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(平16.3.5裁決、裁決事例集No.67 476頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、海運業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、定期傭船契約又は輸送契約により傭船者又は荷主の輸送の用に供している船舶について、損金経理により特別修繕準備金として積み立てた金額が、租税特別措置法第57条の8《特別修繕準備金》の規定(以下「本件規定」という。)により損金の額に算入できるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年4月1日から平成12年3月31日まで、平成12年4月1日から平成13年3月31日まで及び平成13年4月1日から平成14年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成12年3月期」、「平成13年3月期」及び「平成14年3月期」といい、これらの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第72条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
 なお、請求人は、これらの法人税の確定申告において、請求人が共同所有する別表2の「船舶の名称」欄に掲げる各船舶(以下「本件各船舶」という。)について、同表の「特別修繕準備金積立額」欄のとおり、損金経理の方法により特別修繕準備金を積み立て、当該積み立てた金額(以下「本件特別修繕準備金積立額」という。)を損金の額に算入して所得金額の計算を行った。
ロ E税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づいて、平成12年3月期の法人税について、平成13年6月27日付で別表1の「第一次更正処分等」欄のとおりの更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
ハ その後、E税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づいて、平成12年3月期及び平成13年3月期の法人税について、平成14年6月26日付で別表1の「第二次更正処分等」欄のとおり各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ さらに、E税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づいて、本件各事業年度の法人税について、本件特別修繕準備金積立額は損金の額に算入できないとして、平成15年6月30日付で別表1の「本件更正処分等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成15年7月15日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 本件規定第1項は、青色申告書を提出する法人が、各事業年度において、その事業の用に供する同項各号に掲げる固定資産(以下「特定固定資産」という。)について行う当該各号に定める修繕(以下「特別の修繕」という。)に要する費用の支出に備えるため、積立限度額以下の金額を損金経理の方法により特別修繕準備金として積み立てたときは、当該積み立てた金額は、当該積立てをした事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定しており、同項第1号は特別の修繕の一つとして、船舶安全法第5条第1項第1号の規定による定期検査を受けなければならない船舶(総トン数が5トン未満のものを除く。以下「特定船舶」という。)に係る当該定期検査を受けるための修繕を規定している。
 また、本件規定第2項第1号は、当該法人が特定固定資産につき当該事業年度終了の時までに特別の修繕を行っている場合の積立限度額は、最近において行った特別の修繕のために要した費用の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額である旨規定している。
ロ 租税特別措置法施行令第33条の7《特別修繕準備金》第1項は、本件規定第2項第1号に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、特定船舶については、最近において行った特別の修繕に要した費用の額の4分の3に相当する金額を60月(当該船舶が船舶安全法第10条第1項ただし書に規定する船舶である場合には、72月)で除し、これに当該事業年度の月数(当該事業年度において船舶の定期検査を完了した場合には、その完了の日から当該事業年度終了の日までの期間の月数)を乗じて計算した金額とする旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、別表3のとおり、本件各船舶それぞれについて、傭船者又は荷主(以下「本件各傭船者等」という。)との間で、定期傭船契約又は輸送契約(以下、これらの契約に付随して締結された協定書や覚書等の諸契約を含め「本件各契約」という。)を締結している。
ロ 本件各船舶は、いずれも、船舶安全法第5条の規定により5年ごとに定期検査を受けなければならない総トン数が5トン以上の特定船舶である。
