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(平17.5.17裁決、裁決事例集No.69 264頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人E及びF(以下「請求人ら」という。)に対する相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分について、違法を理由としてその一部の取消しが求められた事案であり、争点は次の2点である。
争点1 後記本件土地に借地権が存するか否か。
争点2 本件更正処分は、信義誠実の原則に違反するか否か。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人らの審査請求(平成16年6月25日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。
 なお、請求人らは、平成16年6月29日、それぞれの審査請求について、Eを総代とする旨当審判所に届け出た。

(3)関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人ら及びGは、平成12年5月28日に死亡したH(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人である。
ロ Gは、相続財産であるP市Q町a番所在の土地(面積684.29平方メートル、以下「本件土地」という。)を相続した。
ハ 本件土地上には、所有権保存登記がされた事務所(以下「本件建物」という。)と未登記であるサービス工場(以下「本件サービス工場」といい、本件建物と併せて「本件建物等」という。)が存している。
ニ 本件建物の登記簿謄本には、要旨以下の記載がある。

 所在P市Q町b番
 家屋番号b番
 種類事務所
 構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
 床面積75.46平方メートル
 原因及びその日付昭和47年2月1日新築
 登記の日付昭和52年12月20日
 所有者J社

ホ 本件土地に係る賃貸借について
(イ)昭和47年6月6日、被相続人とJ社は、本件土地について、賃貸借契約(以下「本件第一賃貸借契約」という。)を締結した。
 契約期間は、昭和47年6月6日から昭和52年6月5日である。
(ロ)昭和55年11月1日、被相続人とJ社は、本件土地について、賃貸借契約(以下「本件第二賃貸借契約」という。)を締結した。
 契約期間は、昭和55年11月1日から昭和60年10月31日である。
(ハ)被相続人とJ社は、本件土地について、賃貸借契約(以下「本件第三賃貸借契約」という。)を締結した。
 契約期間は、昭和60年11月1日から昭和65年10月31日である。
(ニ)被相続人とJ社は、本件土地について、賃貸借契約(以下「本件第四賃貸借契約」といい、本件第一賃貸借契約、本件第二賃貸借契約及び本件第三賃貸借契約と併せて、「本件各賃貸借契約」という。)を締結した。
 契約期間は、平成2年11月1日から平成7年10月31日である。
(ホ)被相続人とJ社は、本件第四賃貸借契約について、第3条の契約期間を平成6年8月1日から平成9年7月31日までとし、第6条の賃貸借料を月額285,000円に変更する旨の覚書(以下「本件第一覚書」という。)を締結した。
(ヘ)次いで、被相続人とJ社は、平成9年7月18日、本件第四賃貸借契約について、第3条の契約期間を同年8月1日から平成12年7月31日までとし、第6条の賃貸借料を月額300,000円に変更する旨の覚書(以下「本件第二覚書」といい、本件第一覚書と併せて「本件各覚書」という。)を締結した。
ヘ 本件第一賃貸借契約の内容は、要旨別紙2のとおりであり、本件第二賃貸借契約ないし本件第四賃貸借契約は、賃貸借期間と賃料を除きおおむね同一の内容となっている。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙3のとおりである。

