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(平16.11.8裁決、裁決事例集No.68 203頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、遺産分割が確定したとして相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第32条《更正の請求の特則》の規定に基づいて行った更正の請求に対して、原処分庁が行った更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めた事案であり、争点は、遺産分割が家事審判によってなされた場合に、同条に規定する「第1号に規定する事由が生じたことを知った日」がいつになるのかという点である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成2年12月24日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の共同相続人6名(以下、相続放棄した1名を除く共同相続人5名を「本件相続人」という。)のうちの1名であるが、請求人は、被相続人の財産(以下「本件相続財産」という。)の一部が未分割である(以下、この未分割財産を「本件未分割財産」という。)として、被相続人の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に別表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「本件申告」という。)。
ロ 請求人は、本件相続に係る遺産分割が確定したとして、平成15年5月13日に別表の「更正の請求」欄のとおり更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成15年6月30日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件通知処分を不服として平成15年8月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成15年11月20日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年12月19日に審査請求をした。

(3)関係法令

 本件に関係する相続税法、民事訴訟法及び家事審判法の各規定は、別紙のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 被相続人の妻であるBは昭和53年12月11日に死亡し、Bの財産は本件申告の時点において未分割であったため、当該財産のうち被相続人の法定相続分である2分の1については、本件未分割財産に含まれている。
ロ 本件相続人は、請求人、C、D、E及びFであり、本件相続人は、本件未分割財産について民法の規定による相続分の割合に従って課税価格を計算して、本件申告をした。
ハ Eは、自己を除く他の本件相続人4名を相手方として、本件未分割財産及びBの財産の分割を定める審判をG家庭裁判所へ申し立てた。
ニ その後、請求人、C、D及びEは、本件相続財産に係る寄与分を定める審判をG家庭裁判所へ申し立てた。
ホ G家庭裁判所は、平成9年6月20日付審判で、本件相続財産を分割した。(上記ニの寄与分を定める処分の申立てについては却下した。)。
ヘ 請求人及びEは、上記審判を不服として平成9年7月8日付でH高等裁判所に即時抗告を行った。
ト H高等裁判所は、平成14年9月25日、本件相続財産の分割内容を一部変更し、また、寄与分を定める処分の申立てに対しては抗告を棄却する決定(以下「高裁決定」という。)をした。
チ 請求人は、高裁決定に対して、平成14年10月2日付でH高等裁判所に許可抗告の申立て及び特別抗告の書類提出を行ったところ、H高等裁判所は、許可抗告の申立てについて、平成14年○月○日付で許可抗告を許可しないとする決定をした。
リ 請求人は、上記決定に対して、平成14年○月○日付でH高等裁判所に特別抗告の書類提出を行った。
ヌ 最高裁判所は、平成15年○月○日、上記チ及びリの特別抗告をいずれも棄却する決定(以下「最高裁決定」という。)をした。
ル 請求人は、平成15年5月13日に本件更正の請求をした。

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2 主張

(1)請求人

相続税法第32条で規定する「事由が生じたことを知った日」とは、次の理由により、不服申立権の尽きた日すなわち最高裁決定がなされた平成15年○月○日となるので、その翌日から4月以内に行われた本件更正の請求は、適法な請求である。
したがって、これを否定してされた本件通知処分は違法であるから取り消されるべきである。
イ 相続税法第32条第1号は、未分割財産について、その後分割が行われ当初申告した課税価格と異なることとなったときには、その事由の生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り更正の請求をすることができる旨規定しているが、同号は遺産分割に関して提訴がされている場合の遺産分割の日を具体的に規定していない。
ロ 遺産分割に係る家事審判において、審判に不服のある者は、高等裁判所に対する抗告をすることができ、抗告審の決定に不服のある者は、許可抗告あるいは特別抗告が認められている。そして、抗告、許可抗告を申し立てあるいは特別抗告をしている間は紛争が継続し、原決定が変更される可能性がある以上、これらの不服申立てに対する決定がされない限りは、いかように相続するのか相続人は覚知できない。
したがって、相続税法第32条で規定する「事由が生じたことを知った日」とは、不服申立権の尽きた時点であることは明らかである。

