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(平16.12.13裁決、裁決事例集No.68 159頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の総額の計算に当たり、兄弟姉妹が相続人であるときの法定相続分の判定及び相続税法第18条《相続税額の加算》の適用の有無を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 審査請求人であるF及びG(以下「請求人ら」という。)は、平成14年12月4日に死亡したH(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の審査請求(平成16年7月25日請求)に至る経緯は、別表のとおりである(以下、同表の更正をすべき理由がない旨の通知処分を「本件通知処分」といい、更正処分を「本件更正処分」という。)。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成16年9月17日に当審判所に届け出た。

(3)関係法令

イ 民法第900条《法定相続分》第4号は、兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は相等しいものとするが、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする旨規定している。
ロ 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のものをいう。以下同じ。)第18条は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(その者又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算した金額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の兄弟姉妹である請求人らである。
ロ 本件被相続人及び相続人Fの実父母はJ、Kであり、相続人Gの実父母はL、Mである。
ハ Jは、Kと離婚後、Nと再婚し、昭和57年3月15日に死亡している。
ニ 本件被相続人及び請求人らは、J死亡後の昭和57年7月13日にNと養子縁組をしている。
ホ Nは、本件被相続人死亡前の平成14年9月13日に死亡している。

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2 主張

(1)請求人ら

原処分は、次の理由により違法であるので、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分及び本件通知処分について
(イ)本件相続に係る請求人らの法定相続分は、それぞれ2分の1である。なお、請求人らは、○○地方法務局へ本件相続に係る法定相続分について照会し、同法務局から、請求人らはNとの養子縁組により、本件被相続人の法律上の兄弟姉妹となり、父母の一方を相違する半血状態とはならず、法定相続分はそれぞれ2分の1となるとの回答を受け、その根拠として同法務局から次の昭和31年3月8日民事甲第322号民事局長回答の二、三及び四の事例(以下「本件事例」という。)の交付を受けている。
A 本件事例二
 甲乙夫婦間にABの2子があり、他方嫡出でない子C(丙の子ではない)を有する妻丁と夫丙との間にDを有する丙丁夫婦があり、乙丙死亡し、甲丁が婚姻、甲はCDを養子とし、丁はABを養子とした後、甲丁が死亡し、その後ACDのいずれか1人が死亡し兄弟姉妹が相続人になる場合におけるABCDの相続分は平等である。
B 本件事例三
 亡甲亡乙夫婦間にABCの養子があり、ABが実父母abの嫡出子であり、Cが実父母deの嫡出子であり、ABの実方にABと父母双方を同じくするDEがある場合でAが死亡し、兄弟姉妹が相続人になるときのBCDEの相続分は平等である。
C 本件事例四
 亡A亡B夫婦間にABCDの養子があり、ABが実父母abの嫡出子で、Cがbの嫡出でない子であり、Dが実父母deの嫡出子である場合に、Aが死亡し兄弟姉妹が相続人になるときのBCDの相続分は平等である。
(ロ)本件被相続人の一親等の血族であるNは本件相続開始前に死亡したため、Nの直系卑属である請求人らが代襲相続により、Nと同一順位で相続人となった。
 したがって、相続税法第18条のかっこ書により同条の規定の適用はない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法で取り消されるべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)も取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分及び本件通知処分について
(イ)Gは、Nとは養子縁組を結んでおり親子関係が認められるが、Jとは養子縁組を結んでいないことから、F及び本件被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹とは認められない。
 したがって、本件被相続人と父母の一方(N)のみを同じくするGの相続分は、本件被相続人と父母の双方(J、K)を同じくするFの相続分の2分の1となる。
(ロ)相続税法第18条のかっこ書は、被相続人の一親等の血族には、被相続人の一親等の血族が相続開始前に死亡したため相続人となった被相続人の直系卑属を含む旨規定しており、兄弟姉妹について規定したものではない。
 そうすると、請求人らは、相続税法第18条のかっこ書に該当しないことから、同条の規定が適用される。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実に、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められず、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、法定相続分の判定及び相続税法第18条の適用の有無にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分及び本件通知処分について