3 判断

(1)争点1(本件土地に借地権が存するか否か)について

イ 当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人ら及び原処分庁の主張する本件土地に係る評価額等は、別表2のとおりである。
(ロ)本件土地及び本件建物等の現況
A 本件土地は、北側で国道2号線に面し、本件土地の南側に接するKが所有するP市Q町b番の土地724.64平方メートル(以下「本件南側土地」という。)及び本件土地の西側に接する土地(以下「本件西側土地」という。)と併せて、一体としてJ社の中古車センター用地(以下「J社中古車センター用地」という。)に供されている。
 なお、本件南側土地は国道○号線と同程度の幅員がある地方道に面し、本件南側土地の西側及び本件西側土地の西側は側道に面している。
B J社中古車センター用地は、本件建物の敷地部分を除いて舗装がされており、約60台程度の車を保管することのできる屋根のない駐車スペースがあり、当審判所の調査時(平成16年11月16日)にもほぼ同数の販売用中古車が展示されていた。
C 本件土地の東側に面している土地とは段差があるものの、その東側土地に近接する位置に「L社中古車センター」との看板が設置された本件建物があり、本件建物の北側には本件サービス工場が付属している。
D 本件建物は、屋根が鋼板葺の簡易なものであり、簡易な造りのトイレ、給湯設備等が設けられているほかは、事務所及び商談用のスペースはあるものの、内部に自動車を展示するだけの広さはなく自動車の展示もない。また、本件サービス工場は約30平方メートルあるものの、駐車スペースと同じ舗装がされた一部を本件建物の壁部分を共用している部分を除き鋼板の壁で囲ったものであり、その屋根も本件建物と同様鋼板葺の簡易なものである。
(ハ)J社の総務部次長は、将来本件土地を立ち退くこととなった場合においても借地権を主張せず、立ち退く場合があれば借地上の建物は同社の費用で撤去し、貸主の希望どおりの状態にして立ち退く旨を異議審理庁の調査担当者に申述し、当審判所に対しても同趣旨の答述をしている。
ロ 法令等の解釈
 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。この時価の評価方法について、合理的であると認められる評価通達の定めに基づき評価することは相当であることから、本件土地の評価に当たり本件土地が借地権の目的となっている場合には、評価通達25の定めにより自用地としての価額から借地権の価額を控除して評価することとなる。
 ところで、土地が借地権の目的となっているというためには、当該土地につき建物の所有を目的とする地上権又は賃借権、すなわち借地権が成立していることが必要であるところ、借地法第1条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」とは、土地賃借人の土地使用の主たる目的が、その地上に建物を築造し、これを所有することにある場合を指し、借地人がその地上に建物を築造し、所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、これに該当しないと解されることから、建物所有以外の事業を行うために土地を借りた場合には、その業務を行うために付属の事務所、倉庫等の建物を建てることの承諾を得、さらに、当該建物等について所有権保存登記がされた場合であっても借地法の適用はないものと解される。
ハ 本件土地に係る賃貸借契約について
(イ)上記イの(ロ)のとおり、本件土地は、中古車センターの一部を形成しており、地上には本件建物等が存するものの、これらは、飽くまでも本件土地の一部を占めているにすぎず、大部分は、自動車展示場及び進入路として利用されている。しかも、当該賃貸借に係る契約書は、別紙2の本件第一賃貸借契約からほぼ一貫して、本件土地の賃貸借の目的を、借主の販売する自動車展示場、自動車置場及び営業所敷地とし、本件土地上に営業所の建物の建築を認めているが、建物及び設備は永久建造物とすることができず(第2条)、また建物の表示登記及び保存登記を禁じている(第8条)。これらによれば、本件建物等の所有は、自動車販売業の事業遂行にとっては付随的な従たる目的にすぎないと認めるのが相当であるから、J社と被相続人との間の本件土地の賃貸借関係は、本件建物等の所有を主たる目的とするものとは認められない。
(ロ)請求人らは、以下のとおり本件土地にはJ社を賃借人とする借地権が存する旨主張する。しかしながら、以下のとおりこれらの主張はいずれも採用できない。
A 請求人らは、被相続人は、本件第一賃貸借契約締結時に賃料を得るためには借地権が生ずるのもやむを得ないと判断し、営業所の建物を建てることに合意し、本件第一賃貸借契約書に建物を建築する旨の文言を入れ、現実に本件建物等が建築されたから、本件土地につき借地権がある旨主張する。そして、契約書上そのような文言があること及び本件建物等が本件土地上に存在することは、上記1の(4)のハ及びヘのとおりである。
 しかしながら、契約書にそのような記載があり、本件建物等が本件土地上に存するからといって、直ちに本件土地につき借地権があるとは認められないことは、上記(イ)のとおりである。そして、上記(イ)の判断に照らせば、本件土地の賃貸借開始時における請求人らの主張する事情もまた、仮に存在するとしても、本件土地につき借地権が存在することを裏付けるものとはならない。