(2)原処分庁

 相続税法第32条で規定する「事由が生じたことを知った日」とは、次の理由により、即時抗告に対する高裁決定がされた平成14年9月25日が審判の日、すなわち遺産分割の日となるので、その翌日から4月を徒過した平成15年5月13日付の本件更正の請求に対して行った本件通知処分は適法である。
イ 相続税法第32条第1号の規定は、国税通則法第23条に定める一般的な規定に対し、相続税法特有の事由があることから、国税通則法に定める更正の請求の期限後においても、後発的事由に基づき特例的に更正の請求を認めるために設けられたもので、未分割財産について民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分に従って課税価格が計算され課税された後に遺産分割が行われた結果、当初計算されていた課税価格又は税額が過大となった場合、遺産分割が行われた日の翌日から4月以内に行う更正の請求を認めようとするものと解されている。
ロ 遺産分割に係る家事審判に対して即時抗告がされたときに、民事訴訟法上、当該即時抗告に対する決定は確定判決と同様の効力を生じるが、審判に対する抗告のうち、許可されなかった許可抗告及び特別抗告については、原決定の執行停止の効力を有しないとされるため、平成15年○月○日の最高裁判所の特別抗告棄却の決定が、遺産分割を行ったこととは認められないこととなる。
ハ そうすると、即時抗告に対する高裁決定がされた平成14年9月25日が審判の日、すなわち遺産分割の日となるので、その翌日から4月以内である平成15年1月27日までに更正の請求をする必要がある。

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3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件相続財産のうち、現金、預金及び貯金(以下「現金預金等」という。)については、本件相続人間で作成された平成3年6月17日付の遺産分割協議書に基づいて、本件相続人が5分の1ずつ取得している。
ロ 請求人は、本件申告において、その取得財産を現金預金等54,911,825円及び現金預金等以外の財産○○○○円を合計した金額○○○○円としている。
ハ 高裁決定の内容等は、次のとおりである。
(イ)請求人は、次表の財産を取得する。
 なお、本件申告によれば、請求人が取得すると決定された取得財産の価額は、次表の「相続税評価額」欄のとおり、その合計金額は209,955,616円である。

(ロ)請求人は、上記(イ)の財産取得に伴い、本件相続人のうちC、D及びFに対して代償金として総額5,613,647円を支払う。
ニ G家庭裁判所は、当審判所からの上記1の(4)のホの審判申立てに係る確定日等についての照会文書「照会について」に対し、平成16年6月2日付で、審判確定日を平成14年9月28日、審判確定理由を抗告審における一部破棄、一部自判の決定である旨の回答、また、この確定日は、高裁決定に係る文書を請求人に送達した日である旨の回答をした。
(2)相続税法第32条に規定する「第1号に規定する事由が生じたことを知った日」について
イ 請求人は、相続税法第32条第1号は、遺産分割に関して提訴がされている場合の遺産分割の日を具体的に規定しておらず、遺産分割の審判において許可抗告の申立て及び特別抗告により、原決定である高裁決定が変更される可能性がある以上、遺産分割の方法を覚知できないことから、同条に規定する「事由が生じたことを知った日」は、不服申立権の尽きた日すなわち最高裁決定がなされた平成15年○月○日である旨主張する。
ロ ところで、相続税法第32条の規定による更正の請求は、本件のように分割されていない財産がその後当該財産が分割されたことに基因するものにあっては、同条第1号に規定する「財産の分割が行われたこと」を要件としているので、まず、この点について検討する。
 相続税法第32条は、ひとたび確定した課税価格等を新たに生じた事由に基づき、既に確定している課税価格及び相続税額が過大となった者に更正の余地を与えようとする特則規定であることにかんがみ、財産の分割が、協議、調停、審判あるいは判決により解決した場合には、そのときに財産の分割が行われたと解するのが、同条の趣旨に沿う解釈といえる。
 本件においては、審判による分割の申立てがされており、本件相続に関する審判は、遺産の分割を定める審判及び遺産に係る寄与分を定める審判の申立てについての決定を不服として、請求人及びEが即時抗告し、当該即時抗告について高裁決定がされ、請求人は、高裁決定に対して許可抗告の申立て及び特別抗告をし、許可抗告を許可しないとする決定に対してさらに特別抗告をし、これらの特別抗告がいずれも棄却されたというものである。
 そうすると、本件においては、許可抗告の申立てが、特別抗告の提起に原裁判である高裁決定の確定を遮断する効力はなく、当然の執行停止の効力もないから、即時抗告に対する高裁決定のときが審判が確定した日となり、審判確定によって分割内容が終局的に定まることとなる。したがって、審判確定日が本件未分割財産の分割が行われたときとなる。
ハ 次に、財産の分割が行われたことを知った日について検討すると、決定及び命令は、告知することによって効力を生ずるから、高裁決定がされ、当該決定について告知された日、すなわち、上記(1)のニのとおり、高裁決定に係る文書が請求人に送達された日である平成14年9月28日が財産の分割が行われたことを知った日となり、当該日は審判確定日と同一日となる。
以上のとおりであるから、これに反する不服申立権の尽きた日すなわち最高裁決定がなされた平成15年○月○日が財産の分割が行われたことを知った日とする請求人の主張には理由がないというべきであり、上記平成14年9月28日の翌日から4月を経過した日を徒過してなされた本件更正の請求は、適法な更正の請求ということはできない。
(3)本件相続に係る請求人の課税価格及び納付すべき税額(以下「課税価格等」という。)について
イ 本件においては争点となっていないが、相続税法第32条の規定による更正の請求は、同条各号の一に該当する事由により、既に確定している課税価格及び相続税額が過大となったことが要件となるので、この点について、以下検討する。
ロ 請求人は、本件相続に係る遺産分割が確定したことにより、当初申告した課税価格等が過大となったとして、本件更正の請求をしたものであるが、本件更正の請求は、既に遺産分割済みである現金預金等54,911,825円並びに上記(1)のハの(イ)の〔6〕及び〔7〕の財産1,620,136円が計上漏れとなっていることが認められることから、当該部分を加算した上で請求人の課税価格等を再計算すると、次のとおりとなる。
(イ)請求人の課税価格は、上記(1)のロの現金預金等54,911,825円及び上記(1)のハの(イ)の金額209,955,616円の合計金額264,867,441円から、上記(1)のハの(ロ)の代償金5,613,647円及び債務控除○○○○円を差し引いた金額○○○○円(1,000円未満切捨て)となる。
(ロ)請求人の納付すべき税額は、別表の〔5〕の相続税の総額489,971,700円に、上記(イ)の課税価格○○○○円が別表の〔4〕課税価格○○○○円に占める割合(○○○○/○○○○)を乗じた金額101,989,600円(100円未満切捨て)となる。
ハ 請求人の課税価格等は、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおりであるから、これらの額は本件申告の請求人の課税価格○○○○円及び納付すべき税額97,672,700円(別表の「申告」欄)をいずれも上回ることとなる。
 そうすると、財産の分割により既に確定している課税価格及び相続税額が過大となったことにはならないことから、本件更正の請求は、この点においても、適法な更正の請求ということはできない。
(4)以上によれば、本件更正の請求は、相続税法第32条に規定する更正の請求の期限を徒過してなされたものであり、また、本件更正の請求は、同条に規定する要件である財産の分割により既に確定している課税価格及び相続税額が過大となったことによりなされたものではないことから、原処分庁がした本件通知処分は適法である。
(5)その他
原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別紙

