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(平17.1.31裁決、裁決事例集No.69 153頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)を債務者とする金銭債権について、外国法人を担保権者とする債権譲渡担保が設定された場合において、請求人が支払った当該金銭債権に係る利子が、当該外国法人の国内源泉所得として、請求人に源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税義務が生ずるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成15年7月4日付で、平成12年7月、平成13年3月、同年7月、平成14年3月、同年7月及び平成15年3月の各月分(以下「本件各月分」という。)の外国法人への利子の支払に係る源泉所得税について、別表1のとおりの各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、上記イの原処分を不服として、平成15年9月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年1月28日付で、棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、平成15年7月分の外国法人への利子の支払に係る源泉所得税について、別表2のとおり納付し、その後、当該納付は誤納であったとして、同年9月2日にその全額の還付を求める「源泉所得税の誤納額還付請求書」(以下「本件還付請求書」という。)を原処分庁に提出したところ、原処分庁は同年9月25日に請求人に対して誤納額を還付する理由がない旨の電話連絡(以下「本件電話連絡」という。)をした。
ニ 請求人は、本件電話連絡を不服として、平成15年11月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年2月10日付で、却下の異議決定をした。
ホ このため、請求人は、異議決定を経た後の原処分及び本件電話連絡を不服として、平成16年2月27日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 本件における関係法令等の要旨は、別紙に記載のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、E社との間で、請求人を債務者、E社を債権者とする2件の金銭消費貸借契約(以下「本件各金銭消費貸借契約」という。)を次表のとおり締結した。

契約年月日元本金額返済期限利率利子の支払方法
平成7年3月24日○○○円平成17年3月24日○.○%毎年3月24日に1年分を後払い
平成7年7月21日○○○円平成17年7月21日○.○%毎年7月21日に1年分を後払い

ロ 請求人は、E社との間で、本件各金銭消費貸借契約の契約日と同日付で、本件各金銭消費貸借契約に係る覚書をそれぞれ取り交わし、本件各金銭消費貸借契約に係る利子(以下「本件利子」という。)について、平成7年3月24日付契約分に係るものについては毎年○○○○オーストラリア連邦ドル(以下「豪州ドル」という。)、平成7年7月21日付契約分に係るものについては毎年○○○○豪州ドルを、それぞれ、円換算した円貨額によって支払う旨の契約を締結した。
ハ E社は、本件各金銭消費貸借契約に基づく各債権(以下「本件各債権」という。)を、それぞれ、平成12年3月29日付で、F国の法人であるG銀行H支店に譲渡した。
 請求人は、この本件各債権の譲渡について、それぞれ、平成12年3月27日付で、E社から、「債権譲渡通知書兼承諾書」の送付を受けたところ、請求人は、これらの書類に同月28日付で本件各債権の譲渡を承諾する旨の記名押印をした。
 なお、請求人及びG銀行H支店は、平成12年3月27日付で、本件各金銭消費貸借契約の利率に係る変更合意書をそれぞれ取り交わし、本件利子は円換算した円貨額ではなく豪州ドルで支払う旨の契約を締結した。
ニ G銀行H支店は、本件各債権を、それぞれ、平成12年3月30日付で、J国領K島に本店を有する外国法人であるL社のM支店に譲渡した。
 請求人は、この本件各債権の譲渡について、それぞれ、平成12年3月30日付で、G銀行H支店及びL社のM支店から、両者連名による「債権譲渡通知書兼承諾書」の送付を受けたところ、請求人は、これらの書類に同日付で本件各債権の譲渡を承諾する旨の記名押印をした。
ホ L社のM支店は、J国領N島に本店を有する外国法人であるP社との間で、本件各債権について、それぞれ、平成12年3月30日付で、担保としてP社に譲渡する旨の債権譲渡担保契約(以下「本件各譲渡担保契約」という。)を締結した。
ヘ 請求人は、本件各譲渡担保契約に基づく本件各債権の譲渡について、それぞれ、平成12年3月30日付で、L社のM支店及びP社から、両者連名による「債権譲渡通知書兼承諾書」(以下「本件各通知書等」という。)の送付を受けたところ、請求人は、同日付で本件各通知書等に本件各債権の譲渡を民法第467条及び第468条に基づき異議なく承諾する旨の記名押印をした。
 なお、本件各通知書等には、要旨次の記載がある。
(イ)本件各通知書等は、L社が本件各債権をP社に譲渡したことに関して、民法第467条に基づいて通知するものである。
(ロ)L社は、同社が次表のとおり発行した2回の社債(以下「本件各社債」という。)に基づく社債権者の同社に対する債権を担保するため、本件各債権について、本件各譲渡担保契約に基づきP社に対して平成12年3月30日付で譲渡担保を設定し、これにより、同日以降、P社が本件各債権の債権者となった。

