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(平16.2.27裁決、裁決事例集No.67 543頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、平成12年6月29日に死亡したJ(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の〔1〕調査手続の違法性の有無、〔2〕構築物の評価の多寡及び〔3〕相続開始前3年以内の贈与が非課税か否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人K及び同L(以下、両名を併せて「請求人ら」という。)は、被相続人の共同相続人4名のうちの2名であるが、請求人らは、本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)に別表1の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告(以下「本件申告」という。)した。
ロ 次いで、請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成14年5月29日に提出(以下「本件修正申告」という。)した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年7月23日付で別表1の「賦課決定処分〔1〕」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ さらに、原処分庁は、平成14年9月4日付で別表1の「更正処分」欄及び「賦課決定処分〔2〕」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人らは、上記ニの処分を不服として、平成14年9月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年12月20日付で棄却の異議決定(以下「本件異議決定」という。)をした。
ヘ 請求人らは、本件異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年1月6日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Kを総代として選任し、その旨を平成15年1月10日に届け出た。

(3)関係法令等

イ 相続税法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)第1条《相続税の納税義務者》第1号は、相続又は遺贈により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するものは、相続税を納める義務がある旨規定し、また、同法第2条《相続税の課税財産の範囲》第1項は、第1条第1号の規定に該当する者については、相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する旨規定している。
ロ 相続税法第13条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が第1条第1号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定している。
(イ)被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
(ロ)被相続人に係る葬式費用
ハ 相続税法第14条第2項は、前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税等の税額で政令で定めるものを含むものとする旨規定している。
ニ 相続税法施行令(平成13年政令第410号による改正前のもの。以下同じ。)第3条《債務控除をする公租公課の金額》は、法第14条第2項に規定する公租公課の金額に含まれる税額は、被相続人の死亡の際納税義務が確定しているもののほか、被相続人の死亡後相続税の納税義務者が納付し、又は徴収されることとなった次に掲げる税額とする旨、そして、この次に掲げる税額として、第1号では、被相続人の所得に対する所得税額と規定している。
ホ 相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第15条から前条までの規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする旨規定している。
ヘ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ト 所得税法施行令第138条《少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入》は、居住者が不動産所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産で、取得価額が10万円未満であるものについては、その取得価額に相当する金額を、その者のその業務の用に供した年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 被相続人の共同相続人は、M(被相続人の妻)、N(被相続人の次男)、L(被相続人の長女)及びK(被相続人の養子)の4名(以下、この4名を「相続人ら」という。)である。
ロ 平成12年8月22日付の被相続人の遺産に係る分割協議書(以下「本件第1回遺産分割協議書」という。)には、Mは相続財産を取得していないこと、Kは、P市p町○−○の共同住宅(以下「p町の共同住宅」という。)及びP市q町○−○の共同住宅(以下「q町の共同住宅」といい、p町の共同住宅とq町の共同住宅を併せて「p町及びq町の共同住宅」という。)ほかN及びLが相続した財産以外のその他一切の財産を相続する旨記載され、相続人ら全員の署名押印がされている。
ハ 平成14年5月25日付の被相続人の遺産に係る分割協議書(以下「本件第2回遺産分割協議書」という。)には、平成12年8月22日以後に発見された財産について、〔1〕Kが取得する財産は、建物更生共済、〔2〕Mが取得する財産は、建物更生共済以外のすべての財産とする旨記載され、相続人ら全員の署名押印がされている。
