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(平17.2.24裁決、裁決事例集No.69 186頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、土木工事業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、過去の事業年度において仮装経理に基づき過大に申告した所得金額に相当する金額(以下「仮装経理に基づく過大申告額」という。)を修正経理(法人税法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)第129条《更正に関する特例》第2項に規定する修正の経理をいう。以下同じ。)したことに伴い行われた原処分について、違法を理由として、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次のとおりである。
[争点1]仮装経理に基づく過大申告額を修正経理した場合において、当該修正経理をした額のうち、法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》第1項に規定する前5年以内の各事業年度に係る額は、修正経理をした事業年度において損金の額に算入できるか否か。
[争点2]仮装経理をした事業年度が、国税通則法(平成16年法律第14号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第2項第1号に規定する更正ができる期間を経過している場合において、税務調査が遅延したこと及び前回調査時に原処分庁が仮装経理の事実を確認していることを理由に、当該仮装経理をした事業年度に係る更正をすることができるか否か。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人の平成14年10月1日から平成15年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成16年7月26日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、本件事業年度の確定した決算において、平成5年1月1日から平成5年12月31日までの事業年度(以下「平成5年12月期」という。)ないし平成14年1月1日から平成14年9月30日までの事業年度(以下「平成14年9月期」という。)の期間に係る仮装経理に基づく過大申告額191,535,159円について修正経理を行い、その全額を特別損失(過年度損益修正勘定)として損金の額に算入するとともに、平成5年12月期に係る仮装経理に基づく過大申告額○○○○○円については、確定申告書の別表四において所得金額に加算したところにより、本件事業年度に係る確定申告書を提出した(特別損失の額191,535,159円から別表四において所得金額に加算した額○○○○○円を差し引いた額○○○○○円を、以下「本件損益修正損の額」という。)。
ロ 原処分庁は、平成16年6月23日付で、本件損益修正損の額については本件事業年度の損金の額に算入することはできないとする更正処分をするとともに、平成11年1月1日から平成11年12月31日までの事業年度(以下「平成11年12月期」という。)に係る建物廃棄損等の額6,579,851円及び平成12年1月1日から平成12年12月31日までの事業年度(以下「平成12年12月期」という。)ないし平成14年9月期の3事業年度に係る仮装経理に基づく過大申告額63,284,277円については、各事業年度の損金の額に算入して所得金額を減額する更正処分をした。
 なお、本件事業年度については、平成11年12月期ないし平成14年9月期の4事業年度に係る更正処分により生じた法人税法第57条第1項に規定する欠損金(以下「繰越欠損金」という。)65,644,963円を、損金の額に算入した。
ハ 請求人の平成5年12月期以後の事業年度に係る所得金額、仮装経理に基づく過大申告額及び修正経理をした額は、別表2のとおりである。
ニ 請求人は、昭和45年2月21日に、昭和45年1月1日から昭和45年12月31日までの事業年度以後の法人税の申告書を青色申告書によって提出したい旨の青色申告の承認申請書を原処分庁に提出し、法人税法第125条《青色申告の承認があったものとみなす場合》第1項に基づく青色申告の承認があったものとみなされた。

(4)関係法令

 関係法令の要旨は、別表3のとおりである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、別紙「当事者の主張」の「請求人」欄のとおりの理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、別紙「当事者の主張」の「原処分庁」欄のとおりの理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。