発行年月日元本金額満期日
平成12年3月30日○○○円平成17年3月30日
平成12年3月30日○○○円平成17年7月25日

(ハ)本件各債権に係る元利金その他の支払については、P社より指示があるまでは、引き続き、Q銀行R支店のL社名義の当座預金口座(以下「本件L社口座」という。)へ支払うこととし、P社より指示があった場合には、その指示に従って支払うこと。
(ニ)平成12年3月30日以降、本件各債権の債権者はP社であり、請求人は、請求人がL社に対して有する債権をもって、本件各債権と相殺することができないこと。
ト 原処分庁は、所得税法施行令第305条《外国法人が課税の特例の適用を受けるための手続等》第2項の規定に基づき、L社に対して、L社が所得税法第180条《国内に恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例》第1項に規定する要件を備えた者であることを証明する「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」(以下「本件各免除証明書」という。)を別表3のとおり発行した。
チ 請求人は、別表1及び2の「支払年月日」欄に記載した日に、これらの表の「外貨支払金額」欄に記載した金額の本件利子を本件L社口座に送金したが、別表1に記載した本件各月分の本件利子については、その支払の際に源泉所得税を徴収しなかった。

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2 主張

(1)原処分庁

 次の理由により、原処分は適法であるから原処分に対する審査請求を棄却するとの裁決を求め、また、本件電話連絡に対する審査請求は不適法なものであるから却下するとの裁決を求める。
イ 本件各納税告知処分について
(イ)本件各通知書等には、〔1〕本件各通知書等は、L社が本件各債権をP社に譲渡したことに関して民法第467条に基づき請求人へ通知したものである旨、〔2〕L社は、本件各譲渡担保契約に基づいて平成12年3月30日付でP社に対して譲渡担保を設定し、これによりP社が本件各債権の債権者となった旨、及び〔3〕同日以降、本件各債権の債権者はP社であり、請求人は、請求人がL社に対する債権をもって、本件各債権と相殺することができない旨記載されており、請求人は、本件各通知書等において、本件各債権の譲渡を異議なく承諾していることが認められる。
 そうすると、本件各債権は、平成12年3月30日付で、L社からP社に本件各譲渡担保契約に基づき譲渡されたと認められ、本件各債権の同日以降の債権者は、P社であると認められる。
(ロ)なお、本件各通知書等には、本件各債権の元利金等の支払はP社より指示があるまでは、本件L社口座へ支払う旨記載され、請求人は本件利子について本件L社口座に送金しているが、上記(イ)のとおり本件各債権の債権者はP社であるから、L社はP社の依頼により、本件L社口座において本件利子を受領していたにすぎないと認められる。
(ハ)さらに、上記(イ)のとおり、L社からP社に対する本件各債権の譲渡は債権の譲渡担保として行われたと認められるが、債権の譲渡担保であっても、対外的には、担保設定時に債権は担保権者に移転し、債権の取立権も担保権者に移転するものと解されているから、本件においては、担保設定者が取立を継続していても、取立権を取得した担保権者から担保設定者が取立の委任を受けているにすぎないものというべきである。
(ニ)本件各通知書等は、民法第467条の規定に基づき、指名債権の譲渡につき、債務者に通知しその承諾を受けることで、当該譲渡につき、債務者その他の第三者に対する対抗要件を備えるためのものであり、本件各通知書等の確定日付である平成12年3月30日をもって、L社からP社に対する本件各債権の譲渡は第三者対抗要件を備えたのであるから、請求人及び原処分庁において、この日以降の本件各債権の債権者がP社となったと扱わなければ、この指名債権の譲渡に係る対抗要件の制度の趣旨に反することになる。
 そして、源泉徴収制度は、源泉徴収の対象となる所得の支払の時に納税義務が成立し、それと同時に特別の手続を要しないで納付税額が確定するという性格を有しており、同所得は、その支払の際に、源泉徴収の対象となるか否かの判断が支払者において一義的に明確、かつ、容易になされ得るものであることが望ましいと解される。
 したがって、本件各通知書等をもって、本件利子の所得者は一義的にP社であると解するべきであり、L社とP社との間の本件各譲渡担保契約の内容を検討しなければ、本件利子の所得者を確定できないというのでは、この源泉徴収制度の趣旨に反することになる。
(ホ)以上のとおり、本件利子の所得者はP社であり、本件各免除証明書はL社に対するものでP社に対するものではないことから、請求人は所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項の規定に基づき、本件利子の支払の際に源泉所得税を徴収し、国に納付しなければならなかったと認められる。
 したがって、当該納付を行っていない請求人に対して行われた本件各納税告知処分はいずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 本件各納税告知処分により納付すべき源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、請求人には、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する事実は認められないから、同項及び同法第118条《国税の課税標準の端数計算等》の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分は適法である。
ハ 本件電話連絡について
 国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第1号は、国税に関する法律に基づく処分で税務署長がした処分に不服がある者は、その処分をした税務署長に対して異議申立てをすることができる旨規定しているところ、ここでいう「処分」とは、税務署長が法律に基づいて直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為をいい、本件電話連絡はこの税務署長がした処分に該当しないから、本件電話連絡に対する審査請求は不適法である。