ニ 被相続人は、平成9年9月29日付で、R市r町○−○に所在するX株式会社(以下「X社」という。)との間で、p町の共同住宅の建築に関して、請負代金総額を85,565,550円(うち、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の額4,074,550円)とする建築工事請負契約(以下「p町の請負契約」という。)を締結した。
ホ p町の請負契約は、平成9年10月24日付で、請負代金総額を95,569,950円(うち、消費税等の額4,550,950円)に変更され、さらに、平成9年12月20日付で、工事内容の一部について変更されたが、請負代金総額には増減はなかった。
ヘ p町の請負契約に係る支払総額は、上記ホの請負代金総額95,569,950円(うち、消費税等の額4,550,950円)に、X社が立替払いをしていた被相続人が負担すべき建築関連費用の額1,476,099円を加算した97,046,049円(うち、消費税等の額4,621,241円)となった。
ト 被相続人は、平成9年9月29日付で、X社との間で、q町の共同住宅の建築に関して、請負代金総額を75,120,150円(うち、消費税等の額3,577,150円)とする建築工事請負契約(以下「q町の請負契約」という。)を締結した。
チ q町の請負契約は、平成9年11月13日付で、本体工事及び外溝工事の一部が変更され、さらに、平成9年12月20日付で、請負代金総額を75,107,550円(うち、消費税等の額3,576,550円)に変更された。
リ q町の請負契約に係る支払総額は、上記チの請負代金総額75,107,550円(うち、消費税等の額3,576,550円)に、X社が立替払いをしていた被相続人が負担すべき建築関連費用の額1,398,378円を加算した76,505,928円(うち、消費税等の額3,643,139円)となった。
ヌ 本件申告において、p町の共同住宅及びq町の共同住宅は、固定資産税評価額61,859,445円の1.0倍の価額から借家権割合の30%の額18,557,836円を控除した43,301,609円で申告されている。
ル 相続人らは、平成12年10月27日に、所得税法第125条《年の中途で死亡した場合の確定申告》の規定により、被相続人に係る平成12年分の所得税の申告書(以下「被相続人の平成12年分所得税申告書」という。)を提出している。
 この申告書の提出により、相続人らに承継された所得税額は次表のとおりである。

(単位:円)
区分承継された所得税額
M178,600
N59,500
L59,500
K59,500
合計357,100

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)調査手続
 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)は長期間にわたって行われ、調査内容の十分な説明もなく納得のいかない修正申告を再三強要されるなど精神的苦痛を受けた。
(ロ)更正通知書の理由附記
 本件各更正処分に係る更正通知書記載の総遺産価額と異議決定書記載の取得財産の価額の合計額との間には、356,416円の差異がある。更正される前には調査内容及び金額の具体的説明もなく、初めて異議決定書において具体的な根拠が明らかにされ、その段階において調査内容等が追完されたとしても、原処分の更正通知書の理由附記の瑕疵は異議決定の理由附記によっても訂正できるものではない。
(ハ)構築物の評価
 p町及びq町の共同住宅全体に占める構築物の割合(p町4.92%、q町3.95%)はわずかであり、財産評価の安全性の原則から、構築物は建物に含まれて評価されていると考えても課税の公平性は保たれるので、申告漏れではない。
(ニ)相続開始前3年以内の贈与加算
 原処分庁は、Mが所有する固定資産に係る固定資産税(以下「Mの固定資産税」という。)を被相続人名義の預金から支払った金額及びP市s町○○番地に居住するYに対して支払った交換差金をMに対する相続開始前3年以内の贈与として加算しているが、これらは預金通帳の入出金だけを根拠に贈与税の申告漏れとしたものであり、被相続人及びMの財産状況を考慮すると贈与の必然性はなく行き過ぎた課税である。また、これは扶養義務者相互間における生活費の贈与であるので、非課税である。
(ホ)更正処分の必要性
 国税還付金269,896円の申告漏れは認めるが、債務である未納固定資産税879,000円の申告漏れを下回っており、あえて相続税の更正処分をする必要はない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)調査手続
 本件調査は、相続税法第60条《当該職員の質問検査権》に基づき適正に行われており、その調査手続には、請求人らが主張するような違法、不当はない。
(ロ)更正通知書の理由附記
 請求人らの主張のとおり、本件各更正処分に係る更正通知書の「この通知に係る処分の理由」欄に記載された事項には、記載誤りが認められる。
 しかしながら、相続税の更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない法令の規定はないから、更正の理由の附記に不備があったとしても、そのことをもって、直ちに原処分が違法となるものではない。
(ハ)構築物の評価
A 本件調査及び異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において、次の事実が認められる。
(A)Z株式会社z支店(X社はZ株式会社に吸収合併され、Z株式会社のz支店となった。)の技術課の主任でありp町及びq町の共同住宅の工事内訳書を作成した〈5〉(以下「Z社の〈5〉」という。)は、異議調査を担当する職員に対して、要旨次のとおり申述している。
a p町の請負契約の工事内容及び金額(ただし、消費税等の額は含まれていない。)は次のとおりであり、その明細は、別表2のとおりである。
(a)建物の工事に係る金額は78,691,142円である。
(b)土地に付随する工事に係る金額は2,562,770円である。
(c)建物以外の減価償却資産の工事に係る金額は4,778,780円である。
(d)共通的な工事に係る金額は2,563,610円である。
(e)その他の工事(立替金1,405,808円を含む)に係る金額は3,828,506円である。
なお、(d)及び(e)の工事は、(a)ないし(c)の工事に共通的に付随する工事である。
b q町の請負契約の工事内容及び金額(ただし、消費税等の額は含まれていない。)は次のとおりであり、その明細は、別表3のとおりである。
