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(平16.3.30裁決、裁決事例集No.67 433頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、金銭貸付業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)ほか1名が、請求人の香港子会社の株主として香港子会社の増資を決議し、その香港子会社が、増資株式の全部をイギリス領ヴァージン諸島にある会社に額面金額で割り当てたことにより、請求人が所有する香港子会社の株式の資産価値の一部がイギリス領ヴァージン諸島にある会社に移転したことが、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項に規定する請求人の当該事業年度の益金の額に算入すべき「資産の譲渡」又は「その他の取引」に当たるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成11年6月1日から平成12年5月31日までの事業年度の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成14年7月2日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、原処分を不服として、平成14年9月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成14年11月29日付でこれを棄却するとの異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年12月27日に審査請求をした。

(3)関係法令

 法人税法第22条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人ほか1名が、請求人の香港子会社の株主として香港子会社の増資を決議した平成11年8月27日現在、請求人の発行済株式総数は400株であり、その株主構成は、請求人の当時の代表取締役であったAが20株、Aの夫Bが60株、請求人の親会社で呉服の縫製、販売業を営むC株式会社(以下「C社」という。)が280株、その他2名が合計40株であった。
 なお、請求人の設立(平成2年6月20日)時からの代表取締役であったBは、平成11年5月31日に取締役を辞任し、翌日、取締役であったAが代表取締役に就任した。
 そして、Aは、平成14年6月24日に請求人の取締役を辞任し、同日、C社の総務部長であるDが請求人の代表取締役に就任した。
ロ 平成11年8月27日現在、C社の発行済株式総数は400株であり、その株主構成は、Aが120株、Bが136株、Bの子3名が144株であった。
 なお、C社の設立(昭和50年10月21日)時からの代表取締役であったBは、平成11年7月31日に取締役を辞任し、翌日、取締役であったAが代表取締役に就任した。
ハ E LIMITED(以下「E社」という。)は、平成2年12月14日に香港に設立され、平成11年8月27日の前日現在、発行済株式総数は1,900,000株であり、そのうち請求人が1,899,999株を所有(1株は、Bが所有。)する請求人の香港子会社であった。
 また、平成11年8月27日現在、E社の役員は、B、F(Aの長女)、G及びほか1名である。
 なお、平成11年12月17日、B、Fは、E社の役員を辞任した。
ニ H LIMITED(以下「H社」という。)は、平成11年7月8日、いわゆるタックス・ヘイブン地であるイギリス領ヴァージン諸島に、会社所得税が免除されている国際事業会社として設立され、平成11年8月27日に、Bが1米ドルを出資して株主(100%出資)となり、Bが唯一の役員となった。
ホ 平成11年8月27日、請求人及びBは、E社の株主として要旨次の内容を決議(以下「本件株主決議」といい、本件株主決議の内容を記録した書類を、以下「本件株主決議書」という。)し、本件株主決議書に、A及びBが署名した。
(イ)E社の授権資本を1,900,000香港ドルから19,000,000香港ドルへ増加させ、発行済株式と同じ種類の新株式17,100,000株を、額面金額(1株当たり1香港ドル)で追加発行する。
(ロ)新株式の割当先を決定する権限は、E社の役員に全面的に委任する。
ヘ 本件株主決議と同日、E社の役員は、追加発行する新株式の全部をH社に割り当て(以下「本件新株割当て」という。)、同日、H社は、E社にその新株式の発行価額17,100,000香港ドルの払込み(以下「本件新株払込み」といい、本件株主決議による本件新株割当て及び本件新株払込みを併せて「本件増資」という。)をした。