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(2)請求人

 原処分及び本件電話連絡は、次の理由により違法であるから、そのすべての取消しを求める。
イ 本件各納税告知処分について
(イ)本件各譲渡担保契約は、その内容から、L社がP社に対して、本件各債権について担保権を設定するにとどまり、L社がP社に対して本件各債権を譲渡するものではない。
 請求人からL社に支払われる利子は、L社が発行している社債の利払いに充てられており、本件各債権に係る経済的利益はL社に帰属しており、P社は何ら当該利益を享受していない。
 原処分は、本件各譲渡担保契約の内容を検討せず、本件各譲渡担保契約の対抗要件にすぎない本件各通知書等のみにより判断しており失当である。
(ロ)本件各通知書等の記載内容は、債権質・債権譲渡担保を問わず、指名債権譲渡を目的とする担保権の設定に等しく認められる要素であって、原処分庁の示す理由が、当事者が本件各債権を目的とする担保権を設定したものではなく、本件各債権を譲渡したものとする理由となり得ない。
 また、本件各通知書等には譲渡担保の設定である旨明確に記載されているが、原処分庁はこれを無視し、何ら合理的理由も説明していない。
 なお、原処分庁の主張は、P社が債権者であることを前提に、本件各通知書等の記載内容を解釈しているにすぎず、P社が債権者であることの根拠にならないばかりか、「譲渡担保権者は、担保権を実行して所有権を取得しない限り、第三者(所有者)には該当しない」旨判示する最高裁判所平成7年11月10日第二小法廷判決(平成4年(オ)第1128号根抵当権設定登記抹消登記手続請求事件)に反している。
(ハ)以上のとおり、本件各債権の債権者はL社であって、同社は請求人に対して本件各免除証明書を提出していることから、請求人には、本件利子の支払につき源泉徴収義務はない。したがって、本件各納税告知処分はいずれも違法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各納税告知処分はいずれも違法であるから、本件各賦課決定処分はいずれも違法である。
ハ 本件電話連絡について
 上記イのとおり、請求人には、本件利子の支払について源泉徴収義務はなく、請求人が納税した平成15年7月分の本件利子に係る源泉所得税は、誤納金として直ちに還付されるべきことが明らかであることから、原処分庁による本件電話連絡には理由がない。