B 請求人らは、本件建物は鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建であって、借地法第2条にいう堅固建物に当たり、しかも建物の表示登記もされているから、本件土地につき借地権がある旨主張する。そして、本件建物につき、構造を鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建とする表示登記がされていることは、上記1の(4)のニのとおりである。
 しかしながら、土地上に表示登記のされた建物が存するということから直ちに借地権が認められないことは、上記(イ)のとおりである。また、本件建物等は、上記イの(ロ)のDのとおり、鋼板葺の軽量な屋根を支える簡易な構造の建物であることから、収去は容易でかつ多額の費用を要するとは認められない上、上記イの(ハ)のとおり収去費用がかかるとしてもJ社が負担することとなっており貸主の負担は全くないことからすると、堅固建築物であるとはいえず、このことは、上記の表示登記があることによっても左右されない。
C 請求人らは、本件第一賃貸借契約では、敷金50万円の他、権利金の授受はないが、地代が月額10万円と好条件であり、権利金はなくとも借地権は生じており、立退料に係るJ社の総務部次長の答述も、借地権はあるが立退料を請求しない趣旨である旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり本件各賃貸借契約には権利金の取決めがなく、当審判所の調査によっても実際に権利金の授受があったとは認められないこと、本件土地のこれまでの賃料の額が高額であるとは即断できないこと並びに土地の賃借人が土地の明渡しに際して立退料を請求しないということは、とりもなおさず、建物、とりわけ請求人らの主張する堅固建物の所有目的の賃借権が存することを否定する要素となり得ることによれば、請求人らの上記主張は、その前提を欠くものである。
(ハ)以上により、本件土地に係る賃貸借には借地法の適用はなく、本件土地が借地権の目的となっているとは認められない。
ニ 本件土地の評価額について
(イ)本件土地の評価上の地目
 本件土地は、一つの賃貸借契約で一体としてJ社中古車センター用地の一部として貸し付けられているが、上記イの(ロ)のとおり本件建物等の敷地はそのごく一部にすぎず、大部分は自動車展示のための舗装がされた駐車スペースであるから、ごく一部の宅地と大部分の雑種地が一団の土地として利用されていると認められる。
 そうすると、本件土地は、評価通達7の定めによりそのうちの主たる地目である雑種地として評価するのが相当である。
(ロ)本件土地上の賃借権
 貸し付けられている雑種地の評価に関する評価通達86は、地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権については、別紙1の3のとおり取り扱うこととしている。
 ところが、当審判所の調査したところによれば、本件土地に係る賃貸借契約の賃借権が登記された事実はなく、権利金その他の一時金の授受もないことが認められる。また、本件建物等が、堅固建物に当たらないことも、上記ハの(ロ)のBのとおりである。
 したがって、本件土地上に存する賃借権は、評価通達86(1)ロの「地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権以外の賃借権」に該当するものと認められる。
(ハ)賃借権の残存期間
 本件第四賃貸借契約及び本件第二覚書によれば、本件土地の賃貸借の契約期間は平成12年7月31日までであり、契約の更新をしない場合には、終了の6か月前にその旨を通知しなければならないとされているところ、本件相続開始日現在では、契約を更新しない旨の通知がされた事実は認められない。
 そうすると、本件土地の賃貸借は、本件第四賃貸借契約に記載のある満5年という原則的な期間で更新されるものと考えられることから、残存期間は、平成17年7月31日までの約5年2か月と認めるのが相当である。
 請求人らは、借地法第2条及び同第11条により本件土地の賃借期間は60年であるから、残存期間は32年である旨主張するが、本件土地に係る賃貸借に借地法の適用がないことは既に述べたとおりであるから、請求人らの主張は採用できない。
(ニ)本件土地の評価額
 以上のことから、本件土地上の賃借権は、評価通達86(1)ロの「地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権以外の賃借権」に該当し、その残存期間が5年2か月であることから、本件土地は、評価通達86(1)の本文により、本件土地の自用地としての評価額から、当該評価額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価することとなる。上記100分の5の割合は、評価通達86(1)ロの定めによるもので、評価通達86(1)イ(ロ)の残存期間5年を超え10年以下のものの割合である100分の10の2分の1に相当する割合である。
 そうすると、本件土地の評価額は、本件土地の自用地としての価額136,858,000円から、同金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額6,842,900円を控除した金額130,015,100円となると認められる。
 したがって、当審判所の認定した本件土地の評価額は、原処分のそれと同額となるので、請求人の主張には理由がない。

