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(平17.6.27裁決、裁決事例集No.69 300頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項に規定する連帯納付義務(以下「相続税の連帯納付義務」という。)を課すことの可否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成2年12月2日に死亡したAに係る相続(以下「本件相続」という。)において、共同相続人の一人として、本件相続に係る相続税の申告書及び修正申告書(以下「本件申告書」という。)を別表1の「申告」及び「修正申告」欄のとおり記載し、B税務署長に提出した。
ロ B税務署長は、これに対し、平成6年3月28日付で別表1の「更正処分」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。請求人は本件更正処分を不服として、請求人を総代とする共同相続人○名(以下「請求人ら」という。)で同年3月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月30日付で棄却の異議決定をした。次いで、請求人らは本件更正処分を不服として平成6年7月27日に審査請求をしたところ、国税不服審判所長は平成7年12月12日付で別表1の「裁決後の額」欄のとおりの裁決(○裁(○)平○第○号)をした。
ハ 原処分庁は、本件相続に係る共同相続人の一人であるCが滞納している別表2の相続税(以下「本件滞納国税」という。)について、相続税法第34条第1項の規定に基づき、請求人に対し平成16年9月22日付で「相続税の連帯納付義務のお知らせ」を送付し、同年10月18日付で、国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項の規定に基づき、相続税の連帯納付義務に係る督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。
 なお、本件督促処分の督促状には、請求人の連帯納付義務限度額として190,266,400円の記載がなされている。
ニ 次いで、原処分庁は、本件督促処分後10日を経過しても本件滞納国税が完納されなかったため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号の規定に基づいて、平成16年11月9日付で請求人が所有する別表3の1に記載の不動産について差押処分をした。
ホ 請求人は、本件督促処分及び平成16年11月9日付でされた不動産の差押処分を不服として、平成16年12月2日に審査請求をした。
ヘ 原処分庁は、平成17年2月15日付で請求人が所有する別表3の2に記載の不動産について差押処分をした(以下、平成16年11月9日付及び平成17年2月15日付でされた差押処分を併せて「本件差押処分」という。)。
ト 請求人は、平成17年2月15日付でされた差押処分を不服として、平成17年3月9日に審査請求をしたので、本件督促処分及び平成16年11月9日付でされた不動産の差押処分に対する審査請求と併合審理する。

(3)関係法令等の要旨

 関係法令等の要旨については、別紙のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件相続に伴う請求人が本来納付すべき相続税を完納している。
ロ 原処分庁は、平成6年6月24日付で、本件滞納国税について、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、B税務署長から徴収の引継ぎを受けている。
ハ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成7年2月21日付でCが所有する別表4の不動産について差押え(以下「平成7年差押処分」という。)をしている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 徴収権の消滅時効について
 次の理由から、請求人に対する相続税の連帯納付義務に係る徴収権(以下「本件徴収権」という。)は、通則法第72条により本件滞納国税の納期限である平成6年4月28日から5年後の平成11年4月28日まで、請求人に対し時効中断の措置が採られていないことから、同日の経過をもって本件徴収権は時効消滅しており、原処分は違法、不当な処分である。
(イ)通則法第8条は、国税の連帯納付義務については、民法第432条から第434条まで、第437条及び第439条から第444条までの規定を準用する旨規定し、相続税の連帯納付義務は通則法第8条が規定する「国税を連帯して納付する義務」に該当する。そして、民法第440条は「差押え」は他の債務者に対して時効中断の効力を有しないとしているから、Cに対する時効中断の措置が採られていたとしても、その効力は請求人には及ばず、このことは租税法律主義にかなった解釈である。