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3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各譲渡担保契約に係る各契約書には、それぞれ要旨次の記載がある。
(イ)譲渡担保権及び質権に関する本契約は、M支店を通じて活動するL社を譲渡担保設定者、P社を譲渡担保権者として、平成12年3月30日に締結された(前文)。
(ロ)L社は、本件各債権を購入し、本件各債権の元利金等を入金する回収金口座として本件L社口座を開設した。そして、同社は本件各債権及び本件L社口座を引当資産として本件各社債を発行した(前文)。
(ハ)本契約条項に従い、L社は、本件被担保債務(L社が、本件各社債に関して、現在まで又は今後において、現実的又は偶発的に、支払義務を負う金銭、債務及び責任の一切をいう。以下同じ。)の履行を確保するため、本件各債権及び本件L社口座について、P社のために担保権を設定する(前文)。
(ニ)本件被担保債務の一切を担保することを目的として、L社は、本件被担保債務の完全な履行がなされるまで、本件各債権に係るL社の包括的な権利等をP社に移転することに合意する。また、かかる本件各債権の移転は、譲渡担保権の設定を目的とするものである(第2.1条)。
(ホ)上記(ニ)に基づいて設定される本件各債権に対するP社の担保権に係る対抗要件を具備するために、L社は、平成12年3月30日において、確定日付の付された第三債務者の同意書面を請求人から受領して、当該同意書面をP社に送付することに合意する(第3.1条)。
(ヘ)本契約に従って設定される担保権は、本件被担保債務を履行するために継続する担保権としてP社に付与される(第5条)。
(ト)本件被担保債務に係る債務不履行事由が発生した場合には、P社は、適法な譲渡担保権者としての権利・救済手段の一切を行使することができる。さらに、P社は、法律上許容される限り、次の事項を行うことができる(第6条)。
A 法律に規定された手続を履行した後、本件各債権又はその一部等を公売又は私的売却により譲渡して換金等を行う。その購入者(P社の場合もある。)は、その売却された財産を、L社のいかなる権利等も付着しない状態で完全に保有する。
B 本契約に従って本件被担保債務に係る債権者に配当するため、本件L社口座に入金されているすべての金銭を引き出す。
(チ)P社及び本件被担保債務に係る債権者は、本件被担保債務に関して、担保資産のみを引き当てとして弁済を受け、一旦、担保資産が換金されて弁済されたときは、不足金額に関するL社に対する請求権及び一切の権利は消滅する(第7条)。
(リ)担保権に関してP社が受領するすべての金員は、P社が受託保管し、次の順位により次の弁済に充当される(第8条)。
A P社又は財産管理人が本契約に基づいて信託を準備し設定する際に適切に負担する費用等の弁済(第1順位)。
B 本件各社債の社債権者への元本及び利息の支払等に関する本件各社債の支払代理人からの請求に対する弁済(第2順位)。
C 本件各社債の社債権者からの請求に対する比例的な弁済(第3順位)。
D 残金がある場合には、当該残金のL社への支払(第4順位)。
(ヌ)L社が本件各債権に関して支払を受ける金銭等は、そのまま直ちに、本件L社口座に送金されるものとする。また、L社は、当該受取金銭等を他の資金等と混同することなく、本件各社債の支払代理人であるQ銀行又はP社に対し、又はその支払指図に従って送金されるまで、当該受取金銭等を保有することに合意する(第10.1条)。
(ル)本件被担保債務が有効かつ完全に履行された場合にのみ、本契約及び本契約によって設定される担保権はその効力を失うものとし、それ以外の場合、当該担保権はその効力を失うことはない(第21条)。
ロ L社及びP社との間で取り交わされた平成12年2月11日付の「追加契約書」及び同契約書が引用する「包括信託契約書」(同日付でL社の関連会社とP社との間で取り交わされたもの)によれば、L社は、社債の発行に関して、受託者としての業務をP社に委託していると認められる。
 この受託者の主な役割は、〔1〕信託契約上の約定が守られているかの監視、〔2〕社債が債務不履行になった場合に社債権者のために救済措置をとること、〔3〕社債が担保付である場合における担保の保有・管理にあり、本件各社債においても、P社は、この受託者としての役割を果たしていると認められる。
ハ L社のM支店は、平成12年3月30日付でG銀行H支店から購入した本件各債権の代金○○○○円(平成7年3月24日付契約分)及び○○○○円(平成7年7月21日付契約分)を、同日に、Q銀行R支店のL社のM支店名義の普通預金口座からG銀行H支店の口座へ送金した。
ニ L社のM支店は、本件各譲渡担保契約締結後も、引き続き本件各債権を資産として計上しており、本件各債権をP社に譲渡する経理はしていない。
 また、L社のM支店は、本件利子を受取利息の勘定で収入に計上しており、各事業年度の収益として法人税の確定申告を行っている。
ホ P社は、本件各譲渡担保契約に基づく担保権の行使は行っていない。