(a)建物の工事に係る金額は64,821,360円である。
(b)土地に付随する工事に係る金額は3,066,650円である。
(c)建物以外の減価償却資産の工事に係る金額は3,095,430円である。
(d)共通的な工事に係る金額は643,560円である。
(e)その他の工事(立替金 1,331,789円を含む)に係る金額は1,988,789円である。
(f)値引きの金額は753,000円である。
なお、(d)及び(e)の工事は、(a)ないし(c)の工事に共通的に付随する工事であり、(f)は工事全体に係る値引きである。
(B)上記(A)のaの(c)及びbの(c)の「建物以外の減価償却資産の工事」(以下「本件構築物」という。)は、建物本体と構造上一体となっている設備ではないため、それぞれの建物の固定資産税評価額には含まれていない。
B ところで、上記1の(3)のイのとおり相続税法第2条第1項は、相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する旨規定している。
C また、上記1の(3)のへのとおり相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続開始の時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解されている。
 しかしながら、財産の客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定するものではないことから、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産の評価の一般的基準として、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほかによる国税庁長官通達。平成13年5月10日付課評2−6による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)の定めに基づく画一的な評価方式によって相続財産の評価を行うこととされている。
D 評価基本通達96《評価単位》は、構築物(土地又は家屋と一括して評価するものを除く。)の価額は、原則として、1個の構築物ごとに評価する旨定め、評価基本通達97《評価の方式》は、構築物の価額は、その構築物の再建築価額から、取得の時期から課税時期までの期間に応ずる償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額により評価する旨、この場合の償却方法は定率法によるものとし、その耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)(以下「省令」という。)に規定する耐用年数による旨定めている。
E 上記1の(3)のトのとおり、所得税法施行令第138条は、不動産所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産で、取得価額が10万円未満のものについては、その業務の用に供した年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
F 上記AないしEの事実等に基づくと、次のとおりである。
 上記Aの(B)の本件構築物の固定資産税評価額の状況及び上記1の(4)のヌの本件申告の状況を上記BないしDの相続税法の各規定及び評価基本通達の定めに当てはめると、本件構築物は、相続税の課税財産と認められ、その価額は次のとおりとなる。
 ただし、別表2ないし別表5に掲げる庭園灯については、上記Eのとおり、その取得価額が不動産所得の必要経費に算入されることから、相続税の課税財産となる構築物には該当しない。
(A)取得価額
 上記Aの(A)のa及びbのp町の請負契約及びq町の請負契約の工事内容及び金額のうち、(d)の共通的な工事及び(e)のその他の工事の金額は、いずれも(a)ないし(c)に共通的に付随する費用であることから、本件構築物の取得価額は、別表4及び別表5のとおり、上記Aの(A)のa及びbの各(d)及び(e)の金額を各(a)ないし(c)の金額の比に応じて配分した額を加算した額に、消費税等相当額を加算した額となる。
(B)償却費の額
 償却費の額は、別表4及び別表5のそれぞれの「C建物以外の減価償却資産の工事」欄の項目ごとに、省令に規定する耐用年数に対応する償却率により計算した額で、別表6の「償却費の額」欄のとおりとなる。
(C)本件構築物の価額
 本件構築物の価額は、上記(A)の額から(B)の額を控除した金額の100分の70に相当する金額で、別表6の「構築物の価額」欄の「合計」欄とおり3,959,918円となる。
(ニ)相続開始前3年以内の贈与加算
A 本件調査及び異議調査において、次の事実が認められる。
(A)被相続人は、Mの固定資産税及び被相続人が所有する固定資産に係る固定資産税(以下、Mの固定資産税と併せて「被相続人等の固定資産税」という。)について、平成9年度の前納分までは、W銀行t出張所の被相続人名義の普通預金口座No.××××から、それ以後平成10年度の第4期分までは、同出張所の被相続人名義の普通預金口座No.△△△△から、それぞれ現金を引き出して納税している。
(B)平成11年度分以後の被相続人等の固定資産税は、W銀行t出張所の被相続人名義の普通預金No.△△△△から引き落とされている。
(C)平成10年度の第1期から平成12年度の第1期分までの被相続人等の固定資産税の納付状況は、別表8のとおりである。
(D)上記(A)ないし(C)のとおり、Mの固定資産税については、被相続人が負担していたが、Mと被相続人の間で、金銭消費貸借契約が交わされた事実は認められない。
 また、その後、Mから被相続人に対し、当該固定資産税相当額が返済された事実は認められない。
(E)被相続人は、平成9年9月22日にW銀行t出張所の被相続人名義の貯蓄預金口座No.00201から11,000,000円を同出張所の別段預金に振り替え、同出張所振出の保証小切手(以下「本件保証小切手」という。)を受領した。
(F)本件保証小切手は、平成9年10月29日にh農業協同組合○○支店で取り立てられ、同支店のM名義の普通預金口座(以下「本件M名義口座」という。)に入金されている。
(G)Mは、平成10年1月16日付でYと、要旨次のとおりの不動産交換契約(以下「本件不動産交換契約」という。)を締結している。
