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(平16.11.11裁決、裁決事例集No.68 50頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、漁業協同組合である審査請求人(以下「請求人」という。)が、前回行われた更正処分等の違法を理由に現在訴訟を係属中であるにもかかわらず、当該訴訟の判決を待たずして行われた原処分が違法か否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 平成12年1月1日から同年12月31日まで、平成13年1月1日から同年12月31日まで及び平成14年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成12年12月期」、「平成13年12月期」及び「平成14年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成16年8月11日請求)に至る経緯は別表1のとおりである。

(3)基礎事実

次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年1月1日から同年12月31日まで、平成10年1月1日から同年12月31日まで及び平成11年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成9年12月期」、「平成10年12月期」及び「平成11年12月期」という。)の法人税の確定申告書を原処分庁に提出したところ、原処分庁は、平成13年1月26日付で平成9年12月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、平成10年12月期の法人税の更正処分並びに平成11年12月期の法人税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの更正処分を「前回更正処分」といい、賦課決定処分と併せて「前回更正処分等」という。)を行った。
ロ 請求人は、前回更正処分等を不服として平成13年3月22日に異議申立てを行ったところ、同年○月○日付で棄却の異議決定を受け、更にこれを不服として同年7月18日に審査請求を行ったが、平成14年○月○日付で棄却の裁決を受けたことから、現在、前回更正処分等の全部の取消しを求めて訴訟係属中である。

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2 主張

(1)請求人

イ 更正処分について
本件各事業年度の法人税の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)は、現在訴訟係属中の前回更正処分を前提としてなされたものであり、その係争結果(判決)を待たずになされた違法があるから、その全部の取消しを求める。
ロ 賦課決定処分について
上記イのとおり、本件各更正処分は違法であるから、本件各事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)も違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)行政処分の効力
 国税通則法第114条《行政事件訴訟法との関係》は、国税に関する法律に基づく処分に関する訴訟については、別段の定めがあるものを除き、行政事件訴訟法その他の一般の行政事件訴訟に関する法律の定めるところによる旨規定し、さらに、行政事件訴訟法第25条《執行停止》第1項は、「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」と規定している。
 これらの規定は、行政の停滞や行政運営の阻害を防ぐ見地から制定され、仮に行政処分の取消しを求めた訴えの提起がされても、裁判所等によって取り消されない限り、行政処分の効力には影響がないとするものである。
 そうすると、本件の場合、前回更正処分の取消しを求める申立ては、平成13年○月○日付の異議決定及び平成14年○月○日付の国税不服審判所の裁決で棄却されており、また、裁判所が同処分取消の判決をした事実もないことから、その効力は持続していると認められる。
したがって、本件各更正処分を行ったことには何ら違法はない。
(ロ)所得金額等
請求人の本件各事業年度の所得金額等は、以下に述べる理由により、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件各更正処分の金額と同額であるから、本件各更正処分は適法である。
A 平成12年12月期
(A)欠損金の当期控除過大額
 請求人は、確定申告書に繰越欠損金の当期控除額を○○○○円と記載して申告しているが、前回更正処分により当期において控除できる繰越欠損金の額は○○○○円であるので、差額○○○○円を欠損金の当期控除過大額として所得金額に加算したものである。
(B)所得金額
 そうすると、当期の所得金額は、確定申告書に記載された所得金額○○○○円に上記(A)を加算した、別表2の「原処分庁主張額」欄の「所得金額」欄のとおり○○○○円(翌期へ繰り越す欠損金の額は○○○○円)である。
B 平成13年12月期
(A)欠損金の当期控除過大額
 請求人は、確定申告書に繰越欠損金の当期控除額を○○○○円と記載して申告しているが、前回更正処分により当期において控除できる繰越欠損金の額は○○○○円であるので、差額○○○○円を欠損金の当期控除過大額として所得金額に加算したものである。
(B)事業税の損金算入額
 平成2年12月期の法人税の更正処分に伴って増加した所得金額に対応する事業税の額12,700円を損金の額に算入したものである。
(C)所得金額
 そうすると、当期の所得金額は、確定申告書に記載された所得金額○○○○円に上記(A)を加算し(B)を減算した、別表2の「原処分庁主張額」欄の「所得金額」欄のとおり○○○○円(翌期へ繰り越す欠損金の額は○○○○円)である。
(D)控除所得税額過大額
 請求人は、確定申告書の別表6(1)付表「繰越所得税額控除限度超過額を有する場合の所得税額の控除に関する明細書」の7欄「前4年以前繰越所得税額控除限度超過額」に70,900円と記載して申告しているが、当該所得税額は、前回更正処分により既に控除されているので当期の控除所得税額は1欄「当期の所得税の額」に記載の43,500円である。
C 平成14年12月期
(A)欠損金の当期控除過大額
請求人は、確定申告書に繰越欠損金の当期控除額を○○○○円と記載して申告しているが、前回更正処分に伴い当期において控除できる繰越欠損金の額は○○○○円であるので、差額○○○○円を欠損金の当期控除過大額として所得金額に加算したものである。
(B)寄附金の損金不算入額
 請求人は、確定申告書の別表14の「寄附金の損金算入に関する明細書」の5欄「所得金額仮計」に1,749,105円と記載して申告しているが、同金額から下記(C)の額を減算して寄附金の損金不算入額を再計算すると11,194円となるため、同申告書で加算されている3,305円との差額7,889円を所得金額に加算したものである。
(C)事業税の損金算入額
 平成13年12月期の法人税の更正処分に伴って増加した所得金額○○○○円に対応する事業税の額631,100円を損金の額に算入したものである。
(D)所得金額
 そうすると、当期の所得金額は、確定申告書に記載された所得金額○○○○円に上記(A)及び(B)を加算し(C)を減算した、別表2の「原処分庁主張額」欄の「所得金額」欄のとおり○○○○円(翌期へ繰り越す欠損金の額は○○○○円)である。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は適法であり、また、この処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 請求人は、前回更正処分について訴訟が係属中であるにもかかわらず、その判決を待たずにされた本件各更正処分は違法である旨主張する。
 ところで、一般に行政処分に重大かつ明白な瑕疵があり、そのため行政処分が無効と認められる場合であれば格別、そうでない以上、たとえ瑕疵があっても行政処分の安定を図る意味から、同処分が取消権限のある行政庁又は裁判所によって取り消されるまでは有効なものとして扱われると解されている(最高裁昭和63年3月1日第3小法廷判決参照)。
 これを本件についてみると、前回更正処分について当審判所は平成14年○月○日付裁決によって適法である旨の判断を既に示したところであり、また、請求人の主張する前回更正処分等の取消請求訴訟は、現在においても係属中で同処分の取消判決もなされていない。
 よって、原処分庁が前回更正処分の結果に基づき、本件各更正処分を行ったことに何ら違法はないというべきである。
ロ 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、平成13年12月期及び平成14年12月期に係る事業税の損金算入額の計算に当たっての事業税率の適用に誤りがあることが判明したので、これを正しく計算し直すと、別表2の「審判所認定額」欄の「事業税の損金算入額」欄のとおりとなる。
また、上記再計算に伴い所得金額が変更となることから、平成14年12月期について寄附金の損金不算入額を正しく計算し直すと、別表2の「審判所認定額」欄の「寄附金の損金不算入額の増加額」欄のとおりとなる。
そうすると、本件各事業年度の所得金額は、別表2の「審判所認定額」欄の「所得金額」欄のとおり、平成12年12月期の所得金額は更正処分の額と同額となり、また、平成13年12月期が○○○○円、平成14年12月期が○○○○円となり、いずれも更正処分の金額を上回るから本件各更正処分は適法である。
ハ よって、本件各更正処分を違法とする請求人の主張には理由がない。

(2)賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、この処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた本件各賦課決定処分も適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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