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(平16.12.8裁決、裁決事例集No.68 92頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、遺産分割に係る代償分割により、共同相続人の一人が所有する土地を他の相続人に無償で交付したことによる譲渡所得の収入すべき金額の多寡を争点とする事案である。

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(2)争いのない事実等

 以下の事実は、審査請求人(以下「請求人」という。)及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査したところによってもその事実が認められる。
イ  請求人は、平成12年3月24日に死亡したG(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る遺産分割について、他の共同相続人(H、J、K及びLの4名)とともに、同年8月13日付で要旨次の事項を記載した「遺産協議分割書」と題する書類(以下「本件分割協議書」という。)を作成した。
(イ)請求人は、被相続人の一切の資産と負債全部を相続し、また継承する。
(ロ)請求人は、Lを除く他の相続人3名に対し、代償として次のとおり資産を交付し、又は金銭を支払う。
A Hに対し、金19,000,000円を支払う。
B Jに対し、請求人が所有するP市p町○番○の土地(地積:227平方メートル。以下「本件土地」という。)を、無償にて平成13年中に交付する。
C Kに対し、金8,000,000円を支払う。
ロ 請求人は、平成13年2月14日、Jに対して同月5日の贈与を原因とする本件土地の所有権移転登記を行い、同人に対して本件土地の所有権を移転した(以下、この本件土地の所有権移転を「本件譲渡」という。)。
ハ 請求人は、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の収入すべき金額を12,000,000円として、平成13年分の所得税の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ニ 次いで、請求人は、所得控除の金額に誤りがあったとして、所得税の修正申告書に別表1の「修正申告」欄のとおり記載して、平成14年5月10日に修正申告した。
ホ これに対し、原処分庁は、本件譲渡所得の収入すべき金額は19,828,099円であるとして、平成15年6月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年8月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月28日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年1月5日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 次に述べるとおり、本件譲渡所得の収入すべき金額は12,000,000円である。
(イ)本件譲渡の基となった代償分割(以下「本件代償分割」という。)及び本件譲渡について
 本件相続に係る遺産分割協議において、共同相続人全員の話合いにより、Hには現金19,000,000円を、また、Kには現金8,000,000円を、それぞれ代償財産として交付することとなったが、夫婦二人暮らしで職業的にも資産面でも楽な立場にあるJには、これら両名の中間程度よりやや少ないくらいの代償財産を交付することが妥当であると相談がまとまった。
 その結果、請求人は、Jに対し12,000,000円の金銭を支払う債務(以下「本件金銭債務」という。)を負うこととなったが、請求人にはJに現金を支払う余裕がなかったことから、本件金銭債務の額と同等の価値のある本件土地を交付する旨申し出たところ、同人がこれに同意したので、本件土地を金銭の支払に代えて交付することとなった。
 以上のとおり、本件代償分割は、請求人が本件金銭債務を負担したものであり、本件譲渡は、本件金銭債務の履行に代えて本件土地を代物弁済したものである。
 なお、本件分割協議書はこのような経緯を踏まえて作成したものであり、また、本件代償分割に係る請求人の債務が本件金銭債務であることに関しては、請求人が原処分庁に提出した本件相続に係る相続税の申告書及びそれに添付した財産債務に関する書類によっても明らかである。
(ロ)本件譲渡所得の収入すべき金額について
 上記(イ)のとおり、本件譲渡は本件金銭債務の履行に代えて本件土地を代物弁済したものであるから、本件譲渡所得の収入すべき金額は本件金銭債務の額によるべきであり、その金額は12,000,000円である。