イ 請求人らの法定相続分について
(イ)民法の規定について
 民法第900条第4号は、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする旨規定している。
 また、養子縁組の効果について、民法第727条《縁組による親族関係の発生》は、養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけると同一の親族関係を生ずる旨規定している。つまり、養子は、縁組の日から、養親と親子関係が生じ、養親の子とは兄弟姉妹となる。
 そうすると、養子と養父母の親子関係は、実父母との親子関係と同様のものであるといえるから、父母の双方を同じくする兄弟姉妹であるか一方のみを同じくする兄弟姉妹であるかの判定に当たっては、実親であるか養親であるかの区別をする必要はないと考えられる。
(ロ)本件事例について
 請求人らが、その主張の根拠としている本件事例について、以下検討する。
A 本件事例二
 乙丙の死亡する前においては、Aの親は「実父甲、実母乙」、Bの親は「実父甲、実母乙」、Cの親は「実父不明、実母丁」、Dの親は「実父丙、実母丁」であったところ、乙丙死亡し、甲丁が婚姻、甲はCDを養子とし、丁はABを養子としたので、Aの親は「実父甲、養母丁」、Bの親は「実父甲、養母丁」、Cの親は「養父甲、実母丁」、Dの親は「養父甲、実母丁」となったものである。
 そうすると、実親であるか養親であるかの違いはあるもののABCDの親は「父甲、母丁」でそれぞれ同じであるから、ABCDは父母の双方を同じくする兄弟姉妹であるといえる。
B 本件事例三
 ABCは亡甲亡乙夫婦間の養子であったから、Aの親は「養父甲、養母乙」、Bの親は「養父甲、養母乙」、Cの親は「養父甲、養母乙」である。
 そして、ABは実父母abの嫡出子でもあるから、Aの親は「実父a、実母b」、Bの親は「実父a、実母b」でもあり、Cは実父母deの嫡出子でもあるから、Cの親は「実父d、実母e」でもある。また、DEはABの実父母と父母双方を同じくするので、Dの親は「実父a、実母b」、Eの親は「実父a、実母b」である。
 ここで、Aが死亡した場合、ABDEの実親は「実父a、実母b」で実父母が同じであるから、父母を同じくする兄弟姉妹といえ、また、ABCの養親は「養父甲、養母乙」で養父母が同じであるから、父母を同じくする兄弟姉妹といえる。
 そうすると、被相続人AとBCDEは、いずれも父母の双方を同じくする兄弟姉妹であるといえる。
C 本件事例四
 ABCDは亡A亡B夫婦間の養子であったから、Aの親は「養父亡A、養母亡B」、Bの親は「養父亡A、養母亡B」、Cの親は「養父亡A、養母亡B」、Dの親は「養父亡A、養母亡B」である。
 ABは実父母abの嫡出子でもあるから、Aの親は「実父a、実母b」、Bの親は「実父a、実母b」でもある。Cはbの嫡出でない子で、Dが実父母deの嫡出子でもあるから、Cの親は「実父不明、実母b」、Dの親は「実父d、実母e」でもある。
 ここで、Aが死亡した場合、被相続人AとBCDは、実父母はそれぞれ同じではないものの、養父母は「養父亡A、養母亡B」でそれぞれ同じであるから、ABCDは父母の双方を同じくする兄弟姉妹であるといえる。
D 以上のとおり、本件事例二、三及び四のいずれの事例も、被相続人とその相続人である兄弟姉妹のすべてが父母の双方を同じくする兄弟姉妹であるといえる事例であり、したがって、その相続分は平等であるとされた事例であるといえる。
(ハ)一方、法曹会昭和29年4月1日決議では、「被相続人の実母の死亡後に実父と縁組をした養子の相続分は、被相続人と父母を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1である」とされ、昭和32年6月27日民事甲第1119号民事局長回答では、「養子が死亡した場合に、その養子に実父母の双方を同じくする兄Aと、養父とその妻(養母ではない)との間に生れた弟Bがあるときは、ABとも相続人となるが、その相続分はAが3分の2、Bが3分の1である」とされる。
 ここで、上記法曹会決議の内容を検討すると、当該養子は被相続人の実父との養子縁組により、被相続人の実父と親子関係が成立し、また、被相続人と兄弟姉妹関係が成立しているが、被相続人の実母とは養子縁組ができなかったので、被相続人の実母とは親子関係が成立していない。そうすると、被相続人と当該養子は父のみを同じくしていることになるから、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹に当たるといえ、したがって、当該養子の相続分は、被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1であるとされたものと考えられる。