(ロ)そして、東京地方裁判所平成10年5月28日判決(平9年(行ウ)第2号督促処分取消請求事件、以下「平成10年東京地裁判決」という。)は「通則法第8条は、国税に関する法律の規定により国税を連帯して納付する義務については、民法の連帯債務に関する規定を準用する旨を定めており、これにより準用される民法第432条は、数人が連帯債務を負担するときは、債権者はその債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に総債務者に対して、その債務の全部又は一部の履行を請求することができる旨定めている」と判示し、当該判決が通則法第8条を根拠に民法第432条を準用していることからも、民法第440条は相続税の連帯納付義務についても準用されることを意味するところである。
(ハ)ところが、原処分庁は、大阪地方裁判所平成13年5月25日判決(平11年(行ウ)第4号督促処分取消請求事件、以下「平成13年大阪地裁判決」という。)及びその控訴審(大阪高等裁判所平成14年2月15日判決(以下「平成14年大阪高裁判決」という。))並びに上告審(最高裁判所平成14年9月13日第二小法廷判決)を根拠に、相続税の連帯納付義務については、通則法第8条をそのまま適用することは妥当ではないことが判例として確立している旨主張しているが、これらの判例は、結論がはじめにありきで、何ゆえ民法第457条第1項の趣旨が相続税の連帯納付義務にも妥当するのか、何ゆえ連帯保証債務と類似の性質を持つのかについての判示がなく、通則法第8条において連帯納付義務については時効中断の効力を排除する根拠も示されておらず、判例として確立しているとはいえない。そして、相続税の連帯納付義務について、同条をそのまま適用することは妥当ではないとするのであれば、連帯納付義務者の一人に発生した事由が他の連帯納付義務者に対しどのような影響を与えるか、法が定めてしかるべきであって、そのことを規定した法が同条である。このことから、民法で規定する連帯債務は、当事者の意思表示だけではなく、法律の規定によっても成立するから、連帯債務の規定を準用した同条は相続税の連帯納付義務にも適用されるものである。
ロ 原処分の重大な手続的瑕疵について
 原処分庁は、次のような徴収事務の重大な懈怠を繰り返しており、このような重大な手続的瑕疵が存在するにもかかわらず、その責任を請求人に転嫁するような原処分は信義則上許されるものではないから、原処分は権利濫用に当たり、違法、不当というべきである。
(イ)本件督促処分は、Cの相続税の納期限(平成6年4月28日)から既に10年を経た処分であり、本税のほかに加算税、延滞税を含めるとその金額は莫大なものとなっている。しかし、その事態をもたらした原因は、ひとえに原処分庁が通則法と徴収法が定める手続を怠ったからにほかならない。この間、原処分庁は請求人に対して、Cが相続税の納付を履行していないことや請求人が相続税の連帯納付義務を負っていることについて、その義務履行を求める催告や通知を一切行ってない。
 原処分庁は、請求人に対し、もっと早期に請求人が相続税の連帯納付義務を負っている旨の告知や通知を行っていれば、請求人ほか4名の共有相続財産を売却し、あるいはP市p町○番所在の学校法人D及びCの妻E(以下、学校法人Dと併せて「Eら」という。)に対し、EらがCから寄附又は贈与により取得した土地の売却を促すことで、請求人の資産を守るという防御手段をとることは十分に可能であったことから、原処分庁には重大な手続的瑕疵がある。
(ロ)また、通則法第37条第2項は、督促状はその国税の納期限から50日以内に発する旨規定し、納期限までに完納しない時は、税務署長に対し納期限から50日以内に督促することを義務付けている。そして、この規定を受けて徴収法第47条第1項第1号は、督促を受けてから10日を経過した日までに完納しないとき、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。さらに、徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》は、超過差押えと無益な差押えを禁止しており、このことは裏返せば、国税を完納しない場合には財産の一部差押えに止まらず、完納に充つる財産を同時に差し押さえることを求めたものである。
 しかし、B税務署長は、納期限である平成6年4月28日から50日後である同年6月17日までに、請求人に対して相続税の連帯納付義務を負わせる督促状を発しておらず、同日から10日を経過した後も請求人の財産の差押手続をしていない。また、原処分庁は平成7年差押処分を行っているが、当該処分は滞納者であるCに対してだけであり、しかも同人が所有する財産の一部でしかなく、同人所有のより高価な財産は差押可能であったにもかかわらず差押えをしていないことは、徴収法第48条の趣旨からみても不当というべきである。さらに、平成7年差押処分は、その後、公売等の換価処分の手続が何もなされておらず、その手続を進行できない特別の事情もないことから、平成7年差押処分によって時効が中断していると主張することは職権の濫用である。
 したがって、本件督促処分は義務履行時期から10年以上も経過したもので、通則法第37条に違反していることは明白であり、徴収法第47条は通則法第37条を受けたものであって、本件差押処分はその要件を満たしていないことから、違法、不当な処分である。
