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(平16.2.27裁決、裁決事例集No.67 154頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が自己の所有する農地を土砂の仮置き場としてP県に使用させたことに伴い受領した損失補償金が、不動産所得又は一時所得のいずれに該当するかを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成14年11月25日付で次表の「原処分」欄のとおり、平成13年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
区分確定申告原処分
総所得金額6,325,8539,943,896
内訳  
事業(農業)所得の金額651,203651,203
不動産所得の金額289,0007,280,293
給与所得の金額2,012,4002,012,400
一時所得の金額3,373,250
納付すべき税額○○○○○○○○
過少申告加算税の額60,500

ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として平成15年1月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月16日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年5月13日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
ロ 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P県は、同県が施行するQ川河川災害復旧等関連緊急事業(以下「本件事業」という。)により生ずる損失を補償するため、平成13年5月30日、請求人と補償契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 なお、本件契約に基づく契約書(以下「本件契約書」という。)には、要旨次のとおり定められている。
(イ)P県は、請求人が所有するR市r町○○番地外5筆の農地(以下「本件農地」という。)を本件事業に係る工事のために使用する。
(ロ)P県は、本件農地の使用に伴って生ずる損失の補償として7,246,500円(以下「本件損失補償金」という。)を請求人に支払う。
(ハ)本件農地の使用は、本件契約の日から平成16年3月31日までとする。
ロ 請求人は、平成13年6月29日、P県から本件損失補償金を受領した。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件損失補償金は、次の理由により不動産所得に該当する。
(イ)所得税法第26条第1項において、不動産所得とは、単に不動産等の貸付けによる所得のみでなく、他人に不動産を使用させる場合の所得も含むこととされている。
 本件損失補償金は、請求人が本件農地をP県に使用させたことにより支払われたものであるから、所得税法第26条第1項に規定する不動産所得に該当する。
(ロ)請求人は、本件損失補償金が休耕による減収補償等の性格も有しているとして、単なる土地の使用の対価ではないから不動産所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、P県は、公共事業で土地を使用した場合のその補償方法をP県の訓令である「P県の公共事業の施行に伴う損失補償基準」(以下「損失補償基準」という。)第24条《土地の使用に係る補償》第1項において、使用する土地に対しては「正常な地代又は借賃」をもって補償するものと定め、さらに、「地代又は借賃」の算定方法を「P県の公共事業の施行に伴う損失補償基準の運用方針」(以下「損失補償基準の運用方針」という。)第8において定めている。
 そして、本件損失補償金の算定に当たって、P県は、正常な地代及び借賃の額をこれらの訓令等に基づいて算定し、請求人に支払ったことが認められる。
 したがって、本件損失補償金は、本件農地の使用に係る地代又は借賃として算定されたものであるから、土地の使用の対価であって不動産所得に該当する。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件損失補償金は、次の理由により、不動産所得ではなく一時所得に該当する。
(イ)不動産所得とは、土地や建物等の不動産を他人に貸して地代や家賃、敷金、礼金等を受け取った場合の所得をいい、営利を目的とする不動産業者等が土地や建物を長期間継続的に貸し付ける場合が典型である。
 しかし、本件契約は、契約の当事者、契約の動機・目的、契約に至る経緯・事情、契約の方式及び契約内容等、そのいずれをみても営利を目的とした継続的な土地使用契約とは認めがたい。
 そうすると、本件契約を継続的な不動産取引と認めて、本件損失補償金を不動産所得に当たるとするのは、租税法律主義の原則からしても困難である。
(ロ)また、本件損失補償金は、土地使用について生じる損失の補償であるとともに、「休耕による減収補償」、「土地の返還後の地味回復にかかわる経費」及び「収益回復までの収益減収にかかわる補填費」などであって、地代のような単なる土地使用の対価でないことは明らかである。
 休耕による減収補償等は、農家の事業収益若しくはそれに代わる収入と認めるべきものであって、地代収入などとは明らかに性質が異なるものである。
 したがって、本件損失補償金は土地使用の対価ではないから、不動産所得に当たらない。
(ハ)そして、本件農地の提供は、災害による河川の復旧工事に協力したものであって、もし請求人らが協力しなければ事業に重大な支障となり、土地収用法の適用もあり得たものである。
 このように、本件農地の提供が公共工事のための半強制的な土地提供であることからすると、本件損失補償金は税負担の少ない一時所得とすべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ)仮に本件更正処分が適法であるとしても、請求人は、本件損失補償金に対する課税が土地収用法の適用がある場合に準じた所得税の軽減措置があることを期待して、本件事業に協力し請求人所有の農地を使用させたものであるから、確定申告額が過少であったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるものというべきである。

