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(平16.12.9裁決、裁決事例集No.68 217頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の適用に関して、基準期間における審査請求人(以下「請求人」という。)の課税売上高が3,000万円以下であるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、住宅の製図設計を営む者であるが、平成13年1月1日から同年12月31日までの課税期間及び平成14年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下、順次「平成13年課税期間」及び「平成14年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、いずれも確定申告書を提出しなかった。
ロ 原処分庁は、これに対し、請求人の本件各課税期間の基準期間に当たる平成11年1月1日から同年12月31日まで及び平成12年1月1日から同年12月31日までの各期間(以下、順次「平成13年基準期間」及び「平成14年基準期間」といい、これらを併せて「本件各基準期間」という。)における課税売上高は3,000万円を超えるから、本件各課税期間の消費税について、請求人は消費税法第9条第1項に規定する納税義務を免除されることとなる事業者(以下「免税事業者」という。)に該当しないとして、別表1の「決定処分等」欄のとおり消費税等の各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 異議申立てから審査請求(平成16年5月24日)に至る経緯及びその内容は、別表1のとおりである。

(3)関係法令

イ 消費税法第2条《定義》第1項第14号において、基準期間とは、個人事業者についてはその年の前々年をいう旨規定している。
ロ 消費税法第9条第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、消費税を納める義務を免除する旨規定している。
ハ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税の控除》第1項は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定しており、同条第7項は、事業者が当該課税期間の課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れの税額については適用しない旨規定している。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各決定処分について
(イ)請求人の業務形態
 原処分庁の調査及び請求人の申述等によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、住宅の設計及び監理業務を主として行っているほか、新築工事及び増改築工事を直接注文者から請け負うこともある。
B 請求人は、請負工事の場合には、注文者との間で工事代金の総額を決定しているものの、請求人自身が建設業の許可を受けていないことから、請負工事に係る契約書について建築工事を行う大工の名義を借用し締結している。
C 請求人は、別表2に掲げる工事(以下「本件工事」という。)に係る代金の総額を注文者から受領し、注文者に対して領収証も請求人名で作成し交付している。
 なお、当該領収証は、工事代金と設計及び監理料が区分されていない。
D 請求人は、本件工事に係る材料等の仕入先、大工及びその他の外注先(以下「本件工事関係者」という。)の選定及びその代金の支払を自ら行っている。
(ロ)納税義務の有無
 本件工事は、上記(イ)のことから、請求人が注文者から受注し、建築工事を行う業者に外注しているものにほかならないと認められるので、請求人の本件工事における収入金額の全額が課税売上高となる。
 そうすると、原処分庁が請求人及び取引先等を調査した結果によれば、本件各基準期間における課税売上高が別表3の「原処分庁」の「合計」欄のとおり3,000万円を超えるため、請求人は、消費税法第9条に規定する免税事業者には該当せず、本件各課税期間の消費税を納める義務がある。
(ハ)課税標準額
 課税標準額は、別表4の本件各課税期間における課税売上高の「原処分庁」の「合計」欄に105分の100を乗じた金額(1,000円未満の端数を切捨て)で、別表5の「原処分庁」欄のとおり、平成13年課税期間27,806,000円及び平成14年課税期間1,256,000円となる。
(ニ)課税標準額に対する消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、上記(ハ)の課税標準額に100分の4を乗じた金額で、別表5の「原処分庁」欄のとおり、平成13年課税期間1,112,240円及び平成14年課税期間50,240円となる。
(ホ)控除対象仕入税額
 請求人は、原処分に係る調査担当者(以下「調査担当者」という。)に対して、帳簿は作成しておらず請求書等は全て処分した旨申し述べており、かつ、請求書等を保存しないことについてやむを得ない事情があるとは認められないから、消費税法第30条第1項に規定する仕入れに係る消費税の控除の額(以下「仕入税額控除」という。)を本件各課税期間の消費税額から控除することはできない。
(ヘ)納付すべき消費税額
 納付すべき消費税額は、上記(ニ)の課税標準額に対する消費税額と同額(100円未満の端数を切捨て)で、別表5の「原処分庁」欄のとおり、平成13年課税期間1,112,200円及び平成14年課税期間50,200円となる。
(ト)地方消費税の課税標準となる消費税額
 地方消費税の課税標準となる消費税額は、上記(ヘ)の納付すべき消費税額と同額で、別表5の「原処分庁」欄のとおり、平成13年課税期間1,112,200円及び平成14年課税期間50,200円となる。
(チ)納付すべき譲渡割額
 納付すべき譲渡割額は、上記(ト)の地方消費税の課税標準となる消費税額に100分の25を乗じた金額(100円未満の端数を切捨て)で、別表5の「原処分庁」欄のとおり、平成13年課税期間278,000円及び平成14年課税期間12,500円となる。
(リ)納付すべき合計税額
 納付すべき合計税額は、上記(ヘ)の納付すべき消費税額及び上記(チ)の納付すべき譲渡割額の合計金額で、別表5の「原処分庁」欄のとおり、平成13年課税期間が1,390,200円及び平成14年課税期間が62,700円となる。
 以上のとおり、本件各課税期間の消費税等の額は、別表1の「決定処分等」欄のとおりであるから、本件各決定処分は、いずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 以上のとおり、本件各決定処分はいずれも適法であり、また、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないので、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるからその全部を取り消すべきである。
イ 請求人の業務形態
(イ)請求人の本件工事に係る収入金額は、工事代金の総額から本件工事関係者の取り分を差し引いた残り(設計・監理料)である。
(ロ)請求人は、本件工事関係者に対して、マージンを取らずにそのまま支払っており、請求人には利益がない。
ロ 納税義務の有無
(イ)請求人の本件各基準期間の課税売上高は、3,000万円以下であるから、本件各課税期間に係る消費税等の納税義務はない。
(ロ)仮に、消費税等の納税義務があるにしても、請求書及び領収証等の書類は、所得税の確定申告の際に原処分庁に持参していたのであるから、仕入税額控除を認めるべきである。

