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(平16.7.2裁決、裁決事例集No.68 115頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が家屋とその敷地の用に供している土地の取得に係る借入金について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項(平成15年法律第8号による改正前のものをいう。以下同じ。)に規定する特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)の適用を受け、その後、当該家屋を取り壊して別の家屋を新築した場合、当該土地の取得に係る借入金について、住宅借入金等特別控除の適用を受けることができるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年分の所得税について、青色の確定申告書に総所得金額(事業所得の金額をいう。以下同じ。)を12,914,936円、住宅借入金等特別控除額を500,000円及び還付金の額に相当する税額を○○○○円と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年6月17日付で総所得金額を12,914,936円、住宅借入金等特別控除額を85,200円及び還付金の額に相当する税額を○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を41,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成15年8月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、同年11月10日付で棄却の異議決定をしたので、請求人は、同年12月8日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
ロ 措置法第41条第1項は、居住者が、国内において、住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの(以下「居住用家屋」という。)の新築若しくは建築後使用されたことのある家屋で政令で定めるもの(以下「既存住宅」という。)の取得をして、これらの家屋をその者の居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の取得等に係る次に掲げる借入金又は債務(以下「住宅借入金等」という。)の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年以後10年間(当該居住の用に供した日が平成11年1月1日から平成13年6月30日までの期間内の日である場合には、15年間)の各年のうち、その者のその年分の合計所得金額が3,000万円以下である年については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別控除額を控除する旨規定している。
 また、住宅借入金等について、措置法第41条第1項第1号は、当該住宅の取得等に要する資金に充てるために一定の金融機関、住宅金融公庫、地方公共団体その他当該資金の貸付けを行う政令で定める者から借り入れた借入金(当該住宅の取得等とともにする当該住宅の取得等に係る家屋の敷地の用に供される土地又は当該土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)の取得に要する資金に充てるためにこれらの者から借り入れた借入金として政令で定めるものを含む。)のうち、契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされているものと規定している。
ハ 租税特別措置法施行令(以下「施行令」という。)第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第7項は、措置法第41条第1項第1号に規定する政令で定める借入金は、次に掲げる借入金とする旨規定している。
(イ)居住用家屋で建築後使用されたことのないもの又は既存住宅とともにこれらの家屋の敷地の用に供されていた土地等の取得をした場合における当該取得に要する資金に充てるために一定の金融機関等から借り入れた借入金のうち当該土地等の取得に要する資金に係る部分(第1号)
(ロ)新築をした居住用家屋の敷地の用に供する土地等をその新築の日前2年以内に取得した場合における当該土地等の取得に要する資金に充てるために、一定の金融機関等から借り入れた借入金で一定の要件を満たすもの(第6号)

(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件更正処分は、住宅借入金等特別控除額を減少させることにより、還付金の額に相当する税額を減少させるものである。
