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(平16.1.29裁決、裁決事例集No.67 309頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、オーストラリア連邦(以下「オーストラリア」という。)法人K Limited(以下「K社」という。)からL株式会社(以下「L社」という。)の株式600株(以下「本件株式」という。)を時価より低額の1,380,000,000円で取得したこと(以下「本件取引」という。)について、本件株式の時価と当該取得価額との差額が経済的利益に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに申告した(以下、この申告に係る確定申告書を「本件確定申告書」という。)。
ロ M税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成14年3月26日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年5月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、同年12月13日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、平成15年1月10日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とすると規定し、同条第2項は、前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とすると規定している。
ロ 所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30による国税庁長官通達で平成11年1月21日付課所4−1による改正前のものをいい、以下「所得税基本通達」という。)23〜35共−9《株式等を取得する権利の価額》は、新株等を取得する権利の価額について、その(4)で、当該新株等が上場株式及び気配相場のある株式のいずれでもない場合には、〔1〕売買実例のあるものは、最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額、〔2〕売買実例のないもので、その株式等を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式等の価額があるものは、当該価額に比準して推定した価額、〔3〕上記〔1〕及び〔2〕に該当しないものは、権利に基づく払込みに係る期日又は同日に最も近い日におけるその株式等を発行する法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする旨定めている。
ハ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほかによる国税庁長官通達で、平成11年3月10日付課評2−2ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)178《取引相場のない株式の評価上の区分》は、取引相場のない株式の価額について、その株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を、大会社、中会社及び小会社に区分の上、評価基本通達179《取引相場のない株式の評価の原則》に定める評価方式によって評価する旨、ただし、特定の評価会社の株式の価額は、評価基本通達189《特定の評価会社の株式》の定めによって評価する旨定めている。
ニ 評価基本通達179は、評価基本通達178により区分された大会社、中会社及び小会社の株式の価額について、原則として〔1〕大会社の株式は類似業種比準価額方式によって評価する、〔2〕中会社の株式は、類似業種比準価額方式と純資産価額方式との併用方式によって評価する(以下、この評価方式を「併用方式」という。)、〔3〕小会社の株式の価額は純資産価額方式によって評価する旨定めている。
ホ 評価基本通達189の(1)は、課税時期において評価会社の有する各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合が25%以上(同通達178に定める中会社及び小会社については、50%以上)である評価会社(以下「株式保有特定会社」という。)の株式の価額は、同通達189−2《株式保有特定会社の株式の評価》の定めによる旨定めている。
ヘ 評価基本通達189−2は、株式保有特定会社の株式の価額は、同通達185《純資産価額》の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する旨、ただし、納税義務者の選択により、株式保有特定会社の株式の価額は、株式保有特定会社が所有する株式等と当該株式等に係る受取配当収入がなかったとした場合の同社株式の原則的評価方式による評価額(以下「S1の金額」という。)と、株式保有特定会社が所有する株式等について同通達の定めによって評価した価額(評価差額に相当する法人税等相当額を控除した価額。以下「S2の金額」という。)との合計額によって評価することができる旨定めている。
ト 法人税基本通達(平成12年課法2−7「十六」による改正前のものをいい、以下「法人税基本通達」という。)9−1−14《非上場株式で気配相場のないものの価額》は証券取引所において上場されていない株式のうち気配相場のある株式以外のもの(以下「気配相場のない株式」という。)につき法人税法第33条《資産の評価損の損金算入》第2項の規定を適用する場合の事業年度終了の時における当該株式の価額は、次による旨定めている。
(イ)売買実例のあるものは、当該事業年度終了の日前6月間において売買の行われたもののうち適正と認められる価額による。
(ロ)公開途上にある株式で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下、これらを併せて「公募等」という。)が行われるものは、証券取引所又は日本証券業協会の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額による。
(ハ)売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるものは((ロ)に該当するものを除く。)、当該価額に比準して推定した価額による。
(ニ)上記(イ)から(ハ)までに該当しないものは、当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式を発行する法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額による。
