ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.69 >> (平17.6.13裁決、裁決事例集No.69 46頁)

(平17.6.13裁決、裁決事例集No.69 46頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の申告に際し、申告書の作成を依頼した税理士に対して相続財産の一部である被相続人名義の定期預金等の存在を知らせず、これを申告書に記載させずに申告をした場合に、重加算税の賦課要件である隠ぺい又は仮装の行為があったか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、被相続人A(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書(以下「本件当初申告書」という。)に、別表1の「当初申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告(以下「本件当初申告」という。)した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当者」という。)から被相続人名義の定期預金等が申告されていないとして修正申告のしょうようを受け、平成16年1年13日に本件相続に係る相続税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成16年2月26日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下、この重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として平成16年4年20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年7月9日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成16年8月6日に審査請求をした。

(3)関係法令

 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 被相続人は平成14年7月21日に死亡し、被相続人の妻B(以下「母B」という。)、請求人、C及びDの4名(以下「本件共同相続人ら」という。)が相続により、また、被相続人の孫(請求人の長男)であるEが遺贈により、それぞれ被相続人の財産を取得した。
ロ 請求人は、F税理士に対し本件当初申告書の作成を依頼し、妻Gに指示して本件当初申告書を作成するための資料の収集等を行わせた。妻Gは、F税理士に対して被相続人の財産のうちH信用金庫○○店(以下「H信金」という。)の定期預金10,000,000円及び普通預金202,640,969円(以下「本件普通預金」といい、これらの預金を併せて「本件預金」という。)の存在及び額を知らせていなかった。
ハ 請求人は、平成15年5月21日、F税理士に作成してもらった本件当初申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」(以下「相続財産明細書」という。)に別表2のとおり記載し、本件預金について記載しないで本件当初申告をした。
ニ 請求人は、調査担当者による本件相続に係る相続税の調査(以下「本件調査」という。)の初日(平成15年10月16日)に、調査担当者から被相続人の財産に関する書類の提示を求められて本件普通預金の通帳及びH信金の本件預金の平成14年7月21日現在の残高証明書(以下「本件残高証明書」という。)を提示した。
ホ 原処分庁は、請求人が修正申告した相続財産のうち本件預金の申告漏れについては、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装の行為に基づくもの」に該当するとして本件賦課決定処分をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 本件預金の申告漏れは、次のとおり本件残高証明書のF税理士への提示漏れという単純なミスに基づくものであり、隠ぺい又は仮装の行為に基づくものではないことから、本件賦課決定処分のうち過少申告加算税の額を超える部分を取り消すべきである。
イ 請求人は、相続財産の総額を認識していなかったこと及びF税理士にすべての資料を提示していると信じていたことから、被相続人の遺産に係る遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)の時及び本件当初申告書の提出の時においても本件預金が相続財産から漏れていたことには気付かなかった。
ロ 本件預金の多寡及び本件相続開始日直後に本件普通預金の口座から20,000,000円の出金があることをもって、隠ぺいし、又は仮装の行為があったとすることは納得できない。
ハ 請求人は、本件調査において、他の預貯金と同様に本件普通預金の通帳及び本件残高証明書を提示しており、その結果、本件預金の申告漏れが把握されたのであって、本件預金は当然に申告されているものと認識していた。

(2)原処分庁

 本件賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 相続財産に本件預金を計上しないで本件当初申告書を提出したことは、次のとおり通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装の行為」があったものと認められる。
イ 請求人は、〔1〕本件預金を含む被相続人の遺産の保管状況を知っていたこと、〔2〕被相続人の各預貯金の各残高証明書を妻Gに指示して取得していること、〔3〕本件残高証明書を含む各残高証明書は、ほぼ同時期に交付を受けていること、〔4〕妻Gに指示して、本件相続の開始直後に本件普通預金の口座から20,000,000円を引き出していることからすれば、本件普通預金が被相続人の遺産であることは十分に覚知していたものと認められる。
ロ 被相続人の取引金融機関は、H信金を含めて4金融機関であり、本件預金の額は、被相続人の預貯金総額の55.8%を占め、本件預金の存在を失念するにはあまりにも高額な預金であると認められることからすれば、本件遺産分割協議の時、本件当初申告書の作成依頼及び同申告書(案)の収受の時など、本件預金が本件当初申告書及び本件遺産分割協議に係る遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)に含まれていないことを十分に認識し得る状態にあったと認められ、本件預金が本件当初申告に含まれていないことを指摘し訂正する機会があったにもかかわらずそれを行っていないことからすれば、請求人は、本件預金の存在を秘匿し、これに基づいて本件当初申告書の作成をF税理士に依頼し、本件預金が含まれていない本件当初申告書を提出したものと認めるのが相当である。

