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(平16.1.28裁決、裁決事例集No.67 580頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、平成12年11月17日に死亡したC(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る遺産分割調停中に相続税の更正処分が行えるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人D及び同E(以下、両名を併せて「請求人ら」という。)は、被相続人の共同相続人7人のうちの2人であるが、請求人らは、本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件相続税申告書」という。)に別表1の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年1月8日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人らは、これらの処分に不服があるとして、平成15年2月26日に異議申立てしたところ、異議審理庁は、同年5月23日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年6月18日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Dを総代として選任し、その旨を平成15年6月18日に届け出た。

(3)関係法令等

イ 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第27条《相続税の申告書》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者は、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税額がある場合には、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に相続税の申告書を提出しなければならない旨規定している。
ロ 相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》は、相続又は包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分に従って当該財産を取得したものとして課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは相続税法第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない旨規定している。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。

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2 主張

(1)請求人ら

イ 本件更正処分について
 原処分は、「〔1〕未分割申告書提出は、調停内検証継続中に申告納税期限 平成13年9月16日が迫り、火急状況下急遽、納税対応の為、遺産取崩し合意に基く概算納税目的であった。〔2〕調停継続中にて、遺産分割の基礎である贈与額及び遺産総額は、調停内事実検証を踏まえて必然的に確定されるものであり、検証中のこの時期に、法的当事者として第三者の予断確定強制には応じられない。検証完了まで確定はあり得ない。」から違法であり、その全部の取消しを求める。
ロ 本件賦課決定処分について
上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分に係る調査及び異議申立てに係る調査の結果によれば、次のとおり、本件相続税申告書において財産の申告漏れ及び3年以内贈与加算漏れが認められる。
A 申告漏れ
 現金4,500,000円
B 3年以内贈与加算漏れ
(A)Fが平成10年5月8日に贈与を受けた財産の価額1,002,005円
(B)Gが平成10年1月7日及び平成10年6月1日に贈与を受けた財産の価額8,440,000円
(ロ)上記1の(3)のロのとおり、相続税法第55条は、当該相続税の申告期限までに遺産分割が行われない場合は、当該相続人は民法の規定による相続分に従って遺産を相続したものとして課税価格等を計算して申告する旨規定しており、請求人らは、この規定に基づき法定申告期限内に本件相続税申告書を提出している。
(ハ)請求人ら及びその他の相続人に対する調査により、本件相続に係る相続財産を確認し、本件相続税申告書に記載された課税標準等又は税額等がその調査したところと異なることから、通則法第24条の規定に基づき、本件更正処分を行ったものであり、適法である。
ロ 課税価格及び納付すべき税額
 上記イの(イ)ないし(ハ)の事実等に基づき、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の課税価格及び納付すべき税額と同額となることから、この金額でされた本件更正処分は適法である。
ハ 本件賦課決定処分について
(イ)上記ロのとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分によって増加した納付すべき税額の基礎となった事実には、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
(ロ)過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項の規定に従い正しく計算されている。

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3 判断

 本件審査請求は、相続に係る遺産分割調停中に行われた更正処分が違法か否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人ら提出資料及び原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人らは、遺産分割調停申立事件(平成13年6月11日申立てに係る○○家庭裁判所○○支部平成○年(○)第○号)の相手方となっており、現在も調停が係属中である。
(ロ)請求人らが、平成13年9月14日に原処分庁に提出した本件相続税申告書は、未分割財産について、相続税法第55条の規定に基づいて計算されている。
ロ 請求人らは、本件相続税申告書を提出したのは、遺産分割調停中であるため概算納税を目的としたものであること、そして、贈与額及び遺産総額は調停において事実検証の上確定されるべきものであり、相続税額算出のための遺産総額等の計算に当たっても、このような調停の結果に従ってなされるべきである旨主張する。
 そこで、遺産が未分割の場合における課税価格の計算等について検討すると、上記1の(3)のロのとおり、相続税法第55条は、相続税について申告書を提出する時又は更正若しくは決定する時までに遺産の分割が行われていない場合におけるその分割されていない財産については、各共同相続人が民法の規定による相続分に従ってその財産を取得したものとして課税価格を計算するものとし、その後において、これと異なる割合で遺産の分割がなされた場合には、その分割された内容に従って課税価格の計算をやり直し、それに基づいて、申告書の提出若しくは更正の請求又は更正若しくは決定をすることができる旨規定している。
 また、上記1の(3)のハのとおり、通則法第24条は、納税申告書の提出があった場合に、申告書に記載された課税標準等が調査したところと異なるときは、その調査により当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定しており、遺産分割が調停中である場合には相続税の申告書に記載された課税標準等を更正できないとする税法上の規定はない。
ハ 本件において、請求人らは上記イのとおり、未分割財産につき相続税法第55条の規定に基づいて計算した本件相続税申告書を提出しているのであるから、通則法第24条に基づいて更正を行うこと自体に何ら支障はない。そして、本件更正処分は、当初申告書に記載された課税価格及び納付すべき税額が原処分庁において調査したところと異なっていたため、通則法第24条に基づいて行われたものであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(2)課税価格及び納付すべき税額

 当審判所が原処分関係資料を調査した結果によれば、本件相続税申告書には、別表2の金額が課税標準等に含まれていないことが認められることから、本件相続税申告書にこれらの金額を加算し、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、これらの金額は、いずれも本件更正処分の金額と同額となることから、本件更正処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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