(ハ)本件土地の価額について
 なお、本件譲渡の時における本件土地の価額は次のとおり12,000,000円であり、本件金銭債務の額と同額である。
A 原処分庁が時価額として合理的であると主張する国の公示価格及び県の基準地価格は、主として土地収用の場合に用いられるものであり、被収用者の不満や収用への協力の意味合いを含んだ価格であって、一般的な取引相場に比し高額である。
 それに対して、一般に相続税の申告に用いられる路線価は、公示価格及び基準地価格のおおむね20%引きで定められており、評価の安全性が担保されているので、土地の時価を認定する場合には、税法上評価の安全性を考慮した価格である路線価を基準とした価額によるべきである。
B よって、本件譲渡の時における本件土地の価額は、次のとおりとなる。
(A)本件譲渡の時においては地価が連年下落する情勢にあることから、路線価を基準とした本件土地の価額は、世間一般の常識として1坪当たり20万円(1平方メートル当たり60,500円)が妥当であると認識した。そこで、この価額に本件土地の地積を乗じ、1万円未満の端数を切り捨てると13,750,000円となる。
(B)次に、この13,750,000円から、本件譲渡までの10年以上の間、Jが本件土地を善意で管理していた事情等を考慮して10%を減算すると12,375,000円となる。
(C)そして、他の相続人への金銭の支払額が1,000,000円単位であることを考慮して端数を切り捨てると12,000,000円となる。
(ニ)本件譲渡所得の金額について
 上記(イ)から(ハ)に基づき本件譲渡所得の金額を計算すると、別表2の「請求人主張額」の「〔5〕」欄のとおり10,255,200円となり、本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 次に述べるとおり、本件譲渡所得の収入すべき金額は20,942,446円である。
(イ)本件代償分割及び本件譲渡について
 本件分割協議書には、請求人がJに対して本件土地を交付すると記載されており、12,000,000円を支払うとは記載されていない。
 また、請求人及び請求人の代理人であるM税理士(以下「M税理士」という。)は、異議審理庁の担当職員に対し、本件相続に係る遺産分割協議は初めから本件土地をJに代償分割することとして話し合われ、本件土地を渡すことを決めてから本件土地の価額を決めた旨申述している。
 したがって、本件代償分割は、請求人が本件土地を無償でJに交付する債務を負担したものであるから、本件譲渡は、本件金銭債務の履行に代えて行われた代物弁済であるということはできず、具体的な金額の定めがない代償分割債務の履行として行われたものであると認められる。
(ロ)本件譲渡所得の収入すべき金額について
 上記(イ)のとおり、本件譲渡は、具体的な金額の定めがない代償分割債務の履行として行われたものであると認められるから、本件譲渡所得の収入すべき金額は、所得税基本通達33−1の5《代償分割による資産の移転》により本件譲渡の時における本件土地の価額によることとなり、その金額は、下記(ハ)のとおり20,942,446円となる。
(ハ)本件土地の価額について
 公示価格及び基準地価格は、いずれも土地について自由な取引が行われたとした場合において通常成立すると認められる価格とされていることから、これらと同水準の価格をもって本件譲渡の時における本件土地の価額を求めることが合理的であると認められる。
 そこで、本件土地の近隣に所在するP市q町○番○の土地(以下「A土地」という。)の公示価格及び基準地価格並びにP市r町○番○の土地(以下「B土地」という。)の基準地価格と、これらの土地の平成13年分の相続税評価額とを比較することにより適正な倍率を求め、これを本件土地の同年分の相続税評価額に乗じて計算する方法により、別表3のとおり本件土地の価額を算定すると、その価額は同表の「〔7〕」欄のとおり20,942,446円となる。
(ニ)本件譲渡所得の金額について
 上記(イ)から(ハ)により本件譲渡所得の金額を計算すると、別表2の「原処分庁主張額」の「〔5〕」欄のとおり18,750,524円となり、本件更正処分の額を上回るから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由は認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件譲渡所得の収入すべき金額の多寡について争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件代償分割及び本件譲渡について
(イ)請求人の答述