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(2)争点2(本件更正処分は、信義誠実の原則に違反するか否か)について

イ 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義誠実の原則の適用によりその課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別の事情が存する場合に初めて、同法理の適用の是非を考えるべきものと解される。
 そして特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼して行動したところ、後にその表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものかどうかを考慮する必要があると解される。そして、上記公的見解の表示とは、当該課税処分に係る課税標準等又は税額等の計算をするに際し当該課税処分に係る納税義務者に対し、当該計算の基礎となった事実について直接具体的に示された見解の表示をいうものと解される。
ロ ところで、請求人らは、昭和48年の先代の相続税の申告における本件土地の評価方法を、その当時○○税務署長が是認した旨主張する。しかしながら、当審判所の調査したところによればそれを認めるに足る証拠資料はなく、仮にそれが事実であったとしても、本件相続に係る課税標準等又は税額等の計算をするに際し、相続税の納税義務者である請求人らに表示されたものではないことは明らかである。そうすると、本件は上記イの要件を満たさないことになるから、本件更正処分が信義誠実の原則に反するということはできない。
ハ なお、請求人らは、特別の事情として、前回の相続税の申告時と本件土地の利用状況が変わらないこと及び本件建物に所有権移転登記等が行われた事実を主張するが、これらが税務官庁の行為ではなく上記公的見解の表示に該当しないことは明らかである上、これらの事情を検討しても、上記特別の事情とすることはできないから、請求人らの主張は採用できない。

(3)以上のとおり、本件更正処分は適法であり、上記各争点について原処分に違法はない。

 また、過少申告加算税の賦課決定処分も含め、原処分の他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令等

1 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17国税庁長官通達。ただし、平成14年6月4日付課評2−2・課資2−5及び平成16年6月4日付課評2−7・課資2−7・課審6−5による改正前のもの。以下「評価通達」という。)7《土地の評価上の区分》は、土地の価額は、地目の別に評価するが、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、その一団の土地はそのうちの主たる地目からなるものとしてその一団の土地ごとに評価する旨定めている。
2 評価通達25《貸宅地の評価》(1)は、借地権の目的となっている宅地の価額は、自用地としての価額から、借地権の価額を控除した金額によって評価する旨定めている。
3 評価通達86《貸し付けられている雑種地の評価》(1)は、賃借権の目的となっている雑種地の価額は、原則として自用地としての価額から、評価通達87《賃借権の評価》の定めによって評価したその賃借権の価額を控除した金額によって評価するが、その賃借権の価額が次に掲げる賃借権の区分に従いそれぞれ次に掲げる金額を下回る場合には、その雑種地の自用地としての価額から、次に掲げる金額を控除した金額によって評価する旨定めている。
イ 地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権(例えば賃借権の登記がされているもの、設定の対価として権利金その他の一時金の授受のあるもの、堅固な構築物の所有を目的とするものなどがこれに該当する。)
 その雑種地の自用地としての価額に、その賃借権の残存期間に応じ次に掲げる割合を乗じて計算した金額

(イ)残存期間が5年以下のもの100分の5
(ロ)残存期間が5年を超え10年以下のもの100分の10
(ハ)残存期間が10年を超え15年以下のもの100分の15
(ニ)残存期間が15年を超え20年以下のもの100分の20