トップに戻る

3 判断

 本件の争点は、請求人が本件預金を申告しなかったことについて、請求人に隠ぺい又は仮装の行為があったか否かにあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、上記1の(4)の各事実のほか、次の各事実が認められる
イ 被相続人は、生前、その相続財産である預貯金の通帳、印鑑等を、自宅台所のテーブルの引き出しに入れて管理、保管していた。妻Gは、その保管場所を承知しており、請求人は、妻Gから聞いて、その保管場所及び預貯金の内容を承知していた。
ロ 請求人は、被相続人の死亡前である平成14年7月19日に、妻Gに現金出金を指示し、妻Gは、本件普通預金の口座から20,000,000円を引き出す手続をし、同月22日、H信金の職員が請求人の自宅に持参して、請求人がこれを受領した。請求人は、その現金を、被相続人の医療費及び葬儀費用等に費消した。
ハ 請求人は、平成15年3月ころ、妻Gから被相続人の預金通帳を見せられ預金の金額(残高)を知った。
ニ 請求人は、本件相続開始日における相続財産を把握するため、妻Gに対し、被相続人の取引金融機関の残高証明書を入手するよう指示し、妻Gは、平成15年3月ころ、上記イの保管場所に保管されていた預金通帳等から取引金融機関を確認し、〔1〕本件残高証明書を平成15年3月14日に、〔2〕○○○郵便局の残高証明書を平成15年3月13日に、〔3〕○○○信用金庫○○○支店の残高証明書を平成15年3月17日に、〔4〕○○○銀行○○○支店の残高証明書を平成15年3月28日に、それぞれ入手した。
ホ 母Bを除く本件共同相続人らと妻G、F税理士及びF税理士事務所事務員J(以下「J事務員」という。)が立ち会って、平成15年3月末を含め2回ないし3回にわたって、本件遺産分割協議が行われ、その席では、J事務員が本件遺産分割協議書の案を読み上げる方法で協議を行った。
ヘ 母Bを除く本件共同相続人らと妻Gは、平成15年4月ころ、請求人の自宅において、F税理士及びJ事務員から、本件当初申告書及び本件遺産分割協議書の素案に基づいて、本件当初申告書及び本件遺産分割協議書の内容について説明を受けた。
ト 本件共同相続人らは、平成15年5月20日、本件遺産分割協議書を作成した。その別紙「故A遺産目録(以下「本件遺産目録」という。)」には、有価証券その他の財産の記載のほか預貯金として、別表3のとおり記載されているが、本件預金については記載がない。

(2)請求人は、本件預金の存在を認識していなかったのか、認識していたが過ってF税理士に知らせなかったのか、あるいは、認識していたがこれを申告しない意思でF税理士に知らせなかったのかについて

イ 上記認定事実によれば、請求人は、〔1〕被相続人の預貯金の通帳、印鑑等の保管場所及びその金額を妻Gから聞いて知っていたこと、〔2〕請求人は平成14年7月19日に妻Gに現金出金を指示し、妻Gが本件普通預金の口座から20,000,000円を引き出す手続をし、請求人は同月22日にH信金の職員が請求人の自宅に届けた現金を被相続人の代理として受領したこと、〔3〕平成15年3月14日に本件残高証明書を入手していることから、本件預金が被相続人の相続財産として存在することを十分に認識していたものと認められる。
 そして、上記認定事実によれば、〔1〕請求人は被相続人がH信金に本件預金を有していたこと及びその金額を認識していたこと、〔2〕本件遺産目録に記載された預金口座6口座はすべてH信金以外の金融機関の預貯金であって、また、本件預金の合計金額は212,640,969円と2億円を超える金額で、被相続人の預貯金総額380,686,650円の55.8%を占めており、さらに、本件残高証明書を入手した時期と本件遺産分割協議書及び本件当初申告書を作成した時期が近接していることからすれば、他の金融機関の預貯金とH信金の本件預金とを混同したとか、本件預金の記載がないことに気付かなかったとか、これをF税理士に知らせることを失念したという事態が生ずるとはにわかに信じ難いこと、〔3〕母Bを除く本件共同相続人ら及び妻Gは、本件当初申告書及び本件遺産分割協議書の素案の段階でF税理士及びJ事務員からその内容について説明を受けており、申告の内容について十分に認識していたことが認められる。
 そうすると、請求人及び妻Gは、本件預金の存在を秘匿して相続税の申告をする意思で、すなわち、当初から財産を過少に申告することを意図し、F税理士に本件預金の存在をあえて知らせなかったと認めるのが相当である。
ロ 請求人は、本件当初申告において本件預金の申告が漏れたのは、請求人の確定的な意図のもとに行われたものではなく、F税理士に本件残高証明書を提示し忘れたための単純なミスであるとか、請求人は、相続財産の総額を承知していなかったことから、本件調査で本件預金の申告漏れを指摘されるまで、本件当初申告書及び本件遺産分割協議書に本件預金が記載されていなかったことに気が付かなかった旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり検討したところによれば、請求人は、本件預金の存在及び金額並びにそれが被相続人の財産であることを十分に認識し、本件預金が本件当初申告書及び本件遺産分割協議書に記載されていないことに気付いていたと認められ、また、F税理士に本件残高証明書を提示し忘れたための単純なミスであると認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

トップに戻る

(3)本件賦課決定処分

イ 重加算税制度の趣旨は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである(最高裁判所第二小法廷平成7年4月28日判決)。
ロ これを本件についてみると、上記(2)のイのとおり、請求人は、相続税の申告をするに当たり、本件預金を相続財産として申告すべきことを熟知しながら、あえて本件当初申告書に本件預金を記載しなかったのみならず、妻Gに指示して本件残高証明書を入手していたにもかかわらず、当初から財産を過少に申告することを意図し、本件当初申告書の作成を依頼したF税理士に同証明書を提供することなく、また、本件遺産分割協議の際及び同税理士から本件当初申告の内容について説明を受けた際に、本件預金の漏れを是正する機会が再三あったにもかかわらずこれを是正することなく、本件預金の存在を同税理士に対して秘匿し、同税理士に過少な申告を記載した本件当初申告書を作成させ、これを原処分庁に対して提出したというものである。
 これは、請求人が、当初から財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて請求人のした過少申告行為は、通則法第68条第1項所定の重加算税の賦課要件である「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」を満たすものというべきである。
ハ そして、当審判所において、請求人の重加算税の額を計算すると、別表1の賦課決定処分欄の重加算税の額と同額となるから、同項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る