a MがYに引き渡す物件は、M名義のT土地区画整理組合○○街区○画地の田204.94平方メートルの所有権とする。
b YがMに引き渡す物件は、M名義のT土地区画整理組合○○街区○画地の田204.94平方メートル、P市q町○番の畑261平方メートル及び同所○○番の畑409平方メートルに対する耕作権とする。
c Mは、Yに対して交換差金4,000,000円(以下「本件交換差金」という。)を支払う。
(H)Mは、本件不動産交換契約の締結日に、Yに対して本件交換差金を支払っている。
(I)本件交換差金は、本件M名義口座から引き出されており、その原資は、上記(E)のとおり被相続人名義の貯蓄預金であると認められる。
(J)本件交換差金に関し、Mと被相続人の間で、金銭消費貸借契約が交わされた事実は認められない。
 また、その後、Mから被相続人に対し、本件交換差金相当額が返済された事実は認められない。
(K)上記(E)の11,000,000円と本件交換差金との差額7,000,000円は、生活費及び入院費用に充てられていたと認められ、相続開始日である平成12年6月29日現在における本件M名義口座の残高は、本件保証小切手を取立て入金した直前の残高である1,290,037円より少ない987,010円となっている。
(L)Mの所得税の確定申告書による収入状況は、平成10年分が、不動産の貸付収入9,477,743円、年金収入563,464円及び不動産の譲渡収入11,409,873円であり、平成11年分が、不動産の貸付収入15,196,473円及び年金収入568,996円である。
B ところで、相続税法では、要旨次のとおり規定している。
(A)相続税法第8条
 対価を支払わないで債務の引受けによる利益を受けた場合は、当該債務の引受けがあった時において、当該債務の引受けによる利益を受けた者が、当該債務の引受けに係る債務の金額に相当する金額を、当該債務の引受けをした者から贈与により取得したものとみなす。
(B)相続税法第9条
 対価を支払わないで利益を受けた場合は、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす。
(C)相続税法第19条
 上記1の(3)のホのとおり、相続により財産を取得した者が相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして、その納付すべき相続税額を計算する。
(D)相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号
 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものの価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
C また、相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10国税庁長官通達。平成15年6月24日付課資2−1ほかによる改正前のものをいい、以下「相続税基本通達」という。)21の3−4《「生活費」の意義》は、生活費とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く。)をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるもの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除く。)を含む旨定めている。
D さらに、相続税基本通達21の3−7《生活費等で通常必要と認められるもの》は、「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいう旨定めている。
E 上記AないしDの事実等に基づくと、次のとおりである。
(A)被相続人が負担していたMの固定資産税及び本件交換差金は、上記Aの(L)のMの収入の状況、上記Bの(D)の相続税法の規定並びに上記C及びDの相続税基本通達の定めから、生活費等で通常必要と認められるものとは認められないことから、贈与税の非課税財産には該当しない。
(B)被相続人が負担していたMの固定資産税については、上記Aの(A)ないし(D)の事実及び上記Bの(A)の相続税法の規定から、別表8に掲げるそれぞれの納付年月日に、被相続人からMに対して、贈与されたものとなる。
(C)また、本件交換差金については、上記Aの(E)ないし(K)の事実及び上記Bの(B)の相続税法の規定から、Yに対して支払が行われた平成10年1月16日に、被相続人からMに対して、贈与されたものとなる。
F ところで、相続税法第19条では、上記Bの(C)のとおり、相続により財産を取得した者が相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得している場合には、贈与により取得した財産の価格を相続税の課税価格に加算する旨規定している。
 本件相続に係る遺産分割について、上記1の(4)のハのとおり、本件第2回遺産分割協議書には、新たに発見された財産はMが取得する旨記載されていることから、本件構築物及び後記(ホ)のAの(D)の還付税額は、いずれも本件第2回遺産分割協議書にいう新たに発見された財産に該当することとなる。
 したがって、Mは、本件相続により、本件構築物及び後記(ホ)のAの(D)の還付税額を取得したこととなり、被相続人からMに対して、本件相続の開始前3年以内に行われた上記(B)及び(C)の贈与は、いずれも相続税法第19条の規定が適用されることとなる。
(ホ)更正処分の必要性
A 原処分調査及び異議調査において、次の事実が認められる。
(A)被相続人の平成12年分の所得税は、平成13年6月1日付でU税務署長から減額の更正処分(以下「平成13年6月1日付更正処分」という。)をされており、本件相続に係る相続人に承継された還付税額は、次表のとおりである。

(単位:円)
区分承継された還付税額
M35,900
N11,966
L11,966
K11,966
合計71,798

(B)被相続人の平成12年分の所得税は、平成14年10月4日付でU税務署長から減額の更正処分(以下「平成14年10月4日付平成12年分の更正処分」という。)をされており、本件相続に係る相続人に承継された還付税額は、次表のとおりである。

(単位:円)
区分承継された還付税額
M19,850
N6,616
L6,616
K6,616