(ハ)憲法第31条に定める告知、聴聞、弁解、防御の法定手続の保障は、直接的には刑事手続に関するものであるが、行政手続においても当該処分の性質上不可能でない限りは同様に保障されるべきである。そして、租税徴収に関する行政処分を受ける者にとっては、本件差押処分は、財産権の剥奪若しくは重大な制限を課す不利益処分であるとともに、処分の性質としてはそれほど緊急性は高くなく、事前に防御の手続を与えても行政目的を阻害することにはならないから、憲法第31条に規定する事前の手続が保障されるべきであって、原処分は、Cの滞納から10年以上も経過した後に突然なされたため、請求人が防御手段をとることが不可能であることは明らかであり、憲法第31条に照らしても、原処分は違法、不当である。
 また、最高裁判所昭和55年7月1日第三小法廷判決(以下「昭和55年最高裁判決」という。)において、F裁判官がその補足意見(以下「F裁判官補足意見」という。)としていみじくも「相続税の連帯納付義務を負う者に対する納税告知の制度が立法上欠落していることは、手続的に納税者にとって不意打ちの感を与えることを免れなかったり、納付すべき額その他の具体的な納付義務の内容の不明確により、その者を困惑させるような事態になったりしないわけでなく、そうであれば、相続税の連帯納付義務について納税告知を要しないとする立法態度は賢明なものとはいえない。」旨指摘しているように、原処分庁は納期限まで若しくは納期限経過後早い段階で相続税の連帯納付義務を負う者に対し、告知を行うべきであり、その告知を10年以上にわたって放置したことは、憲法第31条に違反し、違法というべきである。
ハ 原処分の不当性について
(イ)相続財産のうち、現金・預貯金については、その時価は変動しないが流動性が高く、これをそのまま維持することは通常あり得ず、また、不動産や株式等の金融商品については経済取引の中で時価は常に変動しており、これもその価格を維持することは不可能である。そうした実態の中で、自己以外の相続人が納付義務を果たしたかどうか分からないまま、長期間(延納手続が取られた場合には最大で20年)にわたってその時価に相当する財産を維持させることは、相続により財産を取得した者に不可能を強いることになり、本来その所有ないし取得した財産を自由に処分することができるという憲法第29条に保障される財産権を不当に制限するものとなるから、極めて不合理かつ不当なものといわざるを得ない。
(ロ)また、原処分庁は、平成7年差押処分の段階で、請求人ほか4名が共同相続した土地の共有持分についても、相続税の連帯納付義務に基づいて差押可能であったにもかかわらず、差押えをせずにCが相続した土地の共有持分に対する差押えを行っただけで、その後換価処分をしないまま放置し、加えて、Cが学校法人Dに土地を寄付した事実及び同人がEに土地を贈与した事実が存在するにもかかわらず、Eらに対しその追及手続を取らなかった。
 そして、学校法人Dの所有する各土地及び請求人ほか4名が共同相続した土地は、その面積は広大であることから、平成7年差押処分の時点では相当な価値を見出すことができたはずであり、原処分庁がこれらを早期に差し押さえて、公売をしていれば、Cの滞納国税は延滞税も含めて全額を回収することが可能であったはずである。このように徴収が極めて容易でかつ十分満足を得ることができる時期に原処分庁が差押えを行わなかったことについては、何ら正当な事由を見出すことはできないものであり、これを放置したまま請求人に責任を転嫁することは、行政の裁量を逸脱したものと言わざるを得ない。
(ハ)さらに、原処分は、平成2年の相続開始から既に14年近くが経過してからの処分であり、この間にバブル経済の崩壊とその後の長期不況の中で、不動産の価額は大きく下落し、その結果、本件督促処分により負担すべき租税債務の金額は相続により取得した財産の価額を上回り、請求人が相続によって取得した財産以外の財産(以下「固有財産」という。)にまで及ぶという結果を招来している。こうした事態については、請求人には何らの帰責性は認められず、しかも相続開始から長期間経過した後になされた原処分が請求人の固有財産にまで及ぶという事態は、極めて不合理かつ不当なものであり、憲法第29条に保障される財産権を違法に侵害するものといわざるを得ない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 連帯納付義務の存否
(イ)徴収権の消滅時効について
 国税の徴収権は、通則法第72条により、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって時効により消滅すると規定され、また、通則法第73条により、更正又は加算税の賦課決定に係る国税については、その処分の効力が生じたときに時効が中断し、当該国税の納期限を経過した時から進行する旨規定している。
 これを本件についてみると、Cの納税義務に係る徴収権(以下「本来の徴収権」という。)の時効については、〔1〕平成6年3月28日の更正処分及び重加算税の賦課決定処分により中断し、その後、〔2〕平成7年差押処分が現在も継続していることから、本来の徴収権の時効が中断していることは明らかである。
 ところで、国税の連帯納付義務については、通則法第8条により、民法の連帯債務の効力等の規定が準用されるところ、同条が民法の準用を想定しているのは、通則法第9条《共有物等に係る国税の連帯納付義務》に規定する共有物、共同事業又は当該事業に属する財産に係る国税の連帯納付義務、徴収法第33条《無限責任社員の第二次納税義務》に規定する第二次納税義務を課された無限責任社員の連帯納付義務などであり、相続税の連帯納付義務については、自らが負担すべき固有の相続税の納付義務のほかに負う特別な責任である点において性質を異にするものであるから、相続税の連帯納付義務については民法第440条の規定を適用せず、本来の連帯納付義務者について生じた時効中断の効力が相続税の連帯納付義務者にも及ぶものと解されている。
