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(平16.11.24裁決、裁決事例集No.68 285頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、公売財産に係る見積価額の決定(公告)処分の手続の適否を主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有するP市p町○番○の土地178.5平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同所所在の家屋番号○番の建物93.77平方メートル(以下「本件建物」といい、「本件土地」と併せて「本件公売財産」という。)を平成16年8月9日付の公売公告兼見積価額公告(公売公告第○号売却区分番号○)において、本件公売財産の見積価額を5,516,000円とする見積価額の決定(公告)処分(以下「本件見積価額の決定(公告)処分」という。)をするとともに、請求人に対して同日付で公売の通知(以下「本件公売通知」という。)をした。
ロ 請求人は、本件見積価額の決定(公告)処分及び本件公売通知に不服があるとして、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第2号ロの規定により、平成16年9月7日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人

イ 本件見積価額の決定(公告)処分について
 本件公売財産を請求人が自ら処分すると最低でも11,000,000円程度の金額で処分できることから、本件公売財産の見積価額の5,516,000円は低廉である。
ロ 本件公売通知について
(イ)平成12年の初めに、滞納している国税の額が10,000,000円を切るよう納税すれば残額を免除するという原処分庁の徴収担当職員との口頭の約束があったにもかかわらず、何ら免除されないまま本件公売通知がされた。
(ロ)原処分庁は、請求人が滞納していた国税を平成16年7月22日に100,000円、同年9月7日に1,000,000円それぞれ納付したにもかかわらず、請求人の意思を確認することなく一方的に本件公売通知をした。
ハ 以上のとおり、本件見積価額の決定(公告)処分及び本件公売通知は違法、不当であり、その全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

イ 本件見積価額の決定(公告)処分について
 本件公売財産の見積価額の決定(公告)処分に際しては、不動産鑑定士に本件公売財産の評価時点における評価を委託し、その鑑定評価額が評価時点における客観的な時価として適正であったと認められたことから、当該鑑定評価額を基礎として公売時点までの時点修正等を行い、その上で本件公売財産の見積価額を5,516,000円と決定したものであり、本件見積価額の決定(公告)処分は適法であるから、これに対する審査請求を棄却するとの裁決を求める。
ロ 本件公売通知について
 公売の通知は行政処分ではなく審査請求の対象となるものではないことから、本件公売通知に対する審査請求を却下するとの裁決を求める。

