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(平17.1.19裁決、裁決事例集No.69 288頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、農業経営基盤強化促進法(平成5年法律第70号により農用地利用増進法(昭和55年法律第65号)から改題。ただし、平成11年法律第87号による改正前のものをいい、以下「促進法」という。)の規定によって設定された賃貸借に基づき貸し付けられている農地について、その評価額の多寡を争点とする事案である。

(2)争いのない事実等

イ 審査請求人D、E及びF(以下、この3名を併せて「請求人ら」という。)ほか1名は、平成12年4月21日に死亡したG(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る同年11月18日付の遺産分割協議書に基づき、別表1の「〔1〕」から「〔3〕」の各農地(以下、これらを併せて「本件農地」という。)を含む被相続人の財産を分割して、それぞれ相続により取得した。
ロ 本件農地については、H市長が、促進法第18条《農用地利用集積計画の作成》第1項の規定による農用地利用集積計画を定め、平成8年3月8日、同法第19条《農用地利用集積計画の公告》の規定により同計画を公告したことにより、本件相続の開始の時において、同法第20条《公告の効果》の規定による要旨別表2のとおりの賃貸借が設定されていた。
ハ 本件農地は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成12年4月24日付課評2−3による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)34《農地の分類》に定める市街地周辺農地に該当し、また、本件農地を同通達39《市街地周辺農地の評価》により評価した自用地としての価額は、別表3の「請求人ら主張額」及び「原処分庁主張額」欄のとおり、258,019,480円である。
ニ 請求人らは、本件相続に係る相続税について、相続税の申告書に別表4の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ホ これに対し、原処分庁は、平成15年10月8日付(Fについては同月22日付)で別表4の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ヘ 請求人らは、これらの処分を不服として、平成15年11月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年2月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ト 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年2月23日に審査請求をし、Dを総代として選任した旨を併せて届け出た。

(3)本件に係る評価基本通達等の定め

 本件に係る評価基本通達等の定め(要旨)は、別紙のとおりである。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は次に述べるとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件農地は、促進法の規定によって設定された賃貸借に基づき貸し付けられている農用地であるから、「農用地利用増進法等の規定により設定された賃貸借により貸付けられた農用地等の評価について」と題する昭和56年6月9日付直評10ほか国税庁長官通達(以下「評価個別通達」という。)の定め(別紙の4)に従い、自用地としての価額から、その価額に100分の5を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価すべきである。
(ロ)請求人らは、評価基本通達41《貸し付けられている農地の評価》及び42《耕作権の評価》の定めによって本件農地を評価すべきである旨主張するが、評価基本通達において、貸し付けられている農地の評価上耕作権を控除することとしているのは、農地の賃借権が農地法第19条《農地又は採草放牧地の賃貸借の更新》本文及び同法第20条《農地又は採草放牧地の賃貸借の解約等の制限》第1項本文によって強い保護を受けており、その権利が一定の価額で取引されていることによるものである。
 ところが、本件農地は、促進法の規定によって設定された賃貸借に基づいて貸し付けられた農用地であるから、農地法第19条ただし書により法定更新の適用が除外されており、賃貸借期間の終期が到来することによって当然に賃貸借が終了し、借主は本件農地を返還しなければならない。
 そうすると、本件農地については、評価基本通達41に定める耕作権の目的となっている農地と認めるのは相当でないから、本件農地を同通達41及び42の定めによって評価することはできない。
(ハ)以上のことから、本件農地を評価個別通達の定めに従って評価すると別表3の「評価額」の「原処分庁主張額」欄のとおり245,118,504円となり、これにより請求人らの本件相続に係る相続税の納付すべき税額を計算すると、いずれも別表5の「〔8〕」欄のとおり10,052,800円となって本件更正処分の納付すべき税額を上回るから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、期限内申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人らの主張