合計39,698

(C)被相続人の平成11年分の所得税は、平成14年10月4日付でU税務署長から減額の更正処分(以下「平成14年10月4日付平成11年分の更正処分」といい、平成14年10月4日付平成12年分の更正処分と併せて、「平成14年10月4日付更正処分」という。)をされており、還付税額158,400円は、Mに承継されている。
(D)上記(A)ないし(C)の還付税額(以下「本件国税還付金」という。)の合計額は269,896円である。
(E)本件国税還付金269,896円は、本件申告書において、相続財産として計上されていない。
B 上記1の(3)のイ及び上記Aの事実等に基づくと、次のとおりである。
 本件国税還付金269,896円は、上記Aの(E)のとおり本件申告書において、相続財産として計上されていないことが認められるが、本件各更正処分の額269,900円を下回ることから、請求人らの主張には一部理由がある。
(ヘ)課税価格の合計額及び納付すべき税額
A 課税価格の合計額
 課税価格の合計額は、次のとおり取得財産の価額の合計額429,960,164円から、債務及び葬式費用の金額○○○○円を控除し、3年以内の贈与加算額8,904,600円を加算した○○○○円(財産を取得した各人ごとに1,000円未満の端数を切り捨てた額の合計)となる。
(A)取得財産の価額の合計額
 取得財産の価額の合計額は、次のaないしfまでの合計額429,960,164円となる。
a 土地の価額は、請求人らの申告額のとおり、230,816,623円となる。
b 家屋、構築物の価額は、請求人らの申告した家屋の価額47,873,489円及び本件構築物の価額3,959,918円との合計額51,833,407円となる。
c 有価証券の価額は、請求人らの申告額のとおり、20,999,367円となる。
d 現金、預貯金の価額は、請求人らの申告額のとおり、124,188,388円となる。
e 家庭用財産の価額は、請求人らの申告額のとおり、100,000円となる。
f その他の価額は、次のとおりである。
(a)立木の価額は、請求人らの申告額のとおり、70,623円となる。
(b)建物更生共済の権利価額は、請求人らの申告額のとおり、1,681,860円となる。
(c)本件国税還付金の価額は、上記(ホ)のAの(D)のとおり、269,896円となる。
(B)債務及び葬式費用の金額
 債務及び葬式費用の金額は、請求人らの申告した金額○○○○円及びKが負担した未納固定資産税(平成12年度第2期・第3期・第4期分の合計額)879,000円との合計額○○○○円となる。
(C)3年以内の贈与加算額
 3年以内の贈与加算額は、上記(ニ)のEの(B)のとおり別表8の固定資産税の納付金額のM名義分の合計金額4,904,600円及び上記(ニ)のEの(C)のとおり本件交換差金の額4,000,000円の合計額8,904,600円となる。
B 請求人らの課税価格及び納付すべき税額
 請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると別表9のとおりとなり、この金額は本件各更正処分の金額を上回るから、本件各更正処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
(イ)本件各更正処分によって増加した納付すべき税額の基礎となった事実には、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
(ロ)過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項の規定により計算した結果、本件各賦課決定処分の額を上回るから、本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、〔1〕調査手続の違法性の有無、〔2〕更正通知書の理由附記の誤りが違法か否か、〔3〕構築物の評価の多寡、〔4〕相続開始前3年以内の贈与が非課税か否か、〔5〕更正処分が必要か否かであるので、以下審理する。

(1)本件各更正処分について

イ 調査手続
 請求人らは、本件調査は長期間にわたって行われ、調査内容の十分な説明もなく納得のいかない修正申告を再三強要されるなど調査手続に違法があった旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件調査を担当した職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成14年1月31日に被相続人の住所地において、請求人ら及び請求人らの関与税理士であるg税理士(以下「g税理士」という。)立会いのもと本件調査を行った。
B 本件調査担当職員は、平成14年2月12日にU税務署内においてg税理士と面接し、本件調査に係る疑問点を指摘し、その解明を依頼した。
C 本件調査担当職員は、平成14年2月29日にU税務署が署外確定申告会場として設けた確定申告会場内においてg税理士と面接した。その時、g税理士は、h農業協同組合の建物更生共済(以下「建物更生共済」という。)に係る権利については修正申告をするが、その他の部分については原処分庁において更正処分をしてほしい旨申し立てた。
D 本件調査担当職員は、平成14年3月26日に被相続人の住所地において、請求人ら及びg税理士と面接した。その時、請求人ら及びg税理士は、上記Cと同様、建物更生共済に係る権利については修正申告するが、その他の部分については原処分庁において更正処分をしてほしい旨申し立てた。
E 本件調査担当職員は、平成14年5月29日にg税理士とU税務署内で面接した。その時、g税理士は、建物更生共済に係る権利について本件申告書において申告漏れ財産であるとして本件修正申告書を提出し、その他の部分については原処分庁で更正処分をしてほしい旨申し立てた。
 そこで、本件調査担当職員は、更正処分をするにしても、更正処分の内容を説明することが必要であることから、請求人らに面接したい旨伝えた。
F 本件調査担当職員は、平成14年6月4日にg税理士とU税務署内で面接した。その時、g税理士は、請求人らは会いたくないと言っているので、調査結果に基づき更正してほしい旨、また、更正処分の内容説明がなかった等の苦情は言わない旨を申し立てた。
G 本件調査担当職員は、平成14年6月21日にg税理士と連絡をとり、請求人らと面接できるよう依頼したところ、g税理士は、同月22日に本件調査担当職員に対して、請求人らは上記Fと同様、会いたくない旨を申し立てているとの回答をした。