チ 法人税基本通達9−1−15《気配相場のない株式の価額の特例》は、気配相場のない株式について、法人税法第33条第2項の規定を適用する場合において、事業年度終了の時における当該株式の価額につき評価基本通達の178から189−6《新株引受権等の発生している特定の評価会社の株式の価額の修正》までの例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害のない限り、次によることを条件としてこれを認める旨定めている。
(イ)当該株式の価額につき、評価基本通達179の例により算定する場合において、当該法人が当該評価会社にとって同通達188《同族株主以外の株主等が取得した株式》の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該評価会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例による。
(ロ)当該評価会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、評価基本通達185《純資産価額》の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については当該事業年度終了の時における価額による。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、N株式会社(以下「N社」という。)の代表取締役である。
 なお、N社は、平成○年○月○日、○○○○市場に店頭登録した。
ロ K社は、平成7年12月22日に、出資金2オーストラリアドルで設立された法人であり、オーストラリア証券投資委員会(以下「ASIC」という。)への登録事項によれば、K社の取締役の状況は次のとおりである。
(イ)設立時から平成9年8月6日まで
 R(請求人の子)及びJ
(ロ)平成9年8月6日から平成10年6月30日まで
 T及びJ
(ハ)平成10年6月30日から平成11年1月12日まで
 U及びV
ハ ASICへの登録においては名義株主又は実株主としての登録が可能であるところ、K社の株主の登録事項によれば、いずれも名義株主ではなく、実株主として登録されており、K社の株主及びその株式所有の状況は次のとおりである。
(イ)設立時から平成9年8月6日まで
 発行済株式数は2株であり、そのうち1株をWが、残り1株をRが所有している。
(ロ)平成9年8月6日から平成10年1月30日まで
 平成9年8月6日の増資後の発行済株式数は10株であり、そのうち1株をWが、残り9株をTが所有している。
(ハ)平成10年1月30日から平成11年1月12日まで
 発行済株式数は10株であり、そのうち1株をWが、残り9株をUが所有している。
ニ L社は、平成3年8月20日に設立され、電子機器の製造・販売業務を中心に行っている。
 L社の平成9年6月11日、同年9月17日及び平成11年1月12日における役員及び株主等の状況は、次のとおりである。
(イ)平成9年6月11日及び同年9月17日
 代表取締役は、X及びYであり、取締役は、Z及びWである。
 発行済株式数は600株であり、K社が600株すべてを所有している。
(ロ)平成11年1月12日
 代表取締役は、X及びYであり、取締役は、W、a及びUである。
 発行済株式数は700株であり、そのうち600株をK社が、50株をWが、22株をbが、14株をaが、14株をUが所有している。
ホ 請求人とL社との間で交わされた平成9年6月11日付の株式売買契約書(以下「平成9年6月11日付売買契約書」という。)には、要旨次のとおりの記載があり、譲受人としてL社の代表者であるX、譲渡人として請求人の記名、押印がされている。
(イ)請求人は、L社に対し、d株式会社(以下「d社」という。)の株式36,000株を、1株につき25,179円、総額906,444,000円で、平成9年6月23日に譲渡する。
(ロ)L社は、譲渡日に、請求人の所有する株券と引換えに譲渡代金を請求人の指定する銀行に振り込む。
ヘ 平成9年6月23日に実行されたd社の株式の売買に関し、請求人とXが相互に詳細を確認したとする平成9年9月17日付の覚書(以下「覚書1」という。)には、要旨次のとおり記載され、請求人、X及びTの署名がされている。
(イ)N社及びL社が共に株式公開できたときは、請求人は、L社からd社の株式を、その売渡価格の110%から130%までの範囲で買い戻す。
(ロ)N社が株式公開できL社が株式公開できなかったときは、請求人は、K社からL社の株式とd社の株式に加えてd社が保有しているN社の株式を売渡価格の150%の価格で買い受ける。
(ハ)N社が株式公開できたときは、N社の株価がどのようになっていようとも、上記(イ)及び(ロ)の合意に従う。
(ニ)N社が株式公開できなかったときは、L社の株式公開・非公開にかかわらず、請求人は、L社からd社の株式を、同一の条件及び価格で買い戻す権利を有するものとする。
ト 請求人及びXの署名がある両当事者が合意したことを確認するとする平成9年9月17日付の覚書(以下「覚書2」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)Xは、906,444,000円の価格でd社の株式を取得する。
(ロ)請求人がN社の株式を公開することができ、本件株式を取得するとの申出をした場合に、前述の株式の価格は次の基準により決定される。
[価格決定基準]
 請求人がd社の株式をL社に売却する価格の50%から150%の範囲内とする。ただし、最大額は1,400,000,000円とする。
チ 請求人及びXの署名がある平成9年9月17日に取り交わされたとする覚書(以下「覚書3」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
 すなわち、請求人とK社は覚書2の中の価格決定基準に従った価格で本件株式を取得する選択権を持っている。しかし、本件株式について、日本の国税当局が独自に決定した価値を主張し、請求人が当該価値を採用することを要求された場合には、本件株式の価値は、〔1〕会計監査人により決定された価値であるものとし、〔2〕請求人は、そのような場合には当該価値を受け入れ、覚書2の価格決定基準に従った価格と当該価値との差額を早急にK社に支払うものとし、〔3〕K社は上記の差額を受け取り、オーストラリアの税務署にそのような差額を授受した事実を申告するものとする。
リ 請求人及びUの署名、押印がされている平成10年1月30日付の覚書(以下「覚書4」という。)には、要旨次のとおり記載されており、公証人役場の平成10年12月28日の日付印が押印されている。
(イ)請求人が将来本件株式の取得を申し入れた場合、その価格は次の基準により決定する。
