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(平16.3.29裁決、裁決事例集No.67 735頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、旅行業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告の際に選択した基準期間における課税売上高の算出方法の変更をすると課税売上高は3,000万円以下であるので、免税事業者に該当するとして、更正の請求をしたことの適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年9月1日から平成13年8月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税等の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に別表1のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成14年10月31日に、本件申告書に係る課税標準額及び納付すべき税額を零円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成15年3月18日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行った。
ニ 請求人は、この処分を不服として、平成15年5月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月8日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月12日に送達した。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年9月12日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定している。
ロ 消費税法基本通達10−1−12《委託販売等に係る手数料》の(2)(以下「本件通達」という。)は、委託販売等に係る受託者については、委託者から受ける委託販売手数料が役務の提供の対価となるが、委託者から課税資産の譲渡等のみを行うことを委託されている場合の委託販売等に係る受託者については、委託された商品の譲渡等に伴い収受した又は収受すべき金額を課税資産の譲渡等の金額とし、委託者に支払う金額を課税仕入れに係る金額としても差し支えないものとする旨を定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、旅行業を営んでおり、旅客業者及び大手旅行業者から委託された航空券、乗車券、宿泊券、国内パック旅行及び海外パック旅行の販売に係る手数料(以下「受託販売手数料」という。)を主な収入としている。
ロ 請求人は、平成10年9月1日から平成11年8月31日までの期間(以下「本件基準期間」といい、本件基準期間に係る請求人の消費税等の確定申告書を「本件基準期間申告書」という。)及び本件課税期間に係る損益計算書には別表2のとおり記載してあり、各勘定科目の主な内容は「主な収入」欄のとおりである。
ハ 請求人は、本件基準期間及び本件課税期間に係る消費税等の確定申告書の付表2(課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表)の「課税売上額(税抜き)」欄及び「課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)」欄に別表3のとおり記載している。
ニ 本件基準期間申告書の「課税標準額」欄及び本件申告書の「基準期間の課税売上高」欄の金額(以下「申告に係る基準期間の課税売上高」という。)には、いずれも「53,163,000(円)」と記載されている。
 なお、上記金額の算定根拠は、以下の算式のとおりである。
(国内旅行売上高43,869,901円+受取手数料9,516,122円+損保収入877,239円+雑収入1,558,028円)×100÷105=53,163,000円(千円未満切捨て後の金額)
ホ 請求人は、平成14年10月31日付で、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第2号に規定する消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書(以下「納税義務者でなくなった旨の届出書」という。)を、原処分庁に提出している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件通知処分について
(イ)免税事業者であるか否かについて
A 請求人は、従来から、消費税等の確定申告書の「課税標準額」欄には、国内旅行に係る航空券、乗車券、宿泊券及びパック旅行の販売の際に顧客から収受する代金の全額と、これに係る受託販売手数料の合計額から消費税等相当額を控除した残額を記載していた。
B ところで、本件通達は、受託販売を行った場合については、受託販売手数料が課税資産の譲渡等の対価となるが、委託者から課税資産の譲渡等のみを行うことを委託された商品の譲渡等に伴い収受した金額を課税資産の譲渡等の対価とし、委託者に支払う金額を課税仕入れに係る対価としても差し支えないものとしており、いわゆる総額主義の方法(以下「総額主義の方法」という。)によることが認められる旨を定めている。
C このことからすると、受託販売における課税資産の譲渡等の対価の算定について、総額主義の方法によるか否かは、納税者の選択に委ねられていると解される。
D 請求人は、別表2のとおり、本件基準期間の受託販売手数料について、損益計算書上で「受取手数料」の勘定科目に区分して経理していることから、本件基準期間の課税売上高は、当該受取手数料とその他の手数料収入の合計額であると認識している。
E したがって、請求人の本件基準期間の課税売上高は、以下の算式のとおり11,382,000円と算出され、3,000万円以下であるので、請求人は、消費税法第9条第1項の規定により、本件課税期間においては、免税事業者となる。
(受取手数料9,516,122円+損保収入877,239円+雑収入1,558,028円)×100÷105=11,382,000円(千円未満切捨て後の金額)
(ロ)本件更正の請求について
 本件更正の請求は、上記(イ)の理由により、本件課税期間において請求人は免税事業者に該当するから、原処分庁に対し「納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出したうえで、本件申告書に記載した課税標準額及び税額を零円とする更正の請求をしたのであり、このことは国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号の規定に該当する。
ロ 原処分庁の対応について
 請求人は、平成14年2月に行われた原処分庁の調査において、原処分庁所属の調査担当者(以下「調査担当者」という。)の指導に基づき、納税義務者でなくなった旨の届出書を提出したが、原処分庁はその指導内容を撤回し、請求人に対して、同届出書を取下げるように要請をした。
 そして、請求人がその要請を拒否した結果、本件通知処分が行われたのであるから、同処分は違法で不当なものであり取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件通知処分について
(イ)免税事業者であるか否かについて
 請求人は、国内旅行売上高、受取手数料、損保収入及び雑収入について、顧客等から収受した金額の総額を課税資産の譲渡等の対価の額としており、別表3のとおり、本件基準期間申告書に添付された付表2の「課税売上額(税抜き)」欄に53,163,000円と記載していること、また、商品仕入高のうち国内旅行に係る仕入高について、航空会社等に支払う金額の総額を「課税仕入に係る支払対価の額(税込み)」欄に48,900,552円と記載していることからみて、請求人は総額主義の方法を選択して本件基準期間申告書を作成したものと認められること及び本件通達を適用するか否かは、事業者の任意選択に委ねられていることから、請求人の本件基準期間の課税売上高は53,163,000円と認められ、本件課税期間において、請求人は課税事業者となる。
(ロ)本件更正の請求について
 本件申告書に記載された課税標準等若しくは税額等の計算は、国税通則法第23条第1項第1号に規定する「国税に関する法律の規定に従っていないこと又は当該計算に誤りがあったこと」のいずれにも当たらないので、更正の請求をすることができる場合に該当しないから、本件通知処分は適法である。
ロ 原処分庁の対応について
 調査担当者が調査の際に把握した事実に基づいて指導した内容に不適切な部分があることに気付き、速やかに当該指導を訂正し、調査終了前に請求人に対して説明を行っていることからすれば、本件通知処分が違法又は不当となるものではない。