 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 本件相続に係る遺産分割協議に当たって、請求人がJに現金と本件土地の無償交付とどちらがよいか聞いたところ、同人は本件土地でよいと答え、本件土地の無償交付を了解したので、相続人全員の合意の下、平成12年8月13日に本件分割協議書を作成した。
B M税理士から、本件土地の路線価による価額が12,000,000円であると知らされたのは、平成12年10月ころである。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のとおり、本件代償分割は請求人が本件金銭債務を負担したものであり、本件譲渡は本件金銭債務の履行に代えて本件土地を代物弁済したものである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(2)のイのとおり、本件分割協議書によれば、H及びKにはそれぞれ具体的に金銭を支払うと記載されているのに対し、Jには、請求人が所有する本件土地を無償にて交付するとのみ記載されており、また、上記(イ)の請求人の答述を併せて考えれば、本件代償分割は本件分割協議書に記載されたとおり、具体的な代償債務の金額の定めのない代償分割であると認められ、請求人が本件金銭債務を負担したものと認めることはできない。
 したがって、本件譲渡は、請求人が具体的な金額の定めのない代償分割債務を履行したものであるというべきであり、本件金銭債務の履行に代えて本件土地を代物弁済したものであると認めることはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件譲渡所得の収入すべき金額について
(イ)譲渡所得は、資産の所有者がその資産を所有する間に生じた値上がり益を、その資産が所有者の支配を離れ他に移転するのを機会として清算的に課税する趣旨の所得であるから、譲渡所得における譲渡とは、有償無償を問わず一切の資産の移転をいうものと解されるところ、遺産相続における代償分割により資産を無償で交付する場合も、当然にここでいう譲渡に該当すると解することが相当である。
 そして、具体的な金額の定めのない代償分割債務を履行するために資産を無償で交付した場合における譲渡所得の収入すべき金額は、その代償分割の目的となる資産を交付した時におけるその資産の価額によると解されるところ、その場合の価額は、その交付の時における客観的な交換価値、すなわち時価をいうものと解することが相当である。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、本件譲渡は本件金銭債務の履行に代えて本件土地を代物弁済したものであるから、本件譲渡所得の収入すべき金額は本件金銭債務の額によるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イで述べたとおり、本件譲渡は請求人が具体的な金額の定めのない代償分割債務を履行したものであると認められるから、上記(イ)のとおり、本件譲渡所得の収入すべき金額は、本件譲渡の時における本件土地の価額、すなわち客観的な交換価値である時価によるべきであると認められる。
 そこで、本件譲渡の時における本件土地の価額について調査審理したところ、その価額は下記ハのとおり20,316,500円であると認められるから、本件譲渡所得の収入すべき金額は20,316,500円である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 本件土地の価額について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 本件土地は、N駅の東方約2キロメートルに位置し、住宅地の市道沿いに所在する、おおむねその地域における標準的な画地を有する土地であること。
B 本件土地の所在する地域は、おおむね平坦地で、都市計画法上は第一種低層住居専用地域であり、建ぺい率は50%、容積率は100%であること。
C 本件譲渡の時における本件土地の環境及び行政的条件等の状況は、付近の宅地と類似していると認められ、また、本件土地を宅地として利用するために造成を必要とするとは認められないこと。
D 本件土地が接面する市道に付された平成13年分の路線価の額は、1平方メートル当たり78,000円であること。
E 原処分庁が本件土地の価額の算定の基とした、公示地及び基準地であるA土地の所在する地域は、都市計画法上は第二種中高層住居専用地域であり、建ぺい率は60%、容積率は200%であること。