[価格決定基準]
 請求人がd社の株式をL社に売却したときの価格(906,444,000円)の50%から150%の範囲内で、他の諸条件を考慮して定める。
(ロ)Uは、本件株式を保有するK社の代表者及びL社の取締役(ただし、弁護士会の許可を得ることを条件とする)として、この覚書に調印する。
ヌ 請求人及びXの署名がある平成10年9月18日付の株式売買契約書(以下「平成10年9月18日付売買契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)Xは請求人に対し、K社が所有する本件株式を売り渡し、請求人はこれを買い受ける。
(ロ)本件株式の売買代金は1,380,000,000円とする。
(ハ)Xは、請求人に対し、代金支払が行われ次第、速やかに本件株式の株券を交付する。
ル K社と請求人との間で交わされた平成10年12月25日付の「申込証拠金預託に関する合意」と題する書面(以下「平成10年12月25日付合意書」という。)には、要旨次のとおりの記載があり、K社の代表者であるUの署名並びに請求人の署名及び押印がされている。
(イ)K社は、請求人に対し、本件株式を売り渡し、請求人はこれを買い受けることを予定して、申込証拠金として、1,380,000,000円(以下「本件申込証拠金」という。)を預託する。
(ロ)本件申込証拠金は、K社名義の口座に振込送金にて預託する。
(ハ)将来、K社と請求人との間に売買契約が成立した場合には、本件申込証拠金を売買代金に充当し、過不足については調整する。
(ニ)将来、K社と請求人との間に売買契約が成立しなかった場合には、K社は請求人に対し、本件申込証拠金を返還する。
 なお、当該合意書のとおり、平成10年12月25日に、本件申込証拠金としてK社名義の口座に1,380,000,000円が預託された。
ヲ N社が、Xにあてて発行した株券受領証(以下「本件株券受領証」という。)には、N社が、平成10年12月25日に本件株式の株券を受領した旨記載され、N社の押印がされている。
ワ K社と請求人との間で交わされた平成11年1月12日付の株式売買契約書(以下「平成11年1月12日付売買契約書」という。)には、要旨次のとおりの記載があり、K社の代表者であるUの署名並びに請求人の署名及び押印がされている。
(イ)K社は請求人に対し、本件株式を売り渡し、請求人はこれを買い受ける。
(ロ)本件株式の売買代金は1,380,000,000円とし、既に請求人からK社に預託済みの1,380,000,000円を本日売買代金に充当し、これをもって代金が全額支払われたことを相互に確認する。
(ハ)K社は請求人に対し、速やかに本件株式の株券を交付する。
カ 平成11年1月12日において、d社は、N社の発行済株式84,875,000株のうち、4,680,000株を所有していた。
 また、平成9年6月11日から平成11年1月12日までにおけるd社の発行済株式数は36,000株である。
ヨ 税理士e(以下「e税理士」という。)が平成11年1月7日付で作成した、平成10年12月1日を評価時点とするL社の株式に係る株式評価書(以下「本件株式評価書」という。)には、1株当たりの評価額は20,319,638円と記載され、また、その評価方法については、評価方式の選定として「評価に当たっては、法人税基本通達9−1−14及び9−1−15により評価した。これによれば、当会社は、会社規模の判定で大会社に該当し、類似業種比準方式により評価することになっているが、当会社は同族で、かつ、中心的な同族株主に該当するので、小会社として評価しなければならないことになっている。小会社の評価に当たっては、純資産価額と{(類似業種比準価額と純資産価額とのいずれか低いほうの金額)×0.5+純資産価額×0.5}で計算した金額とのいずれか低いほうの価額を選択できるが、当会社の場合は、株式保有特定会社に該当するため、原則として純資産価額方式により評価することになる。(注)株式保有特定会社とは、純資産価額に占める株式等の合計額が大会社の場合、25%以上となる会社のことをいう」と記載され、また、「土地は時価(公示価格の水準)」と記載され、さらに、本件株式評価書の付属書類と認められる「財産の明細」と題する書面には「L社が100%出資しているd社が所有している店頭登録株式であるN社の株式4,680,000株を、評価時点である平成10年12月1日の当日の終値2,590円で評価した評価額は12,121,200,000円」と記載されている。
タ 請求人とN社との間で交わされた平成11年2月2日付の売買契約書(以下「平成11年2月2日付売買契約書」という。)には、同日、請求人がN社に対し、本件株式を、1株につき20,319,638円、総額12,191,782,800円で譲渡する旨の記載があり、同日、売買契約書のとおり代金の決済がなされている。
レ 本件確定申告書に添付された「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」には、次のとおり記載されている。

(イ)譲渡による収入金額12,191,782,800円
(ロ)取得価額又は取得費1,380,000,000円
(ハ)有価証券取引税12,191,700円
(ニ)所得金額10,799,591,100円
(ホ)譲渡した株式等の銘柄L社
(ヘ)数量600株
(ト)取得年月日平成11年1月12日
(チ)譲渡年月日平成11年2月2日
(リ)譲渡先の住所・氏名等○○市○○町○−○−○・N社

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 課税上の収益の額は、契約全体の趣旨に従って定めるべきであることについて
 大阪高等裁判所昭和59年6月29日付判決は、「法人税法第22条第2項の収益の額を判断するに当たって、その収益が契約によって生じているときは、法に特別の規定がない限り、その契約の全内容、つまり特約も含めた全契約内容に従って収益の額を定めるべきものである。もし、契約のうち、民法等に定めのない特別の約定の部分をすべて省いて収益の額を判断するというのでは、実質的には収益がないのに課税が行われ、あるいは実質的には収益があるのに課税が行えないという不合理が生ずるであろう」と判示しているところ、この趣旨は、当事者間に契約がある場合、特約や覚書を含む契約全体の内容に従って収益の額を定めるべきということであり、正当な判示である。
 また、東京高等裁判所平成15年1月29日付判決も、契約当事者は誰か、契約の内容はどのようなものか、その契約に合理性があるかを詳細に判示し、契約内容に従って、どこにいくらの収益が生じているかを判示しており、上記大阪高等裁判所の判示と共通の基盤に立つものである。