 同様に、上記民事甲第1119号民事局長回答の内容を検討すると、当該養子と兄Aは実父母の双方が同じであるから、父母の双方を同じくする兄弟姉妹に当たる。しかし、当該養子は養父の妻とは養子縁組をしておらず、養父の妻とは親子関係が成立していないから、当該養子と弟Bは父(当該養子にとっては養父、弟Bにとっては実父)のみを同じくしていることになる。そうすると、当該養子と弟Bは父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹に当たるから、その相続分は、Aが3分の2、Bが3分の1であるとされたものと考えられる。
(ニ)本件相続について
 本件被相続人と請求人らはいずれもNの養子であり、養母Nを通じて兄弟姉妹の関係にある。そして、本件被相続人とFの実親はともに「実父J、実母K」であるから、本件被相続人とFは、父母の双方を同じくする兄弟姉妹に当たる。
 しかしながら、Gの実親は「実父L、実母M」であり、また、養親は「養母N」のみであるから、上記(ハ)に掲げた二つの事例と同様であり、本件被相続人とGは、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹に当たるというべきである。
 そうすると、本件被相続人とFは父母の双方を同じくする兄弟姉妹であり、本件被相続人とGは父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹であるから、Gの相続分は、Fの相続分の2分の1となる。したがって、請求人らの各法定相続分は、Fが3分の2、Gが3分の1となる。
ロ 相続税法第18条の適用の有無について
(イ)相続税法第18条に規定する相続税額の2割加算の制度は、相続又は遺贈により財産を取得した者が被相続人との血族関係の疎い者である場合又は全く血族関係のない者である場合には、その財産の取得について偶然性が強く、また、被相続人が子を越して孫に直接遺産を遺贈することにより相続税の課税を1回免れることになるために設けられたものといわれている。
(ロ)このような趣旨から、相続税法第18条は、〔1〕被相続人の一親等の血族、〔2〕その者(被相続人の一親等の血族)又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属及び〔3〕配偶者については、相続税額の2割加算の対象から除くこととしている。
 この点につき、請求人らは、本件被相続人の一親等の血族である養母Nが本件被相続人の相続開始以前に死亡したため、Nの直系卑属である請求人らが被代襲者と同一順位で相続人となったのであるから、上記〔2〕に掲げる者に該当すると主張する。
(ハ)しかしながら、相続税法第18条は、上記(ロ)の〔2〕に掲げる者につき、「その者又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属」と規定しているところ、この規定振りは、民法第887条《子及びその代襲者》第2項及び第3項の被相続人の子の代襲相続の規定と同じである。そして、被相続人の一親等の血族には、子のほか親も該当するが、親については代襲相続が認められておらず、また、その親が被相続人の相続開始以前に死亡しても直ちに兄弟姉妹が相続人となるわけではないから、結局、上記(ロ)の〔2〕に掲げる者は、被相続人の子の代襲相続人に限られると解するほかはない。
 この点について、請求人らは、養母が本件被相続人の相続開始以前に死亡したため請求人らが相続人となったというが、適切ではない。なぜなら、請求人らは、本件被相続人に子もその代襲相続人もなく、かつ、本件被相続人の直系尊属も皆亡くなっていたことから、相続人となったものであり、養母という特定の者が本件被相続人の相続開始以前に死亡したために請求人らが相続人になったものではないからである。
(ニ)以上のとおり、本件被相続人の兄弟姉妹である請求人らは、上記(ロ)の〔2〕に掲げる者に該当しないから、相続税法第18条の規定の適用を受けることになる。
ハ 以上のとおり、本件相続に係る法定相続分及び相続税額の加算についての請求人らの主張はいずれも採用できず、また、相続財産及び葬式費用等について請求人らは争わず、当審判所が調査したところによっても相当と認められる。
 そうすると、請求人らの納付すべき税額は、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ニ 本件通知処分について
 国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、納付すべき税額が過大であった場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定しているところ、上記ハのとおり、請求人らの納付すべき税額は、申告に係る当該税額を上回ることから本件通知処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、これにより納付すべき税額の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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