 なお、本件新株払込みは、J銀行j支店のB名義の普通預金口座(以下「本件B口座」という。)から17,100,000香港ドルの円換算額246,198,600円が出金され、当該金員が、B名義でJ銀行k支店のE社名義の口座に送金(以下「本件海外送金」といい、本件海外送金に係る申込書を、以下「本件海外送金申込書」という。)されている。
ト 請求人が所有するE社の株式1,899,999株(以下「本件株式」という。)の資産価値を、純資産価額方式で算定すると、本件増資前が、53,583,818香港ドルで、本件増資後が、7,068,380香港ドルとなる。
チ 本件増資により、請求人のE社に対する持株割合(個々の株主の所有株式数が発行済株式総数に対して占める割合をいう。以下同じ。)が、約99.99%(1,899,999株/1,900,000株)から約9.99%(1,899,999株/19,000,000株)に低下し、H社のE社に対する持株割合は90%(17,100,000株/19,000,000株)となった。
リ 平成11年10月20日、請求人は、本件株式を、平成11年8月31日現在における純資産価額方式により算定した価額98,999,095円で、H社に売却し、H社は、購入代金を、本件B口座からH社のL銀行の口座に送金された99,000,000円を原資にして、平成11年10月22日、請求人に支払った。
ヌ E社は、本件増資まで、配当実績はない。
ル Bは、平成11年8月24日、香港に転出し、日本の非居住者となった。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人のE社に対する持株割合が、約99.99%から約9.99%に低下し、本件株式の資産価値が、53,583,818香港ドルから7,068,380香港ドルに減少したのは、著しく有利と認められる1株当たり1香港ドル(額面)で、発行済株式総数の9倍という大量の新株式(17,100,000株)をH社に割り当て、引き受けさせた本件増資の結果と認められる。
(ロ)これは、本件増資により、本件株式の資産価値の一部である
46,515,438香港ドル(円換算額669,822,307円)がH社に移転したものであり、請求人は、本件株式の資産価値の一部をH社に譲渡したものと認められる。
(ハ)したがって、上記(ロ)は、法人税法第22条第2項に該当し、本件株式の資産価値の減少額46,515,438香港ドル(円換算額669,822,307円)が益金の額に算入される。
(ニ)さらに、請求人は、本件株式の資産価値の一部の譲渡について、H社から対価を得ていないので、当該金額669,822,307円はH社に対する寄附金として損金の額に算入されるが、法人税法(平成14年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《寄附金の損金不算入》第2項の規定により、損金算入限度額を超える金額659,352,619円については、損金の額に算入できない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は、適法であり、請求人が納付すべき法人税額を過少に申告したことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり法律の解釈を誤った違法な処分であり、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件増資は、本件新株割当てを行ったE社と本件新株払込みをしたH社の間の取引にほかならず、請求人は、H社と何らの取引をしていない。
 実質的にみて、請求人が保有していた本件株式の資産価値の一部がH社に移転したとしても、それは請求人の行為によるものではないから、法人税法第22条第2項に規定する「資産の譲渡」又は「その他の取引」に当たらない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、これに基づき行った本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件増資の結果、本件株式の資産価値の一部が、H社に移転したことが、請求人における、法人税法第22条第2項に規定する無償による「資産の譲渡」又は「その他の取引」に当たるか否かについて、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば次の事実が認められる。
イ 請求人の平成11年9月27日付取締役会議事録には、要旨次の内容が記載されている。
 議長Aから、請求人は、C社から呉服の海外縫製について委託加工を受けているが、近い将来、この取引が全面中止となる方向にある旨説明があり、この場合、E社との取引も中止となることから、本件株式を売却して資金化することが請求人として有効な手段であると全会一致をもって可決確定した。
 また、議長から本件株式の売却価額は、平成11年8月現在のE社の資産価値により算定する旨説明があり了承された。