ロ これを本件取引についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人とL社との間のd社の株式の売買取引及び本件取引(以下、これらを併せて「本件各取引」という。)が不可分一体の取引であることについて
A 請求人は、平成8年ころから、N社の株式公開を決意し、そのための準備を進めていた。
 そして、株式公開条件を満たすためには、請求人が所有していたN社と競合関係にあるメーカーであるd社の株式を、一時的に第三者に売却譲渡する必要があった。
 しかし、請求人としては、メーカーとしてd社がブランド価値を有することから、d社ブランドを所有し、d社ブランドでの販売を拡大することがN社の増益に資すると考えており、N社の株式公開後にd社の株式を買い戻すことは、d社の株式を譲渡するに当たり、不可欠の前提であった。
B そこで、請求人は、L社の代表者であり、K社の実質的な支配者であるXに対し、〔1〕N社の株式を公開したいこと、〔2〕そのためには、請求人の有するd社の株式を一時的に売却しなければならないこと、〔3〕N社が株式公開できたときは、請求人は、N社と競争的関係にあるL社をこれまでのように支援することはできなくなることを話した上で、d社の株式をL社に一時的に買い取ってほしい旨及びN社が株式公開できた後には、当該株式を買い戻したい旨要請した。
 これに対し、Xは、請求人にd社の株式の買戻しを考えるなら、L社が株式公開できなかった場合、d社の株式だけではなくL社ごと買い受けて欲しいと要請した。
 そして、請求人とXとは、d社の株式の買戻しにつき、話合いの結果、次のとおり口頭で合意した。
(A)N社及びL社が共に株式公開できたときは、請求人は、L社からd社の株式を、その売渡価格の110%から130%までの範囲で買い戻すことができる。
(B)N社が株式公開できL社が株式公開できなかったときは、請求人は、K社から、d社の株式を所有するL社の株式を、上限14億円、下限d社の売渡価格の50%の範囲の価格で買い受けることができる。
(C)N社が株式公開できたときは、N社の株価がどのようになっていようとも、上記(A)及び(B)の価格合意に従う。
(D)N社が株式公開できなかったときは、L社の株式公開・非公開にかかわらず、請求人は、L社からd社の株式を、その売渡価格と同額で買い戻す。
C 請求人は、平成9年6月23日、同年5月26日付f税務計理事務所の鑑定結果に基づき、d社の株式36,000株を、総額906,444,000円で、L社に対し売り渡した。
D 請求人及びXは、平成9年9月17日、上記Bの合意を覚書1及び覚書2として、書面化した。
E 請求人は、平成10年1月30日、K社の代表取締役であるUとの間において、上記Bと同旨の合意をし、覚書4として書面化した。
F 平成○年○月○日、N社の株式公開が実現したが、L社は、株式公開を断念した。
G 上記Fの事実を受け、平成10年9月18日、請求人とXとの間において、K社から請求人に対し、K社が所有するL社の株式600株を1,380,000,000円で売り渡す旨の売買契約が成立し、これを平成10年9月18日付売買契約書として書面化した。
 なお、平成11年1月12日付売買契約書は、既にXと請求人との間で合意していた契約内容を形式的に履行したものであり、このことは、本件株券受領証からも明らかである。
H 上記AからGまでに述べたとおり、本件各取引は、いずれもN社の株式の公開条件を満たすことのみを目的としたものであり、不可分一体である。
(ロ)覚書1及び覚書2が有効であることについて
 原処分庁は、覚書2が権限のある当事者間で取り交わされたものではない旨主張するが、Xは、次の理由からK社の実質的な支配者であり、このことから、覚書1及び覚書2は有効である。
A Xは、K社の出資金を全額拠出している。
B Xは、L社の株式600株をその出資金と同額の3,000万円でK社に譲渡している。
 当時のL社は、かなりの利益を上げていた会社であるから、第三者間の譲渡であれば、L社の出資金と同額での譲渡はあり得ない。
C 請求人は、Xとの間で、覚書1及び覚書2に加え平成10年9月18日付売買契約書を取り交わしている。Xが何らの権限もない者であるならば、請求人とXとの間でこのような書面を作成することはあり得ない。
D 平成9年8月8日、R、T及びXの3者間において、〔1〕Rは、K社の株式1株をTに預託すること、〔2〕Tは、K社の株式がXのための名義株であることを確認すること、〔3〕Tは、K社の株式をXに返却するまでの期間に発生する利子及び配当を取得することができること、及び〔4〕Tは、Xの指示又は同意なしにK社の株式の譲渡及び名義変更をしないことを約する旨の覚書を締結している。
 特に覚書1においては、XがK社の真の所有者である旨及びK社の名義株主としてTの名前を使用する旨が確認されており、Tも署名している。
E K社の平成14年3月29日付取締役会議事録には、Xの名義人としてUが署名している。
F 平成9年8月のK社の増資の際、Xが出資金を負担している。
G RからTへの株式の譲渡及びTからUへの株式の譲渡は、いずれもXの指示に基づいており、R、T及びUは、いずれも株式取得代金を一切支出していない。
H K社をXが実質的に支配していることは、請求人、X、R、T、U、W、L社社員及びN社社員等の間で全く争いがなかった。
(ハ)請求人及びXは、本件各取引における売買価格がいずれも時価ではないことを認識していたことについて
A 請求人は、f税務計理事務所の作成した株式評価書に、d社の所有するN社株式について、「評価額が不明であるため、帳簿価額で評価する」と記載されていたことから、d社の株式の譲渡価格906,444,000円が時価以下であることは、十分認識していたものであり、Xもこれを十分認識していた。
B 請求人及びXは、本件取引におけるL社の株式の売買価格1,380,000,000円が、時価以下であることについても、十分認識していた。
(ニ)本件各取引により、請求人において経済的利益が生じないことについて
 上記(イ)及び(ハ)に述べたことから、本件各取引の実質は金融取引であり、本件取引におけるL社の株式の売買価格と、請求人とL社との間のd社の株式の売買取引における売買価格との差額は、支払手数料(謝礼を含む)にも相似するものである。
 したがって、本件各取引により、請求人には経済的利益は生じない。
(ホ)仮に、本件各取引が不可分一体の取引であると認められないとしても、本件取引は、覚書1、覚書2及び覚書4並びに平成10年9月18日付売買契約書に基づくものであって、請求人及びK社は、これらの合意に拘束されるのであるから、本件取引における本件株式の売買価格が時価より低額であるとしても、当該売買価格と当該時価との差額を経済的利益として課税することはできない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分及び異議申立てに係る調査の結果によれば、上記1の(4)の各事実のほか、次の事実が認められる。
