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(平16.3.8裁決、裁決事例集No.67 299頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、平成10年4月1日以後、相続により取得した建物について、定率法による償却の方法が認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成14年分の所得税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
項目/区分確定申告更正の請求減額更正
総所得金額29,623,52917,116,93623,380,173
内訳  
不動産所得の金額28,071,35315,564,76021,827,997
雑所得の金額1,552,1761,552,1761,552,176
納付すべき税額○○○○○○○○○○○○

ロ その後、請求人は、平成15年4月14日に総所得金額及び納付すべき税額を上記の表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成15年6月30日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として、平成15年8月26日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、平成15年10月28日付で上記の表の「減額更正」欄のとおり原処分を減額する更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費としてその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額について、その者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかった場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定している。
 これを受けて、所得税法施行令(以下「施行令」という。)第120条《減価償却資産の償却の方法》第1項第1号は、減価償却資産の償却費の額の計算上選定することができる建物の償却の方法として、同号イにおいて、平成10年3月31日以前に取得された建物については定額法又は定率法、同号ロにおいて、平成10年4月1日以後に取得した建物については定額法とする旨規定している。
ロ また、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項は、居住者が贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定している。
ハ そして、施行令第126条《減価償却資産の取得価額》第1項は、減価償却資産の第120条から第122条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額について規定し、施行令第126条第2項は、所得税法第60条第1項に掲げる事由により取得した減価償却資産の取得価額は、当該資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合における当該資産の取得価額に相当する金額とする旨規定している。
ニ なお、所得税基本通達49−1《取得の意義》は、施行令第120条第1項に規定する取得には、購入や自己の建設によるもののほか、相続、遺贈又は贈与によるものも含まれるのであるから、平成10年4月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した建物の償却方法は、定額法である旨定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 平成14年1月4日に死亡したA(以下「被相続人」という。)は、別表1に掲げる減価償却資産(以下「本件償却資産」という。)について、不動産所得を生ずべき事業の用に供していたところ、相続人である請求人は、これを相続により取得し、引き続き不動産所得を生ずべき事業の用に供している。
ロ 請求人は、平成14年分の確定申告において、本件償却資産に係る償却費の額を定額法により別表1のとおり計算して、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入したが、定率法によって計算して別表2のとおり、当該償却費の額が増加することから、不動産所得の金額が過大であるとする本件更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、本件更正処分において、本件償却資産に係る平成14年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき償却費の額を定額法により別表3のとおり計算している。
ニ 被相続人は、平成8年3月12日に、建物に係る償却の方法を定額法から定率法へと変更する旨記載した所得税の減価償却資産の償却方法の変更承認申請書を原処分庁に提出し、平成8年分から定率法を適用していた。
ホ 請求人は、相続により取得した本件償却資産について、所得税の減価償却資産の償却方法の届出書を原処分庁に提出していない。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
 本件償却資産のうち、種類が建物である資産(以下「本件建物」という。)の償却の方法は、次の理由から、定率法を認めるべきである。
イ 所得税基本通達49−1は、施行令第120条第1項第1号に規定する「取得」には、相続による取得を含む旨定めているが、法律又は政令で明確に規定しない限り、相続による取得は含まない。
ロ 所得税法第60条第1項の規定は、相続により取得した資産の取得費について、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定していることから、減価償却資産の償却の方法も承継が認められるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、平成14年1月4日の被相続人の死亡に伴い、本件建物を相続により取得したのであるから、本件建物は、上記1の(3)のイのとおり、施行令第120条第1項第1号ロに規定する建物に該当するので、その償却の方法は定額法となる。
ロ 請求人は、上記(1)のイのとおり主張するが、所得税法第60条第1項第1号において、資産の取得形態として、贈与、相続及び遺贈を規定していることからすれば、請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、上記(1)のロのとおり主張するが、上記ロに述べたとおり、所得税法第60条第1項には、資産の取得形態として相続がある旨規定していることから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)請求人は、上記2の(1)のイのとおり主張する。

 ところで、不動産の取得とは、その所有権の取得にほかならず、民法上、その取得原因(取得方法)として、売買や贈与などの契約及び相続などの承継取得、また、時効取得などの原始取得についても規定していることから、相続についても売買等の契約と同様に取得原因になりうるものと解される。
 また、施行令第126条第2項において、贈与、相続又は遺贈により取得した減価償却資産の取得価額について規定し、相続が取得原因となることを明らかにしているところである
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)さらに、請求人は、上記2の(1)のロのとおり主張する。

 ところで、所得税法第60条第1項の規定は、単純承認に係る相続による資産の移転について、被相続人がその資産を保有していた期間中に発生していた値上がり益をその相続人の所得として課税しようとする趣旨のもので、その相続人の譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費について、被相続人がその資産を取得した時から相続人がその資産を所有していたものと擬制して取得費の計算を行うために設けられたものである。
 そして、減価償却資産の取得価額について規定した施行令第126条第2項において、相続により取得した減価償却資産の取得価額について、相続人が被相続人の取得価額を引き継ぐ旨規定しているが、この規定は、減価償却資産について、被相続人が選定していた償却の方法を相続人が引き継ぐことまで規定したものではなく、償却の方法については、施行令第120条に規定するとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、平成14年1月4日の相続により取得した本件建物の償却の方法については、施行令第120条第1項第1号ロの平成10年4月1日以後取得した建物に該当するので、本件建物の償却の方法は定額法となる。
 したがって、原処分庁が行った原処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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