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(平17.6.9裁決、裁決事例集No.69 145頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、A社会福祉法人に支払った居宅サービス利用料は医療費控除の対象になる旨主張して、原処分庁が行った平成15年分の所得税の更正処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 審査請求(平成16年11月15日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

(3)関係法令

 所得税法第73条《医療費控除》第1項は、居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において、その年中に支払った当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の100分の5に相当する金額(当該金額が10万円を超える場合には、10万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が200万円を超える場合には、200万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人と生計を一にする配偶者Bは、平成14年8月28日、○○町から介護保険法第19条《市町村の認定》第1項に規定する要介護認定を受けた。
ロ 指定居宅介護事業者であるA社会福祉法人は、Bに関する居宅サービス計画書を作成した。
 上記居宅サービス計画書で定められた援助内容は、〔1〕通所介護、〔2〕福祉用具の貸与及び〔3〕福祉用具のレンタル(以下、〔1〕から〔3〕までを総称して「通所介護等」という。)であった。
 なお、上記居宅サービス計画書には、〔1〕訪問看護、〔2〕訪問リハビリテーション、〔3〕居宅療養管理指導、〔4〕通所リハビリテーション及び〔5〕短期入所療養介護(以下、〔1〕から〔5〕までを総称して「医療系サービス」という。)は、計画されていない。
ハ 請求人は、A社会福祉法人に対し、居宅サービス等の対価として、別表2の「A社会福祉法人への支払状況」のとおり153,951円(以下「本件利用料」という。)を平成15年分として支払った。

(5)争点

 本件利用料は医療費控除の対象となるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、次のとおりである。

原処分庁

 平成12年6月8日付課所4−11「介護保険制度下での居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて」(法令解釈通達)(以下「本件法令解釈通達」という。)は、介護保険制度の下での居宅サービスのうち医療系サービスと併せて受ける居宅サービス利用料についてのみ「療養上の世話の対価」に該当する旨定めているが、Bに係る居宅サービス計画書には、医療系サービスが計画されていないことから、本件利用料を医療費控除の対象とすることはできない。

請求人

 BがA社会福祉法人で受けている通所介護等が治療上有用であることは、担当医師もこれを認めていることから、所得税基本通達73−6《保健師等以外の者から受ける療養上の世話》にいう「療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話」に該当するので、本件利用料は医療費控除の対象となる。

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3 判断

(1)医療費控除の対象となる医療費について、所得税法第73条第2項は、医師又は歯科医師の診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち、通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう旨規定し、これを受けて、所得税法施行令第207条《医療費の範囲》は、この対価は、〔1〕医師又は歯科医師による診察又は治療、〔2〕治療又は療養に必要な薬品の購入、〔3〕病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供、〔4〕あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術、〔5〕保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話及び〔6〕助産婦による分べんの介助の対価のうち、その症状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする旨規定している。

 そして、所得税基本通達73−6は、上記「保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話」には、保健師、看護師又は准看護師以外の者で療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話も含まれる旨定め、本件法令解釈通達は、居宅サービス計画に医療系サービスのいずれかが位置づけられている者を対象とし、当該対象者が支出した〔1〕訪問介護、〔2〕訪問入浴介護、〔3〕通所介護及び〔4〕短期入所生活介護(以下、〔1〕から〔4〕までを総称して「対象居宅サービス」という。)に要する費用に係る利用者負担額(介護保険対象分)を「療養上の世話を受けるために特に依頼した者による療養上の世話の対価」として医療費控除の対象とする旨定めているところ、これらの各通達は、医療の対価と評価できるものについて、これを医療費控除の対象としている法の趣旨に照らし相当であると認められる。

(2)これを本件についてみると、別表2の「通所介護」欄の支払額は、その支出に係る居宅サービス計画上、医療系サービスが計画されていない対象居宅サービスに係る支出であることから、療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話の対価とは認められず、また、「福祉用具の貸与」欄及び「食事代」欄に記載された支払額は、対象居宅サービスにも該当しない日常生活に関する支出と認められることから、いずれの支払額も医療費控除の対象とすることはできない。

 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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