(イ)L社は、平成10年1月13日に第三者割当増資に係る新株100株を、1株当たり304,858円で発行している。
(ロ)平成11年1月12日におけるL社の貸借対照表上の各資産をそれぞれの資産の種類に対応する評価基本通達の定めるところにより評価した場合の各資産の価額の合計額は22,747,757,126円であり、このうち株式及び出資の価額の合計額は15,996,066,200円であって、総資産に占める株式及び出資の価額の合計額の割合は70%である。
(ハ)平成10年12月22日開催L社取締役会議事録には、要旨次のとおりの記載がある。
A 取締役会は、午前9時30分からL社の本店会議室において、代表取締役副社長Yを議長として取締役会を開催し、午前9時45分解散した。
B 議案は、L社の株式譲渡の件であり、議長より、株主K社からL社の株式の譲渡承認請求が提出されている旨報告があり、要旨は次のとおりである。
(A)株主K社の所有する株式600株を下記のものに譲渡する。
(B)譲渡先 ○○市○○町○−○ g(請求人)
C 出席者は、代表取締役副社長Y、取締役U、取締役W、取締役aの4名である。
D 上記Bの議案につき、その内容について慎重協議の結果、これを承認し、本件取締役会議事録を作成し、議長及び出席取締役の全員が押印した。
(ニ)N社の平成11年1月12日の気配相場は、1株3,165円である。
(ホ)請求人は、本件取引について、原処分の担当者に対して、〔1〕K社の実質代表はXで、私と彼2人で取決めをした旨、〔2〕Xとの取決めでd社の株式を150%の価格で買い戻すという条件に基づき、本件株式を14億円位ならよいということで購入した旨、〔3〕この取引価格が問題になり更正等になるなら、K社の利益としてオーストラリアの方で申告してもらい、日本では還付手続をするということでXと覚書3を交わしている旨、〔4〕L社は同業の株式取得制限があるため売ることを条件に買った旨、〔5〕請求人がL社のa経理部長に指示してe税理士にL社株式の評価を依頼した旨申し立てている。
(ヘ)a経理部長は、平成10年12月1日時点のL社株式の評価をe税理士に依頼しており、平成11年1月7日に、同税理士から、本件株式評価書を受け取っている。
(ト)請求人の顧問税理士であるf税務経理事務所から、本件確定申告書に係る関係書類として平成12年9月21日付でM税務署資産課税部門宛に本件株式評価書が提出されている。
ロ 上記イの各事実及び上記1の(4)の各事実を総合勘案すると、請求人の主張については、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件取引は、請求人がL社との間で行ったd社の株式の売買取引に係る実質的な再売買取引であり、その価格は、覚書2に拘束されるため、その価格が時価より低い価格であっても、低額譲受けとすることはできない旨主張する。
 しかしながら、そもそも覚書とは、権限のある当事者間で取り交わされるところ、〔1〕本件取引の権限のある当事者は、売主がK社の取締役であるUであり、買主が請求人であるところ、覚書2はXと請求人との間で取り交わされていること、〔2〕Xは、L社の代表者ではあるがK社の取締役及び株主のいずれでもなく、L社の株主でもないので、K社の代表権等権限を有する者とは認められず、また、本件株式に係る権限を有する株主でもないこと、〔3〕XがK社の実質的な代表者であるという具体的な説明及び書類等の提出がいずれもないことから、覚書2は、権限のある当事者間で取り交わされたものではなく、覚書2の存在が本件取引を左右するとは認められない。
 したがって、本件取引における価額が、覚書2に拘束されるとは認められない。
(ロ)仮に、覚書2を考慮するとしても、そもそも課税は、私法上の法律行為の法的効果自体にではなく、これによってもたらされる経済的効果に着目して行われるものであるところ、〔1〕上記1の(4)のチの事実及び上記イの(ホ)の申述によれば、請求人は、本件取引における売買価格1,380,000,000円について、原処分庁によって低廉譲受けを指摘される可能性を予測していたものと認められ、〔2〕上記イの(ホ)及び(ト)の各事実並びに請求人が本件株式評価書の評価額を基に平成11年2月2日に本件株式をN社に譲渡していることから、請求人には、平成11年1月12日における本件株式の価額が少なくとも12,191,782,800円であるとの認識があったと推認でき、このことから、請求人は、原処分庁により本件取引が低廉譲受けであると指摘されることを認識していながら、著しく低い価額で取引を実行していたものであると認められるので、覚書2を考慮しないところで本件更正処分を行ったとしても、本件更正処分が直ちに違法となるものではない。
(ハ)さらに、本件株式の平成10年12月1日現在における時価12,191,782,800円は、覚書2において定めた価額決定基準の最高額1,400,000,000円をはるかに上回る金額であり、売主が本件株式の当該時価を知っていたのであれば、一般的な取引を考えた場合、売主が覚書2の価額決定基準を容易に認めて本件取引を行うものとは考えられないところ、売主であるK社の取締役Uは、L社の取締役も兼任しておりa経理部長らと本件取引を承認し、本件取締役会議事録に押印する立場にあったことからすれば、この直後にa経理部長が受領した本件株式評価書の評価額12,191,782,800円を知り得たと認められ、それにもかかわらず、売主においても、本件取引が著しく低い価額であることを認識した上で本件取引を実行していることから、そもそも覚書2に基づく本件取引が合理的な取引とは認められず、また、本件取引の金額を覚書2の価額決定基準によることの合理的な理由も認められないことは、上記(ロ)のとおりであり、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件株式の評価額について
(イ)法人と個人との間で株式の売買を行い、その株式を個人が取得した時のその時における価格については、新株等を取得する権利の価額に準じ、上記1の(3)のロの定めにより計算を行うこととされている。
 本件株式は、非公開株式であり、過去に売買実例もないことから、上記1の(3)のロの定めにより、類似業種比準価額又は1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額による評価方法が合理的と認められる。
 評価基本通達は、法令ではないが、課税実務上、国税庁長官は、相続財産評価の一般的基準である各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法等を定めた評価基本通達を発遣し、課税庁は、そこに定められた画一的な評価方法によって相続財産を評価することとしており、これは、納税者間の課税の適正・公平の確保という見地から合理性があるとされている。