ハ 請求人は、本件各契約に基づき、本件各船舶の共有船主又は共同輸送者を代表して、本件各傭船者等から傭船料又は運賃(以下「本件傭船料等」という。)を受領している。
ニ 請求人は、本件各契約に基づき、本件各船舶の船舶管理人として、本件各船舶について定期検査を含む修繕の義務を負い、本件各船舶に係る定期検査を受けるための修繕の費用(以下「定期検査費用」という。)を支出している。
ホ 定期検査費用の負担等に関する本件各契約の要旨は、次のとおりである。
(イ)F丸、G丸及びH丸に係る各定期傭船契約
A 定期検査費用を含む船舶の修繕費の金額は、当該修繕費の発生する年分の傭船料の構成要素となっている。
B 上記Aの傭船料の構成要素となる修繕費の金額は、請求人の見積額を基に、修繕費の発生する年の前年の12月末日までに決定され、当該修繕費の発生する年分の傭船料として傭船者から請求人に支払われる。
C 上記Bの見積額と修繕費の実額との差額は、修繕費が発生した年の翌々年分の傭船料において精算される。
(ロ)J丸、K丸、L丸及びM丸に係る各定期傭船契約
A 傭船者は、請求人との間で合意した定期検査費用の見積額を、一括して合意後最初の傭船料の支払日に傭船料として請求人へ支払う。
B 上記Aの見積額と定期検査費用の実額との差額は、実額についての双方の合意ができ次第、速やかに精算される。
(ハ)N丸に係る輸送契約
A 平成6年1月1日から平成25年12月31日までの間、荷主はN丸を荷主が購入するLNGの輸送に使用し、輸送者は同船を荷主の専用に供する。
B 定期検査費用を含む船舶の修繕費の金額は、当該修繕費の発生する年分の運賃の構成要素となっている。
C 上記Bの運賃の構成要素となる修繕費の金額は、請求人の見積額を基に、修繕費の発生する年の前年の12月末日までに決定され、当該修繕費の発生する年分の運賃として荷主から請求人に支払われる。
D 上記Cの見積額と修繕費の実額との差額は、修繕費が発生した年の翌々年分の運賃において精算される。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)本件規定について
 本件規定は、船舶、溶鉱炉等、周期的に大規模な修繕を要する固定資産については、大規模な修繕が行われた事業年度に一時に多額の損金が計上されることとなり、税負担の均衡の面からも、また、費用収益の対応の面からも合理的であるとはいえないことから、そのような固定資産について、次回の大規模な修繕が行われるまでの間において、前回の大規模な修繕に要した費用の額の4分の3に相当する金額を基礎として計算した積立限度額以下の範囲において、損金経理により特別修繕準備金として積み立てた場合には、当該積み立てた金額を損金の額に算入することを税務上認めたものである。
(ロ)本件特別修繕準備金積立額について
A 本件各契約によれば、上記1の(4)のホのとおり、定期検査費用の見積額は定期検査が行われる年の本件傭船料等に加算され、その後、定期検査費用の金額が確定した段階で、当該確定した金額と見積額との差額が精算されることとされている。
 そうすると、請求人は、定期検査が行われる年に、定期検査費用に相当する金額を本件傭船料等として収受して、当該収受した金額により、定期検査費用を支出することとなり、定期検査が行われる年に一時に多額の費用を負担するのは本件各傭船者等であると認められる。
B 上記(イ)のとおり、本件規定が税負担の均衡及び費用収益の対応の面から税務上認められたものであることにかんがみると、請求人の場合は、上記Aのとおり、特別の修繕により一時に発生する多額の費用が一時の収益で賄われることから、特別の修繕が行われるまでの期間において特別修繕準備金を積み立てる相当の理由は認められず、本件規定が規定する「特別の修繕に要する費用の支出に備えるため」の要件に該当しないことから、本件特別修繕準備金積立額を損金の額に算入することは認められない。
(ハ)以上のとおり、本件各更正処分のうち本件特別修繕準備金積立額の損金の額への算入を否認した部分は適法であり、本件各更正処分のその他の部分についても不相当とする事由はないので、本件各更正処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないため、同条第1項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分は適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 原処分のその他の部分については争わない。
イ 本件特別修繕準備金積立額は、請求人が事業の用に供する本件各船舶について、その定期検査費用の支出に備えるため、本件規定に基づき損金経理の方法により特別修繕準備金として積み立てた金額であり、本件規定が規定するいずれの要件も欠くものではないことから、損金の額に算入すべきものと認められる。
ロ 原処分庁は、本件各船舶に係る定期検査費用が本件傭船料等により賄われることから、請求人は定期検査費用を負担していない旨主張する。
 しかしながら、本件傭船料等は定期検査費用をその積算根拠の一部としているにすぎず、請求人は、本件各契約に基づき、本件各船舶に係る修繕義務を負い、定期検査費用を実際に負担しているから、原処分庁の主張は事実誤認である。