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3 判断

(1)本件各決定処分について

 本件の主な争点は、本件各基準期間における請求人の課税売上高が3,000万円以下であるか否かにあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、当審判所に対して、要旨次のように答述している。
A 工事契約に至る経緯等について
(A)注文者から住宅工事の依頼を受け、注文者の要望を聴いて図面を作成する。
(B)作成した図面を注文者に提示し、了解が得られれば、材料等の仕入先、大工及びその他の外注先に予算の見積りを依頼する。
(C)集まった見積書により工事別集計表を作成し注文者に提示する。
(D)金額の折り合いがつかない場合には、再度、見積りを業者に依頼する。
(E)注文者に再度見積書を提示し、内諾が得られれば、工事契約書を作成する。
B 工事契約書の請負者欄には、請求人がP県知事から建設業の許可を受けていないことから、工事別集計表に記載されている「木工事」を担当する大工の氏名を記載している。
C 工事代金については、請求人が注文者からその全額を受領し、請求人が材料等の仕入先、大工及びその他の外注先に直接支払う方法により行っている。
(ロ)原処分庁の調査担当者は、注文者及び本件工事関係者を調査した結果に基づき、当審判所に対し、要旨次のように答述している。
A 別表2の「注文者」欄のE、F及びGは、本件工事を請求人に依頼している。
B 別表2の「請負者」欄のHは、本件工事については「木工事」を担当していたが、請求人からの請負工事ではなく、手間仕事として参加し、手間賃しかもらっていない。
C 本件工事関係者は、請求人から受注し、その請求書及び領収証を請求人に対して発行している。
D 本件工事関係者に対する代金は、請求人が現金を持参して支払っている。
(ハ)請求人が平成12年12月22日にGに対して交付した「御見積書」及び「工事別集計表」によれば、次の事実が認められる。
A 工事別集計表には、基礎工事、木工事、金属建具工事、電気設備工事などに区分された各工事名及びそれぞれの金額が記載されている。
B 上記のそれぞれの「金額」欄には、請求人が本件工事関係者から徴した見積書の金額から消費税額を除いた金額が記載され、「合計」欄には、諸経費及び消費税額を加算した金額が記載されている。
C 「御見積書」の「御見積金額」欄には、工事別集計表の合計額が記載されている。
(ニ)請求人は、調査担当者に対して本件工事について要旨次のように申述している。
A 契約書の作成
(A)請求人は、木工事を行う大工から「請負者」欄に署名及び押印をしてもらっている。
(B)請求人は、「監理技師」欄に自署及び押印した後、注文者から「注文者」欄に署名及び押印をしてもらっている。その際に大工を注文者に紹介している。
(C)上記(A)及び(B)の方法により、請求人が契約書を作成する理由は、請求人が一級建築士の資格を所持しているものの、設計が専門であり建設業の許可を取得していないことから、請負金額が500万円以上の工事はできないため、木工事を行う大工の名義を借用する必要があったからである。
B 工事代金の受領及び支払
(A)請求人は、注文者から現金又は請求人名義の銀行口座への振込みにより代金を受領し、注文者に対して領収証を交付している。
(B)請求人は、本件工事関係者からの請求書に基づき、本件工事関係者に現金を持参して支払っている。場合によっては、本件工事関係者に取りに来てもらうこともある。
C 帳簿及び書類
 請求人は、事務所兼自宅を新築し、平成15年5月頃に転居した際に、それまで保管していた契約書、支払先からの請求書及び領収証等を廃棄処分した。
 また、建築工事に係る取引状況を記載した帳簿を作成していない。
ロ 請求人の業務形態
 本件工事は、契約書の「請負者」欄に木工事を行う大工の署名及び押印があるものの、その実態は、上記イの(ロ)ないし(ニ)のとおり、請求人が自ら注文者から本件工事を受注し、区分された工事ごとに本件工事関係者に対して発注したものであると認められる。
 さらに、上記イの(イ)の請求人の答述も併せ総合判断すると、請求人は、本件各基準期間及び本件各課税期間を通して、本件工事以外の工事についても同様であると推認され、請求人の業務形態は、自己の危険と計算において注文者から建築工事の全体を請け負っているものと認めるのが相当である。
ハ 消費税
(イ)納税義務の有無
 請求人は、本件工事に係る自己の実質の収入金額は、設計・監理料のみであるから本件各基準期間の課税売上高は3,000万円以下で、本件各課税期間に係る消費税の納税義務がない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記ロのとおり、建築工事の全体を請け負っているものと認めるのが相当であるから、請求人の本件工事に係る収入金額の全額が課税売上高となり、設計・監理料のみを課税売上高だとする請求人の主張は、採用することができない。