3 判断

(1)争点1について

イ 法人税法第129条第2項は、法人の提出した確定申告書に記載された各事業年度の所得の金額が当該事業年度の課税標準とされるべき所得の金額を超えている場合において、その超える金額のうちに事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、その法人が当該事業年度後の各事業年度の確定した決算において、当該事実に係る修正経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができる旨規定している。
 また、法人税法第57条は、法人の各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、欠損金額の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出していることを要件として、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
 さらに、通則法第70条第2項第1号は、減額更正について、その更正に係る国税の法定申告期限から5年を経過する日まですることができる旨規定している。
ロ 請求人は、本件損益修正損の額は、本件事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度に係る損失の額であるから、本件事業年度の損金の額に算入されるべきである旨主張するが、仮装経理に基づく過大申告額を修正経理した事業年度において損金の額に算入できる法令の規定はないところ、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される金額は、その金額がその事業年度において生じたものであることが必要であり、本件損益修正損の額は、その全額が本件事業年度において生じたものでないことは前記1の(3)のイ及びハの事実から明らかである。
 また、修正経理に係る損失の額は、仮装経理をした各事業年度について税務署長が更正を行うことにより、当該仮装経理をした各事業年度の損金の額として確定し、欠損金相当額は繰越欠損金として控除対象となるところ、本件においては、原処分庁による減額更正がされる時点において、平成10年12月期については法定申告期限から5年を経過していたために、通則法第70条第2項の規定により減額更正をすることができなかったのであり、その結果、平成10年12月期においては欠損金額が生じなかったことに確定したのであるから、仮に、平成10年12月期において過大申告額が是正された場合に生じる欠損金相当額があったとしても、これを本件事業年度の繰越欠損金の当期控除額として損金の額に算入することはできない。
 そうすると、本件事業年度に係る所得の金額の計算において、本件損益修正損の額を損金の額に算入せず、また、平成10年12月期の欠損金額はないものとして行われた本件事業年度の更正処分に違法はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2)争点2について

イ 通則法第70条第2項の規定の立法趣旨は、租税法律関係の早期安定をはかるために更正について5年の除斥期間を設けたものと解されており、同項は除斥期間を定めたものであるから、消滅時効の場合と異なり中断事由を認める余地はないといえる。
ロ 請求人は、税務調査が遅くなったことが平成10年12月期に係る減額更正の除斥期間を経過した理由である旨主張するが、税務調査は、法人税法第153条《当該職員の質問検査権》の規定に基づき行われるものであり、質問調査の範囲、程度、時期、場所、手段など実定法に特段の定めのない実施細目については、これを担当する原処分庁の職員の合理的な判断にゆだねられていると解されているところ、本件事業年度に係る確定申告書が平成15年12月1日に提出され、その後、原処分庁が請求人に対する税務調査に着手して平成16年6月23日付で原処分が行われるまでの間に、平成10年12月期に係る減額更正の除斥期間が経過したとしても、これを不当、違法とすることはできない。
 さらに、請求人は、前回調査において、原処分庁は、平成10年12月期の仮装経理の事実を確認していたのであるから、その時点で減額更正をすべきであった旨主張するが、別表2の「修正経理をした額」欄のとおり、前回調査時においては、請求人は、法人税法第129条第2項に基づく修正経理を行った確定申告書を提出しておらず、原処分庁において減額更正をすべき理由はなかったのであるから、請求人の主張は失当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)以上のとおり、上記各争点について、原処分に違法は認められない。

 また、過少申告加算税の賦課決定処分を含む原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表3 関係法令

1 法人税法第129条
第2項 内国法人の提出した確定申告書に記載された各事業年度の所得の金額が当該事業年度の課税標準とされるべき所得の金額を超えている場合において、その超える金額のうちに事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、当該事実を仮装して経理した内国法人が当該事業年度後の各事業年度において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができる。
2 法人税法第57条
第1項 確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。ただし、当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき本文の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額を超える場合は、その超える部分の金額については、この限りでない。
第10項 第1項の規定は、内国法人が欠損金額の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する。
3 通則法第70条
第1項 次の各号に掲げる更正又は賦課決定は、当該各号に掲げる期限又は日から3年を経過した日(同日前に期限後申告書の提出があつた場合には、同日とその提出があつた日から2年を経過した日とのいずれか遅い日)以後においては、することができない。
第1号 更正 その更正に係る国税の法定申告期限(還付請求申告書に係る当該更正については、当該申告書を提出した日)
第2号 課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があつたものに係る賦課決定 当該申告書の提出期限
第2項 前項各号に掲げる更正又は賦課決定で次に掲げるものは、同項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる期限又は日から5年を経過する日まで、することができる。
第1号 納付すべき税額を減少させる更正(以下「減額更正」という。)又は賦課決定
第2号 純損失等の金額で当該課税期間において生じたもの若しくは還付金の額を増加させる更正又はこれらの金額があるものとする更正
第3号 純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正
第4号 前3号に掲げるものを除き、法定申告期限から3年を経過した日以後に期限後申告書の提出があつた国税についての更正

別紙 当事者の主張

争点1 仮装経理に基づく過大申告額を修正経理した場合において、当該修正経理をした額のうち、法人税法第57条第1項に規定する前5年以内の各事業年度に係る額は、修正経理をした事業年度において損金の額に算入できるか否か。
請求人