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(2)本件各納税告知処分について

イ 本件の争点について
 所得税法第161条《国内源泉所得》第6号は、国内源泉所得の一つとして、国内において業務を行う者に対する貸付金で当該業務に係るものの利子を規定し、同法第212条第1項は、外国法人に対し国内において当該利子の支払をする者は、その支払の際に、源泉所得税を徴収して納付しなければならない旨規定している。
 本件利子は、国内において業務を行う請求人に対する貸付金で当該業務に係るものの利子であるから、所得税法第161条第6号に規定する国内源泉所得に該当するものと認められる。
 本件は、請求人の支払った本件利子が、外国法人の国内源泉所得として、請求人に源泉徴収義務が生じるか否かを主な争点とするものであるが、仮に、請求人の主張するように、本件利子がL社に帰属する所得であれば、同社は本件各免除証明書を請求人に提出した外国法人であることから、所得税法第180条第1項の規定により、請求人には本件利子の支払につき源泉徴収義務が生じないことになり、仮に、原処分庁の主張するように、本件利子がP社に帰属する所得であれば、P社は源泉徴収義務が免除されない外国法人であることから、請求人には本件利子の支払につき源泉徴収義務が生じることになる。
 なお、L社が、所得税法第180条第1項に規定する要件を満たす国内に恒久的施設を有する外国法人に該当することについては、原処分庁及び請求人において争いはなく、原処分庁が上記1の(4)のトのとおりL社に対して本件各免除証明書を発行していること及びこれを否定するに足る証拠がないことからすれば、当審判所においても、L社は、同項に規定する要件を満たす外国法人に該当すると認められる。
 したがって、本件利子がL社又はP社のいずれに帰属する所得であるかについて、以下検討する。
ロ 債権譲渡担保が設定された債権の利子に係る所得の帰属について
(イ)貸付金の利子、すなわち金銭消費貸借契約に基づく貸付債権の法定果実としての利子に係る所得については、原則として、その金銭消費貸借契約における債権者に帰属するものと解される。
 しかし、所得税法第12条《実質所得者課税の原則》は、資産から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、所得税法の規定を適用する旨規定しているから、貸付金の債権者が単なる名義人で実質的な債権者が別に存在する場合には、当該貸付金の利子に係る所得は実質的な債権者に帰属すると解される。
(ロ)ところで、担保設定者が担保権者に対して負担する債務の担保として担保設定者が有する債権を担保権者に譲渡し、担保権者が譲渡債権の債務者に対して担保権を実行する旨の通知をするまでは、担保設定者に譲渡債権の取立てを許諾し担保権者へ取り立てた金銭の引渡しを要しないこととした債権譲渡担保契約においては、その契約により譲渡債権は担保設定者から担保権者に確定的に移転しているものと解され、ただ、担保設定者と担保権者との間で、担保設定者に譲渡債権の取立権限を付与し、取り立てた金銭の担保権者への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきである。このため、債権譲渡担保契約による債権の譲渡についても、民法第467条第2項に規定する方法により、第三者対抗要件を具備することができると解される(最高裁判所平成13年11月22日第一小法廷判決(平成12年(受)第194号供託金還付請求権確認請求事件)参照)。
 したがって、上記のような債権譲渡担保契約においては、その契約の法的効果として、譲渡担保の設定された債権は担保設定者から担保権者に移転して、担保権者が当該債権の債権者になると解されるが、当事者の合意に基づき、担保設定者は、被担保債務が不履行になり担保権が実行されない限り、当該債権の元利金を収受する権利を引き続き保持しており、被担保債務が履行されれば、当該債権は担保設定者に復帰するものと解される。
(ハ)譲渡担保に係る資産の移転が譲渡所得を生ずるか否かについては、所得税基本通達33−2《譲渡担保に係る資産の移転》が、別紙の3のとおり、債務の弁済の担保として資産の譲渡が行われた場合において、当該譲渡が債権担保のみを目的として形式的にされたものである旨の債務者及び債権者の連署に係る申立書が提出されたときは、当該譲渡はなかったものとする旨定めている。