 なお、出席取締役は、Aほか2名となっている。
ロ E社は、平成12年4月1日現在で、平成11年11月24日以降5回にわたり合計34,251,302.61香港ドル(円換算額約5億2,800万円)の配当を行っている。
ハ 請求人は、平成11年12月15日付で、従来の事業目的に、割賦債権買取業務、金銭貸付業務、集金代行業務を加える定款変更を行い、平成12年7月31日、原処分庁に対し、事業目的を呉服加工業から金銭貸付業に変更する異動届出書を提出している。
ニ Aは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(イ)E社は、海外での呉服縫製加工の窓口であり、請求人は同社に生地などを輸出して、同社から製品を輸入していた。
 E社の役員は、だれかよく分からないが、G及びMという人がE社の仕事をしていた。
(ロ)Bから請求人及びC社の役員を辞任する理由を聞いたが、はっきりと覚えておらず、E社との資本関係を切るということであったかもしれない。
(ハ)本件株主決議書については、E社のGからE社の資本金を1,900万香港ドルに増資するので書類に署名してほしいということで送られてきたので、署名して返送した。
 本件株主決議書に署名することを、だれかに相談したわけでない。
(ニ)本件株式の売却については、E社から持ち掛けられた話で、請求人は、E社と取引がなくなるのであれば、本件株式を所有していても意味はないので、売れるものは売りたいと思った。
 本件株式を売却する時に、H社という名前を聞いたが、売却先は、E社に任せていたので、H社がどのような会社で、役員や株主がだれなのかも知らなかった。
 本件株式の売却価額は、請求人の関与税理士に算定を依頼して決めたものであり、請求人の取締役会の承認を受けて、H社へ売却した。
ホ Dは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)E社からは、年に一度、E社の貸借対照表や損益計算書が、請求人に送られていたが、本件株式の売却価額を算定するためにE社から取り寄せた平成11年8月31日現在の貸借対照表から、E社が1,710万香港ドルの増資をしたことを知った。
(ロ)上記1の(4)のへの本件海外送金は、Bから、同人が香港へ転出する以前に送金の指示を受け、本件B口座に係る預金通帳及び払戻請求書並びに同人の署名押印がされた本件海外送金申込書を預かっていたので、同人の指示で本件海外送金の手続を行った。
 本件海外送金後、当該預金通帳と本件海外送金申込書の控えは、Aへ渡した。
 当時は何も知らず、頼まれただけである。

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(2)上記1の(4)の基礎事実及び上記(1)の認定事実に基づき判断すると、次のとおりである。

イ 一般に、株主は、株式を通じ、株式会社の資産を所有し、支配するのであり、清算を待つまでもなく、株式の移転を通じ、株式に表象された株式会杜の資産価値を取得することができ、株式の価額は、額面金額ではなく、上場株式の場合は、市場において定まる価額により、非上場株式の場合は、株式会社の資産の実態に基づいて評価される価額により定まると解される。
ロ また、株式会社において新株式の発行(増資)が行われ、既存の株主が新株式を引き受けなかった場合、その株式会社に対する既存の株主の支配権は、発行済株式総数の増加に伴って小さくなる。
 一方、既存の株式の価額を下回る価額で新株式を発行すると、新株式発行後の1株当たりの価額は、新株式発行前より減少することになるから、新株式を引き受けなかった既存の株主は、経済的損失を被ることになる。
 これは、新株式の発行価額が、既存の株式の価額を下回る金額であるにもかかわらず、新株式発行後、既存の株式と新株式の1株当たりの価額が同一となるのは、既存の株式の価値が新株式に移転(流出)したと考えられ、新株式を引き受けた者は、既存の株式の所有者が被る経済的損失に見合う経済的価値を得ることになる。
ハ まず、請求人は、E社の発行済株式総数の約99.99%を所有する株主であったところ、上記1の(4)のイないしヘ及びリないしル並びに上記(1)のロのとおり、平成11年5月から同年10月までの約5か月間に、請求人の設立からの代表取締役であったBが取締役を辞任するとともに、Aがその代表取締役に就任し、Bにおいては、日本の非居住者となって、いわゆるタックス・ヘイブン地にあるH社の1人株主兼役員になる一方、Aと共に、E社の株主として本件株主決議を行って、本件増資をなし、さらに、Aにおいては、本件株式についてもH社に売却し、これにより、H社は、従来、配当をしたことがなかったE社から配当を受けるようになり、この受取配当金に課税されないこと、上記1の(4)のへ及び上記(1)のホの(ロ)のとおり、Bは、本件株主決議以前から、本件新株割当てを前提とした本件新株払込みの指示をしていたことに照らせば、上記(1)のニのとおり、Aは、曖昧な答述をしているものの、本件新株割当てを含む前後一連の行為は、節税のためBとAらが意思を相通じてなした行為と認めるのが相当である。