 仮に、相続税の連帯納付義務について通則法第8条の規定がそのまま適用されるとするならば、主たる納税義務者に対する時効中断の効力は連帯納付義務者に及ばないことになり、そのことは、例えば、主たる納税義務者が相続税の延納において履行遅滞でない場合であっても、連帯納付義務者に対し時効中断の措置を講じなければならないという不合理が生ずる。
 したがって、相続税の連帯納付義務については、通則法第8条をそのまま適用することは妥当ではなく、その性格を民法上の連帯保証に類似するものとして、本来の納税義務者に対する時効中断に附従性を認め、相続税の連帯納付義務者に対してもその効力が及ぶとしているものであり、このことは、平成13年大阪地裁判決及び平成14年大阪高裁判決並びにその上告審によっても判示されている。
 よって、本来の徴収権の時効が中断している本件においては、本件徴収権の時効も中断している。
(ロ)原処分の重大な手続的瑕疵について
 相続税の連帯納付義務の徴収手続において、納税の告知を要するとの法令による定めはなく、F裁判官補足意見は「連帯納付義務者は、自己の納付すべき金額等を知り得ないわけではないから、納税の告知がないからといってその徴収手続が違法となるものではないと考えられる。」旨結論づけているのであるから、請求人に対する相続税の連帯納付義務に関する通知が10年以上なされなかったとしても、そのことにより原処分が違法となるものではない。
(ハ)原処分の不当性について
 相続税の連帯納付義務の限度額については、相続税法第34条第1項において、相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として互いに連帯納付義務を負う旨規定されているのであるから、たとえ請求人のいうように、経済情勢の変化により相続財産のほかに相続人の固有の財産の処分を余儀なくされるとしても、そのことが原処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではない。
 また、相続税の連帯納付義務の追及に当たっては、それぞれの連帯納付義務者に対して別個に徴収手続が行われるものであるから、平成7年差押処分当時においてEらに対して徴収手続がなされないとしても、そのことをもって原処分に影響を及ぼすものではなく、原処分が違法となるものでもない。
ロ 本件差押処分に係る要件及び手続の適法性について
(イ)本件督促処分
 通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長(徴収の引継ぎを受けた場合は国税局長)は、その納税者に対し督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
 これを本件についてみると、請求人は、本件申告書に記載された事実により、本件滞納国税に係る相続税の連帯納付義務を負っており、また、平成16年10月18日現在において本件滞納国税が完納されていないことにより、通則法第37条第1項の要件を満たしていることから、本件督促処分は適法である。
(ロ)本件差押処分
 徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、差押えをしなければならない旨規定している。
 これを本件についてみると、本件差押処分は徴収法第47条に規定する差押えの要件を満たしていることから、適法に行われている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、相続税の連帯納付義務の存否にあるので、審理したところ以下のとおりである。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件滞納国税については、平成7年差押処分が現在も継続しており、当該差押処分は民法第147条に規定する時効中断事由となることから、本来の徴収権が時効消滅している事実は認められない。

(2)法令解釈

 相続税の連帯納付義務については、昭和55年最高裁判決において「相続税法第34条第1項は、相続人が2人以上ある場合は、各相続人に対し、自らの固有の相続税の納付義務のほかに、他の相続人等の固有の相続税の納付義務について、当該相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、連帯して納付する責任を負担させることとしている。この責任は、相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であって、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものでなく、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収にあたる所轄庁は、連帯納付義務者に対して、徴収手続を行うことが許されるものと解される。」と判示し、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、連帯納付義務者に対する告知等による格別の確定手続は要せず、徴収手続を行うことができるとする解釈が現在も採られている。