ロ 請求人は、P市p町○○番地所在の既存住宅(昭和63年8月28日に新築された床面積が120.89平方メートルの家屋で、以下「本件既存家屋」という。)及び同所所在の新築の居住用家屋(床面積が160.12平方メートルの家屋で、以下「本件家屋」という。)について、次のとおり取得等をした。
(イ)請求人及び請求人の妻Aは、平成11年11月30日に本件既存家屋及びその敷地の用に供されている土地(地積が124.21平方メートルの土地で、以下「本件土地」という。)を株式会社Bから100,600,000円で取得した。
 なお、本件既存家屋及び本件土地の所有権の持分は、請求人が5分の4及びAが5分の1である。
(ロ)請求人は、平成11年11月30日に本件既存家屋及び本件土地の取得に要する資金に充てるため、C銀行D支店から償還期間を30年間として85,000,000円を借り入れ、この平成14年の年末残高は79,294,741円である。
(ハ)請求人は、平成12年3月26日に本件既存家屋を居住の用に供した。
(ニ)請求人は、平成13年3月5日に本件既存家屋を取り壊して、同年8月1日に本件土地上に本件家屋を43,604,000円で新築し、同日に本件家屋の床面積160.12平方メートルうち136平方メートルの部分を居住の用に供した。
 なお、本件家屋の所有権の持分は、請求人が100分の24、Aが100分の33、Eが100分の35及びFが100分の8である。
(ホ)請求人及びAは、平成13年9月18日に本件家屋の取得に要する資金に充てるため、住宅金融公庫から償還期間を30年間として23,500,000円を連帯債務により借り入れ、この平成14年の年末残高は22,520,845円である。
 なお、上記の連帯債務による借入金の負担割合は、請求人が44.53%及びAが55.47%である。
ハ 請求人は、平成12年分の所得税について、本件既存家屋及び本件土地の取得に係る借入金に対する住宅借入金等特別控除の適用を受けている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)更正の理由附記について
 本件更正処分に係る通知書には、住宅借入金等特別控除の適用が受けられないとする法律の根拠が明らかにされていないので、本件更正処分は、請求人の的確な反論等の機会を奪う不適切なものである。
(ロ)本件土地の取得に係る借入金に対する住宅借入金等特別控除の適用について
 既存住宅及びその敷地の用に供されている土地を取得し、これを居住の用に供した後、当該既存住宅を取り壊して、その土地上に家屋を新築した場合、当該土地の取得に係る借入金について、施行令第26条第7項第6号の規定を適用しないとする旨の規定はないところ、請求人は、上記1の(4)のロのとおり、本件土地を本件家屋の新築の日前2年以内に取得したから、本件土地の取得に係る借入金は、施行令第26条第7項第6号の規定に該当することとなる。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記イのとおり違法であるから、本件賦課決定処分は、その全部が取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)更正の理由附記について
 更正処分に係る通知書に更正の理由附記をしなければならないのは、所得税法第155条第2項の規定により、青色申告書に係る年分の事業所得の金額等の更正をする場合に限られているところ、本件更正処分は、住宅借入金等特別控除に係るものであるから、本件更正処分に係る通知書に具体的な法律の根拠を記載しなかったとしても、何ら違法ではない。
(ロ)本件土地の取得に係る借入金に対する住宅借入金等特別控除の適用について
 上記1の(4)のロ及びハのとおり、請求人は、平成11年11月30日に本件既存家屋とともに本件土地を取得し、平成12年分の所得税について、本件既存家屋及び本件土地の取得に係る借入金に対する住宅借入金等特別控除の適用を受け、その後、請求人は、平成13年8月1日に本件土地上に本件家屋を新築しているから、本件土地は、本件既存家屋に係る住宅借入金等特別控除の適用対象となり、本件既存家屋とともに取得されたもので、本件家屋とともに取得されたものではない。
 したがって、本件家屋に係る住宅借入金等特別控除を適用するに当たり、本件土地の取得に係る借入金については、住宅借入金等特別控除の対象とすることはできない。
(ハ)本件更正処分について
 上記(ロ)のとおり、本件土地の取得に係る借入金については、住宅借入金等特別控除の適用対象とすることはできないから、平成14年分の住宅借入金等特別控除額は、上記1の(4)のロの(ニ)及び(ホ)の借入金の年末残高22,520,845円に請求人の借入金の負担割合44.53%及び居住用割合85%(本件家屋の床面積160.12平方メートルに対する居住用家屋の部分の床面積136平方メートルの割合をいう。以下同じ。)を乗じた金額8,524,252円を基礎として算定すると、85,200円となる。
 そうすると、請求人の平成14年分の還付金の額に相当する税額は○○○○円となり、この金額は、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しないので、同条第1項の規定に基づき本件賦課決定処分を行ったことは適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 更正の理由附記について