(ロ)そこで、本件株式の価額を類似業種比準価額方式又は純資産価額方式に準じて評価する場合は、課税実務上相続の財産の一般的な基準として評価基本通達が定められているところ、上記1の(3)のハによれば、評価会社を大会社、中会社又は小会社に区分して評価基本通達179に定める評価方式により評価することとなるが、本件取引のあった平成11年1月12日におけるL社の貸借対照表の各資産をそれぞれの資産の種類に対応する評価基本通達の定めるところにより評価した場合の各資産の価額の合計額は22,747,757,126円であり、このうち株式及び出資の価額の合計額は、15,996,066,200円であることから、L社は上記1の(3)のホに定める株式保有特定会社に該当し、純資産価額方式又は評価基本通達189−2に定める「S1の金額」と「S2の金額」の合計額により本件株式の評価額を算出する方法によることとなる。
(ハ)以上の結果、平成11年1月12日におけるL社の1株当たりの評価額は、23,798,290円となる。
ニ 本件更正処分について
(イ)一時所得の金額
 請求人は、平成11年1月12日、本件株式を1株当たり2,300,000円でK社から譲り受けているが、本件取引日である平成11年1月12日現在の1株当たりの時価は、上記ハの(ハ)のとおり、23,798,290円となる。
 したがって、一時所得の金額は、本件株式の時価14,278,974,000円と売買価格1,380,000,000円との差額12,898,974,000円から一時所得の特別控除額500,000円を控除した金額の2分の1である6,449,237,000円となる。
(ロ)株式等に係る譲渡所得の金額
 請求人は、平成11年2月2日に本件株式をN社に1株当たり20,319,638円で譲渡しており、本件確定申告書において、譲渡収入金額12,191,782,800円から、取得価額1,380,000,000円及び有価証券取引税12,191,700円を控除した10,799,591,100円を株式等に係る譲渡所得の金額として申告している。
 しかし、上記ハの(ハ)により、請求人は、本件株式を1株当たり23,798,290円で取得したこととなるので、本件株式の取得価額は14,278,974,000円と算出されるところ、譲渡収入金額12,191,782,800円から、取得価額14,278,974,000円及び有価証券取引税12,191,700円を控除すると、損失額2,099,382,900円となるが、租税特別措置法第37条の10(平成12年法律第96号による改正前のもの。以下同じ。)《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項の規定によりその損失額はないものとなる。
(ハ)納付すべき税額
 以上の結果、請求人の平成11年分の納付すべき税額は、2,482,872,100円となり、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ホ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記ニのとおり適法であり、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づき本件賦課決定処分をしたことは適法である。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の平成9年分の確定申告書には、株式等の譲渡所得の金額として、568,510,474円と記載されており、この金額には、平成9年6月11日付売買契約書に基づくd社の株式の譲渡所得の金額が含まれている。
ロ 請求人の平成10年分の所得税の確定申告書と同時に提出された「財産及び債務の明細書」の「財産」欄には、株式購入に係る仮払金1,380,000,000円の記載がある。
ハ 請求人は、当審判所に対し、K社の株主登録において、不注意によりUが実株主として登録されていた旨が記載された平成15年9月17日付のXの陳述書を提出した。
ニ 請求人とK社が本件取引の売買契約書を締結した日付である平成11年1月12日のN社の株式の1株当たりの高値及び安値は、それぞれ3,330円及び3,000円であり、これらの平均値は、3,165円である。

(2)本件取引について

イ 請求人は、d社の株式の売却前に、Xとの間で、d社又はL社の株式を買い戻す旨の合意が成立していたもので、本件各取引は不可分一体の取引である旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張するように、d社の株式の売却前に、請求人とXとの間で、d社の株式を買い戻す又はL社の株式を買い受ける旨の合意が成立していたのであれば、当該合意は、d社の株式の売買契約締結に際しての重要事項であるから、平成9年6月11日付売買契約書に、当該合意の内容が記載されるか、又は、当該合意の内容が、遅くとも同日までに、覚書などの形で書面化されるのが通常であるところ、平成9年6月11日付売買契約書には、d社の株式を請求人がL社に売り渡す旨の記載はあるものの、当該株式又はL社の株式を請求人が買い戻す旨の記載はなく、かつ、同旨が記載された同日までに作成された覚書も存在しない。かえって、本件においては、平成9年6月11日から3か月以上も経過してから作成された覚書が複数存在するのみであって、不自然である。これらのことからすると、d社の株式の売却前に、Xとの間で、d社の株式又はL社の株式を買い戻す旨の合意が成立していたとは認められない。
 また、〔1〕平成7年12月22日の設立時から平成9年6月11日までの間におけるK社の株主及び取締役の登録状況は、上記1の(4)のロ及びハのとおりであること、〔2〕当該株主の登録に当たり、名義株として登録しなかったことについて、当審判所が請求人に対し、その理由の説明を求めたにもかかわらず、請求人からは、上記(1)のハの陳述書の提出があったのみで、合理的な理由の説明がないこと、〔3〕XがK社の実質的な支配者であるとする上記2の(1)のロの(ロ)のAからHまでの請求人の主張については、当審判所が請求人に対し、その主張の根拠となる証拠資料の提出を求めたにもかかわらず、その主張を裏付けるに足る客観的な証拠資料の提出がないこと、〔4〕本件全資料によっても、この期間においてXがK社の実質的な支配者であったと認めるに足る証拠がないことからすると、この期間において、Xは、K社の実質的な支配者ではなかったと認めるのが相当であり、そうすると、本来、請求人、L社及びK社の3者間で合意すべき事項につき、請求人及びXの2者のみで合意を成立させることはできないと認められる。