 このように、法形式上、資産の譲渡とされる譲渡担保契約においても、担保設定者が当該資産を引き続き使用収益することができ、被担保債務の履行により当該資産の所有権が担保設定者に復帰することになっているなど、当該譲渡が担保を目的として形式的になされたものであることが明らかである場合には、その経済的実態において、担保設定者は当該資産を譲渡してその収益を享受したとは認められないことから、所得税法上、このような譲渡担保契約においては、所得を生ずべき資産の譲渡はなかったものと解するのが相当である。
 これは、債権譲渡担保契約においても同様に解され、法形式上、譲渡担保が設定された債権は担保権者に移転しているとしても、担保設定者が当該債権に係る元利金の収受権を保持し、被担保債務が履行されることにより当該債権が担保設定者に復帰することになっているなど、当該譲渡が担保を目的として形式的になされたものであることが明らかである場合には、所得税法上、所得を生ずべき債権の譲渡はなかったものと解すべきである。
 そして、譲渡担保が設定された債権の法定果実である利子についても、その利子の収受権を保持し、実際にその収益を享受している担保設定者に帰属する所得であると解するのが相当であり、所得税法第12条に規定する実質課税の原則の趣旨にもかなっていると解される。
ハ 本件利子に係る所得の帰属について
 上記ロの解釈に基づき、本件利子について検討すると、次のとおりである。
(イ)上記1の(4)のヘの本件各通知書等の記載内容及び上記(1)のイの本件各譲渡担保契約の記載内容のとおり、本件各譲渡担保契約に基づき、L社は、本件各社債の受託者であるP社に対して、本件被担保債務の履行を確保するための担保として、本件各債権を譲渡したことは明らかである。
 そして、上記(1)のイの(ト)及び(ヌ)のとおり、本件被担保債務の債務不履行事由が発生しない限り、L社は本件各債権に係る元利金の収受権を保持し、上記(1)のイの(ル)のとおり、本件被担保債務が履行されることにより、本件各債権は同社に復帰することになっていると認められる。
(ロ)また、次の事実からすれば、L社が、本件利子に係る収益を実際に享受していると認められる。
A 上記1の(4)のチのとおり、請求人は、本件利子を本件L社口座に送金していること。
B 上記(1)のニのとおり、L社のM支店は、本件各譲渡担保契約後も本件各債権を資産として計上しており、かつ、本件利子を収益に計上して法人税の確定申告をしていること。
C P社が本件各債権の取得の対価の額をL社に支払った事実及びL社が本件利子に相当する額をP社に支払った事実は認められないこと。
(ハ)以上のとおり、本件各譲渡担保契約に基づく本件各債権の譲渡については、L社が本件各債権に係る元利金の収受権を引き続き保持し、本件被担保債務が履行されることにより本件各債権は同社に復帰することになっているなど、担保を目的として形式的に行われたものであることが明らかであるから、所得税法上、所得を生ずべき本件各債権の譲渡はなかったものと解するのが相当である。
 そして、L社は、本件各譲渡担保契約に基づき、本件利子の収受権を有し、実際にその収益を享受していたことからすれば、本件利子に係る所得はL社に帰属するものと認められ、所得税法第212条第1項の規定の適用上、請求人は本件利子をP社に対して支払ったのではなく、L社に対して支払ったものと認められる。
ニ なお、原処分庁は、源泉徴収の対象となる所得は、その支払者において、源泉徴収の対象であるか否かの判断が一義的に明確である必要があるから、本件各通知書等をもってP社が本件利子の所得者と解すべきであり、本件各譲渡担保契約の内容を検討すべきでない旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のヘのとおり、本件各通知書等には、L社からP社への本件各債権の譲渡は、本件各譲渡担保契約に基づく譲渡担保の設定である旨及び本件各債権の元利金はL社に支払うべき旨明記しており、請求人が、本件利子の所得者はL社であり源泉徴収義務は生じないとの判断をしたことに問題はなく、また、原処分庁は、本件各譲渡担保契約の内容を含めて、本件利子に係る所得が帰属する者を判定すべきであったと認められるから、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
ホ 以上のとおり、請求人は、本件利子をL社に対して支払ったと認められ、L社は、本件利子について本件各免除証明書を請求人に提出していることから、所得税法第212条第1項及び同法第180条第1項の規定に基づき、請求人は本件利子の支払について、源泉所得税の納税義務があったとは認められない。したがって、本件各納税告知処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

