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(平16.9.28裁決、裁決事例集No.68 41頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するために行われた売掛債権の差押処分について、その全部の取消しが求められた事案であり、争点は、差押処分が職権濫用による違法・不当な処分に当たるか否かである。

(2)審査請求に至る経緯

イ A税務署長は、請求人の滞納国税について、平成8年2月27日から平成15年11月17日までの間に滞納が発生した都度、請求人に対しそれぞれ督促状を発付した。
ロ 原処分庁は、上記イの滞納国税について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成12年6月29日以降滞納が発生し上記イの督促状が発付された都度、A税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ハ 原処分庁は、別表2「滞納国税の明細」に記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成16年1月19日付で別表1「差押一覧表」の各債権をそれぞれ差し押さえた。
ニ 請求人は、原処分を不服として平成16年1月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年3月25日付で、別表1のうち番号1ないし13及び17ないし20の各債権の差押処分については却下、番号14ないし16及び21ないし24の各債権の差押処分については棄却する旨の異議決定をしたので、同年4月26日に審査請求をした。

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2 別表1の番号21ないし24の各債権の差押処分(以下「本件差押処分」という。)について

(1)主張

請求人

イ 請求人は、本件滞納国税の納付につき、再三、原処分庁の担当職員(以下「徴収担当職員」という。)と交渉を繰り返し、納付計画を申し出てきた。
 また、請求人は、民事再生法の規定による再生手続中であるが、差押処分を回避するため、毎月僅少とはいえ劣悪な財務状態の中から納付を続け、本件差押処分を受ける直前の平成15年12月末においても、民事再生手続上の監督委員の同意を得て500万円を借り入れ、徴収担当職員に提出した。
 しかしながら、徴収担当職員は、差押処分が予定されているとの理由で受取を拒否し、請求人は、やむなく、翌日A税務署にて納付した。
 このように、請求人が納税のため提出した金員について徴収担当職員が独断的判断で受取を拒否し、本件差押処分を強行するに至ったこと自体、職権濫用といえる。
ロ 請求人は、民事再生法の規定による再生手続中であり、また、請求人の事業が観光事業であるところから、取引先への売掛債権の差押処分は業界での信用不安をもたらすことになり、再生手続に致命的な打撃を与えるのは自明の理であり、徴収担当職員も十分知っていたはずである。
 そのため、請求人は、徴収担当職員と再三再四面談し、請求人の財務状態につき繰り返し説明し、再生手続完了までの間、差押処分の猶予を懇願してきた。
 したがって、仮に差押処分が民事再生法の規定による制約を受けないとしても、本件差押処分は職権濫用の非難を免れない。

原処分庁

イ 徴収担当職員は、請求人と再三にわたって、滞納国税の納付方法について話し合ったが、請求人から分納計画の申出はあるものの、完納には至っておらず、かえって、その間、新規滞納が発生している状況であった。
 また、徴収担当職員は、平成15年12月24日に請求人から500万円の納付の申出を受けたが、仮に、本件滞納国税の一部納付があったとしても、完納しない限り差押処分を実行することとなる旨説明した上、納付書を手渡し金融機関からの納付を指導した。
 このため、徴収担当職員は、自主的な納付に任せても本件滞納国税の完納は見込めないと判断し、差押処分を行う旨事前に通告した上で本件差押処分を行ったものである。
 以上のとおり、徴収担当職員は、一部納付の申出を拒絶したわけでなく、納付方法を指導しており、直接領収手続を行わなかったことをもって、原処分が職権濫用とされる理由にはならない。
ロ 民事再生法の規定に基づく再生手続と国税徴収との関係において、国税債権は民事再生法第122条《一般優先債権》第1項で規定する一般優先債権に該当することから、同条第2項の規定により、再生手続によらないで随時弁済を受けることができ、滞納者の財産について滞納処分を行うこともできると解される。
 よって、請求人が民事再生法の適用を受けているからといって、差押処分を行うことについて、制約を受けるものではなく、原処分は職権濫用とはいえない。