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3 判断

本件審査請求の争点は、本件見積価額の決定(公告)処分及び本件公売通知の適否にあるので、以下審理する。

(1)本件見積価額の決定(公告)処分について

イ 原処分庁提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)原処分庁は、本件公売財産の見積価額の決定(公告)処分に際して、不動産鑑定士から不動産鑑定評価書を徴している。
(ロ)上記(イ)の不動産鑑定評価書によれば、本件建物については、昭和54年9月頃竣工で築後24年を経過しており、経済価値的には今後の耐用年数に多くを期待できず、本件建物を取り壊し更地化することが望ましいため、本件公売財産の鑑定評価は、取り壊し最有効使用の評価を行うものとし、類似地域における取引事例の中から規範性の高い事例を選択し、各種補正を施すなどの手法により価格を算定する取引事例比較法の適用により更地としての価格を求めたうえ、取壊し等費用相当額を控除して鑑定評価額を決定するとしている。
(ハ)上記(ロ)の結果、本件土地の更地価格の8,600,000円から本件建物の取壊し等費用相当額の940,000円を控除した7,660,000円をもって本件公売財産の鑑定評価額としている。
 なお、本件公売財産の鑑定評価額の価格時点は平成15年5月1日であり、また、本件土地の評価に当たっては、地価公示標準地価格との均衡にも留意されている。
(ニ)原処分庁は、公売予定月が、上記(ロ)及び(ハ)により算定された本件公売財産の鑑定評価額7,660,000円(以下「本件鑑定評価額」という。)の鑑定時よりおおむね1年を経過することとなること及び最近の地価下落傾向の継続を考慮するとして、本件鑑定評価額からその10%の766,000円を減額し、更に、減額後の6,894,000円から、公売の特殊性を考慮するとしてその20%の1,378,800円を控除し1,000円未満の金額を切り上げた5,516,000円をもって本件公売財産の見積価額としている。
ロ 国税徴収法第98条《見積価額の決定》は、「税務署長は、公売財産の見積価額を決定しなければならない。この場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる。」旨規定しており、その趣旨は、公売価額を適正なものとし、特に低廉となることを防止して、最低公売価額を保障するために設定するものであり、また、その方法は、公売財産の客観的な時価を基準として、公売の特殊性を考慮することとされている。
 ところで、公売財産の客観的な時価とは、公売財産と同種類、同等又は類似の財産の最近における売買実例若しくは取引相場又はその財産の再調達原価及び収益還元価額等に基づき算定されるものである。
 また、公売には、換金を目的とした強制売却であること等の特殊性があることにより、公売財産の見積価額は客観的な時価を相当に下回るのが通例である。
 ただし、公売財産の見積価額が客観的な時価と比較して低廉で、ひいては公売価額が客観的な時価より著しく低額であるときは、その見積価額の決定(公売)処分も違法となると解されている。
 そして、公売価額が客観的な時価より著しく低廉であると認定する基準は、個々の公売処分によって具体的事情が相当異なり、しかも、基準となる時価も多少の幅があるため、一律に決めることは難しいことから、公売財産の評価事務を適正に実施するために、実務上、国税庁長官通達「公売財産評価事務提要」は、公売の特殊性に伴う調整の限度を客観的な時価のおおむね30%程度の範囲内とする旨定めているところ、公売の特殊性を考慮した見積価額の決定の趣旨からすれば、当審判所においてもその割合は相当であると認める。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)原処分庁が本件公売財産の見積価額の算定の基礎とした本件鑑定評価額は、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、最有効使用の評価をし、取引事例比較法により査定した本件土地の更地価格から本件建物の取壊し等費用相当額を控除して算定しており、この評価方法を不相当とする理由があるとは認められない。
 また、原処分庁は、上記イの(ニ)のとおり、公売予定月が本件鑑定評価額の鑑定時よりおおむね1年を経過することとなること等を考慮するとして、本件鑑定評価額からその10%の766,000円を減額しているが、これは、本件鑑定評価額の鑑定時と公売予定月とに隔たりがあり、その間に価格変動があったため、本件鑑定評価額を公売予定月の価格に時点修正をしたものであると認められるから時点修正による減額は相当であり、その計算過程にも不合理な点は認められない。
 さらに、原処分庁は、上記イの(ニ)のとおり公売の特殊性を考慮し、本件鑑定評価額から上記の時点修正による減額をした後の金額から、更にその20%を減額しているが、これは、公売の特殊性に伴う調整として上記ロの国税庁長官通達「公売財産評価事務提要」で定める客観的な時価のおおむね30%程度の範囲内で行われたものと認められ、この調整を不相当とする理由があるとは認められない。
 以上のことから、本件公売財産の見積価額の5,516,000円は適正に算定されたものと認めるのが相当である。
(ロ)ところで請求人は、上記2の(1)のイのとおり主張するものの、その根拠については、当審判所に対して「長年、不動産仲介業をしている経験及び相場からすると、本件公売財産は11,000,000円程度で売却できる物件である。」と答述するのみで、具体的な説明及びこれを証する証拠を提出しなかった。
 そうすると、請求人が主張する売却価額は請求人の希望する価額に過ぎないと認めるのが相当であり、また、上記ロのとおり、公売財産の見積価額は、最低公売価額を示すものであり、しかも、客観的な時価を相当に下回るのが通例であることからすれば、低廉であることをもって本件公売財産の見積価額を直ちに違法であるとすることはできないところ、上記(イ)のとおり本件公売財産の見積価額の5,516,000円は適正なものと認めるのが相当であるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)したがって、本件見積価額の決定(公告)処分は何ら違法、不当ではない。

(2)本件公売通知の適否について

 請求人は、上記2の(1)のロのとおり主張し本件公売通知の取消しを求めているが、公売の通知は、国税局長が公売公告した場合において、滞納者に対して最後の納付の機会を与えるため、公売の日時、場所、公売保証金の金額、買受代金の納付の期限等、公告すべき事項等を通知するものにすぎず、それ自体として納税者の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものでなく、行政処分には当たらないと解されている。
 そうすると、本件公売通知は国税通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に該当しないこととなるので、この点に関する請求人の主張の適否を検討するまでもなく、本件公売通知の取消しを求める審査請求は不適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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