る相続財産の調査及び本件相続税の申告手続を委任していたものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ)なお、請求人らは、本件争点整理表の4の1のとおり、原処分庁が相続財産の分割のやり直しを認めたことは、本件相続税の申告手続について、請求人らのFに対する事実上の委任がなかったことを認めていると解するべきであると主張する。
 この主張の趣旨は、要するに、原処分庁が本件分割協議書Bに基づく本件修正申告書の提出を認めたのは、原処分庁が本件分割協議書Aを無効であると認めたことにほかならず、本件分割協議書Aが無効であるならば、本件分割協議書Aに基づき提出した本件申告書の提出手続について、請求人らからFへの委任があったとは認められない旨主張しているものと理解することができる。
 しかしながら、原処分庁が本件分割協議書Bに基づく本件修正申告書を収受したことをもって、請求人らのFに対する本件相続税の申告手続の委任がなかったことを認めることになるわけではなく、また、本件相続税の申告手続については、上記(イ)のとおり請求人らはFに委任していたことは明らかであるから、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ロ 本件各賦課決定処分(本件争点整理表の4の2について)
(イ)Fは、本件争点整理表の2「争いのない事実」の(2)ないし(7)のとおり、被相続人名義の預貯金口座を本件相続開始日前に解約し、解約により生じた金員をF名義の預金口座に入金し又は現金で所持することにより隠ぺいし、本件相続税の申告に当たって、本件相続財産を申告しなかったことが認められる。このことは、上記(1)のホのとおり、Fが、これらの隠ぺい行為は本件相続財産を隠すために行った旨の申述をしていることからも明らかである。
 したがって、Fの上記の行為は、本件相続税に係る課税財産を隠匿して、その結果、過少な申告を行ったものであり、通則法第68条第1項に規定する事実を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づいて過少な申告をしたときに該当することになる。
(ロ)そうすると、上記イのとおり、請求人らは本件相続に係る相続財産の調査及び本件相続税の申告手続をFに委任したと認められることから、上記(2)のとおり、同委任を受けたFの上記(イ)の本件相続財産の隠ぺい行為に基づく過少申告の結果は請求人らに帰し、また、Fの当該隠ぺい行為は請求人らの行為と同一視され、本件申告書に係る過少申告の責任は請求人らも負うべきであることから、請求人らに通則法第68条第1項の規定に基づき重加算税を賦課することは相当であると認められる。
 なお、本件各賦課決定処分は通則法第68条第1項の規定に従って正しく計算されている。
(ハ)以上のことから、通則法第68条第1項の規定によりなされた本件各賦課決定処分は適法である。
(4)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、それを不相当とする理由は認められない。

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