1 請求人は、本件事業年度において、過去の事業年度における仮装経理に基づく過大申告額の修正経理を行い、前5年以内の仮装経理に基づく過大申告額である本件損益修正損の額を、損金の額に算入した。
2 法人が、仮装経理に基づく過大申告額を修正経理した場合には、当該修正経理により損金に算入した額が、法人税法第57条に規定する前5年以内の繰越欠損金の損金算入の対象となる事業年度に係る金額の範囲内であれば、税務署長は法人の経理処理を認めるべきである。
3 したがって、本件損益修正損の額は、その全額が、本件事業年度の損金の額に算入されるべきである。

原処分庁

1 仮装経理に基づく過大申告額を修正経理した場合の修正損は、その仮装経理を行った事業年度に係る費用あるいは損失であって、修正経理した事業年度の費用あるいは損失ではない。
2 また、法人税法第129条第2項は、仮装経理を行った法人が仮装経理を行った事業年度後の各事業年度において、その仮装経理を行った額を修正経理し、かつ、当該修正経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間は、税務署長は、更正をしないことができる旨規定している。
 さらに、法人税法第70条《仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除》第1項は、当該減額更正に伴う減少税額については直ちに還付等を行うのではなく、以後5年以内の各事業年度の法人税の額から順次控除する旨規定している。
3 上記2の規定から明らかなとおり、仮装経理に基づく過大申告額の是正は、法人がまず修正経理をした法人税の確定申告書を提出し、その後に、税務署長による各事業年度の更正という方法で是正することとされている。
 したがって、請求人が仮装経理の修正経理を行ったからといって、過年度の仮装経理に基づく過大申告額が当該修正経理によって直ちに損金として確定し、繰越欠損金の控除の対象になるというものではない。
4 上述したとおり、仮装経理に基づく過大申告額の是正は、税務署長による更正が予定されているところ、当該更正は、通則法第70条第2項の5年の期間制限の規定が適用される。また、通則法第70条第2項の規定は、職権による減額更正の除斥期間を定めたものであって、消滅時効とは異なり時効の中断を認める余地はない。
 したがって、請求人の平成10年1月1日から平成10年12月31日までの事業年度(以下「平成10年12月期」という。)に係る更正処分については、もはや原処分庁が行うことはできないのは明らかである。
5 以上のとおりであるから、本件損益修正損の額を損金の額に算入せず、平成11年12月期ないし平成14年9月期の4事業年度に係る減額更正処分により生じた繰越欠損金の額を、繰越欠損金の当期控除額として損金の額に算入した本件事業年度の更正処分は適法である。

争点2 仮装経理をした事業年度が、通則法第70条第2項第1号に規定する更正ができる期間を経過している場合において、税務調査が遅延したこと及び前回調査時に原処分庁が仮装経理の事実を確認していることを理由に、当該仮装経理をした事業年度に係る更正をすることができるか否か。
請求人

1 青色申告法人の繰越欠損金控除は、青色申告法人の不動にして固有の権利であることから、確定申告時に、法人が正しい所得の申告及び正しい税負担をしていたかどうかで判断すべきであって、税務調査が遅くなり、更正期限が経過したために減額更正ができないことを理由に、請求人の修正経理に係る処理を否認すべきではない。
2 原処分庁は、平成12年6月の調査(以下「前回調査」という。)において、平成10年12月期に係る仮装経理の事実を確認済みである。この時に減額更正をしないで、今になって更正期限の経過で減額更正ができないとすることは、理にかなうものではない。

原処分庁

1 請求人が本件事業年度に係る確定申告書を提出したのは平成15年12月1日であり、その後、原処分庁は平成16年3月22日に原処分に係る調査に着手し、同年6月23日に原処分を行っている。
 税務調査の時期については法令等に明文の規定はなく、税務署長の裁量行為であるが、上述のような経緯からすると、原処分庁は迅速な対応を取っているというべきであって、調査遅延があったとは到底認められない。平成10年12月期に係る減額更正ができなくなった理由は、むしろ、請求人が修正経理を遅延したことに基因するというべきである。
2 前回調査時において、請求人は修正経理を行った法人税の確定申告書を提出していないのであるから、原処分庁が更正すべき理由はない。

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