ロ イに該当する賃借権以外の賃借権
 その雑種地の自用地としての価額に、その賃借権の残存期間に応じイに掲げる割合の2分の1に相当する割合を乗じて計算した金額。

別紙2 本件第一賃貸借契約

第1条 (賃貸借物件)
第2条 貸主はその所有する賃貸借物件を次の目的で借主に賃貸する。
 借主の販売する自動車展示場、自動車置場及び営業事務所の敷地。
 ただし、建物及び設備は永久建造物とすることができない。
 また、契約終了と同時に一切の営業をしてはならない。
第3条 賃貸期間は、次のとおり。
 自昭和47年6月6日
 至昭和52年6月5日
 ただし、満 年の期間満了の際貸主に異議のない場合は契約を更新できる。
 ※(第一賃貸借契約書以外は満5年と記載されている。)
第4条 (賃料の変更)
第5条 敷金は金50万円とし、借主は本件契約と同時に貸主に差し入れる。
 敷金に金利をつけない。
第6条 (賃貸借料)  月10万円
第7条 貸主は、賃貸借物件の明渡しを求める時は借主に契約期間満了の6か月前にその旨通告することを要する。
第8条 借主は貸主に対し次の事項を約諾した。
 一 賃借地は第2条の目的以外に使用しない。
 二 賃借地上の借主が建築した建物につき、建物表示登記及び所有権保存登記をしないこと。
 三 本契約終了後借主が土地を明け渡し貸主に引き渡すまで、賃料と相当額の損害金を支払うこと。
 四 貸主の承諾なく賃借地の転貸をしないこと。
 五 賃借地上の物件を第三者に譲渡しないこと。
第9条 (解除条項)
第10条 本契約期間が終了したとき借主は自己の費用をもって、賃借地上にある借主所有占有物件を収去し賃借地を貸主に無条件で引き渡さなければならない。
 契約終了後3か月経過するもなお第10条の義務を履行しないときは、借地上の一切の物件の所有権を貸主に無償で譲渡するものとする。
第11条 (事故等の責任)

別紙3 当事者の主張

争点1 本件土地に借地権が存するか否か。
原処分庁

 本件各賃貸借契約によれば、本件土地の賃貸借契約は、建物の所有を目的とする借地権が存在するとは認められず、本件土地の上に存する権利は、雑種地の上に存する権利(賃借権)であると認められる。
1 使用目的について
 本件各賃貸借契約によれば、本件土地は、自動車展示場、自動車置場及び永久建造物ではない事務所の用地として使用し、その他の用途には使用しないものと規定されており、本件土地は雑種地に該当し、本件土地に存する権利は雑種地の上に存する権利(賃借権)であると認められる。
2 権利金の授受について
 本件各賃貸借契約には敷金の取決めがあるが保証金の取決めはなく、設定の対価として権利金その他の一時金の授受のあるものに該当しない。
3 永久建造物について
 本件各賃貸借契約によれば、本件土地は、自動車展示場、自動車置場及び永久建造物ではない事務所の用地として使用し、その他の用途には使用しないものと規定されている。
4 堅固な建物について
 本件各賃貸借契約によれば、本件土地は堅固な建物の建設及び登記も認められていない。
5 賃貸借期間について
 本件各賃貸借契約及び本件各覚書によれば、本件土地の賃貸借の期限は、平成12年7月31日までとされ、それ以降、5年間の期間満了までに契約更新をしない場合には6か月前にその旨を通知しなければならないとされているところ、本件相続が開始した平成12年5月28日現在では、契約を更新しない旨の通知がされた事実は認められないことから、本件土地の賃貸借の残存期間は平成17年7月31日までの約5年2か月と認められる。
6 建物の登記について
 本件各賃貸借契約によれば、本件土地は、堅固な建築物の建設及び登記は認められていない。
7 立退料について
 賃借人であるJ社の総務部次長は、異議調査担当者に対して、将来本件土地を立ち退くことになった場合には、借地権は主張しない旨申述している。
8 評価について
 以上のことから、本件土地に存する賃借権は、地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる評価通達86(1)ロに定める賃借権に該当すると認められるから、本件土地の評価額は、本件土地の自用地としての評価額から当該評価額に100分の5(評価通達86の賃借権の残存期間が10年以下のものの控除割合は100分の10であり、その2分の1に相当する割合)を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価することとなる。