(3)相続税の連帯納付義務の存否について

イ 徴収権の消滅時効について
(イ)請求人は、相続税法第34条第1項は通則法第8条の規定により民法第440条が準用され、このことは平成10年東京地裁判決からもいえることであり、Cに係る国税の時効中断の効力は請求人には及ばず、請求人の連帯納付義務は本件滞納国税の納期限から5年の経過により時効消滅している旨主張する。
 ところで、通則法第8条が想定する「国税に関する法律の規定による連帯納付義務」には、通則法第9条《共有物等に係る国税の連帯納付義務》及び徴収法第33条《無限責任社員の第二次納税義務》の規定などがあるが、これらの義務は、それ自身本来の納税義務としての性質を有し、しかも、同一内容の国税の納付について各自が負担額に制限なしに全額を連帯して納付する義務である。
 これに対し、相続税の連帯納付義務は、自らが負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに負う特別の責任であり、かつ、各連帯納付義務者が相続等により受けた利益の価額等を限度として負担するものであって、この点において民法の連帯債務と異なる。また、相続税の連帯納付義務は、本来の納税義務者以外の者に納付義務を負わせるものである点において、通則法第50条《担保の種類》第6号の納税保証債務や徴収法第32条《第二次納税義務の通則》ないし徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二納税義務》及び徴収法第41条《人格のない社団等に係る第二次納税義務》に規定する第二次納税義務に類似するものであるが、これらの納税保証債務や第二次納税義務のように、本来の納税義務者に対する徴収不足となる場合に限って課されるものでもなく、このような補充性を有しない点において、これらとも性質を異にする。
 このように、相続税の連帯納付義務は、各連帯納付義務者が相続等により受けた利益の価額等を限度として、同一の相続等により国税の納付義務を負うこととなった相続人等の全員がそれぞれ納付すべき額について互いに連帯して納付する義務を負うもので、相続税法第34条第1項の規定は一種の特別規定であると解されることから、相続税の連帯納付義務は通則法第8条が規定する「国税に関する法律の規定による連帯納付義務」には含まれず、同条が規定する民法第440条を準用して、本来の納税義務者に係る時効中断の効力が請求人には及ばないと解することは相当ではない。
 また、相続税の連帯納付義務は、本来の納税義務者の租税債務が履行されない場合に、これに代わって履行する義務を負うものであるから、「連帯保証に類似するもの」というべきであり、連帯保証の主たる債務に対する附従性に従い、本来の納税義務の時効中断の効力が相続税の連帯納付義務にも及ぶと解するのが相当である。
 したがって、相続税の連帯納付義務については、通則法第8条に規定する民法第440条を準用することは相当ではなく、本来の徴収権について生じた時効中断の効力は本件徴収権にも及ぶこととなり、上記(1)のとおり、本件滞納国税は時効消滅していないことから、本件徴収権も時効消滅していないことが認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人が主張する平成10年東京地裁判決の争点は、相続税の連帯納付義務に第二次納税義務のような補充性が認められるか否かであり、当該判決は相続税法第34条第1項について通則法第8条の規定により民法440条を準用する旨を判示したものではないことから、この点に関する請求人の主張は失当である。
(ロ)請求人は、平成7年差押処分は、その後、公売等の換価処分の手続が何もなされておらず、その手続を進行できない特別の事情もないことから、平成7年差押処分によって時効が中断していると主張することは職権の濫用である旨主張する。
 しかしながら、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は別個独立の手続であり、相続税の連帯納付義務に補充性がないことから、本来の納税義務者に対する公売等の換価処分の適否が、連帯納付義務者に対する徴収手続の適法性に何ら影響を及ぼすものではない。
 また、徴収法第90条《換価の制限》第1項及び第2項において、果実や生産工程中の仕掛品に関する換価制限の規定はあるところ、差押財産が不動産の場合における公売等の換価処分の時期を規定する法令はなく、その換価処分に当たっての判断は、本来の納税義務者に対する徴収が可能な時点及び連帯納付義務者に対する追及の必要性などを含めて、原処分庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 原処分の重大な手続的瑕疵について
(イ)請求人は、本件督促処分は、Cの相続税の納期限から既に10年を経た処分であり、その間、原処分庁が相続税の連帯納付義務を負っている旨の告知や通知を一切行っていないのは、重大な手続的瑕疵である旨主張する。
 しかしながら、一般の賦課課税方式における国税の納税義務は賦課決定通知書の送達によって確定し、納税告知書の送達によって納付が請求されることを本則としているが、相続税の連帯納付義務においては、上記(2)のとおり、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生じるものであるから、相続税の連帯納付義務については、確定手続は不要であると解され、告知に関する法令による定めはない。