ニ そして、上記(1)のホの(イ)のとおり、毎年、E社から請求人に、貸借対照表、損益計算書の書類が送付されていたこと、B及びAは、共に、請求人及びC社の事業を展開してきたことからすれば、当然、請求人の子会社であったE社が本件増資まで一度も配当を行わず、多額の利益を内部留保していたことを承知していたと認められ、また、上記1の(4)のリのとおり、本件株式をH社に売却する際には、売却価額を純資産価額方式により算定しているのであるから、本件増資に係る発行価額も同様に算定すべきであり、1株当たり1香港ドルという価額が、著しく有利な発行価額であると認識していたと認められ、このような著しく有利な発行価額で発行済株式総数の9倍もの新株式を追加発行すれば、請求人は、E社に対する支配権を失い、請求人が所有する本件株式の資産価値が減少し、請求人が経済的損失を被ることは余りにも明白で、通常、請求人の代表取締役としては、このような本件増資を行うことはないと考えられるのに、あえて、これを実行したということは、H社の役員Bと請求人の当時の代表取締役Aが意思を相通じ、すなわち、請求人は、H社との合意に基づき、同社からなんら対価を得ることもなく、本件株式の資産価値の一部を喪失し、H社がこれを取得したと評価するのが相当である。
ホ そして、請求人は、何ら対価を得ることなく、本件株式の資産価値の一部を喪失し、H社がこれを取得した事実は、それが両社の合意に基づくと認められる以上、法人税法第22条第2項に規定する無償による「資産の譲渡」又は「その他の取引」に当たると認められる。
 すなわち、法人税法第22条第2項に規定する「取引」とは、その文言及び規定における位置づけから、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念として用いられていると解するのが相当であり、上記、請求人とH社の合意に基づいて実現された本件株式の資産価値の一部の移転をも包含すると認められ、つまり、H社は、増資新株式を取得した以降、株主としていつでも、E社が内部留保していた利益の配当を受けることができ、反対に請求人がこれを喪失するのであり、実際に、上記(1)のロのとおり、本件増資から約8か月間という短期間に、H社は、E社から約5億2,800万円の配当を受けているのであるから、このような法的及び経済的効果に着目すれば、請求人は、H社に対して、法人税法第22条第2項に規定する無償による「資産の譲渡」又は「その他の取引」をしたと認めることができる。
 そして、その「資産の譲渡」又は「その他の取引」の時期は、本件増資の日である平成11年8月27日と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 課税所得金額及び納付すべき税額
 以上のとおり、請求人は、何ら対価を得ることなく、本件株式の資産価値の一部を喪失し、H社がこれを取得したことは、法人税法第22条第2項に規定する無償による「資産の譲渡」又は「その他の取引」に当たると認められる。
 そうすると、上記1の(4)のトのとおり、本件株式の資産価値は、本件増資直前は53,583,818香港ドルで、本件増資直後は7,068,380香港ドルであり、本件増資によって46,515,438香港ドル減少したところ、益金の額に算入される金額は、その減少額46,515,438香港ドル(円換算額669,822,307円)となる。
 そして、請求人は、上記本件株式の資産価値の一部の移転について、H社から何ら対価を得ていないから、これをH社に寄附したものと認められ、益金の額に算入される金額と同額が寄附金として損金の額に算入される。
 また、寄附金として損金の額に算入した金額のうち、法人税法第37条第2項の規定により、損金算入限度額を超える金額659,352,619円は、損金の額に算入できない。
 なお、原処分庁は、前事業年度の法人税の所得金額の増加に係る事業税として、904,400円を請求人の所得金額から減算しているが、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 そうすると、課税所得金額及び納付すべき税額は、別表2のとおりとなり、この金額は本件更正処分のそれと同額であるから、本件更正処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分その他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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