 請求人は、本件更正処分に係る通知書には、住宅借入金等特別控除の適用が受けられないとする法律の根拠が明らかにされていない旨主張する。
 ところで、青色申告書を提出した者に対する更正処分であっても、青色申告の承認のあった所得以外の所得や税額控除について更正をする場合には、青色申告書以外の申告書に係る更正処分と同様に扱えば足り、理由附記を要しないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件更正処分は、上記1の(4)のイのとおり住宅借入金等特別控除額を減少させるものであるから、青色申告の承認を受けた所得以外の事項に係る更正であり、その理由を附記しなかったとしても、違法ではない。
 したがって、本件更正処分は、その理由附記の不備により違法とならないから、この点に関する請求人の主張は、採用することができない。
ロ 本件土地の取得に係る借入金に対する住宅借入金等特別控除の適用について
 請求人は、本件土地の取得に係る借入金は、施行令第26条第7項第6号の規定に該当する旨主張するので、以下審理する。
(イ)措置法第41条に規定している住宅借入金等は、大別して、〔1〕住宅の取得等に要する資金に充てるための一定の借入金等(以下「住宅の取得等に係る借入金等」という。)と、〔2〕居住用家屋又は既存住宅の取得とともにするこれらの家屋の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等(以下「土地等の取得に係る借入金等」という。)であるが、住宅借入金等特別控除の制度は、住宅取得促進税制の下において、創設当初から一貫して〔1〕の家屋に着眼した住宅の取得等に係る借入金等に限定して税額控除の対象とされていた。しかしながら、平成11年度の税制改正により住宅借入金等特別控除制度に改組され、住宅の取得等に係る借入金等に加えて、一定の要件を付した上で、〔2〕の家屋の敷地に着眼した土地等の取得に係る借入金等を、この制度の適用対象となる住宅借入金等の範囲に含めることとされたものである。
 そして、措置法第41条第1項には、居住用家屋又は既存住宅を居住の用に供した場合において、住宅借入金等には、住宅の取得等に係る借入金等に土地等の取得に係る借入金等を含める旨規定していることから、土地等の取得に係る借入金等が住宅借入金等特別控除の適用対象となるためには、その前提として、これらの家屋を居住の用に供していなければならず、当該家屋を本件のように取り壊すなどして居住の用に供しなくなった場合には、土地等の取得に係る借入金等も住宅借入金等特別控除の適用対象とならなくなるものと解される。
(ロ)これを本件についてみると、上記1の(4)のロのとおり、請求人は、平成11年11月30日に本件土地を取得し、平成13年8月1日に本件土地上に本件家屋を新築していることから、その新築の日前2年以内に本件土地を取得したこととなる。
 しかしながら、請求人は、平成11年11月30日に本件既存家屋及び本件土地を取得し、本件既存家屋を居住の用に供した上、上記1の(4)のハのとおり、本件既存家屋及び本件土地の取得に係る借入金に対する住宅借入金等特別控除の適用を受けていることから、本件既存家屋とともにその敷地の用に供されていた本件土地を取得したこととなり、本件土地の取得に係る借入金は、既に施行令第26条第7項第1号の規定に該当しているので、その後、同項第6号に規定する要件を満たしても当該規定を適用することはできない。
(ハ)そうすると、本件土地の取得に係る借入金は、本件既存家屋の取得に係る借入金に含めて住宅借入金等として住宅借入金等特別控除の適用対象となるが、本件家屋の取得に係る借入金に含めて住宅借入金等とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 本件更正処分について
 上記ロのとおり、本件土地の取得に係る借入金については、施行令第26条第7項第1号の規定に該当し、本件家屋の取得に係る借入金に含めて住宅借入金等とすることはできないから、平成14年分の住宅借入金等特別控除額は、上記1の(4)のロの(ニ)及び(ホ)の借入金の年末残高22,520,845円に請求人の借入金の負担割合44.53%及び居住用割合85%を乗じた金額8,524,252円を基礎として算定すると、85,200円となる。
 以上の結果、請求人の平成14年分の還付金の額に相当する税額は○○○○円となり、この金額は、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法であると認められる。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税を賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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