1 相続税法の規定
(1)相続税法第32条は、相続税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、同条第1号に規定する同法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分に従って計算された課税価格と異なることとなったこと等により、当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大になったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき国税通則法第23条《更正の請求》第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。
(2)相続税法第55条は、相続により財産を取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合において、当該相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない旨規定している。
2 家事審判法及び民事訴訟法の規定
(1)家事審判法
イ 第13条は、審判は、これを受ける者に告知をすることによってその効力を生じる。ただし、即時抗告をすることのできる審判は、確定しなければその効力を生じない旨規定している。
ロ 第14条は、審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる。その期間は、これを2週間とする旨規定している。
(2)民事訴訟法
イ 第116条《判決の確定時期》第1項は、判決は、控訴若しくは上告(第327条第1項(第380条第2項において準用する場合を含む。)の上告を除く。)の提起、第318条第1項の申立て又は第357条(第367条第2項において準用する場合を含む。)若しくは第378条第1項の規定により異議申立てについて定めた期間の満了前には、確定しない旨、第116条第2項は、判決の確定は、前項の期間内にした控訴の提起、同項の上告の提起又は同項の申立てにより、遮断される旨規定している。
ロ 第119条《決定及び命令の告知》は、決定及び命令は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる旨規定している。
ハ 第327条《特別上告》第1項は、高等裁判所が上告審としてした終局判決に対しては、その判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに限り、最高裁判所にさらに上告することができる旨、同条第2項は、前項の上告及びその上告審の訴訟手続には、その性質に反しない限り、第二審又は第一審の終局判決に対する上告及びその上告審の訴訟手続に関する規定を準用する旨規定している。
ニ 第334条《原裁判の執行停止》第1項は、抗告は、即時抗告に限り、執行停止の効力を有する旨、同条第2項は、抗告裁判所又は原裁判をした裁判所若しくは裁判官は、抗告について決定があるまで、原裁判の執行の停止その他必要な処分を命ずることができる旨規定している。
ホ 第336条《特別抗告》第1項は、高等裁判所の決定及び命令に対しては、その裁判に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由にするときに、最高裁判所に特に抗告をすることができる旨、同条第3項は、第1項の抗告及びこれに関する訴訟手続には、その性質に反しない限り、第327条第1項の上告及びその上告審の訴訟手続に関する規定並びに第334条第2項の規定を準用する旨規定している。
ヘ 第337条《許可抗告》第1項は、高等裁判所の決定及び命令に対しては、第336条第1項の規定による場合のほか、その高等裁判所が次項の規定により許可したときに限り、最高裁判所に特に抗告ができる旨、同条第2項は、前項の高等裁判所は、同項の裁判について、最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には、申立てにより、決定で、抗告を許可しなければならない旨規定している。

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