H 本件調査担当職員は、平成14年8月13日にg税理士と面接し、請求人らと面接できるよう依頼するとともに、更正処分の内容について説明した。
I g税理士は、平成14年8月20日に本件調査担当職員に対して、請求人らは、上記Fと同様、会いたくない旨、また、原処分庁による更正処分を希望する旨を申し立てているとの連絡をした。
(ロ)上記(イ)の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
 本件調査担当職員は、請求人らの関与税理士であるg税理士に更正処分の内容について説明するとともに、調査結果について請求人らに説明すべく再三にわたり面接を求めたが、請求人らは原処分庁による更正処分をしてほしい旨申し立てるだけで、一貫して会いたくない旨申し立てて面接することを拒否していたことが認められ、請求人らが主張するような、調査内容の十分な説明もなく、納得のいかない修正申告を再三強要されたという事実は認められない。
 したがって、本件調査には違法、不当な点は認められないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ロ 更正通知書の理由附記
 請求人らは、更正通知書の理由附記に瑕疵があること、また、更正通知書と異議決定書で取得財産の価額の合計額に差異があることから本件各更正処分は違法である旨主張する。
 ところで、更正通知書の記載事項についての一般原則を定めている通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項は、更正の理由を更正通知書の記載事項として掲げておらず、他方、所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項及び法人税法(平成14年法律第79号による改正前のもの。)第130条《青色申告書等に係る更正》第2項においては、それぞれ、青色申告書に係る年分の総所得金額及び法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る通則法第28条第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
 しかし、相続税法においては、更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨の規定はないから、更正通知書に更正の理由を附記する法律上の義務はないというべきであり、更正通知書の処分の理由欄の記載内容と異議決定書の理由が異なっていたとしても、そのことだけで更正処分の効力自体に影響を及ぼすものではない。
 また、審査請求の対象は異議決定を経た後の原処分であるから、更正処分の認定額に誤りがあるとしても、それをもって原処分に手続上の瑕疵があるものとはいえず、更正処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 構築物の評価
 請求人らは、構築物は建物に含まれて評価されていると考えても課税の公平は保たれている旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A p町の請負契約及び変更契約並びにq町の請負契約及び変更契約に係るそれぞれの工事内訳書は、工事内容を本体工事、付帯工事、外溝工事及びその他に区分されている。
B Z社のVは、異議審理庁に対して、次のとおり申述している。
(A)自分が上記Aの工事内訳書を作成し、工事現場で工事内容を確認している。
(B)上記Aの工事内訳書に記載された工事内容を、〔1〕建物に係る工事、〔2〕土地に係る工事、〔3〕建物以外の減価償却資産に係る工事、〔4〕共通的な工事、〔5〕その他の工事に区分すると、上記2の(2)のイの(ハ)のAの(A)のa及びbのとおり区分される。
C p町及びq町の共同住宅の建築に係る金額を、上記BのZ社のVの申述を基に区分すると、その明細は別表2及び別表3のとおりとなる。
D 本件構築物は、固定資産税の評価上の家屋の価額に含まれていない。
E 別表2及び別表3の「D共通的な工事」及び「Eその他の工事」に係る金額を、「A建物の工事」、「B土地に付随する工事」及び「C建物以外の減価償却資産の工事」に係る金額に配分することは相当と認められ、この方法により配分すると、建物の工事、土地に付随する工事及び建物以外の減価償却資産の工事に係る金額は、それぞれ別表4及び別表5のとおりとなる。
F 本件申告書及び本件修正申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細表」の「種類」欄には、p町及びq町の共同住宅とも家屋の記載はあるが、構築物の記載はない。
(ロ)ところで、相続税法第2条第1項は、相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する旨、また、同法第22条は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、上記2の(2)のイの(ハ)のCのとおり、当該時価の解釈及び評価基本通達の適用に関する原処分庁の主張は相当と解されるから、評価基本通達によって評価した財産の価額は、特段の事情のない限り、相続により取得した財産の時価と認めるのが相当である。
(ハ)家屋の評価について、評価基本通達88《評価単位》は、家屋の価額は、原則として、1棟の家屋ごとに評価する旨定め、評価基本通達89《家屋の評価》は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条《固定資産課税台帳の登録事項》の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。)に倍率を乗じて計算した価額によって評価する旨定めている。そして、附属設備の評価について、評価基本通達92《附属設備等の評価》は、門、塀等の附属設備の価額は、再建築価額から経過年数に応ずる減価の額を控除した価額を基として家屋の価額との均衡を考慮して評価し、庭園設備の価額は、その調達価額の100分の70に相当する価額によって評価する旨定めている。
(ニ)また、構築物の評価について、評価基本通達96は、土地又は家屋と一括して評価するものを除いて、原則として1個の構築物ごとに評価する旨定め、評価基本通達97は、構築物の価額は、その構築物の再建築価額から、取得の時期から課税時期までの期間に応ずる償却費(定率法による)の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額によって評価する旨定めている。