ハ また、原処分庁は、本件規定が税負担の均衡及び費用収益の対応の面から税務上認められたものであることから、特別の修繕により一時に発生する多額の費用が一時の収益で賄われる場合には、本件規定の「特別の修繕に要する費用の支出に備えるため」の要件に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件規定は、「一時の収益で賄われる場合は除く」との要件は規定しておらず、特別の修繕に要する費用がどのような収入で賄われるかによって適用が異なる規定となっていないことから、法文から容易に理解することのできない立法趣旨なるものにより適用要件を付加した原処分庁の主張は、租税法律主義に違背するものであり認められない。
 そもそも、本件規定は、対応収益に関する要件を規定していないことからも明らかのように、「費用収益の対応」というよりは「修繕費計上の平均化」を図った規定であって、原処分庁の本件規定の立法趣旨の解釈には誤りがある。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 本件規定について
(イ)本件規定は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、本件規定により特別修繕準備金の積立額を損金の額に算入することのできる法人(以下「適用法人」という。)は、〔1〕特定固定資産を事業の用に供していること及び〔2〕特定固定資産に係る特別の修繕の費用の支出に備える必要があることの二つの要件を備えることが必要であると認められる。
(ロ)本件規定は、特定固定資産の使用形態について、事業の用に供していることのみを要件としているから、特定固定資産が賃貸借されている場合には、当該特定固定資産を所有し賃貸の事業の用に供している法人とともに、当該特定固定資産を賃借し事業の用に供している法人も適用法人となる要件を備えていると解される。
(ハ)次に、特別の修繕の費用の支出に備える必要があることが適用法人となる要件とされるところ、これは、法律又は契約に基づき特別の修繕の費用を負担すべき法人が適用法人となることを意味していると解するのが相当である。
 したがって、特定船舶に係る定期検査費用については、通常は、船舶安全法第5条の規定により定期検査義務が課される特定船舶の所有者が定期検査費用を負担すべき者となると認められるが、契約により定期検査費用を負担すべき者が別途定められている場合には、これに従うべきものと解される。
 なお、定期検査費用の支払義務を負う法人であっても、賃貸借契約等により、定期検査費用に相当する金額を、定期検査費用が発生する時点で、特定船舶の賃借人等から受領できることが明らかにされている場合には、当該受領する法人は、当該定期検査費用を負担するとは認められず、また、特別の修繕の費用の支出に備える必要があるとも認められないことから、適用法人とはならないと解するのが相当である。
ロ これを本件について検討すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件各船舶の共有船主として、本件各船舶を事業の用に供していると認められ、本件各契約に基づき、本件各船舶の船舶管理人として本件各船舶に係る定期検査費用の支払義務を負っていると認められる。
(ロ)しかし、本件各契約は、上記1の(4)のホのとおり、請求人が本件各船舶に係る定期検査費用の見積額を当該定期検査費用が発生する年分又は当該見積額の合意後最初の支払日の本件傭船料等として本件各傭船者等から受領する旨、及び当該見積額と定期検査費用の実額との差額は、当該実額が確定した以降の本件傭船料等において精算する旨を定めている。
 この本件各契約の定めによれば、請求人は、本件各船舶に係る定期検査費用の見積額を、定期検査費用の発生前又は発生する年において、臨時的に本件各傭船者等から受領することができ、最終的に当該見積額と定期検査費用の実額との差額を精算することで、自らが支払うべき定期検査費用の全額について、その負担を本件各傭船者等へ転嫁できることになると認められる。
 そうすると、本件各契約は、請求人が、本件各船舶に係る定期検査費用に相当する金額を、定期検査費用が発生する時点で、本件各傭船者等から受領できることを明らかにしていると認められるから、上記イの(ハ)のとおり、請求人は本件各船舶に係る定期検査費用を負担すべき法人とは認められない。
 したがって、請求人は、本件規定の「特別の修繕に要する費用の支出に備えるため」という要件を欠き適用法人とはならないから、本件各事業年度の所得の金額の計算上、本件特別修繕準備金積立額は損金の額に算入できないと認められる。
(ハ)なお、請求人は、本件傭船料等は本件各船舶に係る定期検査費用を積算根拠としているにすぎず、当該定期検査費用を負担しているのは請求人である旨主張するが、上記(ロ)のとおり、請求人は当該定期検査費用を負担しているとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、原処分庁が主張する「一時の収益で賄われる場合は除く」との要件は、法律の根拠がなく租税法律主義に違背する旨主張するが、当審判所は、本件規定が規定する「特別の修繕に要する費用の支出に備えるため」との要件の解釈から、請求人の場合は当該要件を欠くと判断したのであるから、原処分庁の主張の当否は別として、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、本件各事業年度の所得の金額の計算上、本件特別修繕準備金積立額は損金の額に算入できないとして行った本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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