 そして、当審判所が調査した結果によれば、本件各基準期間における課税売上高は、別表3の「審判所認定額」の「合計」欄に記載したとおり、平成13年基準期間36,895,250円及び平成14年基準期間82,771,764円となり、いずれも3,000万円を超えていることから、請求人は、消費税法第9条第1項に規定する免税事業者には該当せず、本件各課税期間に係る消費税を納める義務がある。
(ロ)課税標準額
 本件各課税期間における課税売上高は、上記ロで述べたとおり、請求人が建築工事の全体を請け負ったと認められることから、別表4の「審判所認定額」の「合計」欄に記載したとおり、平成13年課税期間29,196,500円及び平成14年課税期間1,319,580円となる。
 したがって、課税標準額は、本件各課税期間における課税売上高に105分の100を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成13年課税期間27,806,000円及び平成14年課税期間1,256,000円となる。
(ハ)課税標準額に対する消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、上記(ロ)の課税標準額に100分の4を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成13年課税期間1,112,240円及び平成14年課税期間50,240円となる。
(ニ)控除対象仕入税額
 当審判所の調査によれば、請求人は、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する届出書を提出していないことから、仕入税額控除については、同法第30条第1項の規定が適用されることとなる。
 ところで、請求人は、仮に消費税の納税義務があるにしても、請求書及び領収証等の書類は、所得税の確定申告の際に原処分庁に持参していたのであるから、仕入税額控除を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、消費税法第30条第7項にいう「保存」とは、ただ単に帳簿及び請求書等が事業者の支配下に存在するというだけでは足りず、適法な税務調査に際し、税務職員から帳簿等の提示を求められたときには正当な事由がない限りこれに応じ、当該職員においてこれを確認し得る状態に置くべきことも含むと解されている。
 そうすると、上記イの(ニ)のCのとおり、請求人は、建築工事に係る取引状況を記載した帳簿を作成しておらず、さらに、平成15年5月頃の転居の際に、それまで保管していた契約書、支払先からの請求書及び領収証等を廃棄処分していることから、消費税法第30条第7項に規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するので、同条第1項に規定する仕入税額控除を認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)納付すべき消費税額
 納付すべき消費税額は、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成13年課税期間1,112,200円及び平成14年課税期間50,200円となる。
ニ 地方消費税
(イ)課税標準となる消費税額
 地方消費税の課税標準となる消費税額は、上記ハの(ホ)の納付すべき消費税額と同額で、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成13年課税期間1,112,200円及び平成14年課税期間50,200円となる。
(ロ)納付すべき譲渡割額
 納付すべき譲渡割額は、上記(イ)の課税標準となる消費税額に100分の25を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成13年課税期間278,000円及び平成14年課税期間12,500円となる。
ホ 納付すべき合計税額
 本件各課税期間の納付すべき合計税額は、上記ハの(ホ)の納付すべき消費税額に上記ニの(ロ)の納付すべき譲渡割額を加算し算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成13年課税期間1,390,200円及び平成14年課税期間62,700円となる。
 以上のとおり、納付すべき合計税額は、平成13年課税期間1,390,200円及び平成14年課税期間62,700円となり、原処分庁が主張する金額と同額であるから、本件各決定処分は、いずれも適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各決定処分は、いずれも適法であり、また、請求人が期限内申告書を提出しなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合には該当しないので、同項及び地方消費税法附則第9条の9第1項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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