(ホ)上記(イ)の事実を上記(ロ)ないし(ニ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 相続財産の価額は、家屋にあっては、その家屋の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価することとされているところ、本件構築物の評価額が家屋の固定資産税評価額には含まれてはいないことは、上記(イ)のDのとおりであるから、本件構築物について家屋とは別に評価する必要があり、また、上記(ロ)のとおり、相続税法第2条第1項は、相続により取得した財産の全部に相続税を課する旨規定していることからすると、本件構築物の建物全体に占める割合がわずかであることを理由として、本件構築物の評価が建物の評価に含まれているとの請求人の主張を採用することはできない。
B ところで、原処分庁は、本件構築物のうち、庭園灯については所得税法施行令第138条の規定により、その取得価額が不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されるため、相続税の課税財産となる構築物には該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、相続税法第2条第1項の規定から、当該庭園灯は相続財産となることは明らかであり、その評価は、植栽工事と一体として施工されたものであるから、植栽工事に含めて評価するのが相当と認められる。
 なお、原処分庁は、本件構築物のうち、植栽工事及びフェンス工事を構築物として評価しているが、これらは評価基本通達92に定める附属設備として評価すべきか検討したところ、植栽工事については、当該通達に定める「減価の額を見積もることが困難な庭木、庭石、あずまや庭池等」ではないことから、原処分庁が、構築物として評価したことは相当であり、また、フェンス工事については、附属設備と認められるが、当該通達では、家屋の価額との均衡を考慮して評価すると定めていることから、家屋の評価水準(別表4及び別表5の各「A建物の工事」の「合計金額」欄の金額に占める各固定資産税評価額の割合)を考慮すると、原処分庁が、フェンス工事を構築物として評価したことは相当と認められる。
C そうすると、本件構築物の相続税の課税価格に算入すべき価額は、評価基本通達97の定めにより、再建築価額から、取得の時期から課税時期までの期間に応ずる定率法によった償却費を控除した金額の100分の70に相当する金額によって評価すべきところ、原処分庁は、これを被相続人から引き継いだ未償却残高(取得価額から定率法による償却費の額を控除したもの)の100分の70に相当する金額によって評価していることが認められる。
 しかしながら、構築物の再建築価額の見積計算が著しく困難を伴い、これを算定することができないことからすると、原処分庁がやむを得ず評価通達に準ずる上記の方法によって評価をしたことは相当である。
 ただし、原処分庁評価額には計算誤りがあるので、これを是正すると別表7の「構築物の価額」欄の「合計」欄記載の金額となる。
ニ 相続開始前3年以内の贈与加算
 原処分庁は、Mが本件相続により本件構築物及び国税還付金を取得したことを前提として、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得したとする被相続人名義預金から支払われたMの固定資産税及び本件交換差金は贈与加算をする旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)Mが本件相続により財産を取得した財産の有無
A 本件構築物
(A)原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
a 被相続人の死亡日以後のp町及びq町の共同住宅から生ずる不動産賃貸収入に係る所得税は、Kが申告している。
b g税理士は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
(a)本件第2回遺産分割協議書は、〔1〕建物更生共済に係る権利は、Kが相続することを納得した、〔2〕それ以外をMが相続するとしたのは、単に配偶者の税額軽減を受けるために作成したものであり、構築物については、全く予測していなかった。
(b)構築物は、アパートの住人の方のために作ったものであり、家賃収入に対応しているので建物と一体と考えられ、Kが相続したものとすべての相続人が考えている。
(c)p町及びq町の共同住宅の敷地の所有者はMであり、この敷地の貸借はMとKとの使用貸借である。
(B)上記1の(4)の基礎事実及び上記(A)の事実から判断すると、次のとおりである。
a 被相続人の遺産に係る分割協議において、本件第1回遺産分割協議書及び本件第2回遺産分割協議書が作成されているところ、本件第1回遺産分割協議書には、当該遺産分割協議書に掲げた財産以外の一切の財産はKが取得する旨記載されているにもかかわらず、本件第2回遺産分割協議書が作成され、その内容は、本件第1回遺産分割協議書の作成日である平成12年8月22日以降に発見された財産について遺産分割協議した結果が記載されている。これは、本件第1回遺産分割協議書は、その作成日において判明している財産について分割協議を行ったもので、以後判明した財産についてまでKが取得するとしたものではないことから、本件第2回遺産分割協議書の作成に至ったものと判断するのが相当である。
b ところで、原処分庁は、構築物を新たに発見された財産であるとして、本件第2回遺産分割協議書に基づき、Mが取得したものと主張している。
 しかしながら、〔1〕本件構築物は、本件第1回遺産分割協議書作成時に明らかに存在していたこと、〔2〕本件構築物は、p町及びq町の共同住宅に付随した設備等であることから、p町及びq町の共同住宅を本件相続の遺産分割協議により取得する者が併せて取得すると理解するのが遺産分割を行った相続人の通常の意思に合致するといえること、〔3〕p町及びq町の共同住宅はKが相続し、上記(A)のaのとおり、p町及びq町の共同住宅から生ずる不動産賃貸収入はKが確定申告していることからすると、本件構築物は、本件第1回遺産分割協議書によりKが取得したものと認めるのが相当である。