 さらに、他に、d社の株式の売却前に請求人とXとの間で当該合意が成立していたことを認めるに足る客観的な証拠もない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は、本件各取引の実質は金融取引であり、請求人において経済的利益が生じない旨も主張するが、本件各取引が不可分一体の取引であると認められないことについては、上記のとおりであり、また、そもそも、〔1〕請求人が売り渡した株式がd社の株式であるのに対し、請求人が買い受けた株式がL社の株式であること、〔2〕場合によっては、L社の株式の売買価格がd社の株式の売買価格を下回る可能性もあったこと、及び〔3〕請求人自身、上記(1)のイのとおり、平成9年6月11日付売買契約書に基づくd社の株式の譲渡に係る譲渡所得を、平成9年分の所得として確定申告していることからしても、本件各取引を金融取引と同視できないことは明らかである。
ロ 請求人は、本件取引は、覚書1、覚書2及び覚書4並びに平成10年9月18日付売買契約書に基づくものであって、請求人及びK社は、これらの合意に拘束されるのであるから、本件取引における本件株式の売買価格が時価より低額であるとしても、当該売買価格と当該時価との差額を経済的利益として課税することはできない旨主張する。
 しかしながら、所得税法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」には、物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益が含まれると解されるから、仮に、これらの合意により本件取引における本件株式の売買価格が定められていたものであったとしても、当該売買価格が、売買時点における時価と比較して低額である場合には、当該売買価格と当該時価との差額は、本件取引における買主である請求人において、経済的利益として課税されることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件取引に係る売買契約は、平成10年9月18日に、請求人とXの間において成立した旨主張する。
 しかしながら、平成10年9月18日付売買契約書は、上記1の(4)のヌのとおり、請求人とXとの間で交わされたものであるところ、上記イのまた書きの〔1〕から〔4〕までに述べた理由と同じ理由により、平成10年9月18日においても、Xは、K社の実質的な支配者ではなかったと認めるのが相当であるから、Xは、平成10年9月18日付売買契約書の契約当事者とはなり得ず、したがって、平成10年9月18日付売買契約書が有効なものであるとは認められない。
 また、〔1〕平成10年12月25日付合意書には、上記1の(4)のルのとおり記載されており、同日現在において、K社と請求人との間で売買契約が成立していたとは認められないこと、〔2〕平成11年1月12日付売買契約書には、上記1の(4)のワのとおり記載されていること、〔3〕上記1の(4)のレのとおり、本件確定申告書に添付された「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」には、本件株式の取得日が平成11年1月12日である旨記載されていること及び〔4〕上記(1)のロのとおり、平成10年分の所得税の確定申告書と同時に提出された「財産及び債務の明細書」の「財産」欄には、株式購入に係る仮払金1,380,000,000円の記載があることからすると、本件取引に係る売買契約は、平成11年1月12日に成立し、同日、本件株式の引渡しが行われたものと認めるのが相当である。
 なお、本件株券受領証には、上記1の(4)のヲのとおり記載されているところ、〔1〕請求人は本件株式をK社から取得したものであって、Xから取得したものではないこと及び〔2〕上記1の(4)のヨ及びタの各事実によれば、請求人とN社との間の本件株式の売買は、平成11年2月2日に行われたものと認められることから、本件株券受領証に信ぴょう性があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

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(3)本件株式の評価額について

イ 税法等の規定
(イ)所得税法第36条第2項の規定を受け、所得税基本通達23〜35共−9においては、新株等を取得する権利の価額について、上記1の(3)のロのとおり定め、また、法人税基本通達においては、非上場株式の価格の算定方法について、法人税基本通達9−1−11《気配相場のある株式の価額》から9−1−15までに準じて合理的に計算される価額によることを定めている。
 法人税基本通達9−1−14は、所得税基本通達23〜35共−9の(4)とほぼ同様の定めをおいているところ、法人税基本通達9−1−15は、法人税基本通達9−1−14の特例として、評価基本通達178から189−6までの例により算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、(1)当該法人が当該評価会社にとって中心的な同族株主に該当するときは、常に評価基本通達178に定める「小会社」に該当するものとすること、(2)当該評価会社が土地及び上場有価証券を有しているときは、当該事業年度終了の時における価額によることを条件として、これを認める旨定めている。
 ここにいう課税上の弊害については、例えば被評価会社は直接上場株式等を有していないが、その子会社が上場株式等を有する場合においては、その子会社が有する上場株式等については市場価格を考慮して評価すべきであるから、このような場合に市場価格を考慮せずにその子会社が有する上場株式等の評価をすることは課税上弊害があるものと解される。
(ロ)法人税基本通達9−1−15が、評価基本通達178から189−6までの例によって取引相場のない株式の評価を行うことを認めているのは、法人税基本通達9−1−14に定められている一般抽象的な評価方法だけで具体的に取引相場のない株式の時価を算定することは多くの場合困難を伴うという事情があること、評価基本通達の定めが取引相場のない株式の交換価値の評価方法として一般的に合理性を有するものであり、相続税課税と法人税課税との違いにより評価基本通達の定めるところと異なる評価方法又は、これに一部修正を加えた評価方法を採用すべき特段の事情がない限り、評価基本通達によっても取引相場のない株式について適正な時価を求めることができると考えられることによるものであり、この取扱いは相当であると認められる。
 したがって、所得税課税においても、取引相場のない株式の評価をする場合において、所得税基本通達23〜35共−9(4)の〔1〕及び〔2〕に該当しない場合には法人税基本通達9−1−15に準じて評価を行うことができるものと解するのが相当である。
