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(平16.4.22裁決、裁決事例集No.67 696頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、共同審査請求人A及びE(以下「請求人ら」という。)がした相続税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)に対して原処分庁がした更正をすべき理由がない旨の通知処分について、その全部の取消しが求められた事案であり、争点は次の2点である。
争点1 法定申告期限から1年経過後になされた修正申告に係る更正の請求の是非
争点2 取引相場のない株式の評価に当たり弔慰金を負債に計上できるか否か。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人らの審査請求(平成15年10月3日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らは、平成12年3月14日に業務上で死亡したB(以下「被相続人」という。)の共同相続人である。
 被相続人は、相続開始の時にC株式会社(以下「C社」という。)及びD有限会社(以下「D社」という。)の代表取締役であった。
ロ C社は、平成12年3月20日の臨時株主総会等において、被相続人に係る退職手当金90,000,000円及び弔慰金64,800,000円を支払うことを決定した。
 なお、弔慰金は最終報酬月額の3年分である。
ハ 請求人らは、被相続人に係る相続税について、平成12年11月27日に納付すべき税額を零円とする申告書を原処分庁に提出した。
 その際、請求人らは、相続により取得した取引相場のない株式であるC社の株式の評価に当たり、別表2の「当初申告額」欄のとおり、弔慰金(金額は計算誤りにより54,000,000円となっている。)を負債として計上した。
ニ D社は、平成14年5月16日の臨時社員総会等において、被相続人への退職手当金18,000,000円の支払を決定した。
ホ 請求人らは、平成14年3月に原処分庁所属の職員の調査を受け、相続財産の評価誤り等があるとの当該職員の指摘に基づき、平成14年5月17日に納付すべき税額を3,352,600円とする修正申告書を提出した。
 その際、請求人らは、当該職員の指摘に従い、C社の株式の評価に当たり、別表2の「修正申告額」欄のとおり、弔慰金を負債として計上しなかった。
ヘ その後、請求人らは、C社の株式の評価に当たり、弔慰金を負債に計上すべきであるとして、平成15年3月20日に本件更正の請求をした。
ト 被相続人に係る相続税の法定申告期限は、平成13年1月15日である。

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2 主張

争点1 法定申告期限から1年経過後になされた修正申告に係る更正の請求の是非
請求人ら
 請求人らは、平成14年3月の調査時に、被相続人の死亡後に退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(以下「退職手当金等」という。)の支払が確定した場合、相続税の法定申告期限が延長され、その支払確定日から1年以内であれば更正の請求が可能であるとの説明を原処分庁所属の職員から受けた上で修正申告書を提出し、その更正の請求が可能であるとした期限内に本件更正の請求を行ったものである。
 その時に、既に法定申告期限から1年を経過しているから更正の請求ができないとの説明を受けておれば、請求人らは修正申告書を提出していなかったのであるから、原処分は不当である。
原処分庁
 本件更正の請求は、法定の期限を徒過した後にされた不適法なものである。
 また、原処分庁所属の職員が更正の請求の期限について請求人らの主張するような内容の説明をした事実はない。
 したがって、原処分は適正になされている。
争点2 取引相場のない株式の評価に当たり弔慰金を負債に計上できるか否か。
請求人ら
次のとおり、弔慰金を負債に計上すべきである。
1 会社の純資産価額の計算上、弔慰金は、退職手当金等と同様、負債に計上すべきものであり、弔慰金を負債に計上できないとする株式評価は、相続税法の解釈を誤っており、同法に違反する。
2 C社の株式の評価において、弔慰金が純資産価額の計算上、負債に計上できないとすると、株式の価額に含まれて結果的に課税対象となり、弔慰金の給付を非課税としている労働者災害補償保険法等の法規との均衡を著しく欠くことになる。
原処分庁
 次のとおり、弔慰金を負債に計上することはできない。
1 退職手当金等については、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第2号により相続又は遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税価格に算入されることになるため、財産評価基本通達186により純資産価額の計算上負債として控除することとしているが、弔慰金については、同通達上負債として控除する旨の定めはない。
2 C社から支払われた弔慰金は、被相続人が業務上の死亡であり、実質的に全額弔慰金であると認められ、相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等に該当するものとして取り扱われる部分の金額はないので、負債に計上できない。