 したがって、Mは本件構築物を本件相続により取得していないこととなる。
B 相続人に承継された還付税額
(A)相続税の債務控除について、相続税法は、上記1の(3)のロないしニのとおり、相続等により財産を取得した者のその相続等により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、公租公課を含む被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもののうちその者の負担に属する金額を控除した金額とし、その金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人に係る所得税等の税額で、被相続人の死亡の際納税義務が確定しているもののほか、被相続人の死亡後相続税の納税義務者が納付した被相続人の所得税等の額を含む旨規定している。
(B)これらの規定に照らすと、平成13年6月1日付更正処分により相続人に承継された還付税額71,798円については、上記1の(4)のルの相続人らが平成12年10月27日に提出した被相続人の平成12年分所得税申告書について、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律第6条《定率による税額控除の特例》の規定による定率による税額控除(以下「定率減税」という。)を行っていなかったことによる誤りにより、平成13年6月1日付で更正処分がされたものであるから、当該更正処分による還付税額は、相続財産の価額から控除される債務である被相続人に係る平成12年分の所得税の税額の修正である。
 そうすると、相続人に承継された還付税額71,798円は、相続財産から控除される債務である被相続人に係る平成12年分の所得税の税額357,300円の修正と判断するのが相当である。
(C)また、平成14年10月4日付更正処分により相続人に承継された還付税額198,098円(平成11年分158,400円、平成12年分39,698円)は、本件各更正処分が行われた後に行われた更正処分により確定した還付税額であることから、上記還付税額198,098円は本件各更正処分時において確定していないこととなり、平成11年分の還付税額は相続財産とは認められず、また、平成12年分の還付税額は控除される債務である被相続人に係る平成12年分の所得税の税額から控除することとはならない。
(ロ)相続開始前3年以内の贈与加算の適否
 上記(イ)により、Mは、本件各更正処分の時において、本件相続により相続財産を取得していないことから、相続税法第19条に規定する相続により財産を取得した者に該当しないこととなる。したがって、別表8のM名義分の固定資産税の納付金額4,904,600円及び本件交換差金の額4,000,000円は、Mが贈与により取得したか否かを判断するまでもなく、Mに対する相続税法第19条に規定する相続開始前3年以内の贈与加算の適用はない。
ホ 更正処分の必要性
 請求人らは、国税還付金の申告漏れは認めるが、債務計上漏れであった未納固定資産税額を下回っており、更正処分の必要はない旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(ホ)のCのとおり、構築物4,045,959円が本件申告書において申告漏れとなっていることから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
へ ところで、上記ニの(イ)のBの(B)及び(C)のとおり、被相続人に係る平成12年分所得税は、相続により取得した財産の価額から控除される債務であるが、原処分庁は、本件各更正処分において被相続人に係る平成12年分所得税申告書により相続人が承継した所得税額について、債務に計上していないことが認められる。
 そこで、上記1の(4)のルの被相続人の平成12年分所得税申告書について、定率減税を行って再計算すると、定率減税後に相続人らが承継した所得税額は次表のとおりとなるので、財産を取得していないM以外の相続人が承継した所得税額142,500円を債務控除する必要がある。

(単位:円)
区分定率減税後に承継された所得税額
M142,700
N47,500
L47,500
K47,500
合計285,200

ト 相続税の課税価格及び納付すべき税額
(イ)本件相続による請求人らの取得財産の価額の合計額は、争いのない相続財産の価額425,730,350円に、被相続人の相続財産であると認められる別表7の構築物の価額4,045,959円を加算した429,776,309円となる。
(ロ)本件相続による請求人らの債務控除額の合計額は、争いのない債務控除額○○○○円に、上記2の(2)のイの(ヘ)のAの(B)に記載のKが負担した未納固定資産税額879,000円及び上記へのM以外の相続人が承継した所得税額142,500円を加算した○○○○円となる。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)を基に、請求人らの相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表10のとおりとなり、請求人らの納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分に満たない金額となる。
 したがって、請求人らに対する本件各更正処分は、いずれもその一部をとおり取り消すべきである。

(2)本件各賦課決定処分について

 本件各賦課決定処分については、上記(1)のトのとおり、本件各更正処分の一部が取り消されることに伴い、賦課決定処分の基礎となる税額は、Kが580,000円、Lが160,000円(いずれも、通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定に基づき1万円未満の端数を切捨て後の金額)となるが、この税額の計算の基礎となった事実については、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいて請求人らの過少申告加算税を算定すると、Kが58,000円、Lが16,000円となり、これらの額は、いずれも本件各賦課決定処分の金額に満たないから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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