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3 判断

 本審査請求の争点は、〔1〕本件損失補償金が不動産所得に該当するか、一時所得に該当するか、〔2〕一時所得として確定申告したことが、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するかであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所が調査した結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)P県は、公共事業の施行に伴う損失補償基準について、訓令等において次のとおり定めていること。
A 損失補償基準第24条第1項は、使用する土地に対しては、正常な地代又は借賃をもって補償する旨、また、同条第3項は、第1項の正常な地代又は借賃は、使用する土地及び近傍類地の地代又は借賃に、これらの土地の使用に関する契約が締結された事情、時期等及び権利の設定の対価を支払っている場合においてはその額を考慮して適正な補正を加えた額を基準とし、これらの土地の損失補償基準第9条《土地の正常な取引価格》により算定した正常な取引価格、収益性、使用の態様等を総合的に比較考量して算定する旨定めている。
B 損失補償基準の運用方針第8は、損失補償基準第24条第1項の正常な地代又は借賃の額を算定するに当たっては、使用する土地の正常な取引価格に一定の率を乗じて得た額を参考とする旨定めている。
C P県の公共事業の施行に伴う損失補償基準の細則(以下「損失補償基準の細則」という。)第2条の2は、損失補償基準の運用方針第8に規定する一定の率は、宅地、宅地見込地及び農地については6パーセント、林地及びその他の土地については5パーセントとする旨定めている。
(ロ)平成14年4月23日付P県Q川・S川災害対策用地事務所長D作成名義の「P県が施行する一級河川Q川災害関連事業に伴う掘削土仮置場への用地提供補償について」と題する書面には、本件損失補償について、「補償額には、農地については〔1〕休耕による減収補償。〔2〕土地の返還後の地味回復にかかわる経費。〔3〕収益回復までの収益減収にかかわる補填費。なども考慮されています。」と記載されていること。
ロ P県R土木事務所用地課長Eは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
 本件損失補償金は、損失補償基準の運用方針及び損失補償基準の細則で定める算定方法に基づき算定した額である。
 損失補償基準の運用方針が「使用する土地の正常な取引価格に一定の率を乗じて得た額を参考とする」旨規定し、この規定を受けて損失補償基準の細則では、一定の率として農地の場合は6パーセントと定めているが、この「6パーセント」とは、そもそも、休耕による減収補償、土地の返還後の地味回復にかかわる経費及び収益回復までの収益減収にかかわる補填費などの農地の事情を考慮した上で定められている年率である。
 したがって、このように算定された本件損失補償金には、これらの各要素が当然含まれているものである。
ハ ところで、上記1の(3)のイのとおり、所得税法第26条第1項において、不動産所得とは、不動産等の「貸付け」による所得をいう旨規定され、同項かっこ書において、その「貸付け」には、地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む旨規定されている。
 すなわち、所得税法第26条第1項の「貸付け」には、他人に不動産等を使用させる一切の場合を含むものとされている。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のイのとおり、本件契約は、請求人が自己の農地をP県に使用させるという内容のものであるから、本件契約に基づいて本件農地を使用させることも、所得税法第26条第1項の「貸付け」に当たる。
 そして、上記1の(4)のイの本件契約の内容並びに上記イの損失補償基準及び上記ロのEの答述内容からすると、本件損失補償金は、P県が本件農地を使用することによって生じる損失を「正常な地代又は借賃」をもって補償したものであることが認められる。
 そうすると、本件損失補償金は、請求人が本件農地をP県に使用させたことによって得た所得であるといえるから、所得税法第26条第1項の「貸付けによる所得」に該当し、不動産所得に当たるとするのが相当である。
ニ これに対して、請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のとおり、本件契約が営利を目的とした継続的な土地使用契約でないことをもって、本件損失補償金が不動産所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記ハのとおり、所得税法第26条第1項の「貸付け」には、他人に不動産等を使用させる一切の場合を含むとされており、営利を目的とした継続的な土地使用契約に限られない。
 そうすると、本件契約が営利を目的とした継続的な土地使用契約でないことをもって、本件損失補償金が不動産所得でないとする請求人の主張には理由がない。
ホ また、請求人は、上記2の(2)のイの(ロ)のとおり、本件損失補償金が休耕による減収補償等の性格も有しているとして、単なる土地使用の対価ではないから不動産所得に該当しない旨主張する。
 確かに、上記イの(ロ)及び上記ロのとおり、本件損失補償金を算定するに当たり、請求人が主張するような要素が考慮されていることが認められる。
 しかしながら、農地を使用させたことの対価を算定する際には、一般に、かかる要素が考慮されるべきものである。
 そうすると、本件損失補償金を算定するに当たって、請求人が主張するような要素を考慮しているからといって、そのことをもって、本件損失補償金がP県に土地を使用させたことによる所得であることを否定するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ さらに、請求人は、上記2の(2)のイの(ハ)のとおり、本件農地の提供が公共工事のための半強制的な土地提供であることから、本件損失補償金は税負担の少ない一時所得とすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のロのとおり、所得税法第34条第1項には一時所得は不動産所得等以外の所得と規定されているところ、上記ハのとおり、本件損失補償金が不動産所得に該当することから、本件損失補償金は一時所得には当たらない。
 また、本件農地の提供が公共工事のための半強制的な土地提供であったとしても、そのような土地提供に係る損失補償金を一時所得とする旨定めた法令の規定はなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 以上のとおりであるから、本件損失補償金を不動産所得とした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であるところ、請求人は、上記2の(2)のロの(ロ)のとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、同条項に規定する正当な理由があると認められる場合とは、税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告等をするに至った場合など、真にやむを得ない理由があると認められる場合を意味するものであって、納税者の税法の不知、誤解、あるいは判断の誤りに基づく場合はこれに該当しないと解すべきである。
 これを本件についてみると、請求人独自の解釈により本件損失補償金を一時所得と判断して申告していたものであり、このことは、真にやむを得ない理由がある場合に該当しないことは明らかであるので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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