 そして、このような相続税の連帯納付義務の制度の趣旨を考慮すれば、税務署長は、すべての相続人がそれぞれの固有の相続税を完納するまで、他の相続人に対して相続税の連帯納付義務の履行を求めることができるのであり、すべての相続人の固有の相続税について、その徴収権が消滅しない限り相続税の連帯納付義務は消滅しないことから、本件滞納国税の納期限から本件督促処分までの間に連帯納付義務の告知や通知のないことが、請求人の連帯納付義務に影響を与えるものではないと解される。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件督促処分は、税務署長がその督促をすべき義務履行時期から10年以上も経過して行ったもので、通則法第37条第2項に違反していることは明白であり、徴収法第47条は通則法第37条を受けたものであるから、本件差押処分はその要件を満たさず、違法・不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は別個独立の手続であることから、仮に、各相続財産について各連帯納付義務者それぞれに差押手続をし、本来の納税義務者の滞納に係る相続税を徴収することが可能であったにもかかわらず、原処分庁がその徴収手続を怠った結果、本来の納税義務者から相続税を徴収することができなくなったとしても、各相続人等に課されている相続税の連帯納付義務の存在又はその範囲に影響を及ぼすものではない。
 また、通則法第37条第2項は、租税債権の確保を円滑に行うための訓示規定であると解され、原処分庁が納期限から50日を経過した後に発した督促状であるとしても、本来の納税義務者の滞納国税がある限りは、同条第1項の規定に基づいて督促状を発することは何ら違法ではなく、また、相続開始から10年後になされた督促処分であったとしても、その効力には影響はない。
 したがって、請求人のこの点に関する主張には理由がない。
(ハ)請求人は、徴収法第48条によると、滞納者が国税を完納しない場合、その財産の一部差押えに止まらず、完納に充つるまで財産を同時に差し押さえることを求めている規定であると解し、平成7年差押処分はCに対してだけであり、しかもCが所有する財産の一部のみしか差し押さえていないことから、本件差押処分は、同条に反し、不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は別個独立の手続であり、国税の徴収のため滞納者の財産を差し押さえる場合、差押処分時に差押財産をめぐる権利関係を把握することは必ずしも容易ではなく、その価値を正確に評価することが困難であること、国税の徴収は、最終的には差押財産の公売等の方法による換価を待って初めて実現するものであること等に照らし、滞納者が所有する財産をどのような範囲でどの時期に差し押さえるかは、徴収職員の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。
 また、徴収法第48条は超過差押え及び無益な差押えを禁止する滞納者保護を趣旨とする規定であり、請求人が主張するような完納に充つる財産を差し押さえることを求める規定ではない。
 したがって、同条の趣旨からみても不当とする請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、相続税の連帯納付義務についてF裁判官補足意見を基に、納期限まで若しくは納期限経過後早い段階で請求人に対し告知処分を行うべきであり、その告知を10年以上にわたって放置したことは、事前の手続を保障する憲法第31条に反し違法というべきである旨主張する。
 確かに、上記2の(1)のロの(ハ)のとおり、F裁判官補足意見において「連帯納付義務者について納税の告知を要しないとする立法態度は賢明なものとはいえない。」旨述べられているものの、以後その問題点の指摘について立法措置はとられていない。
 しかしながら、請求人が主張するところは、法令に不備があり、それが違憲であるということであるが、国税不服審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であり、法律の欠陥及び憲法違反についての判断権限を有するものではないから、請求人の主張は、審理の限りではない。
ハ 原処分の不当性について
(イ)請求人は、相続財産を長期間にわたってその時価に相当する財産を維持させることは、相続人に不可能を強いるものであり、憲法第29条に保障される財産権を不当に制限するものとなるから、極めて不合理かつ不当なものといわざるを得ない旨主張する。
 しかしながら、国税不服審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であり、法律の欠陥及び憲法違反についての判断権限を有するものでもないから、請求人の主張は審理の限りではない。
(ロ)請求人は、相続税の連帯納付義務を負う者に対してもっと早い時期に徴収手続を取っていれば滞納国税の全額を徴収できたはずであり、バブル経済の崩壊と長期不況の中で、不動産の価額は下落しており、今になって責任を追及するのは行政の裁量を逸脱したものといわざるを得ない旨主張する。