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(2)判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)徴収担当職員は、請求人に対し平成12年7月17日から平成15年12月24日までの間、30回にわたって本件滞納国税の納付指導を行ったが、請求人は、分納計画を申し出るものの計画どおり納付しなかった。
 このため、徴収担当職員は、本件滞納国税が完納されない限り取引先への売掛債権の差押処分を行う旨の説明を繰り返し行った。
(ロ)請求人は、本件滞納国税の納付に充てるため、平成15年12月24日に500万円の納付を徴収担当職員に申し出た。
 これに対し、徴収担当職員は、これまでの分納計画不履行の経緯について説明し、併せて本件滞納国税の一部納付があったとしても、完納されない限り取引先への売掛債権の差押処分を行う旨の説明を行うとともに、同金員については納付書を手渡し、金融機関からの納付を指導した。
(ハ)請求人は、原処分当時、取引先への売掛債権以外に、滞納国税債権額に見合う財産として船舶を2隻所有していた。
 しかしながら、このうち1隻はB事業団との共有であり、他の1隻はC市長による差押処分が執行されているものであり、いずれも換価が困難な財産であった。
ロ 関係法令及び解釈
(イ)国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は滞納者の国税につき、その財産を差し押さえなければならない旨規定している。
 しかしながら、差押処分を行うに当たって、滞納者が一部でも納付の意思を表示すれば差押処分ができなくなる旨や滞納者の了解を得なければならない旨を定めた法令の規定はない。
(ロ)徴収法第75条《一般の差押禁止財産》ないし同法第78条《条件付差押禁止財産》で規定する差押えが禁止された財産を除き、徴収職員は、滞納者の有するいかなる財産についても差押えをすることができ、さらに、滞納者が複数の財産を有する場合において、差押財産の選択は、徴収職員の合理的裁量にゆだねられると解される。
(ハ)民事再生法第122条第2項は、一般優先債権は民事再生手続によらないで随時弁済を受けることができる旨規定しており、国税債権は一般優先債権に該当するとされている。
 このため、差押処分は、民事再生手続の制約を受けず、滞納者について民事再生手続が開始された場合であっても、滞納者に納付を請求し、滞納者の財産に対して差押処分をすることができると解される。
ハ これを本件についてみると、以下のとおりである。
(イ)上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、徴収担当職員は、過去から再三にわたり納付指導及び取引先への売掛債権の差押処分を行う旨の予告を行っており、500万円を請求人が納付したとしても、残額の早期完納が見込まれる具体的な納付計画もないから、本件滞納国税の早期完納が実行されないと認められ、本件差押処分を行ったものである。
 なお、請求人が、本件滞納国税の一部として500万円の納付を申し出たことについて、徴収担当職員が同金員の受領を拒否した事実はなく、金融機関での納付を指導したことが認められる。
(ロ)どの財産を差し押さえるかについては、徴収担当職員の合理的な裁量にゆだねられているところ、上記イの(ハ)のとおり、取引先への売掛債権以外に換価が容易な財産が見当たらなかったことから、取引先への売掛債権を差押財産として選択したことは、裁量の範囲を逸脱したとは認められない。
(ハ)そうすると、原処分庁が徴収法第47条第1項第1号の規定に基づいて本件差押処分を行ったことは、請求人が民事再生中といえども本件滞納国税を徴収するために必要なものであり、原処分庁の本件差押処分をもって職権濫用とは認められない。
(ニ)以上のとおり、本件差押処分は違法・不当となるものではなく、請求人の主張には理由がない。

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3 別表1の番号1ないし20の各債権の差押処分について

(1)滞納処分により差し押さえられた債権について取立てが行われたときは、基本的に債権の準占有者に対する弁済があったことになり、債権は消滅するものと解される。また、この効果は、たとえ差押処分が取り消されたとしても、何ら変わるものではない。
 本件において、番号1ないし16の各債権については、原処分庁が別表1の取立完了日等欄の各日に徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づき取立てを完了しているため、審査請求時(平成16年4月26日)において既に消滅しており、原状回復はもはや不可能な状況にある。
(2)さらに、番号17ないし20の各債権については、取引が発生しなかったため、差押処分の効力は消滅しており、また、請求人に何ら法律上の不利益を与えるものでもない。
(3)したがって、番号1ないし20の各債権の差押処分に対する審査請求は、消滅した債権等に係る差押処分の取消しを求める審査請求ということになり、請求の利益を欠く不適法なものである。
4 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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