請求人ら

 本件各賃貸借契約に係る本件土地の賃貸借契約は、建物の所有を目的とする土地賃貸借契約であり、当初契約が昭和47年であるから借地法(平成3年法律第90号による廃止前のもの。以下同じ。)第1条により借地権が認められるので、本件土地は、借地権を控除して評価すべきである。
1 使用目的について
(1)被相続人は、昭和47年の契約時に、賃貸料を得るためには借地権が生じるのもやむを得ないと判断し、営業所の建物を建てることに合意し、本件第一賃貸借契約書に文言を明示した。
(2)現在も、借主が事務所店舗部分約80平方メートル、サービス工場約30平方メートルの建物を使用している。
(3)借主の中古車センター敷地内の一部の土地所有者Kは、借地権が生じることを避けるため賃貸借契約書に建物建築の文言を認めなかったのに対し、本件第一賃貸借契約の土地使用の目的の一つに営業事務所の敷地とあるのは特別の意味がある。
2 権利金の授受について
 一時金は敷金50万円で合意し、権利金の授受はないが、地代が高水準であれば、権利金がない場合もあり得る。賃貸借開始当時の賃料として月額10万円は好条件であり、権利金はなくとも借地権は生じている。
3 永久建造物について
 本件第一賃貸借契約第2条の永久建造物の建設を制限する定めは、借地法第2条に定める耐用年数60年程度の堅固な建物の建設を制限する趣旨ではなく、事実、契約時の昭和47年6月6日には、鉄骨造りの建物があったし、建物表示登記には、昭和47年2月1日新築の鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建、事務所・店舗が登記されている。被相続人は当該建物の存在を長期にわたり是認し現在も建物は存在している。
4 堅固な建物について
 本件建物は、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建であり、借地法第2条にいう堅固な建物に当たる。なお、堅固な建物という文言は本件各賃貸契約にはない。
5 賃貸借期間について
 残存期間は、32年である。
(1)本件の土地賃貸借は建物所有を目的とするもので借地法の適用があり、同法第2条及び第11条によれば、借地権の存続期間について堅固な建物の場合は60年、その他の建物の場合の30年とされ、借地権者に不利な契約を定めても、これを定めなかったものとみなされる。
(2)したがって、本件各賃貸借契約第3条の満5年の賃貸借期間は定めなかったものとみなされ、借地法第2条及び第11条により60年となるから、契約締結時の昭和47年6月6日から60年となる。
(3)現実に本件各賃貸借契約第3条に定められた期間は、いわゆる地代据え置き期間である。
6 建物の登記について
 本件各賃貸借契約第8条で、建物の表示保存登記を制限する定めを置いているのは借地権を否定するものではない。
 実際に建物の表示登記等が借主において行われた事実があり、これらは形式的な建物所有権移転であったが、いつでも実質的な建物所有権の移転と対抗要件を備えた借地権の流通の可能性がある。
7 立退料について
 J社総務部次長の賃貸借が終了した際借地権を主張しないとの発言は、営業所等建物と自動車展示場が、J社中古車センター営業店として、有機的・一体的に機能し、堅実な経営を維持している現状では、借地法に定める借地権が生じていることを否定しないが、契約が終了した際には借地権は主張しないという趣旨である。
8 評価について
 本件土地に係るJ社との土地賃貸借においては相当規模の中古車センター営業店経営の目的のため、事務所・店舗、サービス工場(屋内作業場)が存しており、建物所有の目的は、中古車展示場としての土地利用の目的と、有機的に一体となって併存していることから、本件土地は、自用の宅地としての評価額から、借地権を控除して評価することが妥当である。

争点2 本件更正処分は、信義誠実の原則に違反するか否か。
請求人ら

1 昭和48年1月の、先代(M)の相続開始に係る相続税の申告において、貸宅地の評価として借地権を控除して申告し、借地権控除の是非について、当時の○○税務署長と相当の議論があったが、結果として更正処分はされず、その申告内容は是認されている。
 租税法律主義の下では、同じ状況の下では同じ判断がなされるべきであり、前回の○○税務署長の判断が一見して明らかな法令違反でない限り、今回もそうした判断を納税者が期待・信頼することについて法的保護が加えられてもよいと考える。
2 今回、相続税申告において、当時と土地利用等が全く変わっていないばかりか、その後、建物表示・保存登記と、建物所有権の2回の移転登記が加わって借地権の対抗要件が新たに生じ借地権はより強いものとなっており、このことは、借地権控除を認めるべき特別の事情に該当する。

原処分庁

1 信義誠実の原則により課税処分を取り消すことができるのは、納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に限られるべきである。
2 仮に請求人らが主張するように過去に借地権相当額の控除が認められていたとしても、本件においては、上記1の特別の事情があるとは認められない。

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