 原処分は次の理由により違法であるから、いずれもその一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)評価基本通達41及び42に定める耕作権は、民法上の用語ではなく、農地の賃借権の俗称である。そうすると、本件農地に係る賃借権も農地の賃借権であるから、本件農地も耕作権の目的となっている農地にほかならない。
 したがって、本件農地の価額は評価基本通達41及び42により、その自用地としての価額から、その価額に100分の30を乗じた耕作権の価額を控除して算定すべきである。
(ロ)原処分庁は、本件農地は評価個別通達により評価すべきである旨主張するが、次の理由から、本件農地の評価に当たっては、納税者の選択により評価基本通達と評価個別通達のいずれを適用して評価しても差し支えないものと考えるのが相当である。
A 評価個別通達は、本則である評価基本通達に対して別段の配慮を示したものであって、農林水産省改善局長が国税庁長官に対して行った照会文の内容及びその趣旨に合意した納税者が評価個別通達を適用して申告した場合には、国税庁長官がこれを是認する旨を回答したものであり、納税者は評価個別通達の強制を求められていない。このことは、この照会文中に「地域農業者の合意のもとに」との前置きが付いていることから明白である。
B また、原処分庁が主張するとおり、評価個別通達による評価が強制されるものであれば、農業公社の職員、農業委員会の事務局職員、市の農政課の職員等の関係人らに対して評価個別通達による評価について周知されるべきところ、H市農業公社の資料には評価個別通達についての記載がなく、そのほか上記関係人らに対する農林水産省内部の留意通達もなく、全く周知されていない。このように周知がないことは、評価個別通達が選択制であることの証拠である。
C さらに、一般的図書にも評価個別通達の記載がない。このことは、評価個別通達が選択的に適用できるものであり、しかも評価個別通達を適用することが納税者にとって不利な事項であるため、実務的に説明を省いているものと理解される。
(ハ)以上のことから、本件農地の価額は別表3の「評価額」の「請求人ら主張額」欄のとおり180,613,634円となるから、これを上回る部分の本件更正処分は取り消されるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件農地を評価するに当たり、評価個別通達及び評価基本通達のいずれを適用すべきかについて争いがあるので、以下審理する。
イ 評価個別通達の趣旨について
 耕作権の価額を評価基本通達42により評価することとしているのは、農地法の規定に基づく農地の賃貸借に係る賃借権が、同法第19条本文の賃貸借の法定更新及び同法第20条第1項本文の賃貸借の解約等の制限の規定によって強い保護を受け、また、一定の価額で取引され、賃借権の解除の際には離作料が支払われ、あるいは公共用地の買収の際には補償の対象とされていることによるものである。
 ところが、促進法による農業経営基盤強化促進事業(平成5年法律第70号による同法の改正前は農用地利用増進事業)は、農業振興地域の整備に関する法律によって創設された従来の農用地利用増進事業を発展させ、市町村が農業委員会、農業協同組合等の協力の下に、地域全体として農用地の有効利用と流動化を促進することを目的としたものであり、この制度に基づく農用地の賃貸借については、貸主は、あらかじめ定められた期間が満了すれば離作料を請求されずに自動的に土地が返還される保証が与えられていることから安心して農用地を貸し付けることができるものであるから、これにより生ずる賃借権は、農地法に基づく賃貸借による賃借権のような権利とは異なることとなる。
 このため、促進法の規定によって設定された賃貸借により貸し付けられている農用地については、評価基本通達41により評価することが実情に沿わないことから、農林水産省からの照会に基づいて、評価個別通達によりその評価方法が定められたものであると解される。
ロ 本件農地の価額について
 上記イの評価個別通達の趣旨は、当審判所においても合理的であると解され、そうすると、促進法の規定により設定された賃貸借に基づき貸し付けられている本件農地の価額についても、評価基本通達41により評価するのではなく、評価個別通達により評価するのが相当であると解される。
 そして、評価個別通達は、促進法の規定により設定された賃貸借に基づき貸し付けられた農用地の評価について、かかる賃貸借に基づく賃借権はいわゆる耕作権としての強い権利ではないものの、一般の賃借権と同様に私法上の保護を受けており、その賃貸借の期間がおおむね10年以内であることなどから、相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》の規定に照らし、その農用地の自用地としての価額から、その価額に100分の5を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価することとしたものであり、かかる評価方法は当審判所においても相当であると解される。
 以上のことから、評価個別通達に従い、本件農地の自用地としての価額から、その価額に100分の5を乗じた金額を控除して本件農地の価額を算定すると、別表3の「評価額」の「原処分庁主張額」欄と同額の245,118,504円となる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 納付すべき税額等について
 本件農地の価額については上記ロのとおりであり、これに基づき請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を算定すると、別表5の「〔3〕」及び「〔8〕」欄のとおりとなり、いずれも別表4の「更正処分等」欄記載の各金額を上回るから、本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 本件に係る評価基本通達等(要旨)

1 評価基本通達41の(1)は、耕作権の目的となっている農地の価額は、同通達37《純農地の評価》から同通達40《市街地農地の評価》までの定めにより評価したその農地の価額(自用地としての価額)から、同通達42の定めにより評価した耕作権の価額を控除した金額によって評価する旨定めている。
2 評価基本通達42の(2)は、市街地周辺農地及び市街地農地に係る耕作権の価額は、その農地が転用される場合に通常支払われるべき離作料の額、その農地の付近にある宅地に係る借地権の価額等を参酌して求めた金額によって評価する旨定めている。
3 ○○国税局作成の○○県の平成12年分財産評価基準書は、市街地農地及び市街地周辺農地の耕作権の評価について、離作料等の額が不明の場合には、その農地の評価額に100分の30を乗じて計算した価額により評価しても差し支えない旨定めている。
4 評価個別通達の(1)は、農用地利用増進法第7条第1項の規定による公告があった農用地利用増進計画の定めるところによって設定された賃貸借に基づき貸し付けられている農用地の価額は、その賃貸借設定の期間がおおむね10年以内であること等から、相続税法第23条の地上権及び永小作権の評価等に照らし、その農用地が貸し付けられていないものとして評価基本通達の定めにより評価した価額(自用地としての価額)から、その価額に100分の5を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価する旨定めている。

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