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3 判断

(1)本件通知処分について

 請求人の消費税等の申告に当たり、総額主義の方法により算定していた本件基準期間における課税売上高について、本件更正の請求により、その算定方法を変更できるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が、申告に係る基準期間の課税売上高の算定根拠とした項目のうち、「国内旅行売上高」の額は、損益計算書上において「国内売上」科目で計上されている金額であり、国内旅行の受託販売に係る航空券、乗車券、宿泊券及びパック旅行の販売の際に、顧客から収受する代金の全額であることが認められる。また、「受取手数料」、「損保収入」及び「雑収入」の額は、いずれも請求人が国内で行った役務提供に係る対価と認められ、課税資産の譲渡等の対価に該当する。
(ロ)上記(イ)の「受取手数料」の額は、受託販売手数料の額であり、請求人の損益計算書によれば、国内旅行売上高とは区分して経理されていることが認められる。
(ハ)請求人は、申告に係る基準期間の課税売上高の算定において、国内旅行売上高を43,869,901円としているが、請求人の損益計算書によれば正しくは43,866,901円であり、請求人の算式に基づいて本件基準期間の課税売上高を再計算すると、以下のとおり53,160,276円となる。
(国内旅行売上高43,866,901円+受取手数料9,516,122円+損保収入877,239円+雑収入1,558,028円)×100÷105=53,160,276円
ロ 関係法令の解釈
 本件通達が、受託販売における課税資産の譲渡等の対価は、受託販売手数料であることを原則とするが、総額主義の方法によることも差し支えない旨を定めているのは、受託者において、受託販売手数料の区分経理の煩雑さや営業政策上の理由等より決算上の利益及び所得税又は法人税の所得の計算を総額主義の方法により算定しているケースがあるという実態を踏まえたものと解され、当審判所においても相当の取扱いであると認められる。
 さらに、受託者たる納税者の消費税等の確定申告に当たり、総額主義の方法を選択するか否かは、専ら、納税者の判断に委ねられていると解するのが相当である。
ハ 請求人の消費税等の確定申告を上記ロに当てはめると、請求人は、受託販売手数料を損益計算上で区分経理していると認められるものの、消費税等の申告に係る基準期間の課税売上高の算定根拠に国内旅行売上高の額を含めたこと、また、課税仕入に係る支払対価の額として国内旅行に係る仕入高について航空会社等に支払う総額を記載していることからみて、本件通達が定める総額主義の方法を選択したものと解される。
ニ 免税事業者であるか否かについて
(イ)上記イからハのとおり、請求人は、自ら選択して採用した総額主義の方法に基づいて本件基準期間申告書及び本件申告書を作成したと認めるのが相当である。
(ロ)総額主義の方法によって、本件基準期間の課税売上高を計算すると、上記イの(ハ)のとおり53,160,276円となり、3,000万円を超えることが明らかである。
(ハ)したがって、本件課税期間において、請求人には消費税法第9条第1項の規定の適用はなく、請求人は免税事業者に該当しない。
ホ 本件更正の請求について
 国税通則法第23条第1項は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときに、更正の請求をすることができる旨規定している。
 ところで、請求人は、課税標準の算出について総額主義の方法から受託販売手数料を対価とすることへの変更は納税者の選択に委ねられているから、本件基準期間の課税売上高が3,000万円以下であるとの判断のもとに、納税義務者でなくなった旨の届出書を提出した上で、確定している納付すべき税額が過大であるとして本件更正の請求を行った旨主張するが、本件のように請求人がいったん総額主義の方法を選択適用して申告した場合には、仮に、その後において受託販売手数料を対価として消費税額を計算した結果、課税売上高が3,000万円以下となって免税事業者に該当するとしても、課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことにはならず、又は当該計算に誤りがあったとはいえないので、更正の請求をすることができる場合に当たらないとするのが相当である。
 すなわち、納税者に一定事項の申告及び選択等を条件としてその規定の適用を受けることを委ねている場合においては、いったん自由な意思でこれらの規定に従い、かつ、適法な計算に基づいて消費税法第45条《課税資産の譲渡等について確定申告》の規定に従って申告書を提出し、税額を確定させた後において、その一定事項の申告及び選択等の内容を変更することを理由に更正の請求をすることはできないと解される。
 したがって、請求人は、国税通則法第23条第1項の規定に基づいて更正の請求をすることはできないものというべきである。

(2)原処分庁の対応について

 請求人は、原処分庁の指導のもとに、納税義務者でなくなった旨の届出書に課税売上高11,382,000円と記載し提出していることから、原処分庁の指導及び本件通知処分は不当である旨主張するが、調査担当者は請求人に対して、速やかに指導内容を訂正し説明していることから、原処分の適法性に影響を与えるものとは認められず、また、原処分は適法であり、その判断が不当でないことは、上記(1)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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