 しかしながら、相続税は相続によって取得した財産に担税力を認めて、各相続人に各人の受けた利益の価額に相当する金額を限度として課されるものであって、相続後の経済情勢等によって相続財産の価額が下落したとしても、いったん適法に成立した納税義務には何ら影響がなく、相続税が完納されていなければその納税義務は消滅するものではない。仮に、相続財産を処分しても相続税の連帯納付義務を果たすことができず、請求人の固有財産からこれを支弁することになったとしても、それは単に経済情勢による結果であって、経済情勢の変動が相続税の連帯納付義務に影響を与えるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ まとめ
(イ)本件督促処分
 通則法第37条第1項は、税務署長は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、督促状によりその納付を督促しなければない旨規定しており、同項の納税者には相続税の連帯納付義務を負う者も含まれることから、他の相続人が固有の相続税を納期限までに完納しない場合にも、税務署長は、連帯納付義務者に対して国税の徴収手続として督促状によりその納付を督促することになる。
 これを本件についてみると、Cには、本件督促処分時において本件滞納国税を完納しておらず、請求人は本件相続により受けた利益が存することから、原処分庁は、上記1の(2)のハのとおり、請求人に対して「相続税の連帯納付義務のお知らせ」により相続税の連帯納付義務を負う旨通知したところ、当該通知によっても納付されないため、通則法第37条第1項の規定に基づいて本件督促処分を行ったものであり、本件督促処分は適法である。
 なお、原処分庁は、本件督促処分の督促状には、本件相続により請求人の受けた利益の価額に相当する金額について、190,266,400円と記載しているが、当審判所の調査によれば、納付すべき税額は別表1の「裁決後の額」欄のとおり218,222,700円が正当であることから、請求人が本件相続により受けた利益の価額に相当する金額は191,958,300円となり、当該金額から本件相続に伴う登録免許税を考慮したとしても、請求人が本件相続により受けた利益が存することは明らかである。
(ロ)本件差押処分
 徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、差押えをしなければならない旨規定している。
 これを本件についてみると、原処分庁は、平成16年10月18日付の本件督促処分をした日から10日を経過した日までに本件滞納国税が完納されていないことから本件差押処分を行ったものと認められ、本件差押処分は適法に行われたものである。

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(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令等の要旨

1 通則法第8条《国税の連帯納付義務についての民法の準用》は、国税に関する法律の規定により国税を連帯して納付する義務については、民法第432条から第434条まで、第437条及び第439条から第444条まで(連帯債務の効力等)の規定を準用する旨規定している。
2 通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定し、同条第2項は、同条第1項の督促状は、国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、その国税の納期限から50日以内に発するものとする旨規定している。
3 通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収権は、その国税の法定納期限(更正決定等により納付すべきものについては、裁決等又は更正があった日)から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定している。
4 通則法第73条《時効の中断及び停止》第1項は、国税の徴収権の時効は、その処分の効力が生じた時に中断し、同項各号に掲げる期間を経過した時から更に進行する旨規定し、同項第1号は、更正又は決定における当該期間については、その更正又は決定により納付すべき国税の通則法第35条第2項第2号の規定による納期限までの期間とし、同項第2号は、過少申告加算税等に係る賦課決定については、その賦課決定により納付すべきこれらの国税の通則法第35条第3項の規定による納期限までの期間とし、同項第4号は、督促については、督促状又は督促のための納付催告書を発した日から起算して10日を経過した日までの期間と規定している。
5 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責に任ずる旨規定している。
6 徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
7 民法第147条は、時効は請求、差押え、仮差押え、仮処分又は承認によって中断する旨規定している。
8 民法第440条は、民法第434条ないし第439条に規定する場合を除いて、連帯債務者の一人に生じた事項は他の連帯債務者に対してその効力を生じない旨規定している。

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