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3 判断

(1)争点1(法定申告期限から1年経過後になされた修正申告に係る更正の請求の是非)について
イ 更正の請求について、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項は、いわゆる申告内容の原始的瑕疵に係るものについては、法定申告期限から1年以内、同条第2項は、いわゆる後発的事由に係るものについては、その事由が生じた日の翌日から起算して2月以内、そして、相続税法第32条《更正の請求の特則》は、同条各号の相続税法特有の事由が生じた場合については、その事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り更正をすべき旨の請求をすることができることをそれぞれ規定している。
 これは、申告納税制度の下において、課税関係の早期安定と税務行政の効率的運用等の要請を満たす一方で、納税者権利利益の救済を図るため、一定の事由及び期限を限って更正をすべき旨の請求を認めることとしたものである。
ロ 修正申告に係る更正の請求については、修正申告書を期限内申告書とみなして、当該修正申告書の提出期限から一定期間は更正の請求ができる旨の特別の規定がある場合(例えば、租税特別措置法第33条の5第3項第2号など)を除き、上記イと同様であり、修正申告の内容の原始的瑕疵を理由とする更正の請求は、法定申告期限から1年以内に限ってすることができる。
ハ これを本件についてみると、請求人らの提出した修正申告書は、D社からの退職手当金の支払が確定し、相続税法第3条第1項第2号の規定に該当することになったこと等を理由として提出されたものであるが、このような場合の修正申告書について更正の請求の期間を延長する旨の特別の規定はなく、請求人らは、相続税の法定申告期限から1年を経過した後である平成15年3月20日に本件更正の請求を行っており、通則法第23条第2項又は相続税法第32条の所定の事由に該当するものも認められない。
 したがって、本件更正の請求は、法定期間経過後にされた不適法なものである。
ニ 請求人らは、原処分庁所属の職員から、本件において相続税の法定申告期限が延長され、D社の退職手当金の支払確定日から1年以内であれば更正の請求が可能である旨の説明を受けたと主張する。しかし、原処分庁は、当審判所に対しそのような事実はない旨答述しており、また、審査請求人Aも当審判所に対しては、原処分庁所属の職員とのやりとりの内容について、同職員と認識の相異があったかも分からない旨答述しているところであり、請求人らの主張を認めるに足りる的確な証拠はないから、原処分庁所属の職員が当該説明を行ったものとは認められず、原処分が不当とはいえない。
(2)争点2(取引相場のない株式の評価に当たり弔慰金を負債に計上できるか否か。)について
イ 退職手当金等と弔慰金は、相続税法基本通達3−18ないし3−23の定めにより区分されているが、この区分については、実質的かつ合理的に区分されており、当審判所においても相当と認める。
ロ ところで、取引相場のない株式の課税時期における1株当たりの純資産価額の計算を行う場合、退職手当金等も弔慰金も、課税時期、すなわち相続開始時において確定している債務ではないから、本来、評価会社の純資産価額を算定するについての負債とはならないものである。
 しかしながら、退職手当金等については、相続税法第3条第1項第2号の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に算入されて相続財産として課税されるため、評価会社の純資産価額の計算において負債に計上しなければ、相続税において実質上の二重課税が生じることになり、このような二重課税を防止するために、退職手当金等を負債として計上する必要があり、財産評価基本通達186において、負債に含まれるものとして取り扱われているものであり、この取り扱いは当審判所においても相当と認める。
 これに対して、相続税法基本通達3−18ないし3−23の区分により弔慰金とされたものについては、退職手当金等と異なり相続財産とはみなされず、実質上の二重課税とはならないので、弔慰金を負債に計上する必要はない。
 したがって、弔慰金を負債に計上することはできないと解するのが相当である。
ハ 以上に照らして本件を検討するに、C社から弔慰金として支給を受けた64,800,000円は、全額が相続税法基本通達3−20に該当する弔慰金と認められ、請求人らも弔慰金を相続により取得した財産に含めていないのであるから、C社の株式の評価に当たり、この金額を負債に計上することはできない。
ニ 請求人らは、株式の評価に当たり弔慰金を負債に計上しないと、弔慰金の給付を非課税としている労働者災害補償保険法等の法規との均衡を欠く旨主張する。
 しかしながら、これらの法律の非課税の規定は、保険給付等のそれぞれの法律が規定する支給を受けた金品が、労働災害等により労働者、遺族等の被った損失を補てんし、その保護を図るために必要なものであることから、当該給付に対して租税その他の公課を課することはできないとしているものである。
 本件においては、弔慰金そのものを課税の対象としたものではなく、課税の対象となる株式の評価に当たり弔慰金に相当する金額を考慮して(相続する株式の価値を減少させて)算定するか否かという相続財産の評価の問題であるから、前記ロ及びハのとおり、弔慰金を負債に計上せずに株式を評価することは、労働者災害補償保険法等の法規との均衡を欠くものとはいえず、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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