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(3)本件各賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件各納税告知処分は、いずれもその全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(4)本件電話連絡について

イ 国税通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、同項各号に掲げる異議申立て又は審査請求による不服申立てをすることができる旨規定しているが、ここにいう処分とは行政上の公権力の行使によって、直接納税者の権利義務に影響を及ぼす法律上の効果を生ずるものと解するのが相当である。
ロ ところで、請求人が原処分庁に対して提出した本件還付請求書は、別紙の2の(3)のとおり、国税通則法施行令第24条《還付加算金》第3項が規定するところに基づき、源泉徴収による国税の過誤納金について原処分庁にその過誤納の事実の確認を受けるための書類であり、仮に、原処分庁が過誤納の事実を確認した場合には、別紙の2の(2)のとおり、国税通則法第56条《還付》第1項が規定するところにより、原処分庁は、この過誤納金につき、遅滞なく金銭で還付しなければならないこととなる。
 そして、本件電話連絡は、原処分庁が、本件還付請求書に記載された過誤納の事実は確認できない旨を請求人に連絡した行為にすぎず、これにより、直接に請求人の権利義務に影響を及ぼすものとは認められない。すなわち、請求人の過誤納金の返還請求権は本件電話連絡によっても消滅せず、請求人は依然として、行政事件訴訟法第4条《当事者訴訟》に規定する当事者訴訟の一種である過誤納金返還請求訴訟の方法により、原処分庁に対して過誤納金の返還請求をすることができると認められる。
ハ 以上のとおり、本件電話連絡は、国税通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分とは認められないから、本件電話連絡に係る審査請求は不適法なものである。

別紙 関係法令の要旨

1 所得税法
(1)所得税法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、所得税法の規定を適用する旨規定している。
(2)所得税法第161条第6号は、国内源泉所得の一つとして、国内において業務を行う者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に係るものの利子を規定している。
(3)所得税法第212条第1項は、非居住者又は外国法人に対し、国内において上記(2)の利子(所得税法第180条第1項の規定に該当するものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、当該利子について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
(4)所得税法第180条第1項第1号は、法人税法第141条第1号《国内に恒久的施設を有する外国法人》に掲げる外国法人に該当する法人で政令で定める要件を備えているもののうち上記(2)の利子の支払を受けるものが、政令で定める要件を備えていること及びその支払を受ける上記(2)の利子が国内源泉所得に該当することにつきその法人税の納税地の所轄税務署長の証明書の交付を受け、その証明書を当該国内源泉所得の支払をする者に提出した場合には、その証明書が効力を有している間に支払を受ける上記(2)の利子については所得税法第7条《外国法人の課税所得の範囲》第1項第5号、同法第178条《外国法人に係る所得税の課税標準》及び同法第179条《外国法人に係る所得税の税率》の規定は適用しない旨規定している。
2 国税通則法及び同法施行令
(1)国税通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、同項各号に掲げる異議申立て又は審査請求による不服申立てをすることができる旨規定している。
(2)国税通則法第56条第1項は、税務署長は、国税に係る過誤納金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない旨規定している。
(3)国税通則法施行令第24条第3項は、源泉徴収による国税に係る過誤納金について、税務署長によるその過誤納の事実の確認を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を税務署長に提出しなければならない旨規定している。
イ 過誤納に係る国税の税目、当該国税に係る納付した税額、当該税額のうち過誤納となった金額及びその納付した年月日
ロ 過誤納となった理由
ハ 当該過誤納金の還付のための支払を受けようとする銀行又は郵便局の名称及び所在地
ニ その他参考となるべき事項
3 所得税基本通達33−2
 債務者が、債務の弁済の担保としてその有する資産を譲渡した場合において、その契約書に次のすべての事項を明らかにしており、かつ、当該譲渡が債権担保のみを目的として形式的にされたものである旨の債務者及び債権者の連署に係る申立書を提出したときは、当該譲渡はなかったものとする旨定めており、この場合において、その後その要件のいずれかを欠くに至ったとき又は債務不履行のためその弁済に充てられたときは、これらの事実の生じた時において譲渡があったものと取り扱うこととされている。
(1)当該担保に係る資産を債務者が従来どおり使用収益すること。
(2)通常支払うと認められる当該債務に係る利子又はこれに相当する使用料の支払に関する定めがあること。
4 民法
(1)民法第467条第1項は、指名債権の譲渡は、譲渡人が当該譲渡を債務者に通知し又は債務者が当該譲渡を承諾している場合でなければ、当該譲渡は債務者その他の第三者に対抗することができない旨規定している。また、同条第2項は、同条第1項の通知又は承諾は、確定日付のある書面でされているものでなければ、当該譲渡は当該通知又は承諾のあることをもって債務者以外の第三者に対抗することができない旨規定している。
(2)民法第468条第1項は、原則として、債務者が異議を留めずに同法第467条の承諾をしたときは、同条の対抗要件を備えていない場合であっても、当該対抗要件を具備していないことをもって同条の譲渡ついてその譲受人に対抗することができない旨規定している。

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