ロ 本件株式の評価に当たり採るべき評価方法等
(イ)本件株式の評価方法
A 本件株式の取引(平成11年1月12日)直前である平成11年1月7日付で、平成10年12月1日を評価時点とし、本件株式の1株当たりの評価額を20,319,638円とする本件株式評価書が作成され、平成11年2月2日には、請求人が、本件株式評価書に記載された1株当たりの評価額20,319,638円と同額で、本件株式をN社に譲渡していることから、請求人は、本件株式評価書において採用された評価方法により、本件株式を評価しているものと認められる。
B 本件株式評価書には、本件株式の評価方法について、要旨上記1の(4)のヨのとおり記載されており、このように、請求人は、本件株式の評価に当たり、法人税基本通達9−1−15に準じた評価方式を採用しており、かつ、N社の株式についても、店頭登録銘柄であり取引価格が公表されていることから評価時点の市場価格で評価しているものであって、その評価方法には、合理性があるものというべきである。
 したがって、本件株式評価書に修正すべき特段の事由がない限り、本件株式の価額は、本件株式評価書における額を基として算定することが相当であると認められる。
C なお、原処分庁は、上記2の(2)のハのとおり主張するが、本件株式評価書に記載された評価方法に合理性があることは上記Bのとおりであるから、原処分庁の主張する評価方法は、採用できない。
(ロ)本件株式の評価時点
 本件株式評価書は、評価時点を平成10年12月1日としているが、上記(2)のハに述べたとおり、本件取引に係る売買契約は、平成11年1月12日に成立し、同日、本件株式の引渡しが行われたものと認められるから、この日を本件株式の評価時点とするのが相当である。
(ハ)本件株式の評価額
 本件株式評価書におけるL社、d社及びh株式会社(以下「h社」という。)の有する土地等の価額については、平成10年12月1日から平成11年1月12日までの間で価格が変動したという特別な事実が認められないことから、本件株式評価書を修正する必要性は認められない。
 しかしながら、〔1〕L社の有する前払費用については財産性が認められないことから零円で評価し、〔2〕L社及びd社が所有するj株式会社の有価証券の評価方法については、L社及びd社がいずれも少数株主(いずれも所有割合4.7%)で支配株主とは認められないことから配当還元方式により評価することとし、〔3〕d社の所有するN社の株式の評価に当たっては、本件取引に係る売買契約の成立の日である平成11年1月12日の高値が3,330円であり、安値が3,000円であることから、これらの平均値である3,165円を採用することとし、〔4〕L社及びd社のk協同組合への出資の評価方法については、L社及びd社の出資口数の全出資口数に占める割合が、それぞれ3.2%及び6.4%であることから配当還元方式により評価することとし、〔5〕d社の有する建物、建物付属設備及び構築物は、いずれも評価時点において売却されていることから零円で評価し、〔6〕d社の有する工具器具備品等については償却費相当額が控除されていないことから、当該償却費相当額を控除することとし、〔7〕d社の未納法人税74,000円、未納道府県民税4,000円、未納市町村民税11,000円、未納事業税38,000円が過少に計上されているので、これを加算し、〔8〕h社及びm株式会社(以下「m社」という。)の類似業種比準価額の採用すべき時期は本件取引が行われた平成11年1月を基準とすることが相当であり、h社については別表2−2−1のとおり、m社については別表2−3−1のとおり、修正計算することとする。
 以上により、本件株式の1株当たりの評価額は、別表2−1の〔12〕のとおり23,773,985円となり、本件株式の評価額は14,264,391,000円となる。

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(4)納付すべき税額

イ 一時所得の金額
 所得税法第36条の規定により、本件株式の評価額14,264,391,000円と売買価格1,380,000,000円との差額12,884,391,000円は、請求人における平成11年分の経済的利益に該当し、当該経済的利益は、K社からの贈与として、一時所得に該当する。
 したがって、請求人の一時所得の金額は、本件株式の評価額14,264,391,000円と売買価格1,380,000,000円との差額12,884,391,000円から一時所得の特別控除額500,000円を控除した金額の2分の1である6,441,945,500円となる。
ロ 株式等に係る譲渡所得の金額
 請求人は、平成11年2月2日に本件株式をN社に1株当たり20,319,638円で譲渡しており、上記1の(4)のタのとおり、本件確定申告書において、譲渡収入金額12,191,782,800円から、取得価額1,380,000,000円及び有価証券取引税12,191,700円を控除した10,799,591,100円を株式等に係る譲渡所得の金額として申告しているが、上記(3)のロの(ハ)により、本件株式を1株当たり23,773,985円で取得したこととなり、本件株式の取得価額は14,264,391,000円と算出されることから、譲渡収入金額12,191,782,800円から、取得価額14,264,391,000円及び有価証券取引税12,191,700円を控除すると、損失額2,084,799,900円となるが、租税特別措置法第37条の10第1項の規定によりその損失額はないものとなる。
ハ 納付すべき税額
 以上の結果、請求人の平成11年分の納付すべき税額は、別表3のとおり2,480,174,100円となり、この金額は、本件更正処分の額2,482,872,100円に満たないから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(5)本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分がその一部を取り消されることに伴い、加算税の基礎となる税額は223,600,000円となる。
 また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の納付すべき税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の平成11年分の過少申告加算税の額は22,360,000円となり、本件賦課決定処分の額22,629,000円に満たないから、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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