F 一方、基準地であるB土地は、本件土地と同一の第一種低層住居専用地域内に所在し、本件土地と建ぺい率及び容積率等の行政的条件が同一であり、かつ、本件土地と状況が類似していること。また、その状況等は、別表5−2のとおりであること。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のイの(ハ)のとおり、本件譲渡の時における本件土地の価額は路線価を基準とした価額によるべきであり、その価額は12,000,000円である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のDのとおり、本件土地が接面する市道に付された平成13年分の路線価は1平方メートル当たり78,000円であるところ、請求人は地価の下落を理由としてこれを1平方メートル当たり60,500円とし、さらに本件土地の管理状況及び他の相続人への金銭の支払額を考慮して本件土地の価額を算定するというのであるから、請求人の主張する算定方法は、客観的な時価を求めるにおいて合理的な根拠を欠くものであるといわざるを得ず、請求人の主張する価額をもって本件土地の時価であるということはできない。
 一方、原処分庁は、上記2の(2)のイの(ハ)のとおり、公示価格及び基準地価格と同水準の価格をもって本件土地の価額とすることが合理的であるとして、A土地及びB土地の公示価格及び基準地価格と、これらの土地の平成13年分の相続税評価額との比較による適正な倍率を求め、それを基として別表3のとおり本件土地の価額を算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の主張する算定の方法は、確かに一般的には合理性を有すると認められるものの、原処分庁の採用したA土地は、上記(イ)のB及びEのとおり、本件土地とは都市計画法上の用途地域、建ぺい率及び容積率が異なることが認められるから、本件土地の価額を求めるための公示地又は基準地としては合理性を欠くものといわざるを得ず、原処分庁の主張する価額をもって本件土地の時価であるということもできない。
 以上のことから、当審判所において、次のとおり本件土地の価額を認定した。
(ハ)当審判所による本件土地の価額の認定
A 本件土地の価額を認定するに当たり、別表5−1及び5−2のとおりの4件の取引事例を選定した。なお、これらの取引事例は、いずれも本件土地の近隣において、平成12年から平成13年中に行われた宅地の売買取引事例であって、取引内容が明確で、かつ、取引に関する資料の正確性が確保されているものである。
B 上記Aの各取引事例の1平方メートル当たりの取引価額は、別表6−1から同6−4の「〔1〕」欄のとおり、それぞれ81,624円、90,702円、88,746円及び98,265円である。
 これに、当審判所においても相当と認められる不動産鑑定評価基準及び土地価格比準表(国土交通省から通達された土地価格評価事務のための一般的な比準方法を定めたもの。)等を参考として、不動産鑑定評価における取引事例比較法と同様の手法により、別表6−1から同6−4の「〔2〕」から「〔5〕」欄のとおりの各種補正を行って本件譲渡の時における本件土地の1平方メートル当たりの価額を試算すると、各表の「〔6〕」欄のとおり、それぞれ81,529円、92,462円、90,027円及び93,997円となる。
 これらの試算価額を平均すると89,500円(100円未満切捨て)となり、この価額をもって、本件譲渡の時における本件土地の1平方メートル当たりの価額であると認定する。
C なお、B土地の基準地価格に基づき、上記Bの手法と同様の手法によって本件土地の1平方メートル当たりの価額を算定すると、別表6−5の「〔6〕」欄のとおり99,892円となり、上記Bで求めた本件土地の1平方メートル当たりの価額89,500円はこれを下回ることから、当審判所の認定した89,500円は相当な価額であると認められる。
D そして、本件土地の1平方メートル当たりの価額89,500円に本件土地の地積227平方メートルを乗じた価額は20,316,500円となり、この価額をもって、本件譲渡の時における本件土地の価額と認定する。
ニ 本件譲渡所得の金額について
 本件譲渡所得の収入すべき金額については上記ロのとおり20,316,500円であるところ、これに基づき本件譲渡所得の金額を計算すると、別表2の「審判所認定額」の「〔5〕」欄のとおり18,155,875円となり、本件更正処分の額を上回ることから、本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そこで、当審判所において同条第1項の規定に基づき請求人の納付すべき過少申告加算税の額を計算すると、別表1の「審判所認定額」の「〔8〕」欄のとおり158,000円となり、